18.井戸から這い寄るモノ
18.井戸から這い寄るモノ
グラウンドの芝生が生え揃った場所に設営された本部へ到着すると、由美姉とレナさんはいたものの、美玲の姿が無かった。
「あれ?美玲はどこに行ったの?由美姉」
「ふむ。『本部にいても暇だから私も見回って来る!』と云う事だったので、交代の意味も込めて優斗に本部へ来て貰った」
由美姉は気怠げに、資料をペラペラと捲りつつ、こちらへ視線を寄越した。
隣ではレナさんがスマホを高速で弄り回している。
「何も問題は無さそうか?」
「まぁね、全然問題は無いと思うよ。皆も楽しそうにしてるしさ。俺達が暇なのを除けば、成功なんじゃない?」
俺は皮肉を込めて由美姉に言う。
…なぜか口が悪くなる。
さっき迄考えていた事のせいだ。
由美姉へ僅かに芽生えた不信感が、俺に要らぬ言い回しをさせる。
「トラブルが起きない様、事前にあれこれと会議を重ねて詰めている以上、余程の事が無い限り暇な物だ。それに…運営の手が足りない程忙しい方が、企画としては不味いだろう」
「会長は分かって無いねぇ〜。優斗くんはこう言いたい訳。『暇だから俺とイチャイチャしようぜ由美姉…』ってねん♪」
レナさんはスマホを弄る手を止め、こちらへニヤリと口元を歪ませつつそう言った。
「なんと…そうだったのか。気付いてやれずすまないな優斗。だが…むむ、どうすれば良いものか…」
由美姉がそれを真面目に受け取り、表情豊かに慌てて考え出した。
「会・長!私は前から、会長の武器はそのお尻と脚線美にあると思ってムフフと覗いて来たのだよん♪つまり!肩車だよ!肩車♪」
レナさんがおかしな事を口走っている。
…は?肩車?
俺は冷たい目で二人の様子を窺うが、レナさんの暴走は止まらない。
「普通はここで膝枕だ!とかって言うんだけど、それだとありきたり過ぎてツマラナイじゃない!?さぁ!会長!さぁ!」
レナさんが熱い目で由美姉の目を見つめ、その手を握る。
「…あの、そろそろツッコんで良いすか」
「ハッ!!……駄目、私はコウジくんという大事な人がいるから…突っ込むなら会長に」
「おい、セクハラギャル。そこまでにしておけ」
「いやぁ〜〜ん♪助けてぇぇえん♪」
「変な声出してクネクネすんなぁ!それと、コウジくんは別にレナさんの事好きな訳じゃ無いですからね!?」
「ちょっ!?優斗くん!!それは…デリケートなトコっしょ!?馬鹿!アホ!この変態!近親相姦アニキ!」
「あったまキタァァァア!ゴルゥァア!!言ってはならない言葉を言いやがったなぁぁあ!それを避けて生きて来た俺に向かって…このアマァァア!!先輩だからって絶対許さねぇぇえからなぁぁあ!!」
「いやぁぁあああ!!優斗くんが怒ったぁぁあああ!!会長頼んだかんねぇぇええ!!」
「ふしゅぅうう!!………ぅぐ…っぅうぅぅ」
脱兎の如く本部から逃げ出し、どこかへ走り去って行くレナさんを追い掛け様とするも、由美姉の手により襟首を掴まれその場で悶絶する。
「由美姉ぇぇ……俺、ゆるぜねぇよぉぉ」
「うん、まぁ落ち着け」
由美姉は去って行ったレナさんの方へ視線をやると、苦笑いを一つしてこちらを見やる。
「肩車……してみるか?」
「……ぅぅ、うう………へ?」
尚も悔しがる俺だったが、嘘みたいな本当の事が起きそうになり思わず固まる。
…遂に、由美姉までおかしくなったのか。
「あの…あれだ!そう!テントの上部の部分が少し破れていた様に見えたんだ、うん!良く見て確認せねば!」
「由美姉、別に…無理して理由付けして律儀にやらなくても良いと思うよ?」
急に冷静になった俺は、顔を赤らめたまま手で扇ぎ出した由美姉を諭す。
「たまには…良いでは無いか!いつも、彩に引っ付かれてるだろうに」
「分かった…分かったからそんな露骨なへの字口ヤメてよね」
急に拗ね出した由美姉のご機嫌取りに取り敢えずやってみる事にした。
「そうだ、丁度ブルマがある」
「は?何どしたの、急に?」
「いやぁ実は、生徒会の意見箱に女子の体操着をブルマにとの申し出があったのでサンプルを取り寄せたんだ…何かの機会にと思ってたんだが…今がその機会だったか」
「怒涛の展開過ぎて、俺ついていけないんだけど…」
足元の段ボールをゴソゴソし出すと、本当にブルマを取り出した由美姉。
「…着た事が無い物を鼻から否定したく無くてな。いずれ試しにと思っていたんだ。…優斗も、どうせならこっちの方が良いだろう?」
ゴクリと生唾を飲む。
いや、やっぱ辞めた方が良いかも…なんて、心では否定しつつ、最早過去の遺物となったブルマ姿。
…正直見てみたい。
「そう…か、では待ってろ…」
由美姉は俺の反応を見て緊張しながら背中を向けると、制服のスカートの下からブルマを履こうと脚を通した。
そして、履いたのを自らしっかり確認すると、カチリとスカートのホックを外し、ジジジとファスナーを下ろした。
重力によって芝生に落ちるスカート。
目の前に、上半身制服姿の謎のブルマ女が降臨した。
由美姉は顔だけこちらに向けながらも、恥ずかしそうに身体を抱く様にしていた。
形の良いお尻と脚の先までスラリと伸びる脚線美に思わず目を奪われる。
…レナさん。あんた間違って無いよ…。
「…ど、どうだろうか?」
「あの…はい…凄く…うん、良い…かな?」
最大限に動揺し、互いに緊張し始める。
…おい、何だこの圧倒的な変態空間は。
誰かツッコんでくれないと終われないよ、もう!
