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11.疑心暗鬼に囚われた男

11.疑心暗鬼に囚われた男





…ピピピピピ、カチッ。


(ほとん)ど眠れなかった。

(まぶた)を閉じると、あの黒いフードの人物が思い起こされ自然と眼が冴える。


あの後、彩に一緒に寝ようかとも言われたが、流石に遠慮して自室へ戻り、一人考えを巡らせながら何とか残り数時間の睡眠を得ようと努力したが、安らかに眠る事など出来なかった。


今思えば、彩の優しさに溺れてでも、安眠を享受(きょうじゅ)するべきだった。


「…学校に、奴がいるんだよな」


今でも信じられないが、同じ学び舎の下にあんな異常者が共存しているんだ。


もう昨日までの安息の地では無い事だけは確かで、誰を見ても疑って掛かってしまいそうだ。

…信じられるのは、幼馴染の皆だけだ。


「よし」


一呼吸入れて、ベッドから起き上がり制服に着替えて学校へ行く準備をする。


「お兄ちゃ〜ん?起きてる?」


部屋の外から彩の声が聞こえる。


「ああ、起きてるよ彩!」


出来るだけ自然に、そう、不安を気付かれない様に。


カチャリ。


「大丈夫?お兄ちゃん、昨日の夜からの事とか心配だよ…」


「悪かったな、彩。あれだ…たまには、妹に甘えたくなる兄の心境が分かって来てな…ウンウン」


「え!?本当に!?私、大勝利じゃん!!」


「えぇい、抱き着くな!」


彩が朝からMAXテンションで俺に抱き着いて来るが、引き剥がそうと彩の両肩を押し返す。


「お兄ちゃん!何なのその特殊なツンデレは!男のツンデレは扱い難しいよ!」


「良いから、さっさと朝飯食べて学校行くぞー」


結局、腕に抱き着いた彩を引き()る様にして階段を降りてリビングへ入る。


すると、リビングのソファでいつも通りぐだっとしてる父さんが、俺に引っ付いた彩を見てカッと眼を見開き、物申す。


「彩!あんまり優斗に良い思いばかりさせちゃ駄目だぞ!若い内からこんなんだと、歳取った頃に変な自信が付いて歪んだ恋愛しか出来なくなるんだから」


「お兄ちゃんの恋愛は私だけで終わるから大丈夫だもん」


「打ち切り感凄いな俺の恋愛」


「あらあら、二人ともおはようございます」


キッチンから母さんが顔を覗かせ、笑顔で人数分の牛乳をコップに注いでいた。


「にいたん!あやたん!」


はしっ!と俺の足元に、幼稚園の制服姿の葉たんが引っ付く。


「ぼくね、きょうからかけっこがんばるの!みんなよりもね、はやいねっていわれたからもっとがんばるの!」


俺と彩は二人で顔を見合わせると、葉たんを両側から抱き締める。


「あぁぁ、葉たん、頑張れ!俺も清らかで真っ直ぐな男になれる様に頑張るから!」


「うぅぅ、葉たん、好きぃ!可愛いねぇ、食べても良いよねぇ、そうだよねぇ」


「おい!その衝動に心を奪われるな!」


…皆はキュートアグレッションって聞いた事あるかな?調べたら駄目だよ?


