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32.五月病の男の憂鬱

32.五月病の男の憂鬱





「はぁ…。あ……また溜息(ためいき)…」


ゴールデンウィーク最終日、自室にて何度目かの溜息を吐いては、『ラブレター』と『脅迫状』の二枚を凝視する。


「ラブレター…霧谷さんだと思ってたんだけどなぁ…。こうなると、『脅迫状』の容疑者筆頭候補に急浮上だよなぁ…」


あの日、由美姉から筆跡鑑定の結果を貰ってから、再度意識を失った事で母さんに心配されつつも、帰りの飛行機の中で一人で色々と考えた。


本当に彼女が『脅迫状の犯人』なのか。


であるならば、なぜ絶好の好機であった筈の遭難中に事を起こさなかったのか。


そして、動機は何なのか。


意識を失う前に霧谷さんと話した内容も含め、全然整理が追いつかなかった。



そもそも、霧谷さんの事をどう思っているのか…。

こうして容疑者筆頭に名が挙がらなかったら…。

普通にラブレターの差出人だったら…。


俺は彼女を受け入れるのだろうか?


無意識に手で腹部を(さす)る。

アレは夢だ。

…でも、現実に起こり得る可能性がある。


そして、もう一つ。


幼馴染達による告白。



「彩は別として…由美姉も美玲も好きだって言ってくれてるんだよなぁ…」


幼馴染の仲間としか思っておらず、しっかり異性として意識して来なかった。

…そう思っていたのは俺だけだったんだな。


思考が(まと)まらない。

今日がゴールデンウィーク最終日だなんて…あんまりだ。


連休明けが憂鬱なのは決して大人だけじゃ無いんだ。



そんな事を考えながら、無人島キャンプ以降のゴールデンウィークをゆっくりと振り返る。


まず母さんと一緒に無事に自宅へ帰宅し、翌日には幼馴染達で集まり、俺の部屋にて緊急会議が行われた。

…美玲は大会前の練習へ向かったが。


議題は勿論、筆跡鑑定の結果について。


由美姉は『当該の筆跡に近しい』と言う記載について眉を(ひそ)める。


「他にも『準同一筆跡』など色々と呼び方があるらしいが、白、黒、グレーの三択に()ける…グレーと言う事らしい。何ともスッキリしない答えだが…今回の場合、容疑者筆頭であると言える」



由美姉の言葉に皆、沈黙する。

そんな中、真帆ちゃんが控えめに口を開く。


「皆が筆跡鑑定なんてしてた事も驚きだけど…。私は正直言って、静さんが犯人って…考えられないんだけどなぁ…」


「真帆よ。『人は自ら欲する事を信じる』と言う言葉もある。どんな事柄であっても冷静に判断しなければならない」


由美姉の言葉に「むぅ…」と真帆ちゃんが引き下がる。

そんな真帆ちゃんを見て真也が(たたず)まいを直し、由美姉へ新たに質問する。


「カエサルですか…。確かに、普段の霧谷さんを見る限り、とても犯人とは思えないですからね。もし仮に、これを突き付けたとして反証を挙げられるのでしょうか」


「うむ……。裁判での扱いでも決定的証拠とは認定されていないんだ。証拠品の一つでしか無いと煙に巻かれて終わりだろう…。大事なのは、我々の中での認識だ」


「認識…犯人だって断定するって事?」


「…断定とは言い切れないが、グレーである以上、注意と離隔(りかく)は必要だ」


俺の言葉に少し詰まりつつも、由美姉は大きく頷き、そのまま続ける。



「初めは単純に優斗へ近付く女性に対し、排他より掌握と思い、生徒会に迎え入れるのを良しとしていたが、こうなった以上…考えざるを得ないな」


「俺は……反対だ」


「優斗…」


由美姉は困った顔でこちらを見やる。

皆も俺の言葉に意外そうに顔を上げ、こちらへ視線を送る。


「俺を殺す事が『脅迫状の犯人』の目的なんだろ?なら、無人島で絶好のチャンスがあった筈だ。俺は気絶していたし、事故を装って殺す事は出来た…」


「優斗…。遭難した時に殺そうとしなかったのは、彼女にとってもイレギュラーな事態だったからだろう。…あくまでも突発的では無く計画的犯行の上、確実に殺したい筈だ。その為に健気で謙虚な心を(よそお)っているとしたら?」


「由美姉…。俺も完全に否定する訳じゃ無いんだ…。確かに怪しいと思える言動もある。…だからこそ、一度本人に確かめるべきだと思う。その上で彼女を見定めよう」


「そもそも、脅迫状の内容は『他言無用』だった筈。容疑者である霧谷嬢へ確かめる場合、優斗が直接二人きりで話さねばならない。その際、どんな行動に出るか分からない以上危険だろう。…やはり、完全に排斥(はいせき)すべきだ」


由美姉は譲らない。

やはり筆跡鑑定での結果を重視している様で、(がん)として首を縦に振らない。


「では、多数決を取りましょう。今回の一件を踏まえて霧谷さんを『近付けるべきか』『遠避けるべきか』」


真也が俺達の言い合いに横槍を入れる。



「私は…まぁ、由美ちゃんの言葉に従うよ」


真帆ちゃんが由美姉の隣に寄り添う。


「僕は、優斗の言葉と彼女を信じます」


真也が俺の隣で微笑む。


俺と由美姉は、ほぼ同時に彩へ視線を送る。


「私は……お兄ちゃん!」



由美姉が溜息を吐き、何か言い掛ける前に彩は続ける。


「お兄ちゃんの言い分が正しいと思う。近くで見て確かめるのが大事だと思うんだ。まぁ…一番早いのは、静さんに直接聞いてみる事だけどね。その反応を見て何か分かりそうだし!」


