26.リオナの峰岸家訪問・前編
26.リオナの峰岸家訪問・前編
三枚目の手紙が見つかってからまた日が経ち、この一件を全て由美姉が預かる事となってから特に進展も無く、四月の下旬に差し掛かった。
筆跡鑑定もゴールデンウィーク明け頃に結果が分かるみたいで、俺達は何となく間延びした時間を過ごしていた。
今日は土曜日の、通常登校日。
お昼まで通常の授業があり、午後からは部活動に力を注ぐ生徒達が多い中、俺達は生徒会室に集まり、次の生徒会役員改選の準備に追われていた。
そんな中、生徒会室へ遊びに来ていたリオナちゃんが唐突に言い放つ。
「今日、彩ちゃん家に遊びに行きたい!」
「え、遂にお持ち帰り?飼うよ?私飼っちゃうよ?」
リオナちゃんの一言に反応して、ソファで寝転んでいた彩がガバッと起き上がる。
「ていっ」
「あふん!…お兄、ちゃんっ…首に手刀は良くないよぉ…あたた」
「兄として必要な措置なんだ。分かってくれ」
ソファに近い席に座る俺は、世間の体裁を考え彩に強めのツッコミを入れた。
彩は首筋を摩りながら、涙目で俺を見る。
生徒会にいた皆は特に気にする事無く、各々雑務に取り組んでいる。
…幼馴染以外の皆も、彩と俺のやり取りに随分慣れてきたな。
生徒会は、由美姉を会長席に据え、長机の奥からレナさんとコウジくんが対面に定位置の席に座り、真也、美玲、霧谷さん、俺とそれぞれに席が用意されている。
そして、彩は常にソファで身を投げている。
…俺の序列が末席なのはご愛嬌。
少し前にレナさんが「この席だと合コンみたいじゃない!?私ぃ〜、目の前のコウジくんが好みのタイプ〜♪」とか言っていた。
その際、同タイミングで目をバチリと見合わせた俺と霧谷さんは、同時に視線を逸らしたものだ。
リオナちゃんはソファにベタ付きの椅子に座り、手をソファに掛けて彩を覗き込んでいた。
「ねぇ、駄目?彩ちゃん…」
つぶらな瞳で彩を見つめるリオナちゃん。
…この子は天使に違いない。
「う〜ん、私は別に良いんだけど…お父さんがなぁ…出来れば会わせたくないんだよねぇ…」
「あぁ…アレな…。確かにちょっとキツいな」
俺と彩は二人揃って唸り声を上げる。
「え、ユウのパパさん面白いじゃん。ウチのお父さんより渋いし!」
「みーちゃんが褒めたりするから調子に乗ったりするんだからね!もうっ」
美玲が一瞬話に混ざるも、彩の睨みに「おぉ〜こわこわ…」と苦笑しながら書類の選り分けに戻った。
霧谷さんが少し反応してチラリと顔を上げたが、彩の顔を見て「ふふ」と微笑み、再び書類に目を落とす。
「それに、セストラルグループの御息女を我が家にお招きする事の方が問題だと思うんだよな、俺は…」
忘れては困るが、リオナちゃんは生粋のお嬢様である。
分かりやすく言えば、日本の億万長者番付のトップ100の中にグループのCEOでリオナちゃんの父親フォラス・セストラルさんの名前が入るぐらい。
…そんなお嬢様を、我が家にお招きするなんて想像が付かない。
父さんも世間から見れば高額納税者ではあるものの、セストラルグループとは比べようも無い。
「良いんです!そんなの…」
俺の言葉が気に食わなかったのか、少し不機嫌な表情で返答するリオナちゃん。
「私が行きたいんですから!…ね?彩ちゃん」
「よし!分かった!なら、リオナちゃん。明日日曜日だし、ウチでお泊まり会しよ!」
「え!!お泊まり!?やったぁ!!楽しそう!いっぱい話そう〜!!」
リオナちゃんは曇らせていた表情を一転させ、満開の笑顔を見せて喜ぶ。
「なら!久しぶりに私も行って良い?それに、どうせなら皆で行こうよ!泊まりに関しては、人数的に迷惑になるから流石に遠慮するけど…あはは」
美玲が目を見開き、思い付いた言葉を投げ掛けて来る。
「リオナちゃんはウチ初めてだし…皆で一緒なら緊張しなくて済むかもな。うん、良いんじゃない?」
