46.相合傘は愛が一杯
46.相合傘は愛が一杯
『朝からお昼にかけてお天気が崩れ、雨や風が強まり、一部雷雨の見込みで一日中雨が降り続けるでしょう。…それでは全国の詳しいお天気を見てみましょう』
テレビの向こうでお天気キャスターが、スラスラと言葉を紡ぐ。
…どうやら、全国的に雨模様らしい。
「あぁ〜、また朝から雨なんだ。傘持って行かないとね…。お兄ちゃん?聞いてる?」
「…ん。あぁ」
テスト勉強期間最終日の金曜日の朝。
既に朝食を食べ終え、リビングにてテレビをボーッと眺める俺に彩が声を掛けてくる。
ここ最近、ずっと雨続きだ。
平年での梅雨入りは6月の初旬頃と言われているが、数日前のお天気情報によれば、早目の梅雨入りを迎えたそうだ。
丁度、今週の月曜日辺りかららしい。
あの日の事を考えると、また思考がぼんやりとしてくる。
霧谷さんの言葉に「ごめんね、急に。知らないなら大丈夫」と曖昧な返事をして、その場は直ぐに解散となった。
それから数時間後、幼馴染の面々は俺の部屋に揃って集まり緊急会議が始まった。
主に由美姉の言葉が強く思い出される。
「やはり、彼女が犯人で間違いない。…云って置くが霧谷嬢を信じると云う事は、私の事を疑うと云う事だ」
確かにその通りだ。
由美姉の話が事実であれば、霧谷さんは手紙が出された当日、俺の下駄箱前にいたのだから…。
ただ、もう少し正確に言うのであれば、由美姉は霧谷さんが下駄箱前にいたのを確認しただけで手紙を出した瞬間を見た訳では無い。
二人が本当の事を話している可能性はまだある。
だが…。
それだと、霧谷さんは何の為に下駄箱前にいたんだ?と言う話になる。
必然的に霧谷さんの事を疑ってしまうのは免れない。
その上で、今後どうするかと言う話になるのだが…。
既に彼女を生徒会に引き入れた以上、今更引き離す事は難しいので、今まで以上に『要警戒』の構えを取る様にすると言う事になった。
由美姉は彼女を完全に『犯人』と断定した様で、「決定的な証拠を抑えてみせる」と意気込んでいた。
そんな中、実は俺もどうしたら良いのか分からなくなっていた。
彼女を信じたいのに…。
今まで自ら貫いて来た筈の、彼女を信じると言う自信にヒビが入っていく様な気がした。
そうして幼馴染達の共通認識が『霧谷さんはやはり危険』となった頃、ずっと俺の横で黙っていた真也が「誰かが…嘘をついている」とボソリと零した言葉が頭の中から離れない。
『霧谷さんが』では無く『誰かが』と。
「お兄ちゃん?もう行こう」
彩が目の前で手を振っていた。
物思いに耽って、思ったより時間が経っていた様だ。
そろそろ出ないと…。
二人で玄関へと向かい、傘を手に取る。
「…また何本か、ビニール傘増えてるなぁ」
「あぁ、そりゃアレだ。飲んだ帰りに雨降っててコンビニで…ってな」
振り返ると父さんがあくびをしながら立っていた。
俺達を送り出す為に、後ろに着いて来ていた様だ。
因みに、母さんは葉たんを幼稚園に送る為、先に車で出ていた。
「手ぶらで飲みに出かけて帰る頃にたまたま雨が降る。そしたらコンビニで買う。…ってな感じでドンドン増えてくって寸法だ。家にビニール傘なんて増え続けるばっかりだぜ…。かと言って、傘なんて普段から持って歩かねーからな俺は」
父さんがウンウンと頷きながら我が家のビニール傘が増え続ける謎を説明する。
「やっぱ、父さんの仕業だったか…今度、居酒屋の方で常連さん向けに置いときなよ。返さなくて良いよってね」
「おっ!流石優斗だ。良く分かってるな」
ニカっと元気に笑う父さんに俺と彩は「いってきます」と言い残し玄関を出る。
外はどんよりと薄暗い雲に覆われており、湿り気を帯びた生温い空気に、憂鬱な気持ちが引き摺られる。
