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5.あの日の僕らが今日の俺に笑いかけてる

5.あの日の僕らが今日の俺に笑いかけてる




俺達が通う相城(そうじょう)高校。

県内でも数少ない私立高校で、俺達が住んでいる旧市街地と新市街地を隔てる大きな川を、跨ぐ様に伸びる橋を渡ると着く。


俺達は旧市街地の中でも特に、橋に近い場所に住んでるからか、大体歩いて20分程で到着する。


朝寝坊した時なんかは自転車通学が必要なんだろうが、そもそも寝起きが良いからか、寝坊しそうになった事は一度も無い。


生徒会の仕事で早く出なきゃ行けないとか、イレギュラーな事が特に無ければ幼馴染グループで一緒に登校する事にしている。



旧市街地の河川敷を歩き橋に差し掛かり、ふと見上げた空一面に鱗雲が浮かんでいた。


「おおっ!魚が泳いでるぅ!でっけぇ!」

「左が口でねぇ、右のピョンってなってる方が尻尾なの!」

「あれは龍に見えるけどね。胴体長いし」

「シンおにぃちゃん、待ってぇ!」


後ろから、子供の頃の自分達が走って追い越して行く。


天真爛漫な笑顔で。

穢れのない心で。


どこまでも青い空に浮かぶ鱗雲の塊を想像で自由に泳がせたりしながら、無邪気に飛んだり跳ねたりとはしゃぎながら公園に向かっていた。


あの日は確か、初めて由美姉と美玲に会ったんじゃなかったかなぁ…。


幼馴染で頼りになる生徒会長の

島崎(しまざき) 由美香(ゆみか)。3年生。

思わず(こうべ)()れてしまう引力があり、

乳は無いがカリスマ性はある。

無茶苦茶な事でも我を通して成してしまう。

着物が似合う和装美人グランプリ優勝。


今でも思い出す。

大橋の真ん中で仁王立ちした『女の子』。






「おい君たち!!」


雲の流れをひたすらに追い、上を向きながら歩く僕たちを呼び止める声がする。


「なぁに?おにいちゃんじゃない、おにいちゃん」


ややこしい言い方だが彩からすると正しい認識で、目の前で仁王立ちしてる短髪で半袖短パンな格好の『女の子』に答える。


「少女を見なかったか?歳の頃は君たちと近く、可愛らしい少女だ」


君も同い年ぐらいだと思うけど、と言いかけてやめた。


「僕らは見てないなぁ、その子がどうかしたの?」


「かくれんぼかなぁ?」

「もしかしたら迷子かもよ、『彼』は必死そうだし」


僕の後ろで真也と真帆ちゃんが不思議そうに話してる。

彩は最初に話したきり、僕の服の裾を掴んでずっと後ろに引っ付いて口を(つぐ)んでる。


「実はついさっきまで下でバドミントンをして遊んでたんだが、2人で羽根を探してる時に居なくなってしまったんだ」


「下の草むらで探してるんじゃないの?」


「…僕が下の草むらを探してる間にこっちに上がったみたいなんだ」


『女の子』なのに僕なんて珍しい子だ。


「…そうか!」


何かに気付いた真也が大橋の手すりまで近づいて下を覗く。


「多分下から見つけたんだよ!橋に引っかかった羽根を!今取ろうとしてるかもしれない!」


真也の言葉にハッとなり、僕と『女の子』は橋の手すりに近づき、同じ様に下を覗く。


「「「いた!」」」


涙目になった少女が橋の欄干の間から顔を覗かせているのを3人同時に発見した。


「由美ぢゃぁぁあん!」

「みーちゃん!!!」


横溝の柱に足を乗せてバランスを取りつつ体を支えてはいたものの、今にも後ろに落ちてしまいそうな儚さで。


「…ぁ」

「待って!!」


ぶるぶると震えて力の入りきらなかったであろう少女の手を目の端で捉え、落ちる寸前で掴むが、ぐっと引き込まれる僕。


「掴んでるから!引っ張って!」

「おにぃぢゃぁん!!あぶない!!」

「ぃゃぁああ!!ユウおにぃちゃん!!」


隣にいた真也と『女の子』に指示を出そうとするが、2人の妹達がパニック状態で声を上げて聞き取れない中、真也が僕の目を真っ直ぐ見て言った。


「助けを呼んでくる!」


僕は頷き、歯を食いしばって耐えてもう片方の『女の子』を見た。


目が合った。


そして、落ちそうになっている少女を見て覚悟を決めたのか、少女を支える為に身体を半分橋から外に出した。


結果的にこの判断は間違っていた。


