25.不釣り合いな情報
25.不釣り合いな情報
体育の授業後、教室に戻ると美玲と霧谷さんが二人で話していた。
美玲は俺達の姿を見ると微笑んで手を振る。
女子は皆先に着替え終えて教室へ戻っていた様で、教室内が甘い柑橘系の香りに満たされていた。
…女子の匂いって感じがする。
「ユウ、シンくんお疲れ様〜!男子皆大変だったみたいじゃん!にゃはは!」
「お疲れ様です。お二人とも大活躍でしたね、ふふふ」
「正直危なかったわ…俺達もスポ根教師の手に掛かる所だった」
「ふふ、僕達はただ疲弊し切った相手を蹂躙しただけですから」
俺達に遅れて教室に入って来たクラスの男子達の過半数以上が、全身筋肉痛状態で疲弊し切っていた。
「優斗ぉぉおお……今回は本当に恨むからねぇ…」
「はっ、チームメイトを恨むんだな」
いつも冷静で人を手玉に取っているタケルですら、辛そうに机に突っ伏して恨み言を言っていた。
…たまにはこう言う気分も悪く無い。
「って、そう言えば…タケル」
「……何?…あんまり今、身体動かさせないでくれる?」
俺は美玲達から離れタケルの席に近付き、前の席を借りて座る。
そして、タケルにだけ聞こえる様に小声で話し始める。
「お昼に言ってたろ?今朝の手紙の事、そもそも何で知ってたんだ?何か見たのか?」
俺は引っかかっていた部分を問いただす。
すると、タケルは机に突っ伏しながらもこちらをチラリと見やる。
「あぁ、あれね…教えて欲しい?教えて欲しかったら…」
「肩を揉めば良いんだな全力で」
「あっちょっと!待っ……ぐぁああ!!待って優斗ぉお!やめろ!やめてくれ!」
「さ、話せ」
「アンタ将来良い死に方しないよ絶対…」
若干涙目になったタケル。
背後で「成る程…アリね」と恭子の声が聞こえたが無視する。
「あのねぇ、一応僕なりにポリシーがあってさ。数々の情報を持ってる責任として暴力や直接的な金銭では口を割らない様にしてる訳…。だから、先に言っておくとどれだけ痛め付けても君の教室内…延いては校内での評価が下がるだけだけど…どうする?」
タケルは意外としっかりしてる。
冗談の中にもキチンとした信念を持って情報の管理をしている様だ。
机に突っ伏し涙目になりながらも、譲れない一線は死守していた。
「そか、なら何か情報が必要だな…」
「ふふ。優斗はこう言う所、ちゃんとしてるから良い奴だよねぇ。…一応、君には協力しておいた方が何かと都合が良いだろうから、今回はサービスしておくよ」
「良いのか?借りにすんなよ」
「ははは!大丈夫さ。この情報は偏らせなけりゃ君にしか使わない情報だしね。さて…あれはさぁ、昨日の放課後だったかな。校内情報探しの散歩中、偶然見ちゃったんだ」
「何だその怪しい散歩は…」
「誰々が告白した〜だの、部活内で揉め事が〜とか色々あって散歩大正解なんて思ってたらさ。誰かの下駄箱に女子が手紙を持って近付いてるじゃん!これは…と思って、パシャリとした訳。その子が離れてからどこに入れたのか確認して、優斗だったのが分かったって感じ」
「カメラで写真撮ったのか!?」
「まぁね。あ、ここから先は…交換で」
「おい!!?一番大事なとこだろうが!」
「どう?期待値上がったでしょ?ふふ」
「競り上げただけで、結局サービスなんて嘘じゃねーか…ったく」
「手紙の内容でも良いけど…それは流石に不粋かなぁ」
タケルはニヤニヤしながら俺を見ていた。
小憎たらしい奴だが、コイツの情報網は今後も必要になって来る。
…さて、何の情報だと釣り合うか。
すると、近くで聞いていた真也が口を開いた。
「では、タケル。こんなのはどうでしょう?」
「んん?真也、何かあるの?」
「ええ、これぐらいなら丁度良いでしょう」
真也は身を屈めると、タケルにそっと耳打ちする。
すると、初めは怠そうに聞いていたタケルが目を見開き立ち上がって真也を見た。
「嘘!!それマジ!?親父に言わないと…って……っあたたた…くぅっ…」
立ち上がった反動で全身に筋肉痛が広がり、再び机に突っ伏すタケル。