今にも降り出しそうだな…。
そんな事を考えつつ、近くで待っていた真也と真帆ちゃんと一緒に学校を目指し、大橋まで歩いた所で由美姉と美玲とも合流した。
皆で他愛の無い話をしながら学校へ向かっていたが、俺はやはり霧谷さんの事を考えて歩いていた。
霧谷さんとは月曜日以降、火、水、木曜日と三日間の間、少しだけ距離を置いている。
生徒会の皆で勉強会とは言っていたものの、俺も含めて幼馴染の全員、生徒会室へ向かう事は無かった。
事前にレナさんとコウジくん、霧谷さんや深川さん、リオナちゃんには「皆で生徒会室に集まると手狭になるし、図書室組と生徒会室組で分かれよう」と言って二手に分かれる事にしたのだ。
と言う訳でこの三日間、俺達幼馴染メンバーは図書室で勉強をしている。
今考えると、少し露骨だったかも知れない。
その提案をした時、霧谷さんは不安気な表情で俺を真っ直ぐに見つめ、やがて弱々しくこくりと頷いていたから。
霧谷さんにそんな顔をさせてしまった事に自己嫌悪しかけたが、あくまでも幼馴染達で決めた総意に従う事にした。
…未だに答えが分からない。
「あ、雨。降って来ちゃったね」
彩の言葉に反応し、空を見上げる。
パラパラと小降りながら雨が降って来ていた。
「あちゃ〜。…私、学校に置き傘あったから持って来なかったんだよね」
美玲が困った様に微笑み、俺へと近付き右側から腕に抱き着いて来た。
「えいっ!」
「っと、美玲…あのなぁ」
「仕方無いじゃ〜ん!このままだと風邪引いちゃうし、ウンウン♪」
美玲はご機嫌そうに身体を押し付けて来る。
…このまま学校に着いたら男どもから反感買いそうだな。
「ちょっと!みーちゃん!」
「待つんだ!美玲!」
彩と由美姉が素早く反応し、俺と美玲の前に立ち、悔しげに俺達を交互に見る。
「由美ちゃんも彩も傘持ってるでしょ?…役得だよ、にゃはは」
「んぐぐっ」
「むむむ」
そんな二人に美玲は余裕の返しで微笑むと、更にギュウギュウと身体を押し付けて来る。
…おい、素晴らしいものが当たってるぞ。
俺の心の内のスケベ心が激しく反応したが、周りに悟られない様に極自然に美玲に呼び掛ける。
「好きだがヤメロ。勃つ」
「ユウ…バカなの?」
…あれ?自然じゃなかった?
美玲は少し恥ずかしがりつつも、ニヤニヤと口元を緩め、俺に益々(ますます)身を寄せる。
「へぇ…ユウ…。反応しちゃったんだ?…ふぅっ」
「のわ!…あの、美玲さん…すんません。耳に息吹きかけるのは…」
思わず敬語になり、体を萎ませる。
「お兄ちゃん!!」
「優斗!!」
近くで彩と由美姉が怒り、真也は薄く微笑み、真帆ちゃんはジト目で溜め息を吐く。
…仕方無いだろ!男なら誰しも反応するわ!
そんな一悶着があり、校舎へと辿り着く頃には、傘を持った彩をおんぶし、右手に美玲、左手に由美姉を携えていた。
校門へ辿り着くと、更に一歩足を踏み出す。
「ええっと、あの…騎馬戦か何かでしょうか?」
背後から誰かの声が聞こえた。
振り返ると、丁度黒塗りの車から出て来た霧谷さんが、困惑気味の表情で微笑んでいた。
「最終形態、ハーレム騎馬お兄ちゃんだよ、静さん」
…何だそのネーミングは。
「にゃはは、傘…忘れちゃってさ」
美玲が苦笑しつつグッと俺の腕に寄り添う。
…もう、許してください。
「ファイナルフォーム…ハーレム…キャバリー…ふふふ。彩よ、ファイナルフォーム・ハーレムキャバリーだ!」
…由美姉、男の子が好きそうな名前を付けないでくれ。
梅雨の入り明けについて
梅雨入りの平年は6月5日ごろ、梅雨明けの平年は7月17日ごろ(気象庁調べ)ですが、物語のモデルにしてる年は5月の中旬頃からと随分早かった様です。
さて、次回は主人公のとある決意。
お楽しみに。




