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2.帰宅、考察、家族ラブ

2.帰宅、考察、家族ラブ



「何なんだろうなぁ…一体。やっぱ悪戯とかかなぁ」


一応背後に気を付けながら早歩きで家に帰り、直ぐに自室へ(こも)って先程までの事を思い返していた。


初めてラブレターを貰ったかと思いきや、まさか2枚もあって喜んだのも束の間、本物1枚、脅迫状1枚なんて…。


「よくよく考えてみりゃ、こっちだって本物かどうかも疑わしいよなぁ…」



そう。

ラブレターに書いてあった内容と状況に関して、少し疑問に思ったことがある。


『今日の放課後、校舎裏西側の用具室前』


呼び出した場所と期日が、何故か2枚とも同じだった事。

そして、脅迫状をわざわざ本物のラブレターの上に重ねたと言う状況だ。



当然、実際の現場となる校舎裏西側、用具室前に行ったのかと言う話になるが、行った。

いや、正確には遠巻きに覗きに行った。


するとどうだ。


放課後のその場所は、大半の運動部の校舎外周ランニングコースに該当しており、人目に付きやすいなんて物じゃなく、告白なんてしていたら翌日、学校中の噂になる事間違い無しだった。


ましてや、そんな所で殺害が行われてみろ。

当日その場で現行犯だ。


当然、その場にそれらしい人物はおらず、首を傾げながら帰宅した次第であった。


下駄箱にてラブレターを確認して、死ぬかもしれない恐怖との葛藤に打ち震え、それでも決意に燃え、いざ行かんと教室のドアを勢いよく開けた、あの頃の俺の気持ちをどうか察して欲しい。



恐らくこの子達は、十分にロケハンもせずにチラッと見て良いと思ったんだろう。


良いか?一つだけ覚えておけ。


折角ラブレターを出すなら、思い出に残る様な場所に呼んで、男の理想を(くすぐ)る様な告白をしてくれ。


例え、タイプの子だろうが、学園のアイドルだろうが、思わず断ってしまう事が万に一つでもあるかもしれない。

それぐらい、場所と状況は大事だ。


そして、もう1人のお前。

殺すならせめて人目には付かない場所を選べ。俺も殺されるのは初めてで、恥ずかしいんだ。



「お兄ぃちゃ〜ん??帰ってたの〜??」


そんな下らない事を考え始めた時、階下から妹の声が聞こえた。


「おーう。今更だけど、ただいまー」


「ちょっとー!なにそれー!」


ドタバタと階段を上がる音が聞こえる。

そんな気配を察して、慌ててラブレターと脅迫状を机の引き出しの中に突っ込む。



「お兄ちゃん!帰ったらちゃんと顔見せて、ただいまって言ってよね!」


「お、おう。ごめんごめん」


勢いよく部屋に侵入し、俺の前にぐいっと顔を近付けて来たのは、妹の峰岸(みねぎし) (あや)。可愛らしいピンク色のニットのワンピース一枚で登場。


ゆるふわパーマのウェーブがかった綺麗な黒髪から、清潔感のある甘い香りがする。


自他共に、兄である俺ですら認める程の超絶ブラコンの妹。詳しくは義妹。



俺がまだ小学校3年生ぐらいの頃だったか、戸籍上家族の一覧に母と妹が増えて、その2年後には歳の離れた弟まで出来たもんだから、当時は色々と気持ちの整理が大変だった。


元々、物心つく頃には彩と母さんは家に出入りしてて、顔見知りどころか(ほとん)ど家族同然の生活をしていたので、正直凄く嬉しかったのを覚えている。


彩の手を取り、公園に遊びに行ったり、ままごとに付き合ったりと、何でも仲良く一緒にして来た。


その為か、今でも変わらず仲良くしている。


ただ、お互いが血の繋がりが無い事を認識している事で、家族とは言え男女の関係としてかなり距離が近い。


例えば、一緒にお風呂に入ろうとか、寝れないから一緒に…。


「もうっ…おかえり、お兄ちゃん。…ちゅ」


危ねぇい!

こんな事日常茶飯事なので、口で直接受け止め無い様に、顔を鼻先三寸の位置でズラして避ける。…が、彩はそれも見切ったとばかりに、丁度ズレた分だけズラしてくる。


…た、戦いの中で、成長している!?


