41.生徒会長のため息
41.生徒会長のため息
「さぁ、それでは…『仮の』新生徒会メンバーを紹介したいと思う」
生徒会長となった翌日の木曜日…。
俺は、元生徒会メンバーと新生徒会メンバーの顔合わせをすべく、放課後に生徒会室へ関係者一同を集めていた。
…と言っても、既に顔馴染みのメンバーが揃っただけなんだけど。
「先ずは、俺が新しい会長ね、改めてヨロシク!…後は、副会長が今回から二名。真也と霧谷さんね。はい、拍手〜」
「ふふ」
「改めまして、皆さん…宜しくお願い致します」
会長席に俺と由美姉がそれぞれ椅子に座り、長机を挟む様に真也と霧谷さんが右側と左側へ座り、皆からの拍手に微笑んだり、お辞儀したりしてそれぞれ反応していた。
元副会長であるコウジくんは「用事がある」と言って顔合わせには不参加との事だった。
…少し思い詰めた表情をしていたのが気になったけど…。
因みに副会長の信任投票は本日の朝に行われ、二人ともほぼ満票に近い得票数で信任投票を終えた。
「そして、書記として…深川さん。急だけどヨロシクね」
俺は生徒会室の扉付近で腕組みをしている深川さんへと声を掛ける。
「貴方の人選は、全くもって不可解極まりないです。…ですが、お姉様の傍に居れるのなら…汚物であろうが会長と呼ぶのもやぶさかではありません。…ただ、貴方はカゲロウの如く必死みたいですし…監視もしなくてはなりませんね」
「俺を蝉より短命な昆虫扱いするな…あと、絶対に誤解だっ」
…ようやく成虫になったと思ったら半日と持たずに儚く消え去る奴もいるんだぞ。そして、子孫を残す為に相手を探して必死に飛ぶそうだ。…ったく、ふざけた喩えだ。
元生徒会書記のレナさんが「まぁまぁ、続けて♪」と俺を諭し、深川さんを霧谷さんの隣へと座らせる。
「さてと、あとは会計と庶務だけど…彩とリオナちゃんの二人です。会計は彩。…庶務は代々『お手伝い役員』の人がなし崩し的にこなしてるんだけど、今回は役職としてリオナちゃんにお願いするね」
「任せてお兄ちゃん!」
「任せて下さい!先輩!」
彩とリオナちゃんが同時に親指をグッと立ててこちらへ向ける。
…二人とも似て来たか?
二人の傍で苦笑する美玲が、彩とリオナちゃんの頭を背後から優しく撫でていた。
「以上、取り敢えず『仮』で新生徒会発足って事になるかな。後は、正規の発足日である月曜日までに飛び込みで入りたい人が居たら考えようかなぁ…と」
そう言いつつ、皆へと視線を向ける。
「でも、周りの話を聞く限りでは大分ハードルが高いみたいだよ。あはは…かなり身内で固まってるからねぇ」
美玲がそう言いながら、ソファへと身を沈める。
頭を撫でられていた二人も美玲の両脇へと、猫の様にすっぽりと収まる。
…毛繕い中の仔猫の様に目を細めちゃって…。
「それでもやりたいと云う気概のある生徒なら歓迎すれば良い。…さて、中間考査も近付いているが皆、勉強の方は捗っているか?」
由美姉の唐突な言葉に、ソファに座る三人は丸まりながら互いに引っ付いて目を閉じていた。
…現実から目を背けるんじゃない。
「お姉様…。中間考査にて学年一位の成績を収めたら、御褒美として絵のモデルになって頂けませんか?」
「…断る」
「何、由美姉それぐらい良いじゃん」
深川さんの言葉に瞬時に素っ気無く返す由美姉を意外に思い、深川さんの味方へと回る。
「あのな優斗…美耶子は普段からヌードデッサンを好んで描いているそうだ」
「あっ…」
「察して引かないで頂けます?まったく…裸婦の芸術性を理解出来ないお馬鹿さんの癖に…」
「深川さんの場合、目的が如何わしいんだってば…」
「なっ!?…し、失礼な…」
…そういやこの人、本物だったんだ。考え無しに直ぐ味方になろうとした俺が馬鹿だった。
「そう言えば、お兄ちゃん!昨日『中間テストお疲れ様会』って話してたけど、コスプレパーティやるの?」
…ギクリ。やっぱ突っ込まれたか。
「一応…そう言う『提案』を生徒会でしますよ〜って話だったんだけど、皆に許可も取って無かったし後々、悪かったなぁと反省したんだ。ごめん」
「言っちゃった手前、生徒達もその気になってるしねぇ…。今朝もユウとシンくんの執事服姿希望って何人かに頼まれちゃったよ」
…どうせ恭子が裏で手を回した生徒達だろ。
「…恥ずかしいですけど、皆さんと一緒にやるのでしたら私も問題無いです」
霧谷さんが少し頬を赤らめながら了承する。
…霧谷さんのコスプレ…何が一番映えるだろうか。
和装のイメージが強いのでシンプルに着物は見たい。
それか、全く別角度のバニーガールとか…レースクイーンも!チアダンサーだってアリ!
