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30.GWのSOS・後編

30.GWのSOS・後編





「たっだいまぁ!!この島広いよ!アドベンチャーワールドだよ!」


そうこうしている内に、峰岸探検隊が早々に帰還して来た。

どうやら広過ぎて見切れないと判断して、一旦戻って来た様だ。


「おう、おかえり!やっぱキャンプはBBQに限る!と言う訳で…早速皆で食べようぜ!」


父さんがキラリと白い歯を見せつつ、ニカっと笑いながら炊事用と焚き火用両方の火起こしの用意をしていた。

真也も黙々と準備をしている。


「とうたん!ひ、やるの?」


「お!葉たん流石、男だなぁ!興味津々か!よぉし、それじゃ一緒にやってみるか!」


父さんは葉たんに丁寧に説明しながら、焚き火台に(ねじ)った新聞紙を井形に組み入れ始め、そこに()わせる様に小さめの炭から順に縦に入れ、ライターで新聞紙に火をつけた。


「葉たん、火って言うのは簡単に消えちゃうものでな。こうやって、工夫して火を付けないと長く燃えてくれないんだぞ」


「ついた!とうたん!ひ!」


「そうだな!こうして、火が安定して来たら…大きめの炭に火を…と」


「幸一さん、火吹き棒を…」


「おう」



真也が火吹き棒を2本用意し、父さんと葉たんにそれぞれ手渡した。

その間、霧谷さんは興味深そうにその様子を見ていた。


「どうしたの?霧谷さん」

「その…初めての事なので、ちょっと興味があって」

「そうなんだ…まぁ、確かにイメージに無いけど。ははは!」

「むぅ、そんなに笑わないで下さい…」


俺と霧谷さんが話している間、父さんが葉たんに火吹き棒の吹き方をレクチャーして、交互に吹き込んでいた。

そして、炭火の芯が真っ赤になる所を霧谷さんが覗き込む。

その様子を父さんがニンマリしながら見ている。


「アウトドアの経験なんて、お嬢様には無いだろう!今回は、葉たんに経験して欲しくて企画したが…丁度良かったな」


「はい!初めての事だらけで、ビックリしっぱなしです」


「しーたんも、ふぅーってする?」


「えと……はい」


葉たんが振り返り、霧谷さんへ火吹き棒を手渡そうとしている。

霧谷さんは少し戸惑いつつも、火吹き棒を受け取り、焚き火台で燃える炎の下辺りを目掛けて軽く息を吹き込む。


ここに、火吹き棒を使い器用に火起こしするお嬢様が誕生した。

…アリだと思います。


「峰岸くん…凄いです!火が轟々と勢い良く燃えています!」


霧谷さんはまた一つ興奮し、葉たんに火吹き棒を返してあげた。葉たんは極上の笑顔でこちらを見上げていた。



そのまま俺達は、母さんのいる食材置き場へと移動する。


母さんは用意された食材を見つつ、その場にいた由美姉を見やる。


「あらあら、準備してくれてたのね。ありがとう由美ちゃん♪」


「里穂さんならどうするかと考えて…特に浮かばずに、ただそのまま切ったのみだが…」


「それなら…せっかくジビエもありますし…簡単に鉄串に刺してシュラスコ風なんてどうかしら♪あとは…魚が新鮮な内に、刺身用に(さば)くのを手伝って貰いましょうか。ふふ、静さんもいかが?」


「ええ、私も(およ)ばずながら、お手伝いさせて下さい!」


霧谷さんは元気良く頷くと、母さんと由美姉と再度調理へと戻った。

母さんがキャンプ用品にあった包丁をスラリと抜き放ち、ニコリと笑顔を見せる。

…色々と似合い過ぎて逆に怖い。



ポツンと一人になった所に、彩と真帆ちゃんと美玲が近付いて来る。


「お兄ちゃん、大きいテント三つ張ってるけどこの内どれが当たり?」


「一つは葉たんも含めた男性陣が四人で使うから、あと二つは六人で分けて使ってくれ。…って、当たりって何だ」


「お兄ちゃんが寝るテント」


「彩…アンタって子は…」


「はぁ…。あーちゃんって一途だねぇ…」


真顔で即答する彩に美玲と真帆ちゃんが引き気味にため息を吐く。

…兄離れはまだまだ先の話かなぁ。




時刻はお昼過ぎ。


「さぁ!紳士淑女諸君!(さかずき)は持ったかぁ!」

「はーい!!盃じゃなくて紙コップだけど持ったぁ!」

「美玲ちゃん、そこは触れんでくれ!」

「よっし、皆!!無人島キャンプに乾杯!!!」

「おい!!乾杯のセリフを丸ごと取るなぁ!優斗ぉ!!!」


「「「乾杯!!!」」」



皆、満天の笑顔で乾杯を交わす。

BBQの始まりだ!


