37. 呼び出しの罠
37. 呼び出しの罠
〜Another side〜
あぁ…もう、苛々(いらいら)する。
もっと上手く生徒へ取り入るかと思えば、真っ向から現生徒会を否定するなんて…。
生徒会全体を批判するのでは無く、あの男一人を悪党に仕立て上げれば宜しかったのに。
何故、わざわざ生徒会の女性陣を支持する層や、現生徒会自体を好意的に見ている層を突き放す様な真似を…。
まるで、あの男が誑かされ、篭絡されてるとでも言うかの様な……まさか、そんな事の為に敢えて得票数が下がる様な言い回しをしたのでしょうか?
…だとしたら、甘過ぎです…。
綱紀粛正など、生徒会を発足してから幾らでも出来る。
その為には、公約など当たり障りの無い物で誤魔化して自らの良さをアピールし、勝負すれば良かったのだ。
私は、湧き上がる憤りを何とか堪えつつ彼女を待つ。
全校集会が終わった後、霧谷さんを空き教室へと呼び出し、彼女へ問い詰める事にしたのだ。
…ガラリ。
来ましたか…。
「一体、どう言うつもりでしょうか?霧谷さん?」
「どう云うつもり…とは?何の事でしょうか…。先程の対抗演説についての事でしたら、私なりに精一杯演説したつもりでしたが…負けてしまいましたね」
霧谷さんは柔らかく微笑む。
芸術的な観点から見ても、余りに整った顔立ち。
完璧過ぎる淑女としての佇まいに、思わず一瞬、見蕩れてしまう。
…私には、お姉様が…。いえ、そんな事を考えている場合では…。
自然と彼女を疎む暗い心が浄化される様な、そんな心持ちにさせる。
「貴女らしく無い様に、お見受けしましたので、どうされたのか?と…」
「私らしさ……」
霧谷さんは一言呟くと、私の横をすり抜けて教室の窓側へと向かう。
そして、外をぼんやりと眺めながらツツーっと窓ガラスに指を滑らせる。
「私は、一体…どうしたいのでしょうかね」
「……?霧谷さん?」
物憂げな彼女の後ろ姿を見て、またもや心が揺り動かされる。
…あぁ、お姉様を想う私の気持ちを以ってしても彼女の魅力には抗えない。
「…コホン。兎に角…来週から頼みましたからね。貴女に掛かっているのですから…お願い致しますよ」
これ以上は…と、彼女へ傾き掛けた心を何とか平静の物にするべく咳払いを一つし、改めて呼び掛ける。
霧谷さんは尚も外を眺めながら、ゆっくりと指で窓ガラスに何かの文字を書いて居る様に見えた。
〜Another side end〜
土曜の登校日とあって、授業は午前中で全て終了し、直ぐに放課後となった。
学校生活において部活動へ重きを置いている生徒達は、授業が終わると各々教室を出て行く。
そんな中、本日の女子バスケ部は指導者が来れないとの事で各自、自主練の運びとなった様だ。
美玲は「少し生徒会室に顔を出そっかな」と言い、俺と真也と共に生徒会室へと向かった。
廊下にてすれ違う生徒達は俺達を見て、手を振ってくれたり、声を掛けて来たりと多くの反応を見せた。
…ガチャリ。
「相変わらず早いね、由美姉。コウジくんとレナさんもお疲れっス」
生徒会室に到着し、先に着いていた由美姉達三年生へ挨拶をする。
「私達も先程来たばかりだ。さて、選挙演説だが…上出来だった。あとは、油断せずに選挙運動に注力する様にしなければな」
生徒会室の一番奥、会長席に座る由美姉が柔らかく微笑みながら俺を見る。
「…ったく、想い出を語るとか言って余計な事まで話さなくて良いんだよ」
「アハハ、すんませんコウジくん。『出し』にしちゃって」
「ふふふ、ウケて良かったねユウ」
俺はコウジくんに笑いかけながら自らの席へと座り、真也もスッと隣へと座る。
美玲も微笑みつつ、レナさんの隣へと座る。
「私もあの時のコウジくん達思い出しちゃった、アハ」
「ふふ、オルト前会長がマッスルポーズで隠したんですよね」
レナさんと真也も「くっくっ」と肩を振るわせつつ笑みを零していた。
…ガチャ!