家族の暖かみにまたも救われる。

思えば昨晩は異常な出来事だったと、改めて振り返る。



「おい、優斗」


朝のルーティンを全て終え、朝食も食べて弁当を持って外に出る準備が整った俺を呼び止める父さん。


「何があっても、俺達は味方だ」

「……そか」


昨日、警察まで関わる様な大きな心配を掛けた筈の息子に対して責めるでも無く、距離を置くでも無く、全幅の信頼と安心を与えてくれる父さん。


「浮気でもした?…俺、絶対母さんに着くからね」


「おぉぉい!?ちょっと良い事言ってやったんだから素直に受け取れや!あと、浮気なんかする訳ねぇだろぉ!?」


「ははは、分かってるよ、いってきます!…ありがと」


不覚にも少し眼が潤んでしまう。


「幸一さん………浮気と伺いましたが?」


「いや、今のは!優斗が勝手に言った事で!俺は里穂以外、目に入らないからなぁ!!」


「あらあら、葉たん♪お車乗って幼稚園行きましょうね〜」


「里穂ぉ!!誤解だぁぁあ!!」


背後で両親の痴話喧嘩が行われている。

平和な世の中を象徴する会話に、思わず笑みが(こぼ)れる。


「お兄ちゃんも、浮気したら分かってるよね?」

「おい待て、その眼怖いからヤメテ!?あと、浮気って何!彩に関係無いだろ!」



外へ出て直ぐに、真也と真帆ちゃんが待っているのが見えた。俺の明るい表情を汲み取り、安心した様な顔でこちらを見る真也。


「どうやら、一応は大丈夫そうですね」

「ユウ兄、心配してたんだよ」


幼馴染達の皆は、昨日一連の事件が終わった後に、直ぐに駆け付けてくれたものの、精神的に疲弊していた俺は何も説明出来ぬまま、そのまま帰宅して貰ったのだ。

…そりゃ心配させてしまったよな。


「本当にごめん。ちゃんと後で、全部説明するからさ」


一応、脅迫状の事を知っている幼馴染の皆(真帆ちゃんは除く)には、今回の件は明かすつもりだった。


既に皆、脅迫状の内容を知ってしまっている以上、真也にしてもそうだが幼馴染の皆は勘が鋭いので、黙っていてもいずれどんな形でも知られてしまう。

それなら自ら話して、皆で協力して策を練った方が相手にとって脅威になると思ったのだ。


「ええ、分かりました」

「私も!中等部の方で授業終わったら、そっちに行く!…から、うん」


真帆ちゃんが俺の方に身体を乗り出して来るが、俺の隣でニッコリと満面の笑みを溢す彩を見て、スンッと語気が弱まる。


「あーちゃんって(ろく)小姑(こじゅうとめ)にならないよ…絶対」


「何かおっしゃいましたか?真帆さん?」


「ヒィッ!」


「そもそも、この世界線において真帆ちゃんがお兄ちゃんのお嫁さんになる事はありません〜」


「未来は、変えられるんだよ!って…あの、別に、ユウ兄のお嫁さんなんて…私、考えて無いから!」


「なぁんだと!小癪(こしゃく)な!素直に吐けぇい!」


「あーちゃん!手わきわきさせて近付いて来ないで!って…わぁあ!」


「あはははは!ほらぁ、良きかな良きかなぁ」


「きゃぁぁあああ!」


幼馴染グループの愛すべき妹達がキャッキャとコントの様な会話をしてはしゃぐ。

まだまだ俺達はガキなんだとつくづく思う。

こんな何でも無い取り留めもない瞬間に安息を求めて…。


大橋にて美玲と由美姉と合流し、葛木兄妹と同様に後で説明すると言って二人を安心させると更に(かしま)しくなる団体一行。



校舎に近付き、中等部に向かう真帆ちゃんを見送る。

校門へと辿り着くと丁度黒塗りの車が、生徒送迎専用のロータリーへ滑り込む。


中から現れたのは、ド派手なゴスロリファッションの上から制服を羽織った銀髪ツインテールの小さな女の子。

そして同じく銀髪の長髪を(なび)かせ、朝日を浴びて一層輝きを放つスーツ姿の長身の男。


何ともド派手で目立つ二人がこちらを目視で確認するとサササッと近付いて来る。


「グッモニ!!良い朝だね!相変わらず私にとって君は太陽よりも眩しい光を放っているよ由美香!君を見て思わず車から出て来てしまったからね!」


「彩ちゃん!おっはよー♪あ、噂の幼馴染グループの面々って感じかな?と言う事は…この如何(いか)にも女難の相が出てる彼がお兄さんかな??くふふ、確かに…分かるかも」


非常に暑苦しくうざったい挨拶に固まる我々に対して、長髪の男はハッと大袈裟にポーズを取る。


「そうか!リオナは初対面だったか!なら紹介しよう!我がセストラルグループの第二子にして我が妹、リオナ・セストラルだ!そして、君が入学早々仲良くして貰っていると噂の彩ちゃんだな?私が兄のオルト・セストラルだ、宜しく頼むぞ!」


