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27.リオナの峰岸家訪問・後編

27.リオナの峰岸家訪問・後編





皆で家に入ると、母さんが笑顔で出迎えてくれた。


「あらあら、皆いらっしゃい。初めまして、リオナちゃん…で良かったかしら?」


「はい!本日は急な話で、申し訳ありませんがお世話になります♪」


最近分かって来た事だが、リオナちゃんは初対面の人物に会うと必ず猫を被る。

そして、慣れて来ると素の純粋な部分を(さら)け出したりするのだ。

(ちな)みに、真帆ちゃんと初めて会った時は、俺達の時と同じく小悪魔系のキャラを演じていた。



「あらあら、葉たんは皆に挨拶しないのかしら?」


母さんが後ろのリビングの方へ呼び掛ける。

すると、葉たんが顔を半分だけ出して、こちらの様子を窺う。


「ふ…ぁ…か、可愛い!!」


あのリオナちゃんですら、一瞬で心を奪われてしまった様だ。

…流石、葉たん。愛しのプリティ坊や。


幼馴染達含め、その場にいた全員が葉たんに視線を送ったせいか、葉たんは緊張して顔を引っ込めてしまった。


「ふふ、許してあげてね。緊張してるの」


母さんは優しくリオナちゃんに微笑むと、玄関に人数分のスリッパを用意してくれた。

そして、スッとリビングへと入る。


「お菓子にフルーツタルトを用意してますからね〜♪」


お菓子作りの腕もピカイチの母さん。


「うはっ!やったぁ!里穂さんの作るケーキもタルトも最高に楽しみ〜!!」


背後で美玲が喜びの声を上げる。

…久しぶりに遊びに来た半分の目的は、母さんの作るお菓子なのではないだろうか。


「…それじゃ!人数も多いしリビングでゲームでもしよっか!こっちだよリオナちゃん」


「お、お邪魔しま〜す…」


彩に手を引かれ、まだ遠慮気味にリビングへと入るリオナちゃん。

その後を俺達はついて行く。


彩は、リビングの一番大きなソファの真ん中へリオナちゃんを座らせる。

その右隣に彩が座り、美玲と真帆ちゃんが同時にボフンッと音を立てつつ、リオナちゃんの左隣へ座る。


由美姉はいつも通り絨毯(じゅうたん)に正座して座り、俺と真也もその辺に胡座(あぐら)をかいて座る。


「リオナちゃんは格闘ゲームとかやったりする?…って言うかゲーム自体した事無いかな…」


「え?私格闘ゲーム得意だよー!オンライン上でも上位ランクキープしてるし!」


「え、何その意外性」


「あ、でも一人でしかやった事無い…」


「あっ…」


「うん…」


「リオナちゃん!!今は、皆いるからなぁ!彩!…何言っちゃってくれてんだお前は!」

…早々にリオナちゃんを悲しませるんじゃない!


