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16.彼女は主演女優

16.彼女は主演女優





朝。

HR前に簡単に生徒会室へ皆で集まり、最後のミーティングをする。


オリエンテーションの説明は壇上にて由美姉と真也。

コウジくんとレナさんが屋上にて別件を担当。


俺と美玲と霧谷さんはお手伝い役員なのでクラスの列に加わり、程良い所で壇上に呼び出し紹介する流れとなった。


「コウジくん達、屋上で何するんですか?青年の主張的な?」


「んな事するか…ったく」


「あれれ?まだ見てなかった?結構上手く出来たんだよん♪」


「…?何か作ってたんすね」


「なら、後のお楽しみって事で♪」


「そんな引っ張る程の事でも無いがな」


…二人はそれぞれ別件を担当していた筈だけど、何だったんだろ?まぁ、後で分かるか。



HRも終わり、そのまま校舎前のグラウンドに集まる事となった。


「ありー?優斗達もこっちいんのー?」


移動中、将吾が不思議そうに尋ねて来る。


「あぁ、俺達は途中で紹介されて前に行くって感じらしい」


「会長からの熱い呼び出しかー。心踊るねー」


「お前、由美姉派だったっけか?」


「いんやー。俺はねー、無派閥でどことも争わないタイプ。幅広い受け皿に定評がある将吾君だよーん」


結局、変態バカの許容の幅が広いという話に収まり、グラウンドに到着した。



全校生徒総数およそ450名が在籍する私立相城高校の自慢のグラウンドは、トラック競技の大会等にも使用出来る程整備されている。


そんな広々とした空間に全校生徒が集まり、各々クラス毎に並ぶ。


生徒のみならず、教師陣も後ろの方にいるのが見える。



(しばら)くすると、由美姉がマイクを持って壇上へと登壇し近くに真也が控える。


「さて、新入生諸君、並びに在校生の生徒諸君よ。オリエンテーションの時間だ。本日は皆に楽しんで貰える様、生徒会からプレゼントも用意しているので是非楽しんでくれ。それでは、真也、説明の方を頼むぞ」


「ええ、分かりました」


真也が変わりに壇上へ登壇し、由美姉からマイクを受け取ると今回の企画について説明をしだす。



そもそも今回の企画は、校舎内外それぞれ約25ヶ所に用意された宝探しだ。


グループ分けは以下の通りである。


1クラス30人の内、男子3名女子3名の混成6人のグループが計5つ。

1学年につきクラスはA〜Eの計5クラス。

合計25グループ出来る。


各学年のグループを合わせて、18名で1グループの計25グループが出来上がる訳だ。


ただし、運営に回る俺達生徒会メンバーの7人を除外した特設11名のグループが最後の25グループ目となっている。


各グループ毎に違う順路の地図を渡し、校舎内を一周し在校生は新入生へと案内をしつつ交流を深めて貰い最終地点で謎を解き、協力してミッションを成功させるといった内容になっている。


