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20.庭に咲く一輪の新たな疑惑

20.庭に咲く一輪の新たな疑惑





卒業式後の春休み辺りから準備をして来たオリエンテーションが終わった事で、翌日から生徒会は落ち着きを取り戻した。


今までバタバタと企画案や予算案、先生方との会議や諸々必要となる物の発注などに追われ、休めてなかった。


由美姉や真也、コウジくんとレナさんが主に動いていたので、あくまでもお手伝いの範囲内だったがそれにしても忙しかった…。



授業も本格的に始まり、学業に集中する生徒や部活に燃える生徒、ファンクラブの隆盛を願う生徒など各々青春に真っしぐらであった。


そんな中、軽い(うつ)を発症させた俺は、由美姉へ例の件を真剣に問い詰めるかどうか悩んでいた。


「もう、オリエンテーションから休日挟んで三日経ってるし…ちょっと、時期を(いっ)した感は否めないんだよなぁ…」


休み時間に珍しく一人で、トイレから教室に戻っている途中に小さく呟く。


「一応、脅迫状の差出人もあれから何もアクションを起こして来ないし…同じ様に悩んでるのかなぁ」


なぜか脅迫状の差出人に感情移入してしまう。

…全くベクトルは違うが、どうするべきかを悩んでいるのかもな。



そんな事を考えていると、ふと下駄箱に手紙が入っていた当日の様子を思い出した。


そもそも、あの日はオリエンテーション間近にも関わらず、生徒会の集まりは由美姉が突然無しにした筈。


だからこそ真也とそのまま下駄箱へと向かって帰ろうとしたんだ。


「ラブレターを出した後だったから…とか?」


…でも、内容も踏まえて考えると由美姉が出した事自体に強い違和感があるんだ。


どうしても、あの校舎裏西側の用具室前が引っかかる。



「やっぱり…話すべきか…」


ラブレターの本物の差出人なのか?

もし乗っ取ったのなら、なぜそんな事をしたのか?

脅迫状の『前』に出したのか、『後』に出したのか?


聞かなければならない。


出来れば、他の幼馴染達が知らない所で聞く必要がある。


もし由美姉の行動に納得がいかない人物がいた場合、今の関係がどう変化するか分からないから。


…そもそも、俺が納得いって無いんだけどな。


一人、覚悟を決めた。



ドンッ。


「…っ!?」

「…!」


考え事をして歩いていたからか、前から来た女生徒とぶつかってしまった。


「あの、ごめん!考え事してた!」


女生徒はフラッとよろめいた後に、こちらをチラリと見ると口角を上げた。


黒髪を腰程まで長く伸ばし、前髪も長めに伸ばしている事から目元をハッキリと視認出来ず表情が分かりにくい。


制服のタイの色が一緒な事で同学年だと分かった。


「気を付けた方が良いですよ、峰岸さん」


「あぁ、本当にごめん!気を付けるよ」


俺の言葉を聞き、その場でくるりと振り返ると、また前を向いて歩き出す女生徒。


見た事無い子だったな。

どこのクラスの……。


「俺の名前…。…知ってるんだ…」


唐突に疑問を抱き、後を追いかけようか迷ったが立ち止まる。


俺は生徒会に出入りしてるし、名前ぐらい知っててもおかしくは無いか…。


ましてや、俺は男子生徒に目の敵にされて頻繁(ひんぱん)に名前を呼ばれている。


よく考えたら、俺は犯人に一方的に知られている。だが、俺は僅かな手掛かりしか無い。


女生徒なんて、校舎に幾らでもいる。


身近な人間に疑いを掛けてる場合か?


