23.新たな手紙とファーストキス
23.新たな手紙とファーストキス
「…っ!?」
彩による媚薬事件から数日後の朝。
いつも通り幼馴染達と登校し、下駄箱を開けて内履きの靴を取ろうとした瞬間に見つけてしまった。
薄い青色の手紙入れ。
折返しに丸いシールが貼ってあった。
これは…。
一体、どんな内容の手紙なのか…。
前までの自分だったら、手放しで歓喜していたのに…新たな脅迫状だったらと考えると楽観的にはなれない。
一応皆には、中身を確認してから相談しようと思い、気付かれ無い様に鞄に入れる。
「優斗?…もしかして」
「…っ。……あぁ、そうみたいだ。一応中身を確認してから皆には話そうと思う。だから今の所は黙っててくれ」
隣にいた真也には流石に気付かれたので軽く釘を刺す。
「行こ〜!お兄ちゃん、シンちゃん」
彩が廊下で呼んでいる。
行こう。
気付かれない様に。
教室へ着くと、クラスの女子達と話していた霧谷さんがこちらに気付いて近付いてくる。
「皆さん、おはようございます」
「お、霧谷さん。おはよう!」
「おはようございます」
美玲と真也が直ぐに挨拶を返す。
「おはよう、霧谷さん」
由美姉から衝撃の事実を聞いてから数日経ったが、未だ霧谷さんには事情を問い詰める事は出来ずにいた。
この柔らかな微笑みの裏で脅迫状を書いてた可能性がある。
その一方で、純粋に本物のラブレターを書いた可能性もある。
流石に本人に直接聞くのは勇気がいる。
それに…。
今日新たに、手紙が見つかった。
今はこの謎の手紙の事で精一杯だ。
俺は自分の席に座る為に視線を窓際の席に移すと、先に誰かが座っているのが見えた。
タケルだ。
「おはよう、優斗」
「おう、どした?俺の席にわざわざ」
「うん、一応アレから時間が経った訳だけども『この写真』の使い道が難しくてね…直接君に尋ねてみようと思ったんだ」
「あん?何の…」
言葉を遮る様に、タケルは懐から一枚の写真を取り出して、俺に見えやすい様に顔の目の前に写真を突き出した。
「…っ!!!???」
ブルマ姿の由美姉相手にパワーボムする瞬間の一枚だった。
…本当に撮ってやがったのか!?
俺が動揺したのを見て、クラス内でピクピクと視線が向けられる。
特に、間近で不思議そうな顔をして見ている美玲と真也。
「タケル!!データは!?データを買い取らせろ!!この世から消し去ってやる!!」
「はっはぁぁあ!!僕はまだ素人だから現金での取引はしない様にしてるんだ……。かと言って、君相手に食券稼ぐつもりは無いんだよ…。…つ・ま・り、何か飛びっきりの情報よこしなぁ!」
「…っぐぅう……何か無いか?…いや、でも…」
俺は頭を抱えつつ、鞄に入った新しい手紙の事や、核爆弾並みの情報ともなる脅迫状とラブレターの2枚の手紙の事を思い浮かべて苦悩する。
…こんな事で、話す訳には…。
「タケルくん、何か情報を話せばその写真とデータ私にくれる?」
美玲が隣からズイっと顔を出し、タケルに提案する。
「まっ待て美玲!これは、渡さん!」
「何なの!更に怪しいんだけど!」
「勿論、構わないよ松本さん」
俺と美玲が言い合う中、タケルは余裕の表情でニヤニヤとしていた。
「ならユウのファーストキスの相手は!!?」
「え…っと、松本さん?…そんなの、どこ向けに需要が…」
…オ、オサナナジミノ、ダレカトカ!?
…バカナ!ソンナノ、ユルサネエゾ!?
…バサバサ!!