最終地点に用意されたプレゼントは、あくまでも全グループが手に入れられる、食堂での豪華バイキング券である。


では、どこに宝探しとしての旨味があるのか…。


そう…。


敷地内のどこかに散りばめられたスペシャル料理券が隠されているのである。


スペシャル料理の内容は特A5ランクの牛肉や高級天然伊勢海老など普段食べられない様な物ばかりなので、真也が生徒達へ説明する度に歓声が上がる。


(ちな)みにどの順路も本校舎と別棟の校舎等敷地内の施設が全て周れる様になっており、 25グループ分の被らない順路を作り切った時は、流石に横になったものだ。


スペシャル料理券に関しては、昨日話を終えた後に真也と由美姉の手で所定の位置に隠していた。



真也による説明が終わり、またも由美姉が登壇する。

そして、マイクを受け取ると全校生徒に視線を向ける。


「それでは今回の企画名とそれに携わってくれた役員達を紹介しよう!皆、校舎の方を見てくれ!」



校舎の方へ視線を向ける。

屋上の方で二人の人影が見えた。

コウジくんとレナさんだ。


「では、刮目せよ!」



由美姉の合図でコウジくんとレナさんの手により、校舎の屋上からふわりと大きな垂れ幕が降り切ったところで、直ぐ近くの人だかりの中から誰かの絶叫が聴こえた。


「ぃいやぁああああ!!ああああ!!」


ハッとして声のする方へ視線を移すと、ウチのクラスの列で霧谷さんが両耳を手で抑え、膝を地に着け、ポロポロと玉の様な涙を(こぼ)していた。



悲壮(ひそう)に満ちた表情から、映画のフィルムの中へ紛れ込んでしまったかの様な、非現実的な錯覚に(おちい)る。


彼女は、さながら主演女優。


隔絶(かくぜつ)された世界へ、ただ俺達は非日常の空間の中に迷い込んだ強制的なエキストラ。


辺りにいた生徒達がジリジリと彼女から離れてポッカリと円状に空間が出来た事で、まるで広場で高く上がった噴水の様に見えた。


感情が視覚化して湧き出てる。


そう、あれは。


拒絶であり、絶望だ。


なのにその噴水は、


どうしてか綺麗に映った。



ウチのクラスの列で丁度近くにいた俺と美玲は呆然と立ち尽くしていたが、ぐらりと揺れて倒れそうになった彼女へ駆けつけて2人で抱き止める。


意識を失い、完全に脱力状態の彼女の体温はゾッとする程冷えていた。



「どうしたんだ!?一体!」


前の方から由美姉が学生達を押し除けて近づいて来るのが見えた。


「分からないよ……。取り敢えず保健室まで運んでくる!」


「私も行く」


「いや、美玲はこれから起きる混乱を皆で何とかエンタメに昇華して誤魔化してくれ。頼む」


「……そう…だね!分かった!任せて」



美玲は一瞬何の事か分からず思案したが、直ぐに俺の考えを()み取り、大きく頷いた。


「頼んだぞ優斗。…此方は任せろ」


由美姉が俺を信頼し、美玲も傍で心配そうに様子を窺う。

意識を失った霧谷さんを抱き抱え持ち上げる。


周囲の生徒が(にわ)かにざわめき出す。

オリエンテーションが始まる最中(さなか)起きてしまった事だけに、混乱が生じている。


…あとは任せたぞ美玲。


直ぐに近寄って来た養護教諭と共に、保健室に向かった。





〜Another side〜


優斗が霧谷嬢を抱えて保健室へ向かった。

さて、これからこの混乱をどう鎮静化させるか…。


どうするものか思い(あぐ)ねるが、上手い方法が思い付かない。

優斗は去り際、美玲へエンタメに…と云う事を言い残していたが…。あれは一体?



美玲が全校生徒の前にマイクを持って(おど)り出る。


「皆!!!大変だよ!!ウチの生徒会の看板娘になる予定の霧谷静が、この相城高校の呪いの影響で眠り姫になっちゃった!!これから皆には、校舎に眠る謎を解いて眠り姫を起こす手助けをして欲しいんだ!……と言う訳でぇ!『相城高校に眠る謎解き&宝探し大会』始まるよ!」


堂々と『元々予定していた』かの様なエンターテインメントへと見事に昇華していた。



「……何だ。…すげぇ真に迫った感じだったからビックリしたけど、あれ生徒会の演出か…演技上手くね?霧谷さん!」

「だよねだよね!流石霧谷さん!女優って感じー!!」

「おわぁぁあああ!眠り姫とか!謎解きしても起きない彼女をキスして起こす展開じゃねぇーか!」

「…っつーか!またもや優斗あの野郎!お姫様抱っことか羨まし過ぎんだろぉお!!」

「……霧谷さん可愛いし、私も…キスしたい」

「僕は美玲様とキスしたいです!!」


最初に口を開いた生徒を皮切りに、周囲の生徒に段々と伝播(でんぱ)して行く。

一部変な解釈で広がったみたいだが、(おおむ)ね問題は無いだろう。


…良かった。彼女の名誉と尊厳は守られた。


私では、単に(しず)まらせる事は出来ても、霧谷嬢が奇異(きい)の目に(さら)される結末しか考え出せ無かっただろう。


…あぁ、咄嗟(とっさ)にそんな気遣いまで考え()るなんて流石は優斗だ。


そして、そんな優斗の言葉を瞬時に理解して行動に移れる美玲。


もう、昔の臆病で緊張しがちな『みーちゃん』では無い。


羨望(せんぼう)の眼差しを引き受けて堂々と立つその姿は誰よりも美しい。


…妬けるな。


一女性として、幼馴染として。


さて、私は私で新たに出来た騒ぎを鎮めつつエンタメに助力(じょりょく)しようでは無いか。


〜Another side end〜




霧谷さんを保健室に連れて行き、養護教諭の指示の元ベッドへ寝かせる。


養護教諭に話を伺った所、要因となる可能性は疲労の困憊(こんぱい)や緊張による物などが挙げられたが、倒れる前の状況を話すと少し思案した後、詳しくは分からないがと前置きをしつつも話してくれた。


