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31.想い出の夜は静かに訪れる

31.想い出の夜は静かに訪れる





あれから夜も更けて、夕食のカレーを堪能した後、皆、焚き火の傍の椅子に座り、話をしながらまったりと過ごしていた。


主に、俺達は学校での出来事を中心に、父さんは飲み屋でのお客さんの笑い話なんかを話したりしてくれた。

…勿論、『脅迫状関連』についての話は一才していない。



先程、俺と霧谷さんが彩により発見されてから、直ぐにメディカルチェックが施された。


初めは『脅迫状関連』と勘違いしていた幼馴染の皆も、事故だったと重ねて伝えた事により納得した様だった。

どうやら、遂に霧谷さんが動いたと思ったみたいで、余計に心配を掛けてしまった。

…大丈夫、皆。彼女は信頼に足る人物だ。



夜は深まり、木々の掠れる音と海からの潮騒(しおさい)に心が休まる。

時折聞こえて来るパチッと炭火が爆ぜる音に耳を傾けて、柔らかく真っ赤に燃える焚き火の揺らめきを見ていると、段々と(まぶた)が重くなって来る。


皆もその様で、彩と真帆ちゃんは寄り添いつつ寝ており、由美姉も珍しくあくびを噛み殺しつつ葉たんを膝に乗せ、次第にうとうととさせて船を漕いでいた。


その姿を見て俺と真也はそれぞれの妹達を抱き上げ、テントで寝かせる事にした。


父さんと母さんは、俺達に火の管理と葉たんを任せて二人で「夜の浜辺を見て歩く」と言ってその場を離れた。


霧谷さんと美玲はまだ起きているとの事で、尚も焚き火の傍で火のゆらめきを眺めつつ、話をしていた。



「霧谷さんが飛行機に乗った事無かったって意外だよね〜。お嬢様だし、休暇はドバイでしたとか普通にありそうなのに」


「家族で旅行等はあまりしないもので…。なので、今回こう()った機会に恵まれて本当に嬉しかったです」


「そっかぁ…。私達は何だかんだ、皆と知り合った小学生の頃ぐらいから旅行って結構行ったもんね〜」


「そうですね、ふふ。優斗も初めの頃は飛行機に怯えてた様な覚えがありますが…」


「なんせ小学生だったし…興奮はしてたけど、それ以上に不安も多かったからな。お前らは結構余裕そうだったもんなぁ…」


「にゃはは、彩なんてCAさんに『どうやったらお姉さんみたいにナイスバディになれますか?』って言って困らせてたもんね」


「由美姉は女の子らしくなるんだとか言ってた癖に、『コクピットを見に行くぞ!』って目輝かせてたもんなぁ」


「ふふ。結局、着陸後に見れる様に幸一さんが申請して見せて貰えたんですよね」


「皆さんは、幼少の頃から本当にずっと一緒だったのですね…。…ふふ、羨ましいです」


焚き火に照らされ、寂しげに苦笑する霧谷さんの表情が印象的だった。



その後、父さんと母さんが夜の海から戻り「そろそろ寝るか」と言って父さんが葉たんを抱き上げる。


由美姉は彩達のテントに寝かせる事にして、霧谷さんと美玲と母さんは別のテントに入って行った。


去り際、美玲が俺に「後で少し話そ」とボソリと言い残す。

それならばと、父さんと真也に「もう少し火を眺めてるわ」と言って、テントの前で美玲を待った。




「ユウ…お待たせ」


「おう、やっぱ少し冷えるなぁ」


30分程待っただろうか。

美玲がテントから出て来る。

焚き火に手を(かざ)す俺の姿を見て、ふわりと柔らかく微笑む。


「今、火の始末をするからちょっと待ってくれ」

「あ、うん。私達も浜辺の方に行ってみよっか」

「そうだな」


火の始末を終え、焚き火台に残火が無いか確かめ、俺達はテント場を後にする。



「波の音が静かで気持ち良いね…」

「あぁ、無人島に相応しい夜って感じだな」

「ふふふ。…無人島で二人きりなら良かったかもね」


そう言うと美玲が砂浜にゆっくりと座る。


「この辺意外とゴツゴツした石もあるけど、大丈夫か?」

「大丈夫。ユウも座りなよ」

「はいよ」


美玲の隣に座って海を見つめる。

辺りにはテントも(まば)らに認められるが、人影は無く夜も深い時分が窺える。


「私…明日から練習に参加しなきゃ」

「指導員の方にも無理言ってこっち来たんだって?」

「まぁね…。私の我儘を通したって感じ。ウチの学校ってそう言う所自由で良いよね、あはは」

「………」


言葉に詰まる。

この前、美玲は今回の生徒会改選で身を引いて、本気でバスケに取り組む事にすると話していた。

