24.文字から分かる人と性格
24.文字から分かる人と性格
「ユウ、もしかして…また手紙が入ってたの!?」
沈黙を打ち破ったのは美玲の言葉だった。
そして、幼馴染の皆が俺の言葉を待つ。
「あぁ、実は今朝新しい手紙が下駄箱に入れられていた…中は、まだ見てない」
「一応、僕は今朝隣にいたので知ってました。もしかしたら、単純に好意を持って入れた手紙かもしれないので、中を確認して『話す必要があるなら』皆に話すつもりだったんですよ優斗は…」
真也がすかさずフォローの言葉を入れる。
その言葉に「むむ」と顔を顰めた由美姉が俺に視線を送る。
「では、優斗。今読んで確認してくれ。手元に無ければ、教室から取って来てでも」
「…ん。そう、だね。一応持ってはいるんだ。どこかで中を確認しようかと思って制服に入れてたから」
一人になったタイミングで確認しようとしたが、中々見る暇が無くお昼まで時間が経ってしまったが…。
俺は制服のポケットから一枚の手紙を取り出す。
朝、鞄に入れた後お昼前にポケットに入れて置いたのだ。
皆の視線が手紙に注がれる。
「じゃ、読むよ」
俺は薄い青色の手紙入れに貼ってある丸いシールを剥がし、中から手紙を取り出すと簡素な文字を目で追った。
『セイトカイカラハナレロ』
単純にラブレターでは無かった事に軽くショックは受けつつ、皆にも見える様に手紙の中身を晒す。
皆は一様に手紙の中身を確認すると、それぞれ思案する。
「生徒会から離れろ…かな?これってどう言う事?」
美玲が不思議そうに首を傾げ、真也に視線を送る。
「現状、優斗は『お手伝い役員』として生徒会に宙ぶらりんのままいます。実際には籍を置いていないので、単純にこの言葉を受け取るならば『生徒会の人間では無いなら離れろ』と言う事になりますが、わざわざ無記名で本人に直接下駄箱にと言うのが…気に掛かりますね」
「実際、『お手伝い役員』ってお兄ちゃんだけじゃ無くて私もみーちゃんもそうだし、静さんだってそうなんだから…これって、明らかにお兄ちゃんだけがターゲットにされてるよね」
真也の言葉を聞きつつ、彩が補足する。
「正直言うと、男子達のやっかみがいつか、こう言う方向に向かうかも…とは思ってたけど…はは」
美玲が苦笑しつつ、俺を気遣う様に視線を向ける。
「うぐっ…確かに、その可能性は高いかもな」
「僕は、時期的に…生徒会役員改選の信任投票が近いからではないかと思いますね」
真也の言葉にハッとして顔を上げる。
「役員改選で身を引けって事を案に言ってるって?」
「それも、可能性の一つです。一応ゴールデンウィーク明けには役員改選の準備が始まりますからね…。優斗が立候補する意思が有ろうが無かろうが、否定的な人物は現れるでしょうから」
俺は、何か思案してる由美姉の方を見る。
「由美姉はどう思う?これって『脅迫状』と関係あると思う?」
「…むむ。正直全く意図が読めんが、私は別人に依る手紙だと思う」
「どうして?」
「文字だ」
由美姉は手紙を手に取り、俺達全員に見える様に広げる。
すると彩が文字を凝視した後、何かに気付く。
「これって、もしかして定規で書かれてあるの?」
「あぁ、そうみたいだ…主に筆跡鑑定をすり抜ける為に使われる技法だ。対して脅迫状は、何故かそんな細工をして無かった。普通は脅迫状の方が細工すべきだと思うのだが…」
由美姉はもう一度手紙に書かれたカタカナの文字を凝視する。
筆跡鑑定…そうか、そんな事考えた事無かった…。
…待てよ?
初めに出された手紙は脅迫状もラブレターも、どちらもしっかりと筆跡があった。
と言う事は…。
「そうだよ!筆跡鑑定すれば、脅迫状の犯人もラブレターの差出人も分かる!」
俺の言葉に皆驚きつつも、それぞれ微妙な反応をした。
「優斗…。気持ちは分かるが筆跡鑑定で犯人を突き止めるには比較となるサンプルが必要だ。…犯人も差出人も分からない中、校内全ての人間のサンプルでも集めるつもりか?」
「…でも、一人だけ確かめるべき人はいるでしょ?由美姉?」
「…ふむ。なるほど、霧谷嬢か…。確かに直接尋ねる事は難しくとも筆跡鑑定なら現実的だな」
由美姉は暫く思案すると軽く頷き、俺へと向き直る。
「分かった。父の知り合いの筆跡鑑定人に依頼しておこう。優斗、脅迫状を預かる為に今日の帰りにでも家に寄らせて貰う。霧谷嬢のサンプルは、オリエンテーションの時の文書から参照するとしよう」
「あぁ、って…ラブレターの方は?」
「優斗…お前は、不粋な奴だな…全く。脅迫状の犯人では無い事が分かれば自ずと答えは分かる筈だろう。ラブレターの差出人を筆跡鑑定で知ろうなんて…本当に男としてどうかしてるぞ…はぁ」
由美姉は呆れた顔で俺を見て溜め息を吐いた。
「因みに、私は直接好きだと伝えているんだが?…ん?優斗」
ジトーっとした目で見る由美姉の視線から逃れつつ、コホンと咳払いを一つして幼馴染の皆を見る。
