45. イメチェン女子と中間考査・後編
45. イメチェン女子と中間考査・後編
生徒会室へ入ってからも、皆、レナさんの突然の変化に慣れずにいた。
特にコウジくんは目を一度も合わせられずに、ソワソワとしていた。
「はぇ〜、レナちゃん派手な化粧辞めたの?黒髪に戻しちゃったし…個性的で私好きだったのに」
「うん…ちょっと、ね♪」
レナさんは彩へ柔らかく微笑む。
「おぉふ……。イメチェンって…凄く効果あるんだなぁ…ギャップが良いね!」
「うんうん!何かレナさん、いつもと違って大人っぽい…かな」
彩に続き、美玲までレナさんをベタ褒めする。
レナさんは派手な化粧を辞め、特徴的だった金髪から黒髪に戻していた。
制服を着崩していたのも改め、見違える程清楚で可憐な少女へと変わっていた。
「ふっふっふ〜♪何やらレナ先輩から恋のオーラが見えますねぇ〜」
リオナちゃんはニヤニヤと笑みを浮かべ、腕組みをしながらレナさんとコウジくんを交互に眺めている。
そんなリオナちゃんと一緒に彩がレナさんへと近寄る。
「レナちゃ〜ん♪聞いたよ〜!由美姉を賭けてコウジくんとお兄ちゃんが決闘した後…良い雰囲気で寄り添い合ってたって…ぐふふ」
そんな二人の肩に手を乗せ、動きを制して薄く微笑む真也。
「彩、変に突くのはよしましょう。外野が喧しい恋は、酷く性急に決断させたがる物です。…ふふ、こう言った事は本人達の気持ちが一番大事ですから」
そう言えば、あれからコウジくんとは一言も話して無かった。
…と言っても、レナさんの変わり様に動揺してるみたいだし…そっとしておくか。
コウジくんと由美姉もあれからちゃんと話した訳では無いみたいだけど、特に周囲に対して気不味さを与える様な事も無かった。
皆の様子を窺うと、美玲は苦笑しつつ隣に併設された給湯室へ向かい、由美姉は「ふふ」と柔らかく微笑むと俺に会長席へ座る様に視線を送る。
深川さんは俺にメンチを切って睨みながら、由美姉の傍に座る。
入り口付近でポツンと残された俺と霧谷さんは一瞬だけ目を合わせると、軽く微笑み合う。
「ふふ、勉強…しましょうか」
「うん、そうだね」
それから、中間考査に向けての勉強会一日目が始まった。
その際、教える側と教えて貰う側に分かれたのだが…。
「えと、一応確認だけど…今回マズいかもって人は手を挙げて」
俺の声に控え目に三人の手が挙がる。
美玲、彩、リオナちゃん。
他の皆は余裕そうな表情でこちらを見る。
…そりゃそうか。
生徒会最上級生の由美姉、コウジくん、レナさんが勉強出来るのは前から知っていた。
そして、我ら二年生組だが…。
真也は中等部の頃、全国共通模試で上位だった程だし、霧谷さんは編入時のテストでほぼ満点との噂。
深川さんも「学年順位一位だったら〜」なんて由美姉に言うぐらいだから、きっと余裕なんだろう。
かく言う俺は、普段から真面目に勉強していると言った訳では無いが、平均点以上は固い。
さて…。
「美玲に教えるのは真也頼む。彩は…霧谷さんお願い。リオナちゃんは深川さんにお願い出来るかな?俺は、教えられる程では無いからさ…はは」
「シンくん…お手柔らかにお願い」
「静先生…凄くヤラシイ響きだねお兄ちゃん…」
「美耶子先輩…目が…何か怖いです」
真也は「ふふ」と微笑み、霧谷さんは彩の言葉に首を傾げ、深川さんは目を煌めかせていた。
「あ、一応リオナちゃんには俺も付くからね深川さん」
「っ…。邪魔立ては許しません」
「何のだよ…」
そうして取り敢えず、集中して一時間みっちり勉強。
その後10分程休憩して繰り返し勉強。
…と言う流れになった。
休憩中、リオナちゃんへゴールデンウィークはどうだったか、それとなく話を聞いてみると、家族揃ってタヒチ島でバカンスを楽しんだらしい。
「兄様から皆さんについて訊かれたので、無人島でキャンプだと話した所、随分と悔しがってました。それに…何故か先輩の話をすると嫌そうな顔をするのですが…何かありました?」
…はい。滅茶苦茶ありました。
「あと、父様と母様が是非皆さんに会いたいと話してました!」
リオナちゃんのその一言で休憩して和んでいた俺の背筋がピンとなったのは仕方が無いと思う。