その後は、夕飯の時間になるまで皆で色々なゲームをして遊んだ。

途中、母さんの手作りタルトにも舌鼓(したつづみ)を打ち、葉たんがリオナちゃんと仲良くなったり、ボードゲームでは父さんが乱入したりと楽しい時間が過ぎた。



「夕飯も皆の分用意してるので、是非食べて下さいね♪」


ダイニングテーブルを見ると、いつの間にか様々な料理が用意してあった。


各々、椅子に座り始めるとリオナちゃんはどうしたら良いか分からずに立ち止まる。


「リオナちゃん?こっちに座って!」


彩が催促(さいそく)する。


リオナちゃんは呼ばれるままに、彩の隣へ座る。



「さぁ、今日は新たな出会いに乾杯!」


父さんの乾杯の音頭で食事が始まった。


「うむ、どれも素晴らしい料理ばかりで、どれから手を付けて良いものか…里穂さん、これは何と言う料理だろうか?」


「ふふ、由美ちゃん。それはね…サルモレホと言ってトマトベースの冷製ポタージュの様なものなの♪最近、スペイン料理にハマっててね…あら、葉たん美味しい?」


「これね、おいしいの!!」


「ほう!ほう!」


母さんと由美姉が料理の話をしている。

葉たんも幸せそうに料理を口にしていた。

由美姉は興味深そうに話を聞いており、メモでも取らんばかりの勢いだった。

…普段から和食以外は知らない事だらけだと言ってるだけあるな。


「お兄ちゃん、はい!あ〜ん!」


「彩。いつまでやっても、そんなのに手を付け無いからな」


「いつもは赤ちゃん言葉で食べる癖に…」


「おいこら!勝手にとんでもない捏造(ねつぞう)するな!?」


「彩!父さんにも、あ〜んは無いの!?口開けて待ってればイイ!?」


「パパさん必死過ぎだよ、にゃはは!」


「ふふふ、僕もこの熱々のパエリアを優斗に…」


「ちょ!待て真也!そんな火傷確定のブツをあ〜んさせようとするんじゃねぇ!?ちょ、ヤメロォォオ!」


「シンちゃん!!両側から勝負だよ!!」


「父さんは!?父さん口開けてまーす!ほら!待ってるよぉ!」


「久しぶりにこんな、ごちゃごちゃな食卓見ました…。あ、由美ちゃん!そっちのピザ取り分けて!」



我が家の夜の食卓は大混戦も良いところだった。


そんな中、ポカンと口を開けたまま、どの料理にも未だに手を付けず、皆の事を見ていたリオナちゃんに声を掛ける。


「リオナちゃん?」


「あ…えと、いえ…ふふ、何て言えば良いか…」


リオナちゃんは言い辛そうに目を伏せる。


「リオナちゃん?…何か苦手な食べ物でもあったかしら?」


母さんが困った表情でリオナちゃんへ問い掛ける。


「いえ!…違うんです。『家族の食卓』って感じがして……ごめんなさいっ…」


「………ふふ、温かい内に食べてね。リオナちゃん?」


「…っ…はい……」


「リオナちゃん!これ美味しいよ!」


「…うん!彩ちゃん!私にもあ〜んして!」


「しょうがないなぁ〜もう!お子ちゃまなんだから…」


リオナちゃんはようやく笑顔を取り戻すと、どの料理も美味しそうに口にして、心から楽しんでいる様だった。




夕飯を食べ終え、片付けまで終えると、深い時間となり幼馴染の皆は帰宅する事となった。


「また週明けに!リオナちゃん…彩に食べられない様にね、はは…」


「ちょっと!みーちゃん!据え膳なら致し方無しだよ!」


葛木兄妹と美玲、そして由美姉は満足気に帰宅して行った。


「じゃ、俺は先に風呂でも入って寝るから…後は彩、頼んだ」


「待った待った、ストップお兄ちゃん」


「ん?」


「今日は三人一緒に寝よう!」


「…ふぇ!?」「はぁ!?」




俺達は今、彩の部屋のベッドで寝ている。

彩とリオナちゃんは一緒にお風呂に入りキャッキャとした後、俺も単身で風呂に入り、皆で彩の部屋へ。


これから朝まで話でもするのかと思いきや、この状況を作り上げた当の本人は、ベッドに入った瞬間にさっさと眠りに付いた。

因みに俺、彩、リオナちゃんの順で川の字を作り、横になっている。

…何なんだ、この状況は。



「あ…先輩…」


リオナちゃんと目が合う。

するとリオナちゃんは、早々に熟睡した彩を起こさない様に注意して、身体ごとこちらに向ける。


「…ふふ、眠れないんですか?」


「…うん。ちょっと…変な状況だなぁなんて思ってさ」


「アハハ。…彩ちゃんに内緒で、私に何かしますか?」


リオナちゃんは口元をニヤリと(ほころ)ばせると、顔をズイッと近付ける。


「彩に見つかったら、リオナちゃんが大変な事になるから辞めとくよ」


そんな気は全く無いので冗談で(かわ)す。


「優斗先輩って…ホントに女性に興味があるんですか?」


「どう言う意味かな?ん?」


「アハハ…」


リオナちゃんは天井を仰ぎつつ、彩を起こさない様に控えめに笑う。

俺も「ふふ」と微笑み、まだあどけない表情で笑うリオナちゃんに肩を(すく)める。



少しの沈黙の後。


俺は少し引っかかっていた事を思い出した。


「そう言えば…夕飯の時のリオナちゃんの言葉が気になってるんだけど…」


「………」


俺の言葉を受け止めると、リオナちゃんは次第に(うつむ)き始め、哀しげな表情へと変わる。


「そうですか…先輩は気遣い屋さんですね…」


そう小さく呟いたリオナちゃんは、今まで見た事のない様な顔をしていた。


小悪魔チックでお調子の良い顔でも、涙目で天使の様なつぶらな瞳をした顔でも無く、お嬢様としてのリオナ・セストラルの顔だった。


髪を下ろしている事もあり、小さな身体に似つかわしくない大人びた表情と相まって、まるで別人に見えた。


「『家族の食卓』って、言いましたよね。私達家族は皆揃って食事をする機会が少ないんです。…父様も母様も忙しかったりするので、私達兄妹は、いつも二人で食べてました…」