教室中が俄かに騒めき出す。
あの霧谷さんまでもが、自分の席で整理中の教科書類をバサバサと床に落としていた。
そんな教室の空気を感じ取ったタケルは、少し思案する。
「ふむ……意外に需要がありそうだ…。よし、分かった。商談成立だね。じゃ、メモでも良いから教えてよ…後は、真也にでも情報の裏は取ろうかな」
タケルは大きく頷くと、美玲にメモ紙を渡して真也の表情を窺う。
「ふふ、優斗の大事なファーストキスの話ですね。勿論知ってます」
いつもと変わらない爽やかな微笑で微笑む真也。
「ぐぉ…やっぱ、何か話すべきか……くそぉ…」
「にゃはは、駄目だよユウ!この写真とデータはもう私のだからね」
美玲は得意気に微笑むとサっとメモに『葛木真也』の名前を書き、タケルに手渡した。
「ちょっと単純に気になって来たよ…はは。じゃ、データは後でスマホにでも送るよ。写真はこれね」
タケルは持っていた写真を美玲に渡した。
そして、メモ紙の名前を確認するとそのままこちらを凝視する。
「は?…マジ?え?……二人とも、ガチなの?」
タケルは確認の為か、俺と真也の両方に視線を向ける。
「タケル!!なんて書いてあったんだぁ!!?」
「新作用に初シチュ!頼んだわよ優斗!!」
「幼馴染の誰かじゃねぇだろうなぁぁ!」
「見せろ!俺に見せてくれ!そして、安心させてくれ!」
「場合によっては武力に打って出るぞコラァ!!」
…これ恭子が一番喜ぶかもな。
その後、タケルは狂気の目をしたクラスメイト達から追われる事となり、折角手に入れた情報メモを死守する為にメモ紙ごと口に入れて飲み込んだ。
…情報漏洩に厳し過ぎる有り得ないド根性だ。
俺はと言えば、例の写真を見た美玲に笑顔で肩に手を置かれ悲鳴を上げたのだった。
〜Another side〜
「さて、一応確かな情報として裏はしっかり取らないといけないからね…詳しい御三方に聞かせて貰うよ。…まずは、松本さん」
「はいはい、ユウのファーストキスね。私と由美ちゃんは後から聞いただけだから正直言うと詳しくは知らないんだ」
「うむ。この件は、私達二人が出逢う前に行われた事なので、後々知って歯噛みした過去がある」
「と言う事で、本命の妹さん。どうなの?」
「…お兄ちゃんのファーストキス?あぁ、私ですよ私」
「彩、ナチュラルに嘘つかないの」
「だってぇ……私、まだ認めて無いもん…あんなの事故だってばぁ…」
「そうだな…認知されなければ、それは事実と成り得ない…」
「由美ちゃんまで何言ってんだか…」
お昼休みの僅かな時間を使い、三木健は生徒会室へお邪魔して三人の証人へそれぞれ話を伺っていた。
だが、彼女達は確たる情報を落とさず、寧ろ事実を捻じ曲げんばかりの発言を連発させ、三木健を困らせていた。
「ふふ、ですから僕は認めてるじゃないですか」
真也は薄い微笑を見せ、生徒会室のソファに倒れている優斗を眺める。
「真也…俺に、その気は無い…ぐふっ…」
因みに、彼は例の写真を知られた挙句彩にボコボコにされたのだ。
「あぁ……昔の私に今の私ぐらい行動力と遠慮の無さがあれば…」
「たはは、自覚してるんだね彩は…」
美玲は彩の言葉に苦笑しつつ、三木健を見る。
「一応、経緯を話そっか!ユウとシンくんって古武術を習ってるのね。あ、シンくんの実家が道場なんだけど…それで、二人が組み手中にもつれ合って勢い余って…って感じみたい。まぁ、事故だね事故。うん、事故!」
「おや、美玲。事故と言う事で終わらせるのは戴けませんね…」
真也と美玲はバチバチと睨み合い、奥では彩と由美香がネガティブに肩を落としていた。
当事者である峰岸優斗は尚も起き上がれずにソファでぐったりしていた。
どうやら、過去の話であっても触れてはイケナイ部分だったらしい。
「まぁ、本人達が認めてるならそうなんだなぁ…う〜ん。じゃ、僕はそろそろ失礼しようかな」
三木健は首を傾げつつも、生徒会室の扉に手を掛けて止まったかと思いきやクルリと振り返った。
「新しい情報や有益な情報は大小関わらずに僕の所までお願いね!…例えば、優斗の今朝の手紙の事とか、ね♪…じゃ、ヨロシク!」
そう言い残し、パタリと閉められた生徒会室に沈黙が訪れたのだった。
どうでも良い情報に思えますが、
後々明かされる事と少しだけ関係が…。
さて、次回はようやく本題の
『三枚目の手紙』の内容と、もう一つ。
お楽しみに。




