49.青春の足音
49.青春の足音
〜Another side〜
つまらない…。
退屈でしょうがない。
学校の屋上で寝転びながら見る空の青々しさに、つい顔を顰める。
あれだけ気持ちの良い雨の日が続いてたと言うのに…まったく。
思えばテスト勉強期間中は、ほとんどが雨だった。
まるで生徒達の鬱屈とした心を現したかの様な雨続きに、俺だけは内心「ずっと雨で良いのに」なんて考えていた。
雨の日は昔から好きだ。
しっとりと落ち着く雰囲気や雨特有の匂い、雲に覆われ昼でも薄暗いところなんて、陰気な自分からすれば最高の天気と言える。
テスト勉強期間の実質的な終了の日である、土曜の通常登校日。
生徒会から『中間テストお疲れ様会』についての追加イベントの発表があった日だって、どんよりと曇り空が広がっていた様に思える。
だが、いざ中間考査が始まった月曜日から雨はピタリと止まり、一転して晴れの日が続いた。
屋上に吹く柔らかくも暖かな風を肌で感じ、寝転びながらもチラリと屋上の扉を窺い見る。
…今日もまた『会長さん』は来るのだろうか。
そうして暫く扉を眺めるも鬱陶しい程の快晴に嫌気が差し、むくりと起き上がると日陰へと移動し再び目蓋を閉じる。
正直言ってこの学校は嫌いだ。
俺の名前は、北谷 光輝。
名前負けしている自負はある。
昔から何事も冷めやすい性格で周りから言わせれば可愛げが無い子だったそうだ。
子供の頃から友達と言える人物は誰もいない。
俺はただ、おかしいと思った事に対して反対してきただけなんだけど…。
小学校の頃は、女の子についつい意地悪したくなる男の子へ空気を読まず「ヤメロ」と言って対立したり、中学校では先輩に絡まれて喧嘩に発展し何とか耐え凌ぐと、翌日からは不良だなんだと言われ更に孤立する始末。
学生のみならず、社会の構図としてヒエラルキーに応じてグループが形成されたりするこの世の中だが、結果的に俺だけポツンと一人でいる事に。
全て後になって分かる事だけど、日本人特有の同調圧力に逆らって来た事で、変人扱いされていただけだ。
中学卒業後、親の転勤の都合でこの地へ移り住む様になった。
都心から少し外れた場所ではあるが、産まれも育ちも田舎出身の俺からしてみれば十分都会だ。
そして、この私立相城高校に入学してから幾日か経ったが、未だに生徒達のノリについて行けずに困惑している。
元々、この学校にいる生徒達は中等部からエスカレーター式に上がって来る生徒が大半を占めている。
自然、生徒達の間柄や関係は既に出来上がっている。
言わば俺は転校生の様な物で異分子的存在なんだ。
だからと言って協調性の無い自分が、自ら進んで友達作りに励めるかと言えば、そんな事は全く無いのだが…。
入学して直ぐこそ、男女共に親し気に話し掛けて貰えたものの、人見知り全開な俺はそこで上手く立ち回る事が出来なかった。
結果的に高校デビューも果たせず「クールでドライな人」と印象付けられ、またもや孤立してしまった。
そんな日々が続いていく内、友達を作る事さえ臆病になる様になってしまった。
放課後になるといつも空き教室で帰るまでの時間を潰す様になったが、最近はその心のオアシスとも言える場所ですら勉強する生徒がいて入り辛くなってしまった。
そんな事もあってか、今日もテストが終わると直ぐに屋上へ向かい、横になってただダラダラと時間を潰す事に。
毎日直ぐに帰宅する息子を見たら親は心配するだろう。
…出来るだけ親に心配させたく無い。
…ガチャ。
屋上の扉がゆっくりと開かれ、一人の男子生徒が屋上へと歩みを進めるのが見えた。
彼は屋上全体をパッと見回し、俺の姿を確認すると笑顔で近付いて来る。
「よっ!テスト最終日も変わらずか」
「会長さん。暇なんですか?」
「いや、しなきゃいけない事とか大体終わったから涼みにな。…と言う訳で、ちょっとここで休ませてくれ」
そう言うと『会長さん』は少しだけ俺から離れたところにドサっと寝転んだ。
チラリと横顔を覗き見る。
既に目を閉じている彼の顔はとても整っており、校内で何かとネタにされがちだがイケメンだとモテ囃されても何ら不思議では無いと思う。
この学校で有名な幼馴染グループの中心的人物である男。
生徒会長の峰岸優斗先輩。
テスト期間に入ってから四日間。
最終日である今日に至るまで毎日屋上に来ては、俺と少しだけ話し同じ様に寝転がる。
初めこそ困惑したが、今は少しだけ彼と話す事が心地良くなって来た。
…クラスでも浮いた存在で話し相手が居ないからだろうか。
「北谷はさぁ、この学校つまらない?」
つい先程までそんな事を考えていたばかりの俺に『会長さん』は目を瞑りながら話し掛けてくる。
「……正直、微妙すね」
「どんなとこが?」
「ノリ?って言うんですかね、この前も言ったかもしれないですけど…自分には合わなくて…」
「あぁ…なるほどな。確かに異常だわ、ここは」
「あとはまぁ……友達とか居ないっすからね」
『会長さん』と同じ様に横になりながら、初めて会った時に話した事を思い出す。
あの時は『会長さん』から屋上で寝てる理由について聞かれた。
友達が居なくて部活もして無い自分の精一杯の親への気遣いについてとか、今更友達を作る事へ臆病になってる事など『会長さん』は「そっか」と言って今と同じ様に横に寝転んで聞いてくれた。
何故だか『会長さん』にはすんなり話が出来る。
…遠い存在だと思ってるからだろうか。
暫く二人共何も言う事無く寝転んでいると『会長さん』がパッと目を開けて俺の方を見て、ニカっと笑う。
「北谷」
「…?」
「見る前に飛べ」
「…はい?」
『会長さん』はそう言うとゆっくり上体を起こし、欠伸を一つして立ち上がる。
「とある詩人の名言なんだけど…。少し様子を見てから〜とか、もう少し考えてから〜とかやってる内にチャンスは過ぎ去って行くんだよ。…だから、先ずは飛び出す。飛び出す事が大事なんだ」
「………」
「北谷は友達を作る事だったり、何かを始めようとする事に臆病になってるじゃん?それって凄く勿体無い事なんだよ。…飛び出してみたら、今見えてる物が全く違う物に見えたりするもんだ」
「会長さん…」
「うし。休憩も出来たし、行くか」
正直何の事か全く分からず、ただただ困惑したまま寝転ぶ俺へと『会長さん』は中腰姿勢で覗き込み、笑顔で手を差し出し呼び掛けて来る。
「えと…良く分からないんですけど、俺何か誘われてたりします?」
「あぁそうだ。この学校を嫌いになるにはまだ早いって教えたくてな」
「………何か、クサ過ぎ無いっすか?」
「ははは、良いんだよ青春不足な奴にはこれぐらいの方が」
『会長さん』のその言葉に少し口元が緩む。
俺は差し出された手をグッと掴むと立ち上がり、さっさと先へ歩く『会長さん』の後へついて行った。
『見る前に飛べ』か…。
確かに、今の俺に必要なのはそう言う部分なのかもしれない。
人それぞれ悩みはあっても
中々曝け出せないもの。
次回も楽しみに。