先ずは父さんが、挨拶がわりに黒毛和牛のブロック肉を丁寧に厚めに切って焼き上げていき、皆を(とりこ)にさせた。

そしてドヤ顔でビールを(あお)る。


すると母さんも負けじと、ジビエや和牛、豚肉を鉄串に刺して、シンプルに塩で味付け、ブラジル料理の代表シュラスコで対抗。

勿論、これの美味さに皆、悶絶。

あまりアルコールを普段から飲まない母さんも珍しくビールを一口。


そこからも止まらぬ各種肉や野菜の応酬。

肉の純粋な美味さと野菜を塩で焼き上げた旨味のパンチ力に大満足のKO負け。


そして、肉だけで満足していると、父さんがアワビや帆立などの貝を醤油を一垂らしさせて焼き始め、母さんは鯛やアジなどを捌いた刺身とカサゴの煮付けまで出して来た。


こんな短時間で限られた調味料の中で煮付けなんて…心の中で母さんに軍配を上げる。



「はぁ………。…良い物ですね。こんなに、楽しかったのはいつぶりでしょうか…」

「ははは!霧谷さんも、あんなにはしゃいだりするんだね」

「思い返すと…恥ずかしいので、余り言わないで下さい…」


BBQ終わり、皆それぞれ食休みとしてテントで昼寝をしたり島の散策に出掛けたり、焚き火を見つめたりと思い思いの時間を過ごしていた。


因みに、霧谷さんと二人きりなのは皆でジャンケンした結果である。



「貸すだけですからね!直ぐ返して下さい!……あぁ、このジャンケンが運命の別れ目になろうとは…」


彩は悔し気に地団駄を踏んでいたが、葉たんに背後から抱きつかれ、再度、峰岸探検隊として出発する事になった。

母さんも微笑みながら葉たんと手を繋いでいたので、一緒に行くのだろう。

美玲は苦笑しつつ、第一号隊員として同行する様だった。


由美姉と真帆ちゃんは『俺』の順番待ちをするとの事で、霧谷さんに「島を一周程したら交代」と言って、テントで休む事に。


真也は父さんと一緒に釣りに出掛けたみたいだ。




俺と霧谷さんは小高い山の方を目指して、ゆったりと歩きながらのんびり話していた。


それにしても、霧谷さんと二人きりと言うのは初めての事だ。


脅迫状の犯人の疑いもあった事で、何だかんだと二人きりになるのを避けていた。


でも、今冷静に考えると何て失礼な考えだったんだろう。


こんなに素敵な女性を、脅迫状の犯人だと勘違いしていたなんて…。


やっぱり、彼女こそが本物のラブレターを出した張本人なんだ…。



「峰岸くん、あちらに薄っすら海が見えます!」


「ホントだ…ちょっと道から外れるけど、見に行ってみようか」


「はい!…ふふ」



木々をかき分け、視界にチラチラと見える青を目指して歩く。

背後でピタリとついてくる霧谷さんを気遣い、出来るだけ草木が当たらない様に道を開ける。


歩き切ると視界が広がる。


一面に海が見える。

風が吹き、霧谷さんの綺麗な黒髪が(なび)く。


「霧谷さん、あんまり行き過ぎると危ないから…」


下を覗くとそこは、切り立つ崖となっており、草花で足元が覆われて端がどこまであるか分からないので危険だった。


霧谷さんが、俺の言う事に頷いて崖から数歩だけ下がり、ふと、こちらに視線を戻す。


「私…ずっと、二人でお話出来る機会を待っていました」


「…霧谷さん?」


「皆さんの前では話せませんから…」


霧谷さんが俺だけを見ている。


…ドクン。


一歩近寄る。



「霧谷さん!危ない!……っ!?」

「きゃぁっ……峰岸くん!?」


バランスを崩した霧谷さんは、足元で生い茂る草花で見えずにいた穴に吸い込まれる様に落ちていった。


咄嗟に霧谷さんの手を掴む。


ほんの一瞬の出来事だったが、霧谷さんは俺を巻き込まない様に手を離した。…だが、絶対に離すまいと手を握り直し、自らの身体が下になる様に抱き寄せた。






「峰岸くん…峰岸くん!」

「ん……っ、いたたた…」


目を開けると、霧谷さんの心配そうな顔。

どれくらい時間が経ったのだろうか…。


ふとスマホを取り出し時間を確認する。

時刻は17時34分。


お昼過ぎのBBQは13時〜14時頃までやってた筈だから…あれから3時間程は経っている。


辺りを見渡すと、洞窟の様な場所である事が窺えた。

