15.あなたと見る夕景色
15.あなたと見る夕景色
「さて、それでは彩も起きた所で明日のオリエンテーション企画について再度確認だが…」
由美姉は彩が起きたのを確認すると簡単に説明を始めた。
「今日、三年生の力添えにより、校内に仕掛けは全て施した。故に、今日は基本的に大人数でやる事は無い。細々とした事務作業があるぐらいだ」
そこまで言い切ると、由美姉はコウジくんとレナさんに視線を送る。
「と云う訳だ、ここ数日働き通しだった二人には明日の運営に備えて英気を養って貰おう。あとは我々がやっておくので、今日の所は帰って構わない」
「会長、僕達は疲れてねーぞ」
「コウジ、頼む」
由美姉の言葉にレナさんがピクリと反応する。
「コウジくん、帰ろ♪会長が折角デートして来て良いよって言ってくれてるんだから!」
「な!?レナ、何をどう解釈したらそんな事に!」
レナさんは俺達にそれぞれ視線を向けると、ニコリと笑ってコウジくんの腕に抱き着く。
「それじゃあ!また明日、よろしく〜♪」
「レナ!?ちょ…引っ張るな!」
生徒会室のドアがパタリと閉まり、静寂が訪れる。
「霧谷嬢。君にも同じ様に分担出来る仕事は無いんだ。明日の本番に備えてくれ」
「…そうですか、そう云う事であれば本日はお暇させて頂きますね」
霧谷さんは少し寂しげに微笑むと、お迎えを呼んで帰宅した。
「さて、我々だけになった所で…。昨日の優斗の事の顛末を尋ねたいのだが、皆どうだろうか?丁度、先程真帆から連絡もあり、此方に向かっているそうだ。着いたタイミングで話してくれるか?優斗」
由美姉の言葉にピクリと皆一様に反応すると、俺に視線が集まる。
「うん、そうだね。話すよ…全部」
全て話し終えると、皆、先程迄の穏やかな雰囲気から一転して各々、塞ぎ込む様に黙り込んでしまった。
「そうか…。だから、あの時間に電話が…ふむ。私もおかしいと思いながら、何処か危機感が欠如していた。反省しなくてはな…」
由美姉が始めに重い口を開く。
「誰が一体そんな事…何なの?…そっか、私…夜出て行く時…全然気付け無かった…ごめんね。お兄ちゃん…」
彩がスーッと涙を零し、俺を哀しげに見つめる。
「ユウ…。私もあの時、あんなふざけた電話を…ちゃんと、気付いてあげられなかった。……私、一体何してるんだろ……」
美玲は肩を震わせ、隣に座る彩をギュッと抱き締める。
「優斗…。せめて僕だけは一緒に連れて行って欲しかった。…そうしたら、犯人を逃すなんて事無かったのに…必ず見つけましょう」
普段冷静な真也でさえ、瞳に焔が灯った様に鋭い眼光で俺を見つめていた。
「そんな…脅迫状の事も驚きだけど、そんな直接的な事まで…ぅ、怖い……」
真帆ちゃんはぶるっと震えると、美玲の腰に、ひしっと抱き着く。
幼馴染達は皆、真剣に話を聞いてくれた。
話しながら頭の中で整理した事で、昨日まで見えて来なかった鮮明な状況が思い起こされる。
知らないアドレスからの連絡。
スマホの画面に写る女生徒の写真。
到着した時に、既に警備員が来ていた事。
『あれは私』。
刃渡り15cmの包丁。
黒いポリ袋に覆われフードを被った仮面の人物。
二階から瞬時に飛び降りれる程の身体能力。
「調べれば分かる事があるかも…皆にも手伝って欲しい。必ず、犯人を探し出して捕まえよう!」
そう言って、皆に視線を送ると、表情は様々だが皆頷いてくれた。
〜Another side〜
帰り道。
ユウと由美ちゃんが先を歩き、その傍にシンくんと真帆ちゃんが並んで歩く。