…真也は一体、何を話したんだ。
「あ〜いたたた…ホント勘弁して欲しいよね。…はい、これ写真。ったく、真也の情報が本当なら明日の朝刊モノだよ。デカい借り作っちゃったなぁ…」
「ふふ、これから大忙しですね」
「そうだね、さっさと親父に連絡しないと」
タケルは全身の痛みに震えながらも何とか立ち上がり、スマホを操作しながら教室を出て行った。
…電話でもするのだろうか。
「何話したんだ?真也」
「昨今ニュースで取り上げている議員の汚職事件について詳細を、ふふ」
「どこが釣り合い取れてんだそれ…」
たかが学校内での手紙の差出人の情報と、全国紙レベルの情報を交換しやがって…。
我が親友ながら恐ろしい奴だ。
…さすが、謎多きイケメン。
「取り敢えず…情報は手に入った。どこのどいつなんだ?一体…っ!?」
写真に映る女生徒は最近廊下でぶつかったあの女生徒だった。
「優斗?…もしかして、知ってる女生徒でしたか?」
「あぁ、ちょっとな…詳しくは放課後にでも話すよ」
俺はゴクリと唾を飲み込み写真を懐に仕舞うと、窓際の自分の席へと向かった。
放課後。
HRが終わると、後ろからちょいちょいっと突かれる。
振り返ると美玲が満面の笑みを浮かべていた。
「美玲?どした?」
「今日って特に生徒会でやる事無かったよね?たまには一緒にバスケ部行こうよ!」
「あぁ…悪い。取り急ぎ皆に話して置かなきゃいけない事が出来たから…先に生徒会室に行こう」
「え?…もしかして何か分かったの?」
俺の言葉に対して小声で返答する美玲。
そのタイミングで、くどまなが近付いて来る。
「あれま〜、何か内緒のご相談?あんた達夫婦は相変わらず仲良いね〜」
「愛菜!夫婦って…もうっ」
美玲が顔を紅らめる。
「夫婦じゃねえっての…。くどまな、美玲は今日生徒会で少し遅れるって言っといてくれ」
「旦那怒ってるよ美玲!…って、生徒会?」
「そうそう、ちょっとだけ顔出して直ぐにユウと体育館に行くからさ。あと、旦那じゃ無いってば…はぁ…」
「あはは、そう言う事なら私は先に行ってるね〜♪」
くどまながこちらに手を振りながら教室を出て行く。
美玲は苦笑しつつも、くどまなに手を振り返し鞄を持つと席から立ち上がる。
その斜め後ろで真也が柔らかな微笑みを浮かべつつ控えていた。
「俺はバスケ部じゃ無いんだけどな…」
「美玲様の言葉に意見するってのか!?あぁん?優斗ぉお!!」
いつの間に近付いていた徹也が俺に対してガンを飛ばして来る。
「お前はさっさとバスケ部行って来いよ」
「テメェに言われなくても行くってんだよぉ!部活来やがったらギッタンギッタンにしてやるから覚悟しておけよ!」
「国民的ガキ大将みたいな事言うな」
徹也は握力を鍛える為のハンドグリップを握りながら、「フン」と鼻を鳴らして教室から出て行った。
相変わらずどこでも筋トレしてやがる。
筋肉バカの名に恥じないバカだ
「優斗」
名前を呼ばれて振り返ると、タケルがこちらにメモ紙を寄越して来た。
「写真だけじゃ分からないだろうから、名前とか色々書いといた。はぁ…これでもまだまだ借りはデカいなぁ…。当分、君達には良い情報があったら話してあげるよ」
律儀にも真也が話した情報に釣り合う様に追加で情報をくれるようだった。
タケルは真也をチラリと見やると溜め息を吐きつつ教室から出て行く。
どことなく敗北感を漂わせていたのは、気にしない方が良いんだろうな。
「あの…今日は特に集まる様に云われて無かったかと思うのですが、何かありましたか?」
続けて霧谷さんが俺達に近付いて来る。
「あぁ、生徒会とは関係無い事だから大丈夫だよ!どちらにせよ由美姉と真也は雑務があるし、丁度良いから生徒会室に行くってだけで…」
「あぁ、そう云う事でしたか。…それでしたら、私はお先に失礼します」
霧谷さんは、去り際に少しだけ俺の方へ視線を向け、後ろ髪を引かれた様な表情を見せたが結局柔らかく微笑み、教室を後にした。
「それじゃ、私達も行きますか」
美玲の一言で俺達も教室を後にした。