「………」


「勿論!父様も母様も優しくて大好きです。…でも、やっぱり…家族で過ごせる時間が少ないのが寂しくて…」


「………」


真剣に話すリオナちゃんに、口を挟む事を(はばか)られて黙ったままでいた。


「それに、私は…兄様の様な優秀な人間じゃ無いんです。…父様や母様は、私にも立派になって欲しくて色々期待して下さるけど…。…私は、普通の家庭に産まれたかったなぁ…。すみません、こんなの我儘(わがまま)ですよね…」



リオナちゃんはそう言うと、少し上体を起き上がらせ、隣で遠慮無く寝てる彩の顔を覗く。


「ふふふ、彩ちゃんの寝顔…可愛い…。私ね、先輩…。凄く…嬉しかったんですよね」


「…えと、何だろう?」


「彩ちゃんに会えた事です」


「リオナちゃん…」


「私は…日々、兄様の様に立派になる事を期待され…。小学校や中学校に通う事無く、お屋敷で様々な勉強や習い事をさせられて…。毎日が嫌になってました…。ゲームばかりする様になって、社交場でも浮く様になりました…。そんな中、父様の計らいで兄様の母校に入学する事になり、初めて『同世代の普通の女の子』と会いました」


「………」


「彩ちゃんに初めて会った時、私、人見知りだから…遠ざける様な事を言っちゃったんです。酷い言葉で…」


リオナちゃんは目をギュッと(つぶ)り、その時の事を思い出して後悔している様だった。


「でも、彩ちゃんは…」


「………」


目を開き、彩へ優しげに視線を映すリオナちゃん。

俺は言葉を待ち、黙る。


「彩ちゃんは、私の暴言に怯まずに抱き締めて来たんです。『面白い!』って。…アハハ、凄いですよね」


「…彩は特殊だからな」


「今まで、顔色を窺う様な人しか周りにいなくて。心を許せる『友達』なんて絶対出来ないだろうなぁ…と思ってたんです」


「そっか…。なら、彩に会えて良かった…のかな?」


「はい!勿論です。ふふ」


「んにゃむにゃ……んむぅ…牛タンパンダで叩いてじゃんけんぽん…」


彩の寝言を聞き、二人は彩を挟んでクスリと笑い合ったのだった。




朝。


「ふぁ……っ…ふぁああふ…朝か…」


大あくびの上、ベッドで上半身のみ豪快に伸びをする。

隣ではお姫様達が未だ丸まりつつ、寝こけていた。


彩はニヘヘと口元を緩ませつつ手をワキワキさせて寝ていた。

…どんな夢だ、まったく。


リオナちゃんは規則正しい寝息を立てて寝ており、特徴的でもある綺麗な銀髪は、窓から差す朝の陽光を浴びて、尚一層、煌々と輝いて見えた。


「物語に出て来るお姫様みたいだよなぁ…」


リオナちゃんの寝姿を見てそう呟く。


「…優斗先輩…聴こえてますよ…ふふ、アハハ…」


「リオナちゃん…起きてたのかよ…」


「はい…でも、もうちょっと…このままで」


リオナちゃんは顔を枕に押し付ける様にして、二度寝しようとしていた。


休みなのでいつまでも寝ているのも一興(いっきょう)だが、朝食の時間なので起こす事にしよう。


「さぁ!二人とも、朝食の時間だぞ〜!」


「…ぅ…んむ……」


彩が微睡(まどろ)みから覚醒しそうだ。

先程起きていたリオナちゃんは未だに顔を枕に押し付けたまま、微動だにしない。


「ほら〜リオナちゃんも、起きるよ〜」


「先輩…これは違います…」


「ん?」


「バカですね…もう」


リオナちゃんに馬鹿にされた。

…何なんだ一体。


純粋で無邪気な所や、小悪魔風を演じる所や、お嬢様としての苦悩を持つ所。

全て合わせて彼女は成り立つ。


次回はGW。

お楽しみに。

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