8.幼馴染は連帯責任
8.幼馴染は連帯責任
授業も終わり、放課後。
HRも終わったので直ぐに生徒会室に向かおうとすると、霧谷さんが俺の方へと寄って来た。
「先生に呼ばれてしまいまして、会長に少し遅れると言伝をお願いしても宜しいですか?」
「あぁ、そう言う事なら伝えておくよ」
「では、また後で…」
そう言って教室から出て行く彼女は、やはり清廉の極みであると言えよう。
「まったくさぁ。優斗って殺意沸いちゃうよねぇ、うんうん」
「なぁんでか、上手く取り入るよねぇ。色々と…」
背後でクラスの男子達が笑顔でニッコリと微笑んでいる。
「俺に対して特別な感情なんて無いよ。只の業務連絡だっての…散れ散れ」
「それにしても、余裕そうですなぁ。あ、もしかして仲良くなる様な出来事でもあったのか?」
クラスの男子を散らせ、再度席に座り込む俺の元にとある男子生徒がススっと近寄り、ニヒヒと笑いながら探りを入れて来る。
「別に…ただ、編入したての頃にちょこっと学校案内した事があるぐらいだよ」
「おぉっと、大ニュースじゃん!この情報高く売れるかなぁ、少なくとも食券5枚は稼げるか…」
「こんなどうでも良い事で商売すんなボケ」
「はっはー!毎度!」
相変わらずコイツは、校内のどんな細かい情報でも集めている様だ。
コイツの名前は三木 健。
今のクラスに変わってから知り合ったのだが、初めの挨拶で「君の情報は既に持ってるから、幼馴染の女の子達の情報をくれ!」と抜かしやがった奴だ。
校内の情報網のおよそ九割はタケルが握っているとの噂がある程の情報通で新聞部員。
何でも、父親が有名な雑誌社の編集長を務めているらしく、紛れもないDNAが遺伝されていると言える。
俺の言葉に満足したのか、さっさと教室から飛び出して行った。
「美玲〜。今日の部活、新入生入る前だしいつものランニング地獄だってさー。それが終わってからも基礎練地獄っぽいし…早くオリエンテーション終わって1年生入って来て欲しいよねぇ…」
美玲の元に抱き付く女生徒。
ウチのクラスのもう一人の女子バスケ部員の工藤 愛菜。
1年の頃は別のクラスだったが、美玲の友達と言う事もあり、俺も普通に仲良くさせて貰ってる。愛嬌一杯でクラスの中で美玲と並ぶ程、身長のある人物で、唯一おでこを出したお団子スタイルの髪型の女の子だ。
俺は愛嬌も込めて『くどまな』と呼んでる。
「くどまな、多分一人で行く事になるんじゃない?」
俺は机にダランと身体を放りながら、後ろに向かって言い放つ。
すると、美玲はハッと何かを思い出したかの様に息を飲む。
「そだ!今日、生徒会で新歓オリエンテーション企画の内容について、最後に詰めなきゃなの!ごめんね愛菜!翔子先輩には伝えてあるから」
「えぇええ、嘘ぉ。そんなぁ…」
くどまなは絶望感漂う表情で、一人トボトボと教室を後にした。
「さぁ、行くよ!ユウ。シンくんも準備して」
美玲が俺の肩をバシッと叩き、さっさと教室を出て行こうとする。斜め後ろの席の真也を窺うと、やれやれと言わんばかりの表情で肩を竦めていた。
生徒会室の前に到着すると、丁度中から二人の生徒が出て来るのが見えた。
生徒会の年長組。
赤木 康二と三船 麗奈の二人だった。
ウチの学校の校風は自由と自主性を重んじており、身嗜み等もかなり緩い学校だと思う。
その中でもレナさんは、生徒会書記でありながら髪を金髪に染め上げ、ネイルや厚化粧を欠かさない根っからのギャルである。
だが、誰にでも優しく暖かみのある人情派の人物で、校内の相談役としての顔を持っている。