生徒会室に着くと、中に由美姉と彩、そして頬を膨らませたリオナちゃんがそれぞれ座っていた。
レナさんとコウジくんには昨日の段階で「今日は集まり無し」と伝えてあった筈だ。
「あ!先輩!聞いてくださ〜い!彩ちゃんが酷いんですよぉ!」
「お兄ちゃんに色目使ったら、メッ!だからねリオナちゃん」
「はぅ…。…その、メッ!ってやつ止めてよぉ…ふぇ」
リオナちゃんが彩に調教されて涙目になっていた。
「彩、何したんだ?リオナちゃんの事イジメたのか?」
「お、お兄ちゃんが…私の味方してくれない…ぁぁ…もう、駄目だぁこんな世界…」
「…リオナちゃん、どう言う事?」
「はい、彩ちゃんが悪いんです全部!」
「いや、ごめん。全く分からないから」
彩は白目でソファに倒れ込み、リオナちゃんは一応怒っているのか更に頬を膨らませ続けていた。
愛玩動物に例えるならリスの様な愛らしさでプンプンと怒っている。
「ねぇ由美姉。これ何なの?」
「さぁね〜、私は知らないよ…」
口調は突き放す様だが、机の上に手を組んで顎を乗せ、愛らしい物を愛でる様な表情でリオナちゃんを見ていた。
一言で表すならデレデレしている。
…意外にも由美姉が一番リオナちゃん推しなんだよなぁ。
後になって分かった事だが、彩がリオナちゃんをクラスのマスコットキャラクターの様に祭り上げた事を怒っていたそうだった。
とは言え、彩が毎日リオナちゃんを可愛がっていたのをクラスメイトが羨ましがり、徐々に浸透していったのが原因だったそうなので、逃れ得ぬ運命だったと思う。
そのせいで、お昼休みは毎日クラスの女子に食堂へ連れて行かれるのが嫌だったそうだ。
改善点として、あんまり子供扱いしない事と、お昼は一緒に生徒会室で皆と食べたいと言う事だった。
結局、人見知りなのと、一緒にいたいだけの甘えん坊なリオナちゃんを見て全員でニマニマと微笑んでいた。
自分の主張が通った事に満足したリオナちゃんは、お迎えを呼び笑顔で生徒会室を後にした。
「さて、お昼に話した手紙の件だけど、差出人が判明したから話しておくよ」
幼馴染のメンバーだけになった所で、簡潔に伝える。
「ほう…。この数時間で良く突き止められたな」
由美姉が目を見開いて感心している。
彩も「えっ!?早っ」と言ってこちらを見る。
「今回はタケルが全て情報を握ってたからね。意図せず借りも作れたし、今後も頼れるかな…」
「ふむ、それで誰なんだ一体?」
「これ見て、名前は 深川 美耶子。2年A組で部活は美術部と茶華道部を兼部してる子らしい。産まれが旧家で、絵画展なんかも開いてるぐらい親が著名な方みたい」
俺はタケルから得た写真をホワイトボードに貼り、貰ったメモを読みながら説明する。
「…みやこ…。そうか…」
由美姉は俺の言葉を聞き、何事かを呟くとピタリと動きを止めた。
そして、暫く目を閉じたまま逡巡している様だった。
「優斗…この件は、私に預からせてくれないか?」
皆の視線を受ける由美姉。
「そうだな…。生徒会改選までには解決出来るだろう」
「由美姉がそう言うなら…分かった」
俺だけでは無く、皆一様に頷いた。
皆、深く聞かずとも由美姉の事を信じている様だった。
「さて、それでは話は終わりだな。…優斗、今日は筆跡鑑定の件で家に寄らなくてはならないし、雑務を終わらせたら一緒に帰るぞ」
「あ、そっか。悪いな美玲」
「うぅ…そうだった…。また今度、一緒に行こっか」
「私もお兄ちゃんと帰る!…リンスタグラムでも見てよっと…」
「では、彩が飽きて寝る前に終わらせましょうか、ふふ」
「シンちゃんひどいっ!」
俺達は皆それぞれ椅子に座り、雑務を始めた。
美玲が一人だけ頬を膨らませながら生徒会室を出て行ったのを見て、先程のリオナちゃんを思い出しほっこりした。
どんな情報も握っている個人や企業程、
多大なる責任が生まれると思ってます。
個人情報漏洩のニュースだったり…。
さて、次回は物語初期の方に
少しだけ触れていた内容です。
次回、お楽しみに。




