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36.対抗演説

36.対抗演説





翌日の金曜日から、学校は色々と騒がしくなっていた。


それもこれも、我が相城高校の新聞部による号外のチラシの効果が大きいと言える。


チラシには俺と霧谷さんの対立構図を表すレイアウト写真。

そこに大きく書かれた『生徒会長を巡って対抗選挙!』の文字。

…大袈裟に宣伝しやがって、タケルの奴。



「おぉっ!優斗!期待してるぞ!」

「私も票入れてあげよっかなぁ…」

「峰岸!お前には絶対に入れないからな!」

「峰岸先輩…が、頑張って下さい!…っ…言っちゃった…」

「優斗ー!最近調子良すぎんだよお前!絶対、霧谷さんに入れるわ」


朝から放課後まで校内を歩くだけで注目が集まり、何かと声を掛けられる。

無関心よりは良いと思うが、否定的な声も多いのがやはり気になる。

…我が事ながら、凄く不利な状況だなぁ。




「おぉい!優斗!」


放課後。

トイレから教室の方へ戻ろうとしたタイミングで、声を掛けられる。


バスケ部のキャプテン、リョウジくんだ。


「二年の教室近くで、どうしたんすか?」

「丁度、お前を探してたんだよ」

「……?バスケ部には行けないっすよ?生徒会の選挙始まるし」

「そう!それなんだよ!」


リョウジくんは大きく頷くと、俺の両肩をガッと掴む。

…こんな教室前の廊下で何を…。


「少し前まで複雑な感情を抱えていたんだ。お前を応援したい一方で、生徒会長になっちまったら、もうバスケ部に来なくなっちまう…。とすれば、票を入れない方が良いんじゃねぇか…とな」


「あの…リョウジくん、もうそろそろ部活引退っすよね?」


「だからこそ、なんだよ!」


「えぇっと…?」


「本当はお前にバスケ部に入って欲しかったが…諦める。お前が生徒会長になる事を全面的に応援してやるよ!…と言う訳で、俺達三年でも楽しめる様なイベント事を組んでくれ。…な!頼んだわ!」


リョウジくんはニカっと笑顔で微笑むと、ちゃっかり要望まで添えて、俺を応援してくれた。


これぐらい素直に応援してくれてる人がいるってのは、励みになるな…。


大袈裟に手を振って去って行くリョウジくんに手を振り返し、教室へ入ろうと廊下を振り返ると恭子が親指を立てていた。


「イイじゃない♪…昨日から、美玲とのイチャイチャ見せられて、血吐きそうだったけど、まぁまぁ良いの見せてくれて助かった。グッジョブ。ただ、もう少し濃い絡みが…」



溜息を一つ吐く。

聞いてられずに無視して教室へ入ろうとするが、ガッと肩を掴まれ引っ張られる。


「優斗、私は勿論アンタに票を入れるから。アンタと真也の会長、副会長コンビしか許さないからねぇ!!」


「お、おう。分かったから。近いし、握力どうなってんだエグいぞ」


「優斗……。アンタには『そこそこ』期待してるんだからね。……務め果たしんしゃい」


ギロリと睨みを利かせる恭子。

…な、何故博多弁!?