そんな美玲の我儘って…。


「ユウはさ、我儘って言った事ある?」

「…どうだろうな。子供の頃はあったかもしれないけど…」

「にゃはは…そうだよね…」


美玲は暫く波を眺めていたがポツリと呟いた。


「私の我儘はね、皆と過ごす時間なんだ」

「美玲…」

「たまにさ…私だけ取り残されちゃう感覚になるの」

「………」

「私が前に行ってるってよりも、皆の背中を見ている感じ」

「………」

「あぁ…行かないでって、何度も思う」

「俺達がお前を置いてく訳無いだろ…」


寂しげに語る美玲を見ると、何故だかこちらまで寂しくなる。


「ユウは…違う方向を向いてるもん」

「…え?」

「ユウは…行っちゃヤダ」

「…美玲?」

「どこにも行かないで欲しい…私の傍でずっと…」

「………」


美玲は尚も海を見ながらスーッと涙を流す。


暗がりの中、その綺麗な横顔にハッとさせられる。


思わず美玲と同じく海を見つめる。


「ユウ」


美玲の言葉に反応して、視線を向ける。


チュ。


キスされた。


「……ふ、んふ…」

「…み、美玲?」


美玲の真っ赤な顔。

目をとろんとさせ、流れる涙も拭わずに更に顔を近付ける。


しょっぱい。


「…好きなの」


美玲は俺に身を寄せるとそのまま抱き着く。


「誰にも…渡したく無い…ユウが好き」


「美玲…」


あの美玲が…学校一人気で美少女な幼馴染が、俺に好意を寄せてくれている。


視界が歪む。

何故か俺も涙を流している。

俺は…。


「ユウ…私は本気だから…。本気でバスケもするし、本気でユウの事も好きで居続ける。だからさ…私も争奪戦に参加するよ」


美玲は覚悟に満ちた表情で立ち上がると、グイッと涙を拭った。


「さ!戻ろっか!このままだと、風邪引いちゃいそうだし…不公平だからね」


「あぁ…戻るか」


「はい、手」


「ん?」


「手握って」


「お、おう」



俺達は歩き出す。

海を背に、二人は手を繋いでキャンプ地へ戻る。






「…ふ……ぅ…んんむ…ん?朝か…」

「おはようございます、優斗。ふふ」


寝袋から起き上がる。

朝だ。


既に真也は起きていた様で、微笑みながらこちらを見ていた。


「起きてたのか…起こしてくれて良かったのに………ふぁ…」

「ふふ、寝顔をずっと見てました」

「そんな事してないで、さっさと起こせ」



テントから出て、朝の空気を吸い込む。

父さんはまだ起き上がらずに寝こけている。

俺達が起きて来るとほぼ同時に、他二つのテントから女性陣が起きて来た様だ。


美玲と一瞬視線が合うが、互いにパッと逸らす。

…朝飯の準備をするか。



朝飯を皆で食べ終えると、キャンプの全行程は終了となった。

一応、今回は一泊予定で組んでいたのでこのまま帰宅となる。


「さぁ、忘れ物は無いな?」


父さんが引率らしく皆に確認を取る。

そのまま皆で船に乗り込み帰宅の途につく。


二度目の船ではしゃぐ葉たんと皆は海を眺めている。

俺は一人離れた場所で皆を眺めていた。


すると霧谷さんがこちらに近付き、笑顔を見せる。


「改めて、今回はありがとうございました」


「えと、お礼を言われる様な事はしてないと思うんだけど」


「いえ…そもそも今回誘って頂いたり、落ちた時私を(かば)ってくれたり…あと、何より心強かったです」


「心強かった?」


「はい。一人で遭難していたらと考えると…今でも恐ろしく思います。ですが、峰岸くんが居てくれたから…」


「そっか…それなら、少しは役に立てたのかな?あはは」


俺は照れ臭いのを隠す為に、視線を霧谷さんから逸らす。


「今回は確かに…色々と知らない一面を知れた気がするよ。霧谷さんの事一杯知れて、良かったかも」


「知らない…一面。ですか…」



そう言うと霧谷さんは意を決した様に、俺に向き直る。


「峰岸くんは、殺したい程憎い相手はいますか?」


「…え?」


唐突に、狂気が花を開いた気がした。

目を逸らせず霧谷さんの表情を凝視する。

美しい彼女の顔に朝陽が照らされる。

風が強い。美しい黒髪が(なび)く。

いつかの香りが思い起こされる。


「私はいます。これは…私の汚れてる部分でしょうね」


「……き、霧谷さん?」


「軽蔑するでしょう…」


「………」


何も応えられず目を見開く俺を見て、霧谷さんは目を閉じて一度だけ頷く。



