あんぶれら
彩を広げた。
青い空の下、緑の芝の上で、赤い傘を開けば、白い光が薄紅に変わり、私の上に落ちてきた。
おや、空が赤いね。昼から朱とは珍しい。足元で声がして見降ろすと、小さな驢馬が私を見上げていた。丸い眼を細くして楽しそうに笑っているから、私は驢馬の誤解を解かずにただ、そうねと同意をした。
そうして驢馬と他愛ない話をしていると、不意にわたしの手に触れるものがあった。こんにちはお嬢さん、と挨拶をされて見てみるとなんということはない、それはただの蔦だった。
私も挨拶を返すがそれを蔦は聴いていないようで、どうやらあっけにとられているようだった。しかしこれはなんと大きな花だ。こんなに美しく大きい花は私も始めて見るよ――そう言ったところを見ると、つまるところ蔦もまた、私の傘を誤解したようだった。
でしょう、と私が答えれば、蔦は傘の取っ手にするすると絡みついた。蔦は素敵だとまた一言つぶやくと、そのままその場に留まってしまった。緑になった傘の柄はまるで花の茎のようで、私は本当に大きな花を掲げているかのようになる。
もしお嬢さん、紅花の蜜を貰ってもよろしいかしら。手のひらほどの蜜蜂がやってきて、私の鼻先で問う。夕刻の色に惹かれて烏がやってきて、なんとまあ美しい夕だねと感嘆の声を上げる。
花のような傘に透かされて落ちてくる薄紅色のひかり。
驢馬が見上げて蔦が蔓延り、蝶が踊って蜂が舞い、烏が鳴いて私が笑う。
みなが私に騙されている。
それでもそれは鮮やかに美しく、
美しく、
美しく――。
私は彩の下に座っている。
傘の中は、雨など一滴も落ちてはこない。
振り落ちるものは嘘にまみれたしあわせいろのひかり。
だから私は傘とともに、傘の下で生きている。