倒れた原因は恐らく、何かしらの心因性のショックに()る物との事だった。


今は昏睡中ではあるが、暫くすればその内に起きるそうだ。



俺は霧谷さんが眠るベッドの傍にある椅子に座り、暫く苦しそうにしている表情を眺めて唇を噛み締めていた。


「………ぅぅ…ぁ……兄様。駄目!…行っちゃ!……ぅ………」


昏睡状態の霧谷さんの譫言(うわごと)が耳に痛い。


「霧谷さん…」


「……ぅ…」


やがてゆっくりと(まぶた)を開ける。


「………あれ?……ここは………峰岸くん?…」


「倒れたんだ。直ぐに気付けたら良かったんだけど…疲れてたのかも」


心因性の物であると言われたが、敢えて()らす様に返答する。


「あぁ………そうでしたか、私は……倒れたんですね。……駄目ですね…どうしても…」


「お水用意したからさ、飲んで」


「ありがとうございます…」


恥ずかしそうに、それでいて(うれ)いを()びた表情でこちらを窺う。


「…お見苦しい姿を、お見せしたかと思います…」


「えっと…何の事かな?」


…本人に自覚があるなら誤魔化しきれないか?


「…良いんです。峰岸くんには…知って欲しいですから」


「霧谷さん…。話せる事なら聞くけど…もし、話せない様なら無理には聞かないよ」


俺がそう言うと、霧谷さんは少し迷ってから(おもむろ)に口を開いた。


「…兄が居るのですが。…昔、病院の屋上から……飛び降り自殺を図った事がありまして…。……その瞬間の事を、思い重ねてしまいました…」


先程の譫言の意味も伝わった。


彼女は哀しき過去を背負い、乗り越えて来たのだ。


「…そっか。…話し辛い事なのに、ありがとう。誰にも言わずに心に思い留めて置くよ」


「…すみません。お心遣い感謝します」


そう言うと上目遣いでこちらを見る霧谷さん。



「その…。ここ迄、峰岸くんが運んでくれたんですか?」


「え?……あぁ、うん。そうだよ」


俺は霧谷さんの弱々しい姿を見て、昨日まで疑っていた自分を少し恥じた。


「…重く無かった…ですか?」


「いや、全く!微塵も!」


「……ぅう。…忘れて下さい…」


反射で答えてしまったからか女性への気遣いに()る返答だと受け取られ、顔を真っ赤にした霧谷さんは毛布を引き寄せて顔を隠して見せた。


…何だこの可愛らしい素敵な人は。



この空気に()(たま)れなくなった俺は立ち上がろうと腰を上げる。


「そろそろ、行くよ。霧谷さんはしっかり休んでて…よ……?」


立ち上がる瞬間、手を握られる。


「……まだ、もう少しだけ…居て頂けませんか?」


尚も顔を隠したまま、目だけをチラリと覗かせて恥ずかしそうに横たわる彼女の姿を見て、迷い無く座った。


「うん、まだ居ようかな…」


暫くして、保健室に真也が迎えに来るまで、ただ無言で手を握り合っていた。


オリエンテーション企画

『相城高校に眠る謎解き&宝探し大会』

始まりました。

今回は色々とキャラクターの魅力が詰まった回になってるかと思います。


ただ、まだ4月。

登場キャラの紹介から、根幹部分に関わる話の前後日はしっかり描かないとな…と思いながらも、日にちの密度が凄い。名探偵コ○ンの1日みたいですね。


ここさえ抜ければ…後はイベント毎に話を集約して日にちがドンドン進んで行く予定です。


それでは、次回もオリエンテーションの話ですが…。

色々と見えて来る部分が発覚します。

さて、次回も是非宜しくお願い致します。

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