17. 疑惑と包丁
17. 疑惑と包丁
「対応は?…どうなった?」
真也に保健室から連れ出され、再び眠りについた霧谷さんと別れてから、オリエンテーションの現在の状況について尋ねる。
「先程の騒ぎに関しては、美玲が見事に企画に沿ったフォローをして誤魔化しましたよ。不審に感じてる生徒は恐らくいないのでは無いでしょうか」
「そうか…やってくれたか!」
「…やはり、アレは優斗の発案ですか?」
「いや、特に難しい事を言った訳じゃ無い。全て美玲のお陰だ」
真也は早足で歩きつつ、こちらをチラリと窺い微笑む。
「昨日から、霧谷さんへ不信感を露わにされてましたが、保健室での事から推察すると少し考えを改めたのですか?」
「……あんな事があった翌日だったし、あからさまに疑い過ぎたって反省したんだ。正直、今だって完全には信じられていないよ。結局、幼馴染の皆以外は容疑者だ」
「そう…ですか…」
真也は俺の言葉に少し思案したが、それからは口を噤んでしまった。
俺達が昇降口からグラウンドへ向かう途中、丁度屋上からコウジくんとレナさんが降りて来た所で、合流する。
「優斗、真也!何かあったのか?」
コウジくんが真剣な面持ちで尋ねる。
「詳しくは省きますが、霧谷さんが倒れたので保健室に運んで来た所です」
「そうか…。僕達も今降りて来た所で…っと丁度、会長から連絡だ」
コウジくんがスマホの画面を確認して、着信を受け取る。
「御前ちゃん、大丈夫そう?体調崩しちゃった?」
レナさんが眉を八の字にして心配そうに尋ねる。メイクとカラコンのせいかキラキラと輝いている。
…そう言えば、レナさんは霧谷さんの事を「静御前の御前だけをとって御前ちゃんって呼ぶね♪」とか言っていたな。
「養護の先生の話では、暫く休めば復調するから大丈夫との事で、大事を取ってベッドで休んで貰ってます」
「そかぁ。屋上から見た限りだと何かあったんだろうなぁとしか、思わなかったからさぁ」
霧谷さんが倒れたとあって、いつものおちゃらけた態度を引っ込め、本気で心配している様だった。
コウジくんが通話を終えてスマホをポケットにしまい、俺達をそれぞれ見据える。
「優斗、会長から伝言だ。『先に食堂に行って準備が整っているか様子を見てから敷地内と校舎外の見回りを頼む』だそうだ」
「分かりました。霧谷さんが予定してた食堂の分をフォローしろって事ですね」
「そうだろうな。真也は予定通り本校舎の見回りを、レナは本部で待機。僕は別棟校舎の方を見回って来る。では皆、また後で」
コウジくんは由美姉からの指示を出し終えると、足早に移動して行った。
俺達もそのまま頷き、各々の向かう先へ早足で歩き出した。
近くだった事もあり、直ぐに大食堂へと到着する。
相城高校の大食堂は、『全校生徒が収まる程の大きさ』と『バランスの取れた豪華な食事』を、二大広告としてパンフレットへ掲載している程に充実している。
今回の企画の目玉でもある、相城高校の大食堂でのバイキング形式での食事会。
普段出されている料理よりも更に豪華で種類も豊富となる予定だ。
その上、スペシャル料理まで用意されてる訳だから期待度は高い。
何せここにかなり予算を注ぎ込んだのだ。
と言っても私立高校の為、寄附金などのお陰で予算自体は自由で余裕があるのだが…。
その仕込みの為に、朝早くから多くの人員を割いて準備をしている。
入り口から見ても普段の倍以上の食堂関係者が、右往左往してるのが分かる。
特に問題は無いだろうが、もしトラブルが起きた場合は一気に盛り下がるので、進行上確認は必須である。
近くにいた料理人に呼びかけて食堂責任者を呼んで貰う。
「生徒会の峰岸です。本日はよろしくお願いします。進行に問題は無いですか?」
「ええ、一応予定している12時半前には全て用意は整う手筈になってますね」
「分かりました。それでは、何かトラブルがあった際は必ず本部へ連絡して下さい。よろしくお願いします」
そのまま、場を離れようとすると責任者の方から声を掛けられる。
「あ、そう言えば!昨日の朝から包丁が一丁無くなっているとの事だったので、流石に学校の方へ確認しようかと話があったのですが、今朝確認した所、戻されてました。ウチの料理人が弄ったのか何なのか…それとも、学校の方で何か使用する様な事がありましたか?」
…何だって!?