「…と言う訳で、この手紙は新たな人物からの手紙と断定しておこう。後は、この前皆に話した通り、霧谷さんはこの件の関係者だと言う事が分かってる。だけど、彼女を信頼する為にも、筆跡鑑定しようと思う」
…そう。
俺と由美姉が共有していた霧谷さんの話と、由美姉がラブレターの差出人であると嘘をついた事。
皆に話すか二人とも悩んだが、皆を信じて話す事にしたのだ。
それと同時に、オリエンテーションの際に発覚した包丁の件も皆には全て話した。
皆に話して無い事と言えば、霧谷さんが倒れた直接の理由であるトラウマの話ぐらいだった。
「分かった。…けど、私は静さんがラブレターを出したんじゃないかなぁって思うよ。脅迫状かラブレターかのどっちかだったら絶対にラブレター。お兄ちゃん…舞い上がってたりしないよね?…ね?駄目だからね♪」
彩がそれと無く俺に釘を刺して来る。
ニコリと笑顔だが、恐ろしい…。
「私は…うん。霧谷さんを信じたいし賛成…かな。それにしても、この手紙はなんなんだろうね…んむむ」
美玲は俺の言葉に賛成してくれた上で、新たな手紙に眉を顰めていた。
「優斗、良い機会です。筆跡鑑定が出来るなら、僕達のも全てお渡ししておきましょう…絶対なる信頼の上、更に物的証拠も必要でしょう。ふふ」
真也が俺に微笑んだ後に、幼馴染の女性陣を視界に捉える。
「そうでしょう?皆…」
真也の言葉に、女性陣は目を見開く。
「私達…って、あはは、シンくん?何言ってるの?」
真也の言葉に美玲が苦笑する。
「うん。有り得ないけどね。まぁ、筆跡鑑定なんて面白そうだし!やってみても良いかもね」
彩が元気に微笑む。
「そうだな…確かに。確実に私達では無いと言えるから、何も問題は無いだろう」
由美姉はウンウンと頷きつつ真也へ答える。
「ええ、そうですよね」
真也は皆に微笑むと俺に笑い掛ける。
「ここ最近、優斗が疲弊して来てますからね。少しでも精神的に我々が頼りにならなければならないですから」
「…ありがとな」
生徒会室に再び訪れる沈黙の間は、ゆらゆら燃える暖炉の火を眺める時に似た長い物だった。
やがてパチリと火が爆ぜる様に、キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴った。
午後から体育だった筈だ。
体育の授業。
男子はサッカーで女子は長距離走だった。
女子の間でかなりブーブーと批判を言っていたがカリキュラムの都合上仕方無い。
俺達BクラスはAクラスの連中と合同で、体育の授業を行う事になっている。
サッカーグラウンドとトラック競技様のグラウンドは少し離れているものの、遠巻きに様子は見える。
「あぁ…良い景色だねぇ…カメラ持って来ればよかった」
「静御前…運動も出来るんだなぁ…。そして、揺れてるな」
「美玲様美し過ぎる…あのフォーム。つうか、揺れてる」
「あの二人〜、トップ譲らずに走ってるねぇ〜。そしてどっちも揺れてるね〜」
「俺、実は工藤も良いなぁって思ってるんだよねぇ。揺れ…ては無いけど」
男子達は試合そっちのけで女子達の走る姿を目に焼き付けていた。
タケルも徹也も将吾も例外無く見ていた。
…くどまな、意外とコアな人気あるんだよなぁ。愛嬌あるし。
意外だったのは、霧谷さんの運動神経だった。
長距離トラックを颯爽と走る姿は、普段のおっとりとした印象からかけ離れている。
運動神経抜群の美玲と肩を並べて走る霧谷さんを見て少し驚いたのが本音だ。
…少し身長差はあるが。
「お嬢様なのに、運動神経良いって結構ミスマッチだよなぁ…」
「ふふ、優斗は霧谷さんの応援でもしてるんですか?」
俺の呟きに反応して柔らかく微笑む真也。
「意外だなぁって思っただけだよ…っと、あれ?」
俺の視線の向こう。
トップを走る二人のもう少し後ろ、くどまなともう一人。トップから離れてるもののかなりハイペース。
髪を腰程まで伸ばし、前髪を長めに伸ばした女生徒。この前、廊下でぶつかった女生徒だ。
「Aクラスだったのか…」
「どうかしましたか?優斗」
「オラァァァアア!!お前らー!!!ジロジロ女子の方見てんじゃねぇぞ!さっさと試合進めろ!」
あまりにも試合展開が進まないのを見兼ねて、遂に体育教師がキレた。
「3チームの内、負けたチームは外周!勝ったチームは残りのチームと試合だ!外周全力1周したら次の試合まで腕立てしとけ!ワシがずっと見とるからなぁぁああ!!」
…どこの時代のスポ根漫画だコラ。
「真也。試合中、程良く休憩しつつ点取るぞ」
「ふふ、了解です」
因みに今回の体育で俺達のチームは、ずっと試合だけしていた。
予定通り程良く休憩しつつ…。
余談だが、将吾が全身筋肉痛となり、徹也におんぶされ運ばれている所を恭子に見られ「シチュは認めるが絵ヂカラが足りない」と肩を叩かれていた。
今こんなスパルタな体育の授業してたら問題になるわと言われそうですが、あくまでフィクションなので…。
物語的には4月下旬に差し掛かる頃ですが、
そろそろゴールデンウィークです。
次回お楽しみに。




