47.信じ報われる心
47.信じ報われる心
真帆ちゃんと別れて、俺達は霧谷さんと共に本校舎へと入る。
その際、少し先を歩く由美姉が急に廊下の真ん中で立ち止まったかと思うとクルリと振り返り、口元に笑みを浮かべつつ霧谷さんへ言い放つ。
「霧谷嬢…。優斗の隣には必ず私達がいると云う事をゆめゆめ忘れない様に」
「…会長?」
霧谷さんは何の事か全く分からないと言った表情で由美姉を見ては、順に俺達へ視線を向ける。
俺の両隣には彩と美玲、少し後ろに真也がいる。
辺りには登校してくる生徒達が大勢おり、俺達に気付いた生徒達は皆「おはよう」と朝の挨拶を残し、各々の教室へと向かって行く。
由美姉の言う『私達』が幼馴染の皆を指してる事は明らかであり、彼女は謂れのない罪の視線に晒され困惑した表情を見せた。
最近になって初めて分かった事がある。
霧谷さんが俺を見る表情は、何処か不安に駆られた様な、そんな心の内を表している表情なのではないかと。
だって、彼女と目が合ったらホッとした様に柔らかく微笑むから。
ふと、霧谷さんと目が合う。
彼女は今までとは違い、申し訳無さそうに眉を顰めると直ぐに目を伏せた。
どこか疚しい感情を抱え、そんな風に目を逸らす彼女へ急に人間臭さを感じた。
果たして『脅迫状の犯人』がそんな露骨な反応を見せるだろうか?
どうにかして、俺の心に巣食う霧谷静アンチを一掃してやりたい。
全く根拠の無い部分だけを切り取って、彼女を信じたいと思う俺はやはり甘い男なのだろうか。
でも…。
ギュッ。っと、右腕に強く抱き着いて来る美玲。
霧谷さんへと視線を送る俺を上目遣いで覗き込む。
美玲も何故だか言い知れない不安を現す様な視線で俺を見つめ、ゆっくりと霧谷さんの方へ視線を向ける。
「……っ」
霧谷さんは俺の腕に抱き着く美玲と左手側に寄り添う彩の姿を見て、直ぐに前へと視線を向ける。
「行きましょうか…」
霧谷さんの一言に俺達は従い、教室へ向かい廊下を歩く。
ここ数日の雨のせいか俺達の表情は皆、気が重く憂鬱そうに見えた。
勿論、雨だけのせいでは無いだろうけど…。
各階で由美姉と彩と別れ、俺達は2年B組の教室へ辿り着いた。
教室の中へと足を一歩踏み入れた瞬間、一人の女生徒がズンズンと足を踏み鳴らしながら近づいて来るのが見えた。
そして、「おはよう」の挨拶も無しに俺の足へ唐突にローキックをかまして来る。
「っ…何だ恭子」
「毎日毎日毎日毎日…アンタはさぁ…」
そのまま俺にガン付ける様に顔を間近まで近付ける。
恭子の協力者とも言える女子達も恭子の後に続く様に俺達を取り囲む。
恭子は今までに見た事が無い程、目元にクマが出来ており、顔色も悪くやつれている様に見えた。
黙ってれば美人で通っている恭子らしく無い。
…テスト勉強で息でも詰まってるのか?
