33.連休明けのお祭り騒動
33.連休明けのお祭り騒動
連休明けの朝。
起きて直ぐ気合を入れる為に、丹田に意識を落とし腹式呼吸を繰り返す。
筆跡鑑定の結果による霧谷さんへの対応。
深川 美耶子からの手紙の件。
生徒会改選の信任投票の準備。
それに、美玲からのお願い。
全てに向き合う為に、朝から丹田呼吸法により集中して気持ちをリラックスさせ、脳を活性化させる。
その後リビングへと向かい、いつも通り朝食前のルーティンをこなし、家族揃って朝食を食べる。
朝食後、彩はリビングのソファで寛ぎつつ、眠い目を擦りながらスマホをポチポチと弄っていた。
「あらま〜、みーちゃんとうとうY動画チャンネルデビューしちゃったんだ」
「ん?」
「あ、お兄ちゃん。見て見て、『噂の美少女JKを直撃インタビュー!』って動画上がってる。…ってか、キリキリチャンネルじゃん!ヤバ!」
「キリキリチャンネル??」
「お兄ちゃん、知らないの〜?現役JKで、どのSNSも大バズりするインフルエンサーなんだよ!Y動画チャンネルの登録者も50万人以上いるんだからね!」
「何で彩が得意気なんだよ…」
「…って!凄っ!ついさっき投稿なのにもう3万再生行ってるし!いやぁ〜、気付いたのが遅かったなぁ……もう行かなきゃだもんね…。うん、後で見よっと!」
そういや、昨日の電話で話してたな…。
『とりあえずさ!明日、私に話合わせてねって事を言いたくて電話したんだ』
一体何の事なんだろうか?
この動画の事と関係があるなら少しでも観ておいた方が良いと思うけど…。
「ま、良いか…。後で会うし」
この時に、スマホの画面を少しでも見ておけば良かったと後々後悔している。
後で見て分かった事だが、画面には数え切れないメッセージ通知が表示されていた。
普段、眠りが浅い時に通知が来ると眠れないので、寝る時は消音モードにしているのだが…。
…こう言う時に限って、何で朝に消音モードを解除していないんだ。
〜Another side〜
さぁ、勝負の日が来た。
輝莉さんは約束通りの時間に、動画を投稿してくれたみたいだ。
緊張で手が少し汗ばむ。
家を出て、いつもの待ち合わせ場所である、橋の前へ向かう。
春の心地良い風を感じて空を仰ぐ。
予想以上の陽光に目を閉じて、彼を想う。
「ユウ…何て言うかな…」
喜んでは、くれないだろうな…。
…これは『私の我儘』の続き。
幼馴染の皆の反応も分からない。
だけど…。
私もユウ争奪戦に名乗りを挙げるんだから、これぐらい派手にやった方が良い。
あの日、輝莉さんに大会会場でインタビューを受けた時に唐突に思い浮かんでしまった先制パンチ。
ふと、この前の事を思い出す。
「やぁやぁ、噂の天才美少女バスケJK!…って盛り合わせにも程があるくらい肩書きだらけだね〜。…テレビや雑誌社のインタビューは終わった?少し時間貰って良い?」
「えと…どちら様でしょうか?」
金髪に染めた綺麗な女の子に声を掛けられ、一気に緊張する。
…同い年ぐらいかな?
「わぉ!ごめんね、この辺のJKで私の事知らない子いないと思って調子乗った!…私、Y動画チャンネルで動画を投稿したりしてる輝莉だよ〜!よろしくね♪ちなみに、美玲ちゃんの事は事前にタケルから聞いてるんだけど…タケル知ってるよね?」
「タケルくん…って三木健くん?」
「そそ♪従姉弟でさ。私は三年だから、あなた達の一個上」
「あ、先輩だったんですね…」
「良いよ〜そんなに畏まらなくたって!それで、早速だけど美玲ちゃんにはウチのチャンネルに出て欲しくて…どう?」
「動画って…Y動画チャンネルですか!?」
「そゆこと♪今や芸能関係者にも声を掛けられている美玲ちゃんに、私もあやかろうかなぁとね!もっと有名になれるよ!ははは」
確かに、最近「芸能活動しませんか?」と言う話を良くされる。
全く興味が無いから全て断っているが…。
この人は…悪い人では無さそうだけど、別に私は有名になりたい訳では無い。
ユウと結婚してバスケの世界に一生携わっていけたら…。
そんな事を考えて、一人で頬を赤らめる。
「それか…何か拡散したい事があれば、一瞬だよ…。例えば、今後の意思表明だったり恋愛事情とか…」
ドキリと心臓が跳ね上がる。
「…タケルくんから何か聞いてるんですか?」
「へ?………あらあら、美玲ちゃん。顔が変わったね〜。別にタケルからは何も聞いてないけど…分かりやすいね。ははは」