包丁が一丁…『昨日の朝から今朝まで』無くなっている?
つまり、一昨日の食堂の使用時間までは確認されていた事になる。
…間違い無く、あの包丁だ。
俺を追い詰めた黒いフードの『奴』。
食堂が閉まる時間帯を見計らい包丁を盗み、俺を散々追い回した後、警備員に見つからない様に一度持ち帰り、翌日の同じ時間帯にまた戻したんだ…。
勿論、指紋は残されていないだろう。
言葉を失ってしまった俺を見て首を傾げる責任者の方。
「あぁ、すみませんね…。分からないですよね」
「一応、学校側での使用歴は無い筈です…」
「そうですか…なら備品チェックを徹底させないとなぁ…。すみませんね、引き留めてしまって」
「いえ、確認は大事ですから…ありがとうございます」
少なくとも一つ重要な事が分かった。
非常にありがたい情報だった。
思わぬ所で、犯人に一歩近付けた。
気持ちを切り替えて、そのまま由美姉に電話する。
「もしもし…。食堂は特に問題無しだね。あと霧谷さんの件も含めて、他にもう一つ分かった事があるから後でゆっくり話すよ」
『そうか、分かった。そのまま、見回りの方は頼んだぞ。…ではまた』
「うん、それじゃ…」
スッとスマホをポケットにしまい、辺りに生徒達がいないか確認する。
少し先に一つのグループの生徒達が地図を確認しながら、こちらの方を見て話しているのが見えた。
…上級生が食堂について説明しているんだろうな。
それにしても、こういう企画は当日までが忙しいもので、いざ本番が始まると途端に暇になったりするものだ。
そもそも見回りにしたって、今日は授業も無く、課外授業扱いで先生達が見回りに加わっているので気楽な物だ。
敷地内をふらふらと歩きながら、困ってる生徒グループがいないか探していると、ふと何かに気付いた。
…ここ、例の校舎裏西側の用具室前だ。
改めて辺りを見てみると、外から見られない様に外壁が続き、見晴らしは良く無い。
一見すると、呼び出しの場所としては申し分無い。
だが、放課後になると部活連中のランニングコースへ変わるという罠がある。
…そうだよ。やっぱりおかしい。
「由美姉はこの事を知ってる筈だ…。なのに、この場所を告白の場所として指定するのは…おかしいんだ」
…となると、やはり『差出人の乗っ取り』をしたのか?もしそうだとしたら、何でそんな事を?
分からない。
一瞬の気の迷いからだろうか?
心のどこかで幼馴染である由美姉に、少し不信感が生まれた瞬間だった。
…ピリリリリリリ!!
「…っと、由美姉?……もしもし?」
『今、何処にいる?』
「えっと………校舎裏東の辺り…」
なぜか咄嗟に嘘をついてしまった。
今までこんな事無かったのに…。
『ふむ…。一度、本部の方に来て貰えるか?』
「うん、分かった。直ぐ行くよ…それじゃ」
通話を終えて、一つ嘆息する。
取り敢えず今は切り替える事にしよう。
俺は前を向いて本部へと向かって走り出した。
考察要素として、例の包丁について進展がありましたね。そして、幼馴染による告白にはどんな意図があるのでしょうか。
主人公の心に僅かに芽生えた疑惑の種…。
次回は、そんな渦中の人物である幼馴染姉のお話。
お楽しみに…。




