表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

52.雨男の晴れ舞台

52.雨男の晴れ舞台





仄暗い光を背に二人の男女が並び立つ。


おかしな風体(ふうてい)のシルエットを除けば、その姿は正にアーティスト達のライブシーンの一コマの様だ。


二人の歌声は体育館中に反響し一人一人の耳へと届き、心の臓に直接伝わる事で自然と身体がリズムを刻ませる。


薄暗い暗闇の中、五感を制限され音だけを頼りにしていた生徒達は皆、始めは呆気に取られ、只々(ただただ)耳を傾けるのみだったが、(うず)き出した体を止められずに、前列の生徒達を筆頭に前へ前へと詰め寄せ、手を挙げては飛んだり跳ねたりと次々に大きな歓声を上げる。


間違い無く二人の歌声には、人の心を揺り動かし、本物の感動を誘うエネルギッシュな力がある。


勿論二人だけでは無く、コウジくんもまた間奏で自由なジャズ調のアレンジを利かせたピアノを披露し、皆のテンションを更に盛り上げる。


…コウジくん…普段はカッチリとしたクラシックの演奏が多い分、羽目を外して楽しそうに演奏してるな。




今回、オープニングアクト用に準備した曲は、北谷が歌っていた流行りの男性曲をチョイスした。


その上で生徒達を虜にしたのはやはり、二人の歌声のバランスの良さだろう。


彩の柔らかく穏やかな歌い出しと響くハイトーンボイスにより、女性アレンジバージョンの印象を植え付けて皆を十分に()き付けた後、北谷の安定感のあるミックスボイスでガッシリと心を掴む。


アップテンポなサビ前からは再び彩が力強く高らかに盛り上げ、そのままの勢いよろしくサビで主旋律を歌い切り、北谷がバランス良くハモる。


男性曲を女性が力強く歌い上げるカッコ良さも相まって、会場のボルテージは最高潮に上がっていた。


二人の絶妙な距離感が生み出すデュエットがまた何と言っても聴き心地が良い。


素人の域を遥かに超えたパフォーマンスに生徒達は皆、大盛り上がりを見せていた。




第一体育館の中は、生徒達の熱気が充満し息苦しさすら感じる程だった。


ふと、会場の入り口の方へ視線を向けると、漏れ光る外の明かりと共に、多くの生徒達が入って来る姿が見えた。


…よし。校内の生徒達まで届いたみたいだ。


その先頭で制服姿の女生徒が一人、息を切らして走って来ては立ち止まり、遠くから壇上を一心に見つめ、泣きそうな笑みを零しているのが暗がりの中かろうじて見えた。


その女生徒は直ぐに後続の生徒達に埋もれて見えなくなったが、儚げで真摯なその姿が妙に印象に残った。




〜Another side〜


真っ暗闇の中だと言うのに、何故か生徒達一人一人の表情が良く見える。


自分でも珍しく興奮してるのか、感覚が研ぎ澄まされ、目が冴えているのが分かる。


こんなにも多くの歓声は、今まで一度たりとも浴びた事が無い。


歌いながらぶるりと身震いするも、それが緊張から来るものでは無く、気分の昂揚(こうよう)から来たものだと気付き、思わずニヤリと口角が上がる。


二番のサビ前、瞬間的に峰岸彩と視線を交わす。

言葉を用いずとも伝わった。

「今度はハモってやるから主旋律どうぞ」とでも言いたげなドヤ顔。


ははっ…分かったよ!…今度は俺の番だ。



遠慮無く心のゆくままに気持ち良く二番のサビを歌い終えると、身体が浮き上がる様な感覚と共に、視界に広がるうねりが大きく「ぐわん」と揺れた。


生徒達が形作る海は大荒れ模様。


大きな歓声を浴びたからか、目の前がチカチカと光って脳が揺さぶられる。


ラストのサビは二人合わせてユニゾンだろう。


予感では無く確信めいたものを感じ、峰岸彩とタイミングを取り歌声を合わせる。


…ほらな。


今まで感じた事の無いカチッとハマる感覚。


…あぁ、誰かと一緒に歌う事がこんなにも自由で気持ちが良いなんて。




曲が終わった後も、興奮冷めやらぬ生徒達が様々な声を上げていた。


「…はぁ、はぁ…」


歌い切った達成感を感じつつ深い呼吸を繰り返し、舞台上から海の様に波打つ生徒達一人一人を眺める。


人前で歌う事の怖さもあったが、それ以上にやり切った達成感と生徒達の素直な反応に目頭が熱くなるのを感じた。


ふと。


波打つ生徒達の中にいた1人の女生徒とバチリと目が合った様に感じ、暗がりの中思わず凝視する。


あれは…同じクラスの川辺…栞?


周りで興奮する生徒達とは異なる様相に自然と視線が切れず、互いに見つめ合う瞬間が生まれた。


彼女は目に溜めた涙で瞳を(きら)めかせ、祈る様にこちらを見つめていた。


彼女は暗闇の中、真っ直ぐに『北谷光輝』を見ていた。




その時、体育館の電灯が一気に明かりを取り戻し、パッと世界に光が灯る。


暗闇が晴れた瞬間、生徒達の視線が一気にこちらへ集中したのに気付き、途端にブワッと背中に汗が滲んだのを感じた。


「〜〜〜っ!?」


急激に押し込めていた羞恥心が剥き出しになり、弾ける様にその場で回れ右をして舞台袖へと駆け出した。


サングラス越しであっても『北谷光輝』だと生徒の誰一人にも気付かせたく無くて走った。


背後から生徒達の困惑の声が追いかける様に聞こえて来る。

…すみません、もう無理。


走りながら、冷静に先程までの事を考えて大きく息を吐き出し呟く。


「…はぁぁあああ………ヤバ過ぎた…」


今の今まで大勢の生徒達を()かせた、あのライブ感が堪らなく気持ち良くて。


ただ、歌い終わった後の突然の羞恥心もあり、心の中に住まう小さな自分はグルグルと目まぐるしくも動き回り、情緒不安定に混乱している様だった。


…川辺 栞。


あの視線の意味は分からない。


けど。


「バレて無い…よな?」


一人、呟きを漏らした。



完結させる為に…。

書き続けます。


次回も楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