そうして二度の休憩を挟み、およそ三時間程集中して勉強し終わった頃に美玲、彩、リオナちゃんは揃ってソファへと逃げ込み脱力する。
「「「はふぅ………」」」
すると、彩とリオナちゃんは美玲からスマホを受け取り、軽く操作した後画面を覗き見てニマニマと頬を緩める。
「優太郎…尊いのぉ…」
「カワイイねぇ〜!…あっ!こっちの画像見て!ちょっとお腹の辺りが白いよ!」
「そうそう〜!何かポケットみたいになってて可愛いでしょ!?擽ると丸まるの!」
三人はソファの上で引っ付き合いながら、スマホで昨日の仔猫の画像を見ている様だった。
…強く生きるんだぞ、優太郎。
今度、優太郎へ会いに美玲の家に行こう。
そう心に決めた。
「何の画像でしょうか??」
そこへ霧谷さんが俺の傍に近寄り、スマホを眺めていた三人を不思議そうに見る。
「昨日、仔猫を保護して美玲の家で飼う事にしたんだ」
「静も見て見て〜!昨日ウチに迎えた仔猫なんだけど可愛いよ〜!」
「あら!可愛らしいですね」
美玲がスマホを霧谷さんへ向けると、霧谷さんは笑顔で反応して覗き込む。
…やはり、女性は皆共通で猫好きなんだな。
そんな事を考えながら、深川さんと由美姉の方へ視線を送る。
意外な事に、深川さんは由美姉に引っ付き怯えていた。
何事かと思い話を聞くと、どうやら子供の頃、猫に引っ掻かれたらしく苦手らしい。
…深川さんには優太郎と会わせない様にしないとな。
時刻は18時過ぎ。
窓から外を窺うと、日が雲に隠れて薄暗い様子が見え、窓が風に押され小さくふるふると震えていた。
「さて、それじゃあ良い時間だし…そろそろお開きにしよっか」
俺の一言で皆が帰る準備を始める。
そんな中、一人で覚悟を決め、霧谷さんへと声を掛ける。
「霧谷さん」
「はい、何でしょうか?峰岸くん」
「話があるから、少しだけ残って欲しいんだ」
俺の言葉にその場にいた皆が息を呑む。
流石の霧谷さんも反応に困ったのか、少しの間黙っていたが皆の醸し出す空気を察して、俺を真っ直ぐ見つめて頷いた。
「…ええ、分かりました」
「うん。それじゃ、皆、先に帰ってて」
俺の言葉にいち早く反応したのはレナさんだった。
「それじゃ♪お先に!」
「っ…と、待ってくれレナ!」
レナさんはコウジくんの手を引くと、サッと生徒会室を後にした。
沈黙が訪れる。
「皆…って言ったよね?二人きりにさせてくれ」
念を押して、霧谷さん以外の皆に向かって声を掛ける。
次に反応したのはリオナちゃんだった。
「私…迎え呼びましたし、お先に失礼しますね!ホラ、美耶子先輩!行きましょ!」
「…え?わ、私も!?」
「当たり前ですよ!」
深川さんは尚も何か言い掛けて居た様だったが、リオナちゃんに手を引かれていた為、やむなくと言った所だった。
生徒会室には幼馴染の面々と霧谷さんだけが残る。
「もう一度だけ言う。…二人きりにさせてくれ」
俺は声に少しだけ圧を掛けて皆を生徒会室から出させようとする。
「優斗」
「由美姉…頼むよ」
案の定、由美姉が不機嫌そうな顔で此方を窺い見る。
「何故、一人で何でも決めようとする?」
「皆を巻き込んで置いて何だけど、俺と彼女…そして『もう一人』を含む三人の話なんだよ、結局」
俺の言葉に幼馴染の皆は、一様に表情を暗くする。
「峰岸…くん?どう云う意味ですか?」
霧谷さんはイマイチ状況が分からず、首を傾げては皆へ視線を向け、俺へと呼び掛ける。
すると、ずっと黙っていた彩が笑みを浮かべつつ霧谷さんへと近付く。
「お兄ちゃん…聞き辛いって言ってたよね?良いよ。私が聞いてあげる」
「…彩?」
「静さん…。四月に入って直ぐ、お兄ちゃんに手紙を出したよね?」
聞いた。
聞いてしまった。
視線をバッと霧谷さんへと向ける。
彼女の表情を窺う。
答えは…?
どっちなんだ?
脅迫状の犯人なのか?
ラブレターの差出人なのか?
霧谷さんは困った様に俯き、数瞬の後、顔を上げて俺達に向かって微笑んだ。
「手紙ですか?私は…出してませんよ?」
いつの間に、窓の向こうは暗雲が垂れ込めており、窓に雨粒がパタタッと降っているのが見えた。
彼女の言葉の真意とは?
幼馴染達の中での共通認識、
どちらかの手紙は出している。
彼女が嘘をついたのか?
それとも…。
次回、お楽しみに。