頭がおかしくなりそうだ…。



でも…。

いつまでもモヤモヤしたままではいられない。


そう思い直し、由美姉にメッセージを送る。


『二人で話がしたい。放課後、時間貰える?』


ヒュポッ。


直ぐに返信が返って来る。


『分かった。では、校門で』


「よし」


スマホをポケットにしまい、教室へ戻る。




放課後。


HRを終え、美玲と真也に「先に帰る」と言って教室を出ると校門に急ぐ。


てっきり先に着いたと思ったのに、そこには既に由美姉がいた。


「あれ?早かったね由美姉。結構急いで来たんだけど」


「あぁ、3年の教室は一階だろう。HRも存外に早く終わったのでな」


「そっか。じゃあ、行こうか由美姉」


「そうだな…私も話す事があったから、丁度良かった」


俺達はそのまま歩き出し、新市街地の方へ向かって行った。



俺達が住むこの街は川を(へだ)てて、旧市街地と新市街地の大きく二つに分かれている。


元々、この周辺に根差していた豪族達の残りが川を隔てつつもいがみ合う事無く平和に暮らしていた。


そこに都市の人間が、近郊にあるこの地域に目を付けたのが影響し、徐々に新住宅地開発化が進み、現在新市街地として栄える所に大きな顔をして居座り始めたのだ。


私立相城高校が私設されたのもその頃の事らしい。昔の事なので、深くは知らないが…。


そうして、元々住んでいた地元民達も地上げなどにより川の向こうに追いやられる様に旧市街地に(まとま)って住み始める様になり、現在に至る。


なので俺達はどちらかと言うと旧市街地側の人間ではあるのだが、父さんが抱えてる数々のお店も新市街地の繁華街にある事から、現在では友好的な関係に落ち着いているらしい。


一部の地主達は遺恨がある様だが…。



俺達は街の繁華街にあるお洒落な雰囲気の喫茶店『Garden』へ入り込む。

父さんが経営してるお店の一つだ。


カランコロン。


「いらっしゃいませ。…おや、優斗くんに由美ちゃんか!奥の席にするかい?」


「ありがとうございます、神保(じんぼ)さん。ブレンドをお願いします」

「ふふ、お久しぶりです。私はロイヤルミルクティーで」



ナイスミドルな『Garden』の店長、神保さん。

いつもコーヒーを無料で出してくれる。


お会計する時、いつも「社長から言われてるし、気にしなくて大丈夫」と言われるので甘えさせて頂いてる。


ただ頻繁に通い詰めると迷惑なので、たまに落ち着きたい時なんかに利用させて貰ってるのだ。


店内の混み具合は半分程と言った具合で、お客さんは皆小説を読んだりタブレット端末を(いじ)ったりと様々。



奥の席。

一番人目に付かず落ち着ける空間だ。

丸テーブルを挟み、一人掛けの重厚なソファ席が二席。


俺達は無言で座る。


神保さんが来て、ブレンドコーヒーとロイヤルミルクティーをテーブルに置く。


俺達の空気感を察してか何も言わずに、柔らかく微笑んで戻って行った。



「さて、では話を聞こうか」


由美姉がロイヤルミルクティーに砂糖を加え掻き混ぜると、こちらを真っ直ぐ見て言った。


「うん。…由美姉、前にラブレターを出したって言ったよね?だけど、違うんじゃ無いかなって思って、真実を教えて欲しくて」


俺の言葉にピクリと反応する由美姉。


「…どうしてそう思ったんだ?」


「書いてあった内容だよ。待ち合わせの場所、校舎裏西側の用具室前…放課後に部活動のランニングコースになるのを知ってる筈なのに、そこへ呼び出すのはおかしいと思ったんだ」


ニヤリと微笑む由美姉。


「生徒達にも知って欲しかったんだ。優斗との関係を明らかにして、公然の付き合いになれば邪魔立てする者は居なくなるからな」


「…本当に?」


そう言うと由美姉は少し物憂げな表情で俺を見た。


「優斗への想いは本物だ…」


「由美姉…」


俺は由美姉の言葉に頭をフル回転させ、矛盾が無いか考える。

…本当にラブレターの差出人は由美姉なのか?


だとしたら………っ!?