「お待たせ〜!」
「また遊びに来ましたよ〜♪」
生徒会室の扉が勢いよく開かれ、彩とリオナちゃんが元気良く入って来る。
最近、リオナちゃんが生徒会室に来るのは珍しい事では無くなった。
…俺が会長になったら生徒会に迎え入れようかな。勿論、本人の意志次第だけど。
「一年生の間で結構お兄ちゃんの話上がってたよ!私にも、どんな人なのかって質問一杯あったし!」
「そか、今後必ず一年生の票は必要だから、話題になってたなら良かった。…どちらかと言うと、霧谷さんに傾きそうだしね」
「先輩の事、ハーレム王だって言っておきましたよ♪」
「リオナちゃん…勘弁してよ」
リオナちゃんはにこやかに微笑みながら、ソファへと座り込む。
彩も続けてリオナちゃんの隣へと座り、スマホを取り出す。
二人は寄り添い合い、仲良くスマホの画面を覗き込む。
…どうやら、何かの動画を見る様だ。
「改めて見直しても、このみーちゃんのデレデレ顔は腹立つよねぇ。コメント有りの設定なら絶対『何デレデレしてんだこの巨乳ビッチが』って打つのに…」
「彩…あんた、私の事そんな風に思ってたの?」
「あと、『お兄ちゃんの嫁は私、異論は認めない』って」
「コメントで妹透けしてるじゃねぇか」
「彩ちゃん、直ぐ垢BANされるタイプだよね」
美玲は苦笑しつつ、彩とリオナちゃんを優しげに見る。
例の動画は投稿者の配慮から、コメントが出来ない様に設定されている。
それも含めて、「輝莉さんに、改めてお礼したい」と美玲は話していた。
「そう言えば、例のアプリがアップデートされたみたいなので、皆、必ず確認して置いて下さい」
「ほう、なるほど…。アラーム機能が搭載されたんだな」
真也が思い出した様に皆へ呼び掛け、由美姉が反応し確認している。
『例のアプリ』とは位置情報探索アプリの事で、今回の脅迫状の件があって以降、何かしらの事件に巻き込まれた時に必要だと、幼馴染の皆で同じアプリを共有しているのだ。
因みに今回のアップデートでは、設定すると、画面上のボタン一つで瞬時に登録した全員にアラームが鳴る仕様になっている。
「このアプリ、お兄ちゃん探すのに便利なんだよなぁ。いつでも動向が分かるし、最強だよね!」
「思考が完全にストーカーのそれだぞ…」
俺の言葉に彩はキョトンと首を傾げて不思議そうにする。
生徒会室にいた皆は、相変わらず引き気味に苦笑していた。
そこから、驚く程あっさり数日が過ぎ、選挙の中間投票を迎えた。
そして、この日…。
思わぬところで大事件が発生した。
中間投票を控えたお昼過ぎの選挙演説前、俺は生徒会室にて選挙演説の準備に勤しんでいた。
…と言っても、話す内容を纏めていただけだが。
生徒会室には俺と真也のみで、他の皆は選挙演説前と言う事もあり各教室にいる様だった。
これから、中間選挙演説が始まる。
得票数でリードを譲らず、このまま月曜日を迎えるんだ。
そうすれば…。
…コンコン。…ガチャリ。
「失礼するよ、優斗いるかな?」
真也と共に、演説に使用する原稿の推敲をしていると、生徒会室にノックの音が鳴り、タケルが入って来た。
「タケル?どした?」
声を掛けて来たタケルの表情を確認すると浮かない顔をしている。
「さっき、松本さんが…とある生徒に呼び出されたみたいなんだけど、少し変なんだ」
…呼び出された?…もしかして、告白とか…。
ズキンと胸が痛む。
昔、散々告白されてたのに、美玲は一度も受け入れた事が無い。
今になって分かる事だが、俺の事が好きだったからかも…。
美玲にファンクラブが出来て、告白に関して不干渉条約が締結してからめっきりそんな話も無くなった。
そもそも、男子に限らず女子からの人気も抜群に高い美玲は、女性が好きなんだと誤解されて来た。
そのせいか、呼び出しを受けたなんて本当に久しぶりに聞いた。
「…変って、何が変なんだ?」
「うん。呼び出したのは…過去松本さんに告白して玉砕してから、結構熱心にファンクラブで活動してる生徒みたい。変って言うのは、その生徒…鞄とか荷物も全部持って行ってるっぽいんだ」
「タケルは…何でその事を?」
「僕の情報網は、それぐらい広いって事。一応、別棟校舎の方へ向かう松本さんの目撃情報が…」
…ビービービービー!!!!
突然、俺と真也のスマホが騒がしくアラーム音を鳴らす。
…これは!?
「優斗!!探索アプリを!!」
「分かってる!アラームが鳴ったって事は緊急事態…誰が鳴らした!?」
俺は直ぐ様スマホの画面を確認する。
通知は…美玲。
中間選挙演説前に起こった事件。
一体どんな思惑があり、
どんな結末を迎えるのか…。
次回、お楽しみに。