…ひんやりして寒い。


「もしかして、霧谷さん…随分前から俺を呼んでた?」

「あ…いえ、私も今し方、気が付いたので」

「そっか…寒くない?このカーディガン良かったら着てて」

「でも…峰岸くんが…」

「良いから!大丈夫…」


カーディガンに着いた汚れを軽く払い、霧谷さんへふわりと羽織らせる。

…これでシャツ一枚だが、まだ大丈夫。


自分なりに状況を簡単に整理する。

奥がありそうだな…。

それに、風が吹いてる。



「…峰岸くん…私達…これからどうしましょう……」

「……霧谷さん。俺を信じて。あとは、皆を信じて…。そして、開き直って『この場所』を見て歩こうか!…助けがくるまで………」


SOS。

遭難信号。


スマホの充電を気にしながらも、数メートル上の穴に向かって光を点滅させる。

その度に辺りが明滅し、足下に生い茂る柔らかな草花や壁一面にキラキラと反射する鉱石混じりの岩石がチラつく。


あの穴から落ちたのに、二人とも怪我が無かった事は、まさに不幸中の幸いと言えるだろう。


ゴールデンウィーク中、無人島にて霧谷さんと二人きり。

俺達は遭難した。




「あっ…峰岸くん、肘を打って擦り剥いている様です。少し手当てしましょう」


「おわっ、ホントだ!気付かなかった…。怪我が無くて良かったぁ、なんて思ってたけど…」


「洗える様な水はありませんね…仕方ありません。応急処置ではありますが泥を払って、此方で覆いましょう」



霧谷さんがポケットから綺麗なハンカチを取り出す。


「いや、大丈夫だよ!汚れちゃうし!」


「峰岸くん」


「え、あの…霧谷、さん?」


少し怒った様な表情でこちらを見る霧谷さん。

…初めて見たかも。


霧谷さんは俺の肘に付着した泥を丁寧に(ぬぐ)い、傷の箇所を良く見た上でハンカチを当ててキュッと結んだ。


「幸いにして傷自体は深くないみたいですね。…ですが、戻ったら直ぐに手当てし直しましょう」


霧谷さんは柔らかく微笑むと、距離感の近さにハッと気付き、立ち上がる。


「皆さん、気付いて下さるでしょうか」


「そうだね…。さっき気付いたんだけど、ここ風が通ってるからどこかに抜けられるかも」


「でしたら、少し奥まで歩きましょうか」


「うん」



スマホは圏外。

薄暗い洞窟の中を二人は歩く。


次第に明るみに視界が広がり、ジメジメした空気から一転する。


外へ出た。入り江になっている様だ。

遥か向こうで沈んでいく夕陽が見える。


サンセットビーチ。


切り立った崖の真下に洞窟は続いていた様で、誰も降り立った事の無い砂浜に、並び立つ二人の影が後ろへと伸びて行く。



「綺麗…」


霧谷さんが思わず口にした言葉に頷く。


「こんな景色が観れるなんて、ラッキーだったかも…なんてね」


「峰岸くん…ふふ」



二人は見つめ合う。

やがて、影は重なり互いの体温を感じ合う。


「こうして、私を守ってくれました…」


「うん…絶対守らなきゃって思って…咄嗟に…」


「嬉しい…」


「霧谷さん…」


もう一度、近くで見つめ合う。

吸い込まれる様に、お互いの顔が近付いて…。




「し〜ず〜か〜さんっ♪良い夢は見れましたか?」


突然聞こえた彩の声にハッとして、互いの視線が交差し、勢い良くバッと離れる。


俺達の頭上。

切り立った崖の上からヒョコッと顔を覗かせた彩が、ニコニコと笑顔を見せていた。

…何だか、嫌な予感が…。


「お兄〜ちゃ〜ん♪皆、血眼になって探してるんだよぉ?」


「あの…はい。何か、すんませんっした」


「今、行くから」


「えっと、こっち危ないから…」


「行くから」


「はい…」



その後、捜索隊が組まれる程の大騒ぎになっていた事を知り、俺と霧谷さんは二人で平謝りし続けたのだった。

…でも、落ちたのは不可抗力で悪くない!…筈。


BBQの時期は様々ですが、やはり夏が一番

イメージにぴったり合うのかもしれません。

ただ、どの時期でも楽しめるのがBBQの魅力ですね。


次回も楽しみに。

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