「…由美姉、やっぱりおかしい。だとしたら、何で来なかったの?」


「…………」


俺の言葉に沈黙で返す由美姉。


「突然用が出来てな」


「生徒会の集まりを突然無しにしたのは?それが理由?」


その言葉に由美姉は、どこか自虐的な笑みを浮かべた。



「由美姉!」


「ふふふ……ふはははは…」


由美姉が静かに震え出し、ゆっくりと笑い出したかと思えば、苦しげな表情で視線を逸らす。

そして、(おもむろ)に話し出した。


「確かに、ラブレターを出したのは私では無い。…出した人物を名乗ったのは、優斗がこれ以上『本物の差出人の事を考えない様に』と魔が差してしまっての事だ…」


「どうして…」


「妬いていたのだよ…。そして(みにく)くも、まだ私は優斗に嫌われたくないと思ってしまっている。ラブレターを出したと偽ったが、優斗を想う気持ちは本物だ…」


「由美姉…」


「私からも話があると言ったな。どうするべきか悩んだが、優斗には共有すべきだと思い、打ち明ける事にする」


「………」


「ある確証を持てなかったから皆の前で話さなかったが、私はあの時優斗の下駄箱の前にいた人物を目撃している」


「っ!?」


「霧谷嬢だ」


「まさか…と言う事は…」


「待て、優斗。ここからが本題だ。…気になった私は下駄箱を開けて確認した。そこには、『二枚のラブレター』が置かれてあったんだ」


「な、何だって…」


「初めは二枚のラブレターに動揺し、優斗の様子を見なければと生徒会の集まりを取り止めた。そして翌日、実はラブレターと脅迫状の二枚だった事が発覚した。…そう。確証が持てずにいたのは、『脅迫状の犯人』なのか『ラブレターの差出人』なのか分からなかった事だ。これが不明なまま、皆に霧谷嬢への疑いを掛けて欲しく無くて話さずにいたのだ」


「…だが、状況証拠的には直前に下駄箱に触れているのは『霧谷嬢が最後』だ。これを聞いた優斗にとって、霧谷嬢は信頼に値する人物であると言えるか?」


「そんな…まさか…霧谷さんが…」


明らかに狼狽(ろうばい)する俺を見つつ、更に話を続ける由美姉。


「……ただ、あくまで可能性の話だが…。霧谷嬢はあの通り奥ゆかしい女生徒だ。もし下駄箱に『先客』のラブレターが1枚置かれてたとして、そのまま上に重ねる様な事をもしかしたら良しとしないかもしれない。その場合、自らのラブレターを下に差し込んだ可能性もある」


「…………」


「あくまで可能性の話なので、本人に直接聞くのが一番早いと思うがな」



由美姉は話し終えると、スクッと立ち上がり俺に頭を深々と下げた。


「優斗…。すまなかった。魔が差したとは言え、優斗の信頼を(いちじる)しく汚す様な事であり、迷わせる発言だった」


「由美姉。俺に謝らないでよ…」


「そう…だな。本物の差出人が分かったら、謝らねばならない」


「うん。………ふぅ。でも、話してくれて良かった。お陰でやる事がハッキリした」


「あぁ、後は霧谷嬢次第だ」



由美姉はそう言うと、スマホの振動に気付いて画面を覗く。

「ふふ」と微笑むと俺に見える様に画面を向ける。


『由美姉!!お兄ちゃんをどこに連れ去ったの!!遊びに行くなら私も行くーー!!』


我が妹による兄への束縛メッセージだった。


俺のスマホを確認すると、彩からのメッセージで溢れており、俺と由美姉は二人顔を見合わせると同時に吹き出した。


「二人きりになるのは難しいものだな、優斗」


「そうだね、また今度時間を取ろう」


「そ、そうか…それは、楽しみにしておこう」


照れた表情で俯き、こちらをチラリと見やる由美姉。


これからも信頼したい。


幼馴染達を大切にする。


改めてそう誓った。



俺達は『Garden』から出ると、見透かした様なタイミングで彩が抱き着いて来た。


「確保!お兄ちゃんを確保しました!シンちゃん!…いや!巡査部長!」


その背後を覗くと苦笑しながらこちらに歩み寄る真也と真帆ちゃんの姿。


どうやら美玲はバスケ部に行ってる様だ。


「あのなぁ、由美姉と話してただけだろうが…」


「そうだ彩、たまには良いだろう?」


「あ、由美姉は逮捕です。16時22分現行犯逮捕。被疑者を拘置所に移送します」


由美姉は苦笑しつつ、冗談めかして両腕を彩に突き出した。


そんな中。

そう言えば、明日から健康診断と身体測定だったなぁと一人で考えていた。


ただでさえ甘いロイヤルミルクティーに

更に加糖する甘党の幼馴染姉。

他にもマヨラーだったりケチャラーなど

様々な種類の派閥がありますが、

何でも程々が一番です。


次回は健康診断と身体測定。

お楽しみに。


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