表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あんぶれら

作者: なみあと


 彩を広げた。



 青い空の下、緑の芝の上で、赤い傘を開けば、白い光が薄紅に変わり、私の上に落ちてきた。

 おや、空が赤いね。昼から朱とは珍しい。足元で声がして見降ろすと、小さな驢馬が私を見上げていた。丸い眼を細くして楽しそうに笑っているから、私は驢馬の誤解を解かずにただ、そうねと同意をした。

 そうして驢馬と他愛ない話をしていると、不意にわたしの手に触れるものがあった。こんにちはお嬢さん、と挨拶をされて見てみるとなんということはない、それはただの蔦だった。

 私も挨拶を返すがそれを蔦は聴いていないようで、どうやらあっけにとられているようだった。しかしこれはなんと大きな花だ。こんなに美しく大きい花は私も始めて見るよ――そう言ったところを見ると、つまるところ蔦もまた、私の傘を誤解したようだった。

 でしょう、と私が答えれば、蔦は傘の取っ手にするすると絡みついた。蔦は素敵だとまた一言つぶやくと、そのままその場に留まってしまった。緑になった傘の柄はまるで花の茎のようで、私は本当に大きな花を掲げているかのようになる。

 もしお嬢さん、紅花の蜜を貰ってもよろしいかしら。手のひらほどの蜜蜂がやってきて、私の鼻先で問う。夕刻の色に惹かれて烏がやってきて、なんとまあ美しい夕だねと感嘆の声を上げる。

 花のような傘に透かされて落ちてくる薄紅色のひかり。

 驢馬が見上げて蔦が蔓延り、蝶が踊って蜂が舞い、烏が鳴いて私が笑う。

 みなが私に騙されている。

 それでもそれは鮮やかに美しく、

 美しく、

 美しく――。





 私は彩の下に座っている。

 傘の中は、雨など一滴も落ちてはこない。

 振り落ちるものは嘘にまみれたしあわせいろのひかり。

 だから私は傘とともに、傘の下で生きている。





挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 綺麗な文章が情景を鮮やかに浮かび上がらせてくれました。 [一言] こういう文章はとっても好きです^^
2009/11/13 21:05 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