『女の子』は自らのバランスを崩して外に投げ出される様に落ちていった。


反射的に僕の方へ手を伸ばしたのが幸か不幸か、僕はもう一方の手で『女の子』の手を掴んだ。


『女の子』の方へぐらっと傾いてしまったのを何とか踏み留まるも、横溝の柱に足を乗せて辛うじてバランスを保っていた少女の方が、反動で足を滑らせる。


もう持ち堪えるなんて無理。

時間の問題だった。

両手はとっくに限界を超えていたし、後ろでわんわん泣いてる2人の妹達の声にもならない叫び声を聞いて頭が混乱していた。


ただ不安で青冷めた2人の顔を瞬時に見て、覚悟を決めたのは確かだった。



「離さなきゃ!皆落ちちゃうんだぞ!?」


「離さない‼︎絶対!」




3人で川に落ちていく瞬間、色々な事が頭をよぎった気がする。


「きゃぁぁぁああ!!お兄ぢゃぁあん!?」

「いやぁぁぁあ!!」


去年の夏必死に木をよじ登って採ったカブトムシ。

おとうさんに肩車してもらった時の視界。

一生懸命作った雪だるまの顔が一晩経って欠けてた時。

初めてサッカーでシュートが決まった瞬間。

丸刈りにした頭に蛇口から直接掛ける水の冷たさ。

道場で散々投げ飛ばされて身体が全く動かなくなった時。

山に登り紅葉の先に滝を見つけて大喜びした事。

川に垂直に落ちていく瞬間の女の子たちの絶望の顔。



バッシャーーーン!!!



ドラマや映画のヒーローはいつだってどんな状況でもヒロインを助けてた。


後で聞くと水深3メートル程の所に落ちた事で何とか助かった様だった。もう少し岸に近く、地面に直接落ちていたらと思うとゾッとする。


真也が呼んでくれた大人達が声を掛け合い、土手から降りて助けに来てくれた。


「子供が落ちたぞー!」

「救急車を呼んでくれ!」


落ちて直ぐに水の勢いに(さら)われはしたが、飛び込んで来る大人達の手によって引き上げられ、3人共無事に岸に辿り着いた。


「ぅぁああああ!!ふぇぇえええん!」

「君は何で言う事を聞かなかった!?」


1人は怖かったのかずぶ濡れで大泣き。

1人は僕を見て怒り出した。


僕は落ちてしまった事に納得がいかず、橋を見上げて質問から逃れた。


視界の向こうに見えたのは、今し方溺れかけた僕を嘲笑う様に、自由気ままに泳ぐでっかい魚の姿をした雲。


その端で、恐らく死んだであろう僕の為に、地球上で一番の大泣きをしてる彩と真帆ちゃんを橋の欄干の隙間から見つけて、さすがに少し反省した。


ボーッとした意識の中、遠くでサイレンの音が聞こえた。


「聞いてるのか!?」

「僕さ、今度も離さない」

「…は!?何を言ってる?」

「2人から何人になっても助けられる様になる」

「冷静に考えて抱え切れる訳ないだろう」

「なる」

「…だったら、僕は離せ」

「君も女の子だから助ける」

「………」


『女の子』の顔が急激に赤らみだし、ふと涙で滲んだ目を隠し逸らす様に俯いた小さな頭が、トスっと僕の胸に収まる。


今でも意地になってたと思う。

結果的に、この日のこの出来事から僕たち6人は結束し合い、血の繋がりを超えた仲になった。


そして『男の子』を『女の子』たらしめた。






「どう見てもあれは羊の大群だよなぁ」

「何、お兄ちゃん。眠いの?保健室で一緒に寝とく?」

「添い寝が必要ですね。お供しましょう」

「…さいってぇ。シン兄、無いわ」


橋を渡りながら昔に想いを()せつつ(なお)も空を見上げていると、正面に人の気配を感じた。


「おっはよぉ!皆!」

「待っていた。お早う皆」


橋の歩道を塞ぐ様にして立つ、少女と『女の子』。


あの日のあの頃と違う二人。スポーティで男気増した美玲と腰まで伸びた綺麗な黒髪の女性らしい由美姉の姿だった。


ただ、空に浮かぶ鱗雲は見え方は違えどあの日と何一つ変わりはしない。


とりあえず、出来たところまで投稿します。

続きが気になる方が増えていって頂ければありがたいですね。基本的にゆっくり続きを書いていければと思います。


そして、読んで下さった方、ありがとうございます!

もし宜しければ、イイネと感想頂けたら非常にありがたいです。ブックマークの方もして頂けたら尚嬉しいです。

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