その四人を後ろから眺めながら、少し遅れ気味で歩く彩と私。
彩が小声で話し出す。
「由美姉がお兄ちゃんに告白したけど、みーちゃんは…どうするの?」
「分かんない…」
「ふ〜ん。そっかぁ…」
少し間を置き、彩は私の表情をチラリと窺う。
「由美姉は言ったよね。『このままだと誰かに取られる』って…私も、今までとは違うと思うよ」
「……うん」
「みーちゃんは、それでも良いんだ?」
「………」
…私は、まだこの仲良し幼馴染の関係を変えたく無いんだ。
ユウの事が好き。それは昔からそう。
だけど、皆の事も同じくらい好きなんだ。
だから、まだこの関係のまま居たい我儘な私の想い。
どこか空虚な感情で沈黙する。
そんな心ここに在らずな私を、彩は優しげに、そして少しだけ苦しげに見やる。
「よし!私、これからもっとアピールしていくんだ!負けないよ、誰にも。勿論!由美姉にもみーちゃんにもね!」
彩はそんな陰気な空気を振り切る様にタタっと前に駆け出して行く。
走ってユウの背中に抱き着く彩。
私の前に幼馴染の仲間達5人が歩く。
「お兄ちゃ〜ん。今日も一緒に寝ようね〜♪」
「っ!?こら!急に抱き着いて来んな!あと、常に一緒に寝てると誤解される様な言い方をするな!」
「嘘じゃないも〜ん!何度も一緒に寝てるじゃん。…お兄ちゃんが寝た後にだけど」
「彩!それは聞き捨てならない言葉だな!…決めたぞ。優斗!私とも同衾して貰おう!今日!直ぐにでも!」
「同衾って…あのなぁ!そんな事してる訳ねぇだろうが!?」
「おやおや、変なスイッチが入ってしまいましたね。こうなった由美ちゃんは頑として譲りませんよ…ふふ。真帆は混ざらなくて良いのかな?」
「あのねぇ、シン兄…私が立ち向かった所で、あの二人に揉みくちゃにされて丸めて転がされてポイされるのがオチ。…どうせ、私は報われないんだぁ…ふふふふ」
ユウの言葉に幼馴染達が各々反応する。
そんな後ろ姿を何故か遠くに感じられ、ふと急に身を抱くほど強烈な寒気を感じる。
「美玲?どした?」
直ぐ近くに暖かい声を感じる。
顔を上げるといつもの優しい顔と目が合う。
立ち止まった私を気に掛けてくれたんだ。
いつも周りを気にしてくれる。
ぶっきらぼうな言葉でも、ユウの周りには笑顔が絶えない。
…好きだよ。ユウ。大好き。
私の心の深い所にある途轍も無く大きくて純粋な気持ち。
でも言葉には表せない醜い私。
彩や由美ちゃんが羨ましい。
あれだけ真っ直ぐに言葉を届けられる純粋な心が欲しい。私にはきっと無理だ。
「いやぁ、春でも夕方になると肌寒いなぁってね!」
笑って誤魔化す。
いつも冗談混じりになってしまう。
強がって本音を話せない、悪い癖だ。
「何だ寒かったのか、ほれ」
制服の上着を脱ぎ出すと、私の肩にフワリと羽織らせて柔らかく微笑むユウ。
暖かい。
あぁ………どうしようもなく好きなんだ。
涙が出そうな程くらりと来た。
「あったかい…ふふ、ありがとう」
「おう、帰るぞ」
私はユウに恋をしている。
そして、幼馴染の皆が大好き。
私は今までと変わらずこの関係を護り続けるんだ。
今回は主人公の身に起きた恐怖の出来事を幼馴染全員で共有しましたね。
ポイントはその前の三船 麗奈による気遣いですね。
こう云った、場の空気をしっかり読んでくれる方は非常に好感が持てます。
次回は、オリエンテーションに移行して参ります。
そこでもまた一波乱が…。
次回へ続きます。