その日は、生徒会にて選挙の準備を進めてから早目に帰宅した。




翌日、土曜の登校日。


この日、本校舎地下一階にある講堂ホールにて全校集会が行われた。

そこで、現生徒会長の由美姉から『生徒会改選の信任投票』についての概要が伝えられる。



相城高校の生徒会改選の信任投票は少し特殊なものとなっている。

()ず、会長・副会長以外の役員については、当選した会長に全て委嘱(いしょく)される。

つまり、生徒会長が全て残りの役員を選定する権利を有するのだ。


では、肝心の会長・副会長についてだが…。

立候補者が『一人のみの場合』、立候補者は登壇し公約を掲げ、演説をする事になっている。

その後、この人に任せて良いものかどうかの信任投票が行われる。

有効投票数が過半数を超えた場合は無事に生徒会の会長・副会長となる。


ここまでは、通常の高校でも余り違いは無い。


では立候補者が『複数名いた場合』。

この場合、対抗選挙と言う方式に変わる。

対抗選挙は、一週間の選挙運動の後、信任投票を行い得票数が多い方を会長・副会長とする方式である。


そうして一週間と言う期間の、始まり、中間、終わりの3回、信任投票が行われ、その都度得票数の結果が分かる様になっている。



今回、生徒会長へ立候補した生徒は俺と霧谷さん以外には居らず、二人のみの対抗選挙となった。


副会長は真也が立候補したのみで、こちらは順当に信任投票の上、決まるだろう。

…真也は当選確実だろうな。



「では、対抗選挙を控えた両名に登壇して貰おう。霧谷静、峰岸優斗」


由美姉に名前を呼ばれ、椅子から立ち上がる俺と霧谷さん。

そのまま、広い講堂ホール内を歩き、壇上へと登り全校生徒の前に二人は並び立つ。


自信を持って堂々と立つんだ…。


俺は様々な視線を受けつつも、決して怯む事無くその場に姿勢良く立った。

霧谷さんは物怖じも、迷いも見せずに威厳に満ちた佇まいで隣に立つ。


「それでは、簡潔に演説を許可する。霧谷嬢から」


由美姉が俺を見つめ、目で「頼んだぞ」と言って来る。

…順番を後にしてくれたのは、ありがたい。



「会長、有り難う御座います。皆様、初めまして、霧谷 静と申します。今回、生徒会長へ立候補するに至った経緯から、お話させて頂きます…………」


霧谷さんは簡潔に、尚且(なおか)つ明瞭に、現状の生徒会を是正(ぜせい)する為、どうすべきかを提唱した。


霧谷さん(いわ)く、今の生徒会は風紀を乱している様に感じると。

生徒の規範(きはん)となるべき生徒会にて不健全な異性間の付き合いがあり、それにうつつを抜かしているとの事。


生徒達は静まり返り、霧谷さんの一言一言を真剣に聞き入れていた。


だが、話す内容としては規律を重んじ、不健全な男女交際を疑問視する物である為、多くの生徒には受け入れ辛いだろう。

…何故なら、最近では男女間の性行為など当たり前だからだ。


更に言えば、現生徒会を好意的に見ている生徒達を、一気に敵に回す様な口振りである。

もう少し、柔和(にゅうわ)なスタートを切るかと思えば、明らかに好戦的な物言いに少し意外さを感じる。


…何だろう。この演説には彼女の何かしらの『意図』を感じる。



ただ、霧谷さん…。それじゃ、ウチの生徒は食い付かない。


相城高校の生徒は基本的に校風に(のっと)り、自由を重んじ、何よりイベント事が好きな生徒が多い。要するにお祭り騒ぎが好きだ。そこを利用しない手は無い。



「…さて、皆様の中に、私を正しく認識している方は少ないかと存じます。ですので、一週間掛けてゆっくりと私の事を知って頂ければと思っております。大事な皆様の一票、私にお預け下さい。宜しくお願い致します」


霧谷さんが話し終えると、全校生徒から拍手が上がる。

霧谷さんは生徒達を見つめ、柔らかく微笑み、会釈しながらこちらへ戻って来た。


「峰岸くん…あなたが私にこの選択肢を与えたんですからね…」


俺にだけ聞こえる様、小さく呟く。


「霧谷さん。まだウチの学校の生徒を深く理解して無いね」

「……??」


俺は彼女にそう呟き返すと、マイクを持ってこちらを見ている由美姉と視線を交わす。


「霧谷嬢、ありがとう。それでは次に、峰岸優斗」


俺は壇上中央のマイクを手に取って、全校生徒を見つめる。



「皆さん、こんにちは。自由な校風に寄り添う男、峰岸優斗です。皆さんに一つ、想い出を語りたいと思います。…去年の夏、オルト前会長の発案により校内のプールにて水泳大会を開催した事がありました。覚えている方も大勢いるでしょう。…ただあれは、酷かった。何が酷かったかと言えば、女子は学校指定水着に限らず何でもアリ。生徒会男子は何故かブーメランパンツを着させられ、シンクロナイズドスイミング…。途中、コウジくんがポロリする事件なども記憶に新しいです」


「オォオオイ!!!」


三年生側の席でコウジくんらしき人物の野次が飛び、三年生を中心に講堂ホールで笑いが起こる。


「アハハ!…まぁ、そんな事もありながら皆楽しそうにしていたのを覚えてます。酷かったと感じたのは生徒会のお手伝いだった自分だけだったんだなぁと…。我が相城高校の生徒会が提供するイベントの数多くに自分は去年から携わって来ました。勿論、先日開催したオリエンテーションも…。……さて、皆さんがこの学校の生徒会に求める物は何でしょうか?規律ある生活?綱紀粛正(こうきしゅくせい)?」


ここで、全校生徒達を隈無(くまな)く見つめる。…うん。中々、良い顔じゃないかな?



「私は相城高校生徒会長として、皆を飽きさせないイベント作りをして行きたい!そして、一人でも多くの生徒達の想い出に残る様な学校作りを手掛けたい!…そう、思って生徒会長へ立候補しました。この一週間は、主に一年生の皆さんに、過去どの様なイベントなどを開催して来たか…そしてどんなハプニングがあったかだったり、楽しかった想い出を話せればと思ってます。二、三年生の皆さんも想い出話などがあれば是非、話してあげて下さい。…この学校の魅力を!」


「そして……最後に。先程、一部誤解を招く発言が()されたので、この場を借りて訂正させて頂きます。生徒会において、不純異性交遊などは一切ありません。誤解無き様、宜しくお願い致します。では、皆さんの投票を心待ちにしております」


俺はそのまま一礼して戻る。


生徒からの温かい拍手や、「優斗ー!」と声を掛けて貰えていたので一安心する。


霧谷さんは真っ直ぐ、ただ前を向いていた。



「二人とも、ありがとう。…それでは、早速だが初回の投票へ移ろう」


由美姉が近くで控えていた真也に目配せする。


「それでは、各クラスの選挙委員は投票用紙を集めて集計班に渡してくれ」


今回の信任投票に際し、クラスから選挙委員を選出しお手伝いに回しているので、手際良く回収される。



暫く経ち、投票結果が出る。


「……っ。それでは、投票結果を発表する」


由美姉が投票結果を見て、少し目を見開くが何事も無かった様に言い切る。


初回の投票で先行してるイメージは大きい。

…頼む。




「生徒数450名に対し、有効投票数426名。霧谷静202名、峰岸優斗224名。……では二人共、週明けから選挙運動が本格的に始まるので、宜しく頼んだ。それでは、先生方から何かあれば伺いますが…」


由美姉が先生方へ呼び掛ける。

教頭が出て、選挙についてや今後の中間テストの件について話し始める。



「…………」


霧谷さんが何かを呟いたが、マイクの音に負けて聞き取る事が出来なかった。


彼女の心の内は、一体。


次回、急展開へ。

お楽しみに。

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