「では、優斗…。しゃがんで此方に頭を通してくれるか?」
「お、おう…」
ブルマ姿の由美姉がテントの外へ出たかと思えば、目の前で脚を開いて待ち始めた。
ふと、微かに震えているのに気付く。
急に冷静になり、後ろから軽く肩を叩いた。
「由美姉…やっぱ辞めようよ」
「……?な、何だ?どうした…?」
「由美姉震えてるんだもん…」
俺がそう言うと、更にカッと顔を赤らめた由美姉が反論して来る。
「あぁ!震えてるさ!でも、此処でやらずに居た方がもっと後悔するんだ!さぁ!覚悟は決まった…来い、優斗」
由美姉が涙目になりつつも、俺に覚悟を示して見せた。
…ふぅ、変に真面目なんだからなぁ。
今更自分だけ降りるのも無粋な気がして、憚る気持ちを吹っ切ってやってみる事にした。
「よし、分かった!ならサッサとやるよ!…っと!ホラっ!」
由美姉の脚の間から顔を出して、太腿に手を掛けてグンッと持ち上げる。
…随分軽いなぁ。
「ぉあ!?っ……ふぁ…ゆ、優斗ぉ」
むにゅりと俺の顔が柔らかい太腿に挟まれる。
由美姉は急に持ち上げられてビックリしたのか、無意識に脚を閉じる動作をして俺の顔面を見事に挟み込んだ。
「軽いなぁ!由美姉は!ははは!」
笑って誤魔化す。
…確信する。今、凄くニヤけてる。
「…そう…か。…って…こんなに高いのか!…やはり優斗の身長で肩車は壮観だなぁ!確か180cmはあったか?」
「ううん。180cmには届かないぐらいだから、本音はもう少し欲しいんだよね」
由美姉も始めは顔を赤らめていたが、肩車の目線のあまりの高さに感動していた。
「ご満足頂けたかな?由美姉」
「ふん、一番満足してるのはお前だろ…この」
由美姉はやはり顔を赤らめて俺の頭をぽかりと優しく叩いた。
「さて、それでは優斗でも届かない場所を確認して置こう」
「あぁ、それは本当にするのね」
由美姉は身体を軽く揺らしつつ、動く様にと指示を出す為にテントの上部を指で差し示した。
改めてテントに近付くと、急に由美姉の身体がビクリと反応する。
「イヤッ!?…ぉぁ…っ…く、蜘蛛ぉ!」
「ちょ、ま…危ないっ……由美姉!」
俺の肩の上で暴れる由美姉。
俺が動かないからか虫から逃れる為に、バランスを崩しつつも俺の顔を起点に下半身をぐるりと入れ替え、テントにいた虫に背を向けて俺の頭に抱きつく様な格好になった。
だが、由美姉の大事な部分が丁度、俺の顔面に来てしまった。
…ヤバい。意識を失いそう。
「ちょ!ゃ、ちょ、ま、ちょっと!待った!」
あまりにも不味い体勢に気付いたのか、恥ずかしがって身をばたつかせる由美姉。
熱を帯びた太腿から股関節、そして目の前一杯に広がる宇宙に顔面が覆われている。
普段から蓋をして動かさない様にしてる俺のスケベ心がチラリと顔を覗かせる。
…とんでも無くスケベな顔をしてやがる。
「い、息が…駄目だ…ゆ、優斗…頼む。許してくれ……はぅ…」
「むが……っぅ……!?」
あからさまに留まる力を失ったのかバランスを崩し、後方へと倒れていく。
ま、まさか…この体勢はッ!?!?
ブルマ姿の幼馴染にプロレス技、奇跡のパワーボムをお見舞いするという、正直何をどう説明すれば良いか分からない事が起こってしまった。
俺の脳内で、喧しくゴングが鳴り響く。
芝生の上だったからまだ意識を失うぐらいで済んだけど…危なかったな。
ぐるぐると目を回しながら大の字で倒れる由美姉。
…うむ、見事なブルマだ。
井戸から這い出てテレビから出掛かる間際のスケベ貞斗を、無理やり押し込め再び蓋を閉める。
「ふぅ。…この風は…どこへ向かうのかな…」
俺は着ていた制服を脱ぐと由美姉に被せて、その場に座りながら風と戯れていた。
…決して立てなかった訳じゃない。
こんなラッキースケベな事がありつつも
幼馴染姉への疑惑は変わらない。
疑心暗鬼の状態へ再度戻るのか、否か。
このままでは信頼している幼馴染達でさえ
信用を置けなくなってしまう。
次回、問い詰めます。