「お兄ちゃ〜ん!静さ〜ん!イルカが並走してるよ!!」


あっちで、はしゃいでいる彩の声が聞こえる。


「すみません…峰……んには……知って頂…くて…」


波の音や彩の声、そして意識が朦朧(もうろう)として来た事で聴き取り辛い。

何とかその相手を…聞かなければ…。


「……え、と。その相手は…」


「………です」


意識がぷつりと切れる。




夢。


青天の下、花が咲き誇る丘にポツンと一人で立っている。

辺りを見渡すと,顔の見えない誰かが、俺の後ろを指差す。


背後を振り返ると幼馴染達が皆笑顔でこちらを見ている。



「あなた」



もう一度振り返る。


黒いフードを被った人物が包丁を持って立っている。


驚いて声を出そうとしても声が出ない。


目の前の人物が仮面を外す。


霧谷さんが笑って包丁を握っている。


そのまま腹部を刺された。





「…っ!!」


ガバッとベッドから起き上がる。

辺りを見渡すと見覚えの無い知らない病室。

腕に点滴が打たれている。


傍に母さんがいた。


「あらあら!ユウさん…大丈夫?」


「母さん?……ここは?」


「ここは病院よ。…ユウさん、船で倒れてしまわれたから、近くの病院に寄ったの」


「……皆は?」


「今頃、空の上かしら。飛行機の予約の関係上、私とユウさんだけ取り消しにして残ったの。皆、凄く心配してたのだけれども…」


「そっか…。父さんは引率として皆を連れてったって感じか…」


「そうですね。ユウさん、気分はどうかしら?」


「今は大丈夫」


正直、先程の悪夢から解放されただけで、随分気分は良くなった。

あんなの…タチの悪い悪夢だ。

霧谷さんが、そんな訳…無い。



ふと、スマホを確認すると、幼馴染の皆から連絡が来ていた。


『ユウ…心配だよ。起きたら連絡ちょうだい。昨日の事…本気だからね』


顔が一気に熱くなる。

美玲とは、あの後から話して無かった。

あんな本気な目で俺を…。

今までの関係とは明らかに違う。

どうしても意識してしまう。


『お兄ちゃん…傍にいられずに帰る私を、どうか罵って下さい。でも私達は運命により赤い糸で繋がって……………』


長々とびっしり運命について記載された彩のメッセージに目がチカチカして、一旦画面から目を離し微笑する。

…相変わらず、こう言う時でも(やかま)しい奴だ。


『ユウ兄大丈夫かな?皆、船酔いの悪化だって言ってたけど…そう見えなかった。とりあえず、ゆっくり身体を休めてね!』


真帆ちゃんは流石、色々な機微(きび)(さと)い。


『優斗の事を霧谷さんがとても心配してましたよ。休み明けに一言、言ってあげて下さい』


ドクン。


…あれは夢だ。


霧谷さんが『脅迫状の犯人』だなんて、そんな訳無い。


『優斗、心配だ。日頃の疲れからだろうか…無理は禁物だな。起きたら連絡をくれ。そして、残念なお知らせがある。取り敢えず先行してファイルを添付するので、確認して欲しい』


ん?

由美姉のメッセージの最後。


添付ファイルがある。

書類のPDFファイルだ。


ファイルをダウンロードして開く。


筆跡鑑定による結果の書類だ。

…ゴールデンウィーク明けまで掛かると見込んだが、もう結果が出たのか。


五人の名前の横に記載がされている。


葛木真也 『当該の筆跡では無い』

峰岸彩  『当該の筆跡では無い』

松本美玲 『当該の筆跡では無い』

島崎由美香『当該の筆跡では無い』

霧谷静  『当該の筆跡に近しい』




「…え?」


一瞬頭が真っ白になった。


霧谷さんだけ、他とは別の記載が()されていた。


頭がクラクラする。


疑心暗鬼に(おちい)る瞬間、霧谷さんの色々な表情が頭に浮かぶ。


凛とした姿で絵になる霧谷さん。

照れて頬を紅く染める霧谷さん。

ムッと少しだけ怒る霧谷さん。

絶望に満ちて尚綺麗な霧谷さん。

柔らかく微笑む朗らかな霧谷さん。

包丁を持ってニタリと笑う霧谷さん。


彼女が犯人なのだろうか。


また、意識を失った。


キャンプのみに焦点を当てましたが、

シュノーケリングやSUPと言った

アクティビティも充実しているのは

素晴らしい所ですね。

水着回は夏に。


さて、第二章が終了しました。

次回から第三章へと移る予定です。

お楽しみに。

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