「ん、んむぅ…おい、彩、こら止めなさい」


「なんでぇ?…したくなっちゃう?」


「何の事か知らんが、お兄ちゃんは妹には屈しません」


「お兄ちゃん、そろそろ私、身籠(みごも)ってもおかしく無いと思うんだよね」


「ていっ」


「あいたっ!?」


自らのお腹を愛おしそうに(さす)り、真剣に見つめて来る妹の頭にチョップをかまして、その場に正座させる。


「俺が、いつ、どこで妹に手を出した!?」


「今まさに傷モノにしてるじゃーん!!」


「紛らわしい言い方をするなっ!ご近所さんから冷たい目で見られるだろ!こら」


「近所の奥さん方は皆応援してくれてるもん!!あとシンちゃんの所は当然だけど、他にも皆応援してくれてるんだよ!?」


「布教活動実り過ぎかよっ!外堀ガチガチ過ぎてお堀に鯉まで泳いじゃってるじゃねーか!?怖いわ!」


シンちゃんとは真也の家であり、幼馴染故に歩いて数秒の所。

そうか、葛木家も抱き込んでやがるのか…。


「お母さんも、妹は古くからお兄ちゃんのモノだものね?って言ってたし、お父さんも結婚式はタキシードが男前だよなぁって言ってたもん!」


「順調に式まで漕ぎ着けてんじゃねぇよ!?そんで、相変わらず無責任な親達だなぁ!」


「んもう!とにかく、お兄ちゃんは私だけ見てれば良いんだよぉ…」



上目遣いでこちらを見て、儚げな女子を演出中の彩。危ない危ない。

ここで気を許すと後が怖い。


油断すると俺の不名誉なステータスである所の童貞が、消え去ってしまう恐れがある。


一見喜ばしい事だが、その代わりに近親相姦と言う恐ろしい四文字がステータスへ新しく追加されてしまう。


俺の輝かしい経歴に深い傷が付く。

将来結婚する相手に何と申し開きすれば良いんだ。

初めての相手は妹でした。

ふふ。アホか。


言わなきゃ良い。バレない。

なんて、ノンノン。甘いね。


それこそウチの妹が、俺の結婚最大の障壁として立ち塞がってる以上、そんな美味しい破局材料を持て余すなんて有り得ない。


確実に、そして一番効力を発揮する場面でジョーカーを切って来るのは目に見えてる。


つまり、彩と関係を持ったら即終了。

俺の人生ルートは彩と結婚する。に限定されるのだ。



Q.義妹なんだから別に結婚しても問題無いのでは無いか?


あぁ、いるよねこう言う奴。

それ、俺がどれだけ彩を愛してるか、分かった上で聞いてますか?と問いたい。


俺は彩を愛してる。

誰よりも深く愛してる自信がある。

…が、それはあくまでも妹として。


俺は、倫理観の上に座布団を敷いて胡座(あぐら)をかいて生活していると言っても過言では無い。


貫くべきは家族愛であり、それ以上、(がん)として一歩もここから動くつもりは無い。譲るつもりも無い。と言う事です、はい。


お分かり頂けたら幸いです。

ありがとう。



「何が?お兄ちゃん童貞じゃないよ?」



ピシッと、

何かが割れた音が聞こえる。

物理的な物では無く、俺の中の倫理観が。

あと彩、勝手にモノローグに入って来るな!


「あの、彩、それは…どういう?」


「私この前、お兄ちゃんの童貞奪って置いたからー」


「俺の貞操、アイス勝手に食べちゃったー。みたいなテンションで取らないでぇ!?」



ジトーっとした目で、口元はニヤリと勝ち誇った顔の彩。


「冗談だけど。今お兄ちゃん、意識が無かった事を悔やんでるでしょ?その時点でお察しだよね」


ぐっ…がっ…。

男の本能なんだ…。許してくれ。


俺の預かり知らぬ所で、息子が良い思いをしたと後から知ったらそりゃもう(かつ)でしょう。


彩はニンマリと口角を(ゆが)ませつつ、ぐうの音も出ない俺の手を取り、ベッドへ(いざ)なう。そして、俺を引き寄せて耳元で(つぶや)いた。


「…絶対、キモチイイよ?」


コイツは、男のツボを熟知している。

魔性の女だ。


「ふんっぬ!!」


だからこそ俺は、喜んでガッツポーズしてる息子に叱咤激励の意味を込めてゲンコツを喰らわせてやった。


そこで俺の意識は一旦途絶えた。




蛍光灯の(まばゆ)さに目を背ける。

時刻は19時半。

あれから少し時間が経ったんだろう。


ベッドから起き上がると、全裸の俺と彩。

とりあえず、腹減ったし何か食べるか。


ベッド傍に適当に脱ぎ捨てられた衣服を身にまとい、あくびを一つして自室から出る。


スンスンと匂いを嗅ぎながら階段を降りて行くと、一階リビングの方から良い匂いが漂って来ていた。

今日の夕飯が出来てるんだろう。



「母さん…夕飯は?」


リビングに入って直ぐにテーブルに目を向けるが、まだ配膳されていない。ソファで父さんが横になってテレビを見ている。


「あらあら、…ユウさん凄い事に…」


キッチンから母さんが振り返り、俺を見ると、何故か頬を赤く染めていた。何だ?


「にいたん、あやたんみたい‼︎」


まだ寝ぼけ眼であるが、愛しのプリティ坊や、葉たんが目をキラキラ輝かせながら近寄って来たのが見える。

峰岸(みねぎし) 葉汰(ようた)

俺にとって歳の離れた弟であり、父と母の両方の血を通わせた子で、幼稚園の年長さん。


で?何がなんだって?


ソファの方で横になっていた父さんが、スクっと立ち上がり、近付いて来たかと思ったら、俺の肩にポンっと手を置いて言った。


「俺だけは受け入れてやるよ。ただ、まぁ里穂は許してやってくれ…。これは時間がかかる問題だからなぁ…」



カチャリとリビングのドアが開いた。


「お兄ちゃん!!服の上にブラ!私の!」


「おん?」


「寝ぼけてブラに腕通すのは千歩譲ってようやく分かるけど!ホックかけるのは着けた経験が物を言うよね!?あと、起きた時リアクション全く無いし何なの!?隣で全裸待機の私、脱ぎ損だよっ!」




我が家の可愛い怪獣が、火を吹き、おかんむりで暫く夕飯はお預けだった。


俺はスウェットの上に、何故か彩の勝負下着の一軍ブラジャーを身に(まと)った姿で、リビングに登場していたらしい。

レースの縫製(ほうせい)が細かく成されたピンクのラグジュアリーブラジャー。チラチラと見て来る母さんの顔が頭から離れない。


極度の緊張の後は、度が外れた緩和(かんわ)が来るのだ。後学の為に覚えて置いた方が良い。

…失敗せずに済む。


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