「な、何なんだ…大丈夫か?恭子」
余りにも変化の著しい恭子の様子に、半ば心配気味に問い掛ける。
「美玲」
「え?私?」
恭子が美玲をキッと睨む。
「ここ最近…創作意欲が湧かないのよ…美玲が恋人COした辺りから…。頼むわ美玲。…私達は、また真也と優斗のふとしたイチャ付きが見たいだけなの。美玲はただのスパイス。メインディッシュになろうだなんて…許さないわ…」
恭子はツツーッと綺麗な涙を溢すと、フラッと体を揺らめかせたかと思えば、背後に控える同志達に支えられながら教室の床へと倒れ込む。
…中間考査とか関係無しに、お前ら本当に暇なんだな。
茶番を演じる恭子と同志達を前に俺と美玲は溜め息を吐き、真也はいつもと同じく薄く微笑み、霧谷さんはボーッとしたまま自分の席へ向かって歩いて行ってしまった。
放課後。
テスト勉強期間最終日とあって生徒達皆、何処と無く疲れやストレスが見える。
HRが終わりチャイムが鳴ると同時に、教室を離れていく生徒が多く見受けられた。
その多くの表情は諦観にも似たもので、テスト勉強など鼻から気にしない勇者達の面々だった。
中でも筋肉バカな徹也は悟りの境地に達したのか、愛しい我が子を抱くかの様にダンベルを撫でては抱き締め、虚ろな目をして出て行った。
…ありゃ重症だ。心理カウンセリングが必要だな。
やはり中間考査が終わり次第、心の癒やしの意を込めてお疲れ様会は必要そうだ。
そんな事を考えていると、教室の入り口から元気な声が聞こえ始めた。
「たのもぉ!」
「どんもぉ!」
上級生の教室だと言うのに何とも遠慮の無い登場の二人。
ゴスロリファッションの銀髪ツインテール娘と、その幼い見た目の美少女を背後から抱く我が妹。
ウチのクラスではもうお馴染みともなる光景に、クラスメイト達も頬が緩んでいくのが分かる。
二人は俺達の姿を確認すると一目散に俺の席へと走り込んで来る。
「優斗先輩!最終日なので皆で勉強しましょ!」
リオナちゃんが目をキラキラさせながら提案する。
「お兄ちゃん…勉強なんて忘れてさ…。私と何処か遠くに行こう?」
彩は逆に疲れからか、癒やしの懇願をして来る。
「はいはい、彩もリオナちゃんも騒ぎ過ぎ無い様にな…っぁ…ふ」
俺は椅子に寄り掛かったまま伸びを一つして、あくびをする。
すると、後ろの席に座る美玲が俺の首元に顔を埋める様に抱き着いて来る。
「ユウ…私も眠くなって来ちゃった…。一緒に寝よっか…。ね?」
「ちょっと!みーちゃん!!」
「あわわ…大胆な美玲先輩…ごくり。良く考えると、この席青春ポイント高いですねぇ」
リオナちゃんは目を輝かせ、彩はすかさず俺と美玲を引き離しに掛かる。
「お兄ちゃん…私、席替えを提案して来る。テスト勉強なんかよりもっと大事な事が分かった気がするんだ」
「何でお前がウチのクラスの席替えを提案するんだよ…。あと、美玲そろそろ離れろ」
「にゃはは…もう少しだけ良いでしょ♪ね?彩」
「ぐぬぬぬ!」
そんな俺達を見て、霧谷さんが自分の席からスッと立ち上がったのが見えた。
そして、ゆっくりと俺達の傍に近寄ると赤面したまま言い放つ。
「お二人は…その、距離が近過ぎます。交際はされてないと仰ってましたよね?美玲さん」
「静…分かって無いね。付き合ってはないけどユウを誰かに譲るつもりなんて更々(さらさら)無いの」
美玲は挑発的な視線で霧谷さんを見る。
霧谷さんは続けて、俺の方へ視線を送って来る。
霧谷さんの困った様な視線に晒され、居心地が悪くなり、美玲の腕から逃れる。
「ほら美玲、もう離れろ」
「あ、ちょっとユウ!」
そのまま立ち上がった俺の姿を見て、霧谷さんはホッとした表情を見せると、目の前で少し遅れてはにかむ。
「みーちゃん。お兄ちゃんは私のだから、勘違いしない様に」
「私をお姉ちゃんと言う日も近いからね、彩」
近くで彩と美玲が見合い、バチバチと火花を散らしていた。
こうして霧谷さんの行動を見ていると、どうしたって本物のラブレターの差出人の様に思えるんだけどなぁ…。
それとも…。
霧谷さんが嘘をつく理由があるのだろうか?
霧谷さん…。
君の心の内が見れたなら良いのに。
また彼女と目が合う。
綺麗な瞳。
白雪の様に純白な肌、顔のパーツは均一に整い、少し照れて赤みがかった頬はしっとりと吸い付く様。
さらりと揺れる麗しき黒髪は、頭から毛先に至るまで歪みが見当たら無い。
何度見ても見惚れる程に、彼女は綺麗だ。
彼女は俺の事を真っ直ぐに見つめ、照れながらも柔らかく微笑んでくれた。
そうだ。そうなんだ。
俺は、俺が見たままの霧谷さんを信じたいんだ。
彼女を信じた結果、例え最後に大きく裏切られたとしても胸を張っていられる様な自分でいたい。
幼馴染の総意から離れてしまっても、彼女の事を信じ続けよう。
俺はもう迷わない。
彼女を信じ、彼女の無実を証明してみせる。
皆に囲まれつつも、一人思考を遠くへと飛ばし考えていた。
雨の日が好きな人と嫌いな人の割り合いは
好きな人1割〜2割程に対し、
嫌いな人7割〜8割程だそうです。
雨への感情はその時の気分によって
変わるものですよね。
さて、次回もお楽しみに。