「ふむ…。ちゃんと、自分の考えで良かった。考え無しに優斗に味方したらお仕置きしようかと考えた所だ」


「あはは…。あとは、みーちゃんにも聞かないといけないから、取り敢えず保留って事で良いんじゃない?」


彩の言葉を最後に会議はうやむやのまま終了した。


正直、彩の言葉に驚いた。

彩の性格上、由美姉に賛成するかと思ったからだ。

…よっぽど霧谷さんの事を信じているのだと分かる。




その翌日。


関東大会の予選にあたる大会で、相城高校女子バスケ部は(なん)なく優勝。


俺達は特に予定も無かった為、俺と彩、真也と真帆ちゃんの四人で会場まで観に行った。


由美姉は家の都合で来れなかったが、美玲の独壇場だった事を伝えると「うむ、流石将来の女子プロだな」と電話口で話していた。


美玲は「プロレスラーみたいに言わないでよね」と拗ねていた。



その後、雑誌の記者からインタビューを受けたり、テレビの取材等で美玲があちこちから呼び止められる。


暫くして、全ての対応を終えた美玲がこちらへ近寄り、俺達に向かって声を掛ける。


「先に謝っておくね皆!特にユウ。連休明け、楽しみにしてて!」


満面の笑顔で言い残し、女バスの一団に駆け寄り、集合する美玲。

何の事だか全く分からず四人は首を傾げる。



「なぁんか…有名人って感じだねぇ、みーちゃん」


「なんだ、羨ましいのか?」


「ううん。…私達のみーちゃんが全世界に羽ばたいてるなぁってね…勝手に優越感に浸ってたの」


「あーちゃんのそう言うとこ…何か得だよね」


「みーちゃんはワシが育てた!」


「はいはい。俺達も、そろそろ帰るぞ」


会場からの人混みの流れに逆らい立つ彩を引き摺る様にして、駅へと向かった。




そして今日、ゴールデンウィーク最終日。


先程まで溜息の連続だったのも、明日からの学校が何より憂鬱なのだ。


「いくら考えても答えは出ない…よな」


やはり、直接霧谷さんへ尋ねるべきか…。


由美姉から返却された『脅迫状』をもう一度読み直す。



「アナタを殺したい

アナタだけを見つめて

アナタの事だけを考えて過ごしています

必ず殺します

もし来てくれるなら、今日の放課後に

校舎裏西側にある用具室前に来て下さい

きっと来ないでしょうね

でも大丈夫

アナタを想い続ける私の想いはこれからも変わらないから

この手紙の事は私とアナタだけの秘密

他言したらアナタの周りの人達が傷付いてしまうかもね

アナタは私を見つけられるかな

見つけられたらそれが最期

峰岸優斗へ

殺意を込めて」



「うーん………。校舎裏西側の用具室前ねぇ…。っ…待てよ…」


よく思い直してみると、霧谷さんは編入生。

しかも、少し特殊な編入生で、今学期が始まる節目前に入って来たのだ。


「…あの場所が、放課後になると部活連中のランニングコースへ変わるって事知らないのも頷ける」


そして、彼女の身体能力の高さ。

犯人と合致してしまう。


あの日先に帰り、所在が知れないのもアリバイが無い事と同義。


どうしよう…。

霧谷さんを信じたいのに、彼女が犯人である事がしっくり来てしまう。




ピリリリリッ!


「ん?…美玲か」


画面に表示されている名前を見て、少し心臓が高鳴る。

…いつも通り、冷静に。


「…もしもし、どした?」


『にゃはは…声聞きたくなって…ね?』


「明日また会うだろ」


そう言いつつも、美玲の言葉に心拍数は更に上がる。


『そうだけどさ…まったく、ユウってば(いじ)りがいが無いんだから…』


「うるせぇ…。あ、そういや昨日言ってた連休明け楽しみに〜って何の事だ?」


『あぁ〜、アレね!うん、まぁ、お楽しみにって事で、ははは』


「…???」


明らかにはぐらかす美玲の言葉に疑問符が浮かぶ。



『それで、霧谷さんの事だけど…私は正直反対だからね。やっぱり由美ちゃんが正しいと思う。悔しいけどね……親友になれるかもって思ってたから』


「まだ、確実じゃねぇだろ…。その為に確かめるべきだって…」


『私達は、ユウの為に言ってるんだよ?』


「……分かってるよ。でも、霧谷さんじゃ無かった場合、本物の犯人が急に襲い掛かって来る可能性だってあるんだ…」


『ユウ……』



それきり沈黙が続く。

…皆の気持ちも分かる。だけど…。


『霧谷さんの事は、また話そう。どうせ直ぐに生徒会改選の信任投票があるんだし…』


「そう…だな」


『とりあえずさ!明日、私に話合わせてねって事を言いたくて電話したんだ』


「うん?」


『お願いね♪…それじゃっ、お休み!』


返事を返す間も無く、電話が切られた。


「…何の話だろう」


…寝よう。

明日が憂鬱だけど、今はただ寝るしか無い。



連休明けに、とんでも無いスクープが学校中を駆け巡る事を…今の俺はまだ知らない。


五月病の憂鬱感に(さいな)まれる男は静かに部屋の明かりを消したのだった。


ゴールデンウィークは終了。

連休と言うのは長い様で短いですね。


さて、連休明けの学校で一体何が…。

次回お楽しみに。


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