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6.白無垢姿の聖女を想う

6.白無垢姿の聖女を想う





中等部へ向かう真帆ちゃんと校門で分かれ、5人で校舎へ入る。少しだけ昨日の夕方の出来事を思い出し、注意して下駄箱の中を確認する。

中には、いつも通り内履き用の靴が一足分置いてある。


「ふぅ…」

「また人生が変わる様なモノが入ってるとでも、思いましたか?」


隣で真也がニコリと微笑み、さっさと内履きに履き替えて先を促す。

俺はそんな真也の微笑みに対し苦笑いを一つ残し、同じく内履きに履き替えて廊下へと歩を進める。


「変化の無い平凡な日常に、革新的な彩りってやつだと思ったんだよ。幸か不幸か、それが与えられたと思ったんだ」


「…ふむふむ」


「そう思ったんだけど、どうやらそう簡単に日常は(くつがえ)らなくて、俺の見知った毎日がごく普通に始まった。昨日は初めての事に驚いたけど、物語はそんなに勢い良く転換しないって事だ」


そんな俺達を見ながら互いに首を傾げつつ、疑問符に満ちた表情で見てくる女性陣。


「私はこちらだ、もう行く。皆、またお昼に」

「由美ちゃん後でねー♪」


3年の教室へ向かう由美姉に美玲が元気に手を振る。

皆で2階まで階段で登り、俺達の教室近くへ到着すると、一人、彩がため息を吐き、うるうると目を涙ぐませる。


「はぁ…また私一人だけここで離れるんだ。お兄ちゃん…」

「いちいち大袈裟だな!さっさと行きなさい」

「ちぇっ…またお昼にね!」


そう言って、階段を登り3階へ向かって行った。


彩を見送り、俺達の教室の前まで向かうと、入り口の前に男子生徒二人と女子生徒一人が立っていた。


「おぉす、幼馴染ーズ。はよんはよん」

「まぁた、美玲様を(たぶら)かしやがって優斗!!貴様!!」

「おはよー!私の愛しき親友兼保護者、美玲!」


朝から随分と、適当で熱心な鬱陶しい挨拶だ事。


「お前らは相変わらずだなぁ、3バカ。教室の入り口塞いでんじゃねーぞ、ごらぁ」

「私をこの腐れ共と一緒に(くく)ってんじゃ無いわよ!!ごらぁ」


そう言って凄んで来た女生徒。見た目は少々美人の気があるが、思考を腐り散らかした腐女子中の腐女子、須田(すだ) 恭子(きょうこ)

美玲の友達でBL同人誌をこよなく愛し、自らも執筆する作家でもある。


「優斗!!聞いてんのかオラァ!!美玲様誑かしてんじゃねぇぞって言ってっだろっがよぉお!!」

「はいはい、分かったからまともな会話できる様に脳の筋肉削()いで、話せる様になってから楯突いて来やがれ」


脳筋野郎で美玲ファンクラブ自称会長の鹿島(かしま) 徹也(てつや)。授業中にもバレない様にどこかしら筋トレに励んでいる程の筋肉バカ。(ちな)みに、1年の頃に美玲に一目惚れしてからと言うものの俺の事を目の敵にしている。


「筋肉くんウルサイ!ユウに噛みつかないで」

「………」


美玲が一言言うとそれきり言葉も行動も活動を停止させる。最早、いつものお決まりの流れだ。美玲は一応尊敬も込めて筋肉くんと呼んでいる。


俺は筋肉バカを教室の入り口から退けて、中に入ろうとした所でもう一人に止められた。


「今さー、教室の中に入らない方が良いよー」

「あぁ?だから何だってんだよ」

「青春だよー、青・春♪」


間の抜けただらっとした喋り方が特徴的な男子生徒、馬場(ばば) 将吾(しょうご)。身のこなしが軽く、脚も速いが筋肉は無い。テストは赤点常習犯で常にカンニングを考えている。自宅にAVやらエロ同人誌やら大人のオモチャを山の様に所持している変態バカである。