もう一人、コウジくんは態度と言動こそデカいが低身長と童顔をコンプレックスに持つ哀しき副会長である。
良く中学生に間違われるらしい。
身長が高い俺と真也が隣に立つ事を非常に嫌がる。
そんな彼だが、音楽一家の長男で全国ピアノコンクール常連の腕前を持つ。
「おぉ、早かったな。中で会長が待ってるぜ」
「私達は別件で出てるから、例のオリエンテーションの件よろしくねん♪」
二人肩を並べて階段の方へ向かって行った。
…何とも微笑ましい後ろ姿だ。
生徒会室に入ると、既に由美姉は席に座り、彩もソファ席に身を投げ出している。
「由美姉。霧谷さん、先生に呼ばれてたみたいで遅れるってさ」
「そうか、なら丁度良いね」
「ん?何が?」
由美姉が意味ありげに彩の方へと視線を向ける。彩はソファに寝転ぶ様にしていたが、モゾモゾと体勢を起こし、懐から見覚えのある二つのラブレターを取り出す。
「お兄ちゃん、昨日ラブレター貰ったんだね。お昼に言わなかったけど、机に入ってたの見つけちゃったんだ」
…おいおい、何てこった。
「それでか…。ユウ、昨日から少し態度がおかしかったもんね」
「…んぐ、別に何も…無い」
「さて、どんな内容で、誰から?なのかな?」
「っ!?ヤメロ!」
「…由美ちゃん、お願い」
「承知した」
由美姉が俺の背後に回り、簡単に拘束したかと思えば美玲がラブレターの中身を確認しようと彩から受け取る。
「由美姉!ちょ、ちょっと待って!」
そう言う俺を尻目に真也が、ふふと微笑む。
「彼女達に秘密は命取りだと思う」
「違う!理由があるんだ!」
俺は一方の脅迫状の方に書かれた内容をふいに思い出し、もしかしたらと皆の身の危険を感じて真也に縋る。
「由美ちゃん…内容は先に僕が見ても構わないかな?少し訳アリみたいですし」
真也は俺の必死な形相を見て少し思案し、ラブレター二枚を開けようとしている美玲に手を差し出し、尚も俺の事を拘束し続ける由美姉に持ち掛けた。
「ううむ。そんなに頑なに否定的だと…少し意志は弱まるが、まぁ、そもそも個人的に貰った物の事だからな…。…だが、我々に相談の一つぐらいあっても…」
全く煮え切らない態度の由美姉だが、真也の目に観念したのか、美玲に対して渡してやってくれと呼び掛ける。
真也が一枚目のラブレターを確認し、直ぐに二枚目へと移る。すると、内容を理解したのか俺を一瞥し、脅迫状をもう一度見やる。
「シンちゃんどうなの?」
「シンくん?」
彩と美玲が様子を窺う。
真也はゆっくりと皆へ視線を送り、片方の手紙、脅迫状の方を皆へ晒した。
「真也!」
「ふふふ。…優斗。馬鹿にしないで頂きたい。…こんな内容であっても僕らに隠し事は無しです。寧ろ頼って貰わないと…」
脅迫状を読んだ皆の視線が一気に俺へと集まる。
皆一様に覚悟を持った目でこちらを見ていた。
「お兄ちゃん、心当たりは無いの?」
「いや、全く。昨日の放課後、下駄箱に二枚重ねてあったんだ」
「ふむ…。解せないな。犯人の意図が読めない」
「でも、私達は常に誰かしら一緒に行動してるから危険は回避出来るよね!ユウ以外の皆も、何かあったら直ぐ連絡する様にしてさ」
「内容に違和感がありますね。…同一の場所への呼び出しである事。優斗は昨日、指定の場所には行ったのかい?」
「まぁ、一応遠巻きに様子は窺ったよ。でもそれらしい人物は居なかった。どっちもね。…そもそもこれが、本物の脅迫状なのかも微妙だし…」
「だが、悪戯であったとしても簡単には捨て置けない内容なのは確かだ…」
5人はそれぞれ見合い、沈黙が訪れる。
徐々に…。
そして押し寄せる様に…。