かと言って巫女装束だとかも捨て難い。
そんな中、眼鏡にスーツで女性教師なんかも…。
「おぉ〜い、ユウ?駄目だこりゃ…。一人で想像に耽ってるね」
「む…。…おい、優斗」
…てしっ。
「ハッ!?…何?どうしたの由美姉?」
「どうしたの…か、あれだけ霧谷嬢へ熱視線を送っておいて…たく、お前は…」
辺りを見渡すと、由美姉が隣で不機嫌そうに頬を膨らませており、彩と深川さんがこちらへ仲良くガンを飛ばして睨み、美玲は呆れ、真也は薄く微笑み、リオナちゃんとレナさんは揃って苦笑し、霧谷さんは尚一層頬を赤らめていた。
そうして、新生徒会の『仮』の発足が成された翌日の金曜日。
俺は廊下を歩く度、生徒達から「よっ会長!」などと囃し立てられる事が徐々に増えていた。
…あの時、あれだけ全力で追いかけて来たにも拘らず、皆、調子が良いんだから。
そんな事を考えながら一階の廊下を一人で歩いていると、職員室付近で珍しい人の姿が…。
相城高校の創設者である水上源三さんだ。
水上さんは俺を視界に捉えると、微笑みながら指をくいっと近くの部屋に向けて先に入って行く。
…ついて来いって事か。
元々、HRが終わってから急に担任に呼ばれたから何の事かと思ってたけど…そう言う事ね。
生徒指導室の扉をガラリと開け、中へと入る。
「やあ、峰岸くん。…久方振りだね。壮健にしていたかな?其方へ掛けたまえ…」
「はい、失礼します」
生徒指導室には水上さんが一人で椅子に腰掛けており、俺に対面へと座る様促す。
「さて、時間も無いので直ぐに本題へ入らせて貰うよ…。これでも私は忙しい身でね。…静君が誘拐された件についてだが、私に何か申開きする事はあるかね?」
…流石、耳聡い。
「申開きなどありません。そんな事より白昼堂々、誘拐事件が起こり得るこの学校の管理体制に問題があるのでは無いでしょうか?」
「…ふむ。プライベートの尊重に厳しい昨今でね、私は校舎内に死角の無いカメラ体制を掲げているのだが…中々どうして難しい世の中なのだよ。警備体制に関して、常駐警備も追加しようとは考えて居たがね…」
「カメラ…。水上さん、校舎内には幾つかカメラが仕掛けてあるのでしょうか?」
丁度良いとばかりに、水上さんへ質問を投げ掛ける。
…もし、校舎内にカメラが設置されてるなら『脅迫状の犯人』の動向が分かるのだが…。
「幾つかも何も…校舎内はゼロだよ。ゼロ」
…今の口振りから察するにそうだろうと思った。
「事を起こした学生は退学処分の上、社会的制裁も辞さない所だったが…どうやら地獄を見た後だった様だ。実際に会って話したのだが性別が分からなかったよ、ははははは」
「笑えないですよ…」
「おや、君がそう仕向けたのでは?」
「………何でも知ってるんですね」
「ははははは!…彼?は退学し新天地で新たな人生を送るそうだ。最後になるが…次、また静君の身が危ぶまれる様な事態が起きたら…分かっているね?」
御老人とは思えない様な鋭い目付きで俺を睨む。
…この人は、創設者であって教育者では無い。改めて理解し我が心を慰める。
「分かってます…霧谷さんは私が全力で護ります。それでは、私はこれで失礼致します」
その言葉を最後に俺は水上さんに背を向け、生徒指導室を出た。
「…はぁ」
廊下に出て直ぐにため息を一つ吐く。
「霧谷さんを全力で護る…か」
生徒会室へと向かう途中、改めて色々と考える。
霧谷さんを信じて生徒会に引き入れはしたものの、疑問は尽きない。
現状、霧谷さんは『脅迫状の犯人』の筆頭容疑者ではあるが、本物のラブレターを出した人物の可能性もある。
因みに俺は、霧谷さんの事を信じている為、本物のラブレターの差出人だと考えている。
その上で何度も考えてしまう疑問。
何故、本物のラブレターの差出人は何もアクションを起こして来ないのか?
そして、それは『脅迫状の犯人』にしても同じ事が言える。
「…はぁ」
再度、一人ため息を吐き、廊下の窓に映る自らの表情を確認する。
…信じると決めたんだろ。
ちゃんと彼女へ確かめよう。
覚悟を持って「貴女はどちらの手紙を出したの?」と…。
遂に覚悟を決め、彼女へ問い詰めるのか?
中間考査が近付く中、
一人ため息を洩らす男。
次回、お楽しみに。