この3バカは1年の頃から同じクラスで進級した時も変わらずにいたので、新しいクラスの中では特に見知った仲だ。


教室のドアを覗くと、教室の中では男子生徒数人が掴み合いの喧嘩をしている様だった。


「ちょっ何してんだ!」


慌てて中に入り、仲裁の為に男達に近付くと、勢い良くピンクと青と緑のハッピが(ひるがえ)る。


「美玲様を裏切る気か!?テメェらは!」

「俺は会長しか見えねぇ!あの日会ったその時から!」

「静御前の前に俺の忠誠は捧げたんだ!!」


我が2年B組の教室では、朝からファンクラブ同士が涙を流しながら、(いさか)い、醜いぶつかり合いを起こしていた。

因みに教室の端々では、中心でぶつかり合う漢達に向かって、クラスの女子達が冷ややかな目線を向けていた。


…バカしかいない。コイツら…ホンモノだよ。


俺はため息を一つ吐き、自分の机に鞄を引っ掛けて、椅子に深く座り込む。そうして机に頭を乗せて耳から伝わる机のひんやりとした温度を感じていた。


「おぉい!優斗ぉ!優斗さんよぉ!!」

「美玲様と会長と仲が良いからって朝から登校マウント取って来てんじゃねぇぞ!!ごらぁ!」

「そうだ!幼馴染グループだからって許さねぇからなぁ!」

「新入生の彩ちゃんってお前の妹らしいなぁ!どんだけ人生謳歌してんだテメェ!」

「僕も一緒に朝から登校したいです!!」


さっきまで黙らされていた徹也も争い合っていた男子達に混ざり、ここぞとばかりに俺の机を取り囲む。


「ウルサイ男子!」


「「「はいっ美玲様」」」


…もうコイツらどうにかしてくれ。


美玲に(たしな)められた男たちはニコニコしながら俺の肩をバシバシと叩き、真也に一礼し笑顔で自分達の席へ戻って行く。

一瞬で教室を取り巻いていた空気が変わり、和やかな教室の空気へと変わる。


因みに真也はこの諍いに対し、『自分はノーマルでは無いから』と言い放った事により対象外となり、別の意味で女子のギラついた眼の対象となった。


新学期が始まり、まだ新しいクラスになってから日も浅い中、各ファンクラブの動きが活発になって来たんだな。そろそろ、本気で締めないと…。



がらりと教室の入り口が音を立てる。

しゃなりと歩みを進める彼女のその姿から教室が静謐(せいひつ)な空気を帯び、誰の視線をも捉えて離さない。

きっと誰よりも白無垢姿が似合う透き通る様な純白な肌と可憐な顔立ち。誰もが羨む(うるわ)しき黒髪を腰程まで伸ばし、しなやかな脚を(つつ)ましく隠す様に黒タイツを履いている。


彼女の前に誠実でいたいと男達は自然と背筋をピンと伸ばし、同年代であるのにその存在に目を奪われ敬い(かしこ)まる女子達。


100人が100人綺麗と言って(たが)わない。

教室中が彼女に首っ丈だった。

基本的にミーハーな奴等なんです。


彼女は霧谷(きりたに) (しずか)。朗らかで成績優秀ながら誰にでも優しいその聖母の様な性格に、一言二言交わすと男子はコロリと落ちる。地主でもある霧谷総合病院グループの会長を父に持つ、本物のお嬢様。静御前は裏の通称。


教室へ入ると目に付く全ての者達へ慈愛に満ちた表情と共に挨拶を交わしていく彼女。

彼女の通った道に癒され顔で微笑む人民達の姿が見える。

…大袈裟では無く、本当に。


「おはようございます、峰岸くん。松本さん」

「おはよう霧谷さん」

「霧谷さん、おはよ!」

そんな聖母様へ俺も笑顔で挨拶を交わす。


あれだけ殺気立っていた教室の空気が一新する程の清涼感。


彼女は少し特殊な編入生で、今学期が始まる節目前に入って来たのだ。その為、編入当初は学校全体に大きな盛り上がりを見せたが、直ぐに春休みに突入し話題は一時的に落ち着いたのであった。

…成る程。朝の争いって、新しく霧谷さんのファンクラブが出来るって話か。


キーンコーンカーンコーン。

がらりと教室の扉が開き、担任の先生が入って来る。


「おらぁ、お前らチャキチャキ座れぃ。授業だなんだとする前にHRだぁ」


35歳独身、担当教科は社会、教職でありながらキャバ嬢に貢いでると噂の男性担任の適当な言葉に、クラス中が雑に従い各々座り始める。


「…ねぇ」

「ユウは霧谷さんの事どう思ってるの?」


後ろの席から美玲がコソっと言葉を掛けてくる。


「ん?…特にどうとも思って無いけど」

「……ふぅん、そか。…なら、美玲ファンな訳だ。ふふ」

「…お前なぁ」


小声で冗談を言い合いつつ、クラスの男子からの殺意のある視線を察知して机に肘を付けて前のめりになる。


ラブレターの差出人が霧谷さんだったら…。

唐突にそんな事を思い、霧谷さんの方へ視線を運ぶ。


「…っ」


ハッと気付くと霧谷さんと丁度目が合い、急激に目を逸らす。

霧谷さんも丁度バッティングした視線を、恥ずかしげに前に戻す。


「…なぁ〜に楽しそうにしてんの?」


一部始終を後ろから見ていたであろう美玲が、こちらに僅かに聞こえる様に冷たくボソッと呟く。


「…いや、これは、違うねん」

「ま、良いけど。彩と由美ちゃんにはしっかり話しておかないとね」


ヒヤリと背筋を通る何かを感じ、刃渡り15cmにも似た言葉を心で反芻(はんすう)した。


まだまだ紹介パートも良いところですが、そろそろ物語が動き始めます…。


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