つい、考えていた事をそのまま言い当てられた気がして過剰に反応してしまった。
「私…もう行かないと…」
「美玲ちゃん?もし迷ったり悩んだりしてるなら、動画関係無しにお姉さんが相談乗ってあげよっか?私、恋愛相談マスターだから!」
「…え、と。うぅん……」
恥ずかしさもあり、今直ぐ逃げ出したかったが彼女の思ったより鋭い言葉に立ち止まってしまう。
…どうしようか。
全く別の視点からの意見も正直聞きたい。
幼馴染の女性陣は皆気付けば恋敵。
相談なんて絶対出来ない。
それに彼女はY動画チャンネルの配信者。
色々と経験も重ねている筈…。
……っ!待って…。
脳内に電撃が走る。
何て大胆な作戦を考え付いたんだと思わず笑みを浮かべる。
「輝莉さん…でしたよね?お願いがあるんですけど…」
「んんん?…なぁんか悪い顔してるねぇ…お姉さんそう言うの好きだよ!ははは」
その場で思い付いた話だったが、輝莉さんは笑いながら頷き、「今、時間無ければ明日撮ろう!時間作るからさ!」と言ってくれた。
そうして、連絡先を交換して輝莉さんと別れてから興奮冷めやらず、幼馴染の皆の方へ近寄り声を掛ける。
「先に謝っておくね皆!特にユウ。連休明け、楽しみにしてて!」
そうして、昨日炎上覚悟の動画を撮り終え、ユウに電話をした。
ノってくれた輝莉さんも大概だが、私も今更もう止められない。
もう迷いは捨てよう。
私はユウが好きなんだから。
幼馴染の由美ちゃんと彩…。
そして……。
絶対に譲らないんだって、宣戦布告を申し立てよう。
〜Another side end〜
「…はぁ」
朝一番に気合を入れた筈が、溜息と共に萎んで行くのを感じる。
「おや、五月病でしょうか?」
「別に五月病じゃねぇ……いや、うん。そうかもな…はぁ」
「お兄ちゃん、テンション上げてこ!今日は、静さんに色々と問い詰めないといけないんだから!」
「いや、それもまだ皆で相談しないと…」
「ユウ兄しっかり!」
いつも通り四人で学校へと向かい、登校途中にある大橋へと到着する。
由美姉と美玲が待っている。
「お早う皆。行こうか」
「やっほ、行こ行こ」
…美玲はいつも通りの様に見える。
「みーちゃん!遂にY動画デビューだね!」
「…っ!もう見た?」
「…???まだ、見れてないけど…何?何か凄い事しちゃったぁ?」
「そか…やっぱあの時間で正解だったかも。うん。にゃはは、皆にも内緒にしてたけど…言っちゃった」
「なになに!すっごい気になる!」
「学校着いたら多分、分かるよ!」
美玲は俺の隣にスッと来て微笑む。
「ユウも…よろしくね♪」
「んん?何か怖いけどな…はは」
「大丈夫大丈夫…大丈夫?だと思う…はは」
「…おん?」
俺達が校門に辿り着いた時、ピンクのハッピを着た漢達が一列に並んで校門前に立ち塞がっているのを見て、俺は何かを察した。
「来まじだぁぁあああ!!」
「奴が来たぁぁあ!野郎共!血祭りじゃぁあああ!」
「かかれぇぇええ!!皆で行けば大丈夫だぁああ!」
「殺す!殺す!殺す!」
「絶対に許さねぇぇえええ!!」
徹也を筆頭に殺気立った漢達が一気に襲い掛かってくる。
…朝から勘弁してくれ。
「ストップ!!!」
漢達の前に美玲が立ち塞がる。
「私はもうユウの彼女なの。あなた達が何を言おうが、ユウに手を出す事はこの私が許さない」
「は?」「へ?」「む?」「おや?」「え?」
俺達は思い思いの反応で美玲を凝視する。
美玲は俺へと振り返ると、微笑みながら俺に抱き着き、皆の前で唇を奪った。
「誰にも渡さないよ…私のユウは」
「…ぅごはっ………」
徹也が俺達の姿を見て吐血し倒れる。
漢達もバタリバタリと次々に卒倒し倒れる。
「みーちゃん!!!!何してるの!!?」
「美玲!…既成事実を味方に…っく…優斗!私とも!」
「あわ…あわわわ……大変だ…みーちゃんの反乱…5・6事件だ…」
「美玲…貴女も遂に動いたんですね…」
美玲の言動に幼馴染の皆は、各々反応していたが、俺は頭が真っ白になり茫然としていた。
美玲の行動にも驚愕したが、美玲がキスして離れた瞬間…少し離れた所でこちらを凝視していた霧谷さんと目が合った。
彼女は涙を流しながら何事かを呟き、その場から離れた。
『うそつき』
…そう言ってる様に見えた。
勝負を仕掛けて来た幼馴染の親友。
目指している夢の為…。
自分の幸せの為…。
様々な想いを込めた我儘。
さて、次回は騒ぎの行方を。
お楽しみに…。