「静さんも!来てくれますよね?」
「ぇ!?…と、あの、良いんでしょうか?」
彩の言葉に霧谷さんが動揺して声を裏返しつつ、何とか返答する。
「ね?お兄ちゃん」
「えっと、もし良かったら霧谷さんもどうかな?」
「…あ、はい。それでしたら家の方に許可を得なければいけないので…連絡して参ります」
霧谷さんは頬を紅く染めつつ、スマホを手に生徒会室を出て行った。
「レナさんとコウジくんはどうですか?」
「悪いな。僕はこれからピアノのレッスンがある」
「私も最近遊び過ぎてたから、パピーが怒っちゃって家帰らないと…。あ〜ん!絶対楽しいのに…うう」
コウジくんは至って冷静に、レナさんは泣き出さんばかりの表情で惜しんでいた。
暫くして、霧谷さんが肩を落としながら生徒会室に戻り、「ごめんなさい…」と哀しげに言った。
「静さん駄目だったんだ…う〜ん。急な話だったしなぁ…。…あ!それなら、ゴールデンウィーク中遊びに行きましょうよ!」
彩が霧谷さんの下へ駆け寄り、手を握る。
「それなら、急な話でも無いし何とかなりますよね?」
「はい!それなら…話しておきますね。ふふ、彩ちゃん…ありがとう」
「静さん…」
彩は目を閉じて唇を近付けていた。
「こらこら!どう言う流れだ…まったく。霧谷さんも、あまり無理して日程空けたりしないでね」
「あたっ!」
テシッとバインダーで彩の頭を軽く叩き、不思議そうに彩を覗き見ていた霧谷さんへ呼び掛ける。
「いえ!無理なんてしてません。青春…って感じがして、良いですね。ふふ」
…ゴールデンウィークに楽しみが一つ増えた。
「さてと、一通りやる事は終えたな、皆?」
由美姉の言葉に皆頷く。
「では、今日は早目に解散するとしよう。また週明けに宜しく頼む」
由美姉の一言で解散する事となった。
時刻はまだ15時。
一応、事後承諾で申し訳無く思いつつ母さんに連絡すると、「勿論、良いですよ〜♪」との事。
父さんは…。
土曜だしオーナーとして、どこか知り合いの飲み屋にでも顔出しするだろう。
そう、期待したんだが…。
甘かった。
俺と彩が先行して峰岸家へ到着すると、家の玄関の前にダブルのスーツを着て薔薇を咥えた不審人物が立っていた。
なぜかサングラスとハットも被っている。
「お兄ちゃん…私が見えてるアレは…皆にも見えてるアレ?」
「あぁ…アレはもう…駄目だな」
住宅地の道の真ん中で立ち止まる俺達を見て、リオナちゃんは不思議そうに視線の先を見やる。
そして、不審人物とサングラス越しに目が合うとビクッと身体を硬直させる。
「あぅ…あ、あれって…」
「ふふ、流石は優斗のお父様ですよね」
「真也、ヤメテ…その暴言、胃に刺さる…」
真也がズイッと俺の背後から顔を出し、こちらへスタスタと歩いて来る不審人物を見て更に「ふふ」と笑う。
「やぁやぁ、我が最愛の息子達と仲間達よ。来たな!元気そうで何より。…さて、君が噂のリオナちゃんかな?よろしく。あ、これどうぞ……っぐこぱっ!!?」
「「どりゃぁあ!!」」
俺と彩は同時に動くと、彩が顎をアッパー気味に掌底を入れ、俺は腹を容赦無く蹴ると、父さんは斜め後方に吹き飛んで道の真ん中に大の字で倒れた。
「ナイス…コンビネーション……ぐふっ…」
散り際に持っていた薔薇が、重力によりポトリと地に落ちる。
「相っ変わらず、凄い人ですよねぇ…。ユウ兄とあーちゃんのパパ」
途中で合流した真帆ちゃんが半ば呆れ気味に言う物だから、「「知らない人です」」と二人で声をハモらせた。
一部始終を見ていたリオナちゃんは完全に思考停止して棒立ちしていた。
…だから、会わせたく無かったのに。
GW明けには生徒会役員改選や中間考査も控えている中、GWは一体どう遊び尽くすのか。
次回は後編。
そのまた次回はGW。
お楽しみに。