「え?あぁ、まぁ…はい。何か可愛かったから捕まえたみたいな」

‥ポ○モンみたいに言うな。


「と言うかアンタ去年卒業しただろうが」


「おや…何か問題でも?愛しの我が妹の登校と合わせて車に同乗するのが、うん?貴様ぁ…相っ変わらず失礼な男だな」


「オルト様そろそろお時間です」


背後で執事が一礼する。


「…ぐっ。まぁ良い、私も多忙な身。また会いに来るぞ由美香よ!」


バタンと後部座席へ吸い込まれた鬱陶しい銀髪の男。


オルト・セストラル。

日本とカナダのハーフだが日本在住歴=年齢なので、もう日本人と変わらない。

大学へ通いながら、セストラルグループの子会社の社長として日本の経済を動かしている。

セストラルグループとは日本の金融業界にその名を知らしめる銀行の一つを持ち、他にも多々事業を展開しているグループ企業。言ってしまえばオルト・セストラルは御曹司様って事だ。

去年まで相城高校の生徒会長として君臨し、変なカリスマ性を持っていた男である。

由美姉に対し異常な迄の執着を見せ、去年、まだ1年生だった俺と一対一の決闘をした事もある。

非常に厄介な存在だ。


…ウィイイイン。


「峰岸優斗ぉ!!いずれまた貴様に復讐するから待っているのだぞ!!ではリオナ、しっかり励むんだぞ!ハッハッハッハァ!!」


…本当に厄介な存在だ


残された我々一行と、リオナちゃん。

改めて皆で向き直るとリオナちゃんはフゥと息を吐き、モジモジと羽織った制服で我が身を抱く様にして上目遣いでこちらを覗く。


「皆様、どうか兄様を嫌いにならないで下さいね。あれでいて心優しい方なので」


リオナちゃんへの好感度が上がった!

そんなテロップが出そうな程、その言葉と仕草は俺達の心に深く突き刺さった。


「って言えば良かったですかね?アハハ。さ、彩ちゃん!教室行こっ」

「おわぁ、待って待って、リオナちゃん!」


小さくて愛くるしい天使の様なつぶらな眼をした小悪魔だった。


だが何処か憎めないなと皆共感していたと分かるのは、二人で走る後ろ姿を見て微笑みながら皆一様にウンウンと頷いていたからだろうか。



「おはようございます。皆さん、どうかされましたか?」


背後から霧谷さんの声が聞こえた。


ビクッとして振り返る俺を見て不思議そうに首を傾げこちらへと近付く霧谷さん。


スッと無意識に距離を取る。


「…?どうか、されましたか?」


「いや、おはよう…霧谷さん」


「何だか…表情が優れない様ですね。体調が悪いのでしたら、保健室でお休みする事をお勧めしますが…」


霧谷さんは凄く心配した表情でこちらを覗いて来る。

その献身的な態度に、ふと、心が痛む。


「大丈夫!…大丈夫だから」


俺は更に一歩離れる。




『あれは私』


黒板に書かれた文字。

そして、拘束された様に見せ掛けた女生徒の写真。


暗い教室で撮られた随分荒い写真ではあったが、犯人の大体の背格好が想像出来る。


リオナちゃんの様に低身長の子では無い。


2、3年生の女生徒の可能性が高い。


良く考えてみれば、霧谷さんは昨日の放課後、俺に話があると二人きりになろうとしていた。あれはまさか…本当はその時に…。


幼馴染以外、信用は出来ない。

…たとえ誰であっても。


「そう…ですか。…では、先に教室へ向かってますね」


不安気な表情で少し思案したが、俺達を追い越して下駄箱へと向かう。

精神的にも非常に心苦しいが、仕方が無い。


「では、我々も行こうか」


由美姉の言葉に俺達も校舎内へと歩みを進める。


疑心暗鬼、恐ろしい精神状態ですね。

ただ正体隠匿系の作品では必須要項です。

果たして…主人公はどうなるのか…。

dead or love…愛か死か、続きをお楽しみに。

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