10. who is the wolf?
10. who is the wolf?
家に帰り、夕飯を食べ終え自室へ戻り、お風呂に入る迄何をしようかと思案しながら椅子へ座り、背もたれに体重を掛ける。
「…はぁ」
目を閉じて、今日起きた出来事に考えを巡らせる。
霧谷さん…。新たに生徒会へ加わるみたいだけれども、何かやりたい事でもあるのかな。
オリエンテーションについても、やる事は決まってるけども当日までやらなきゃいけない事が一杯だ…。
それにしても、脅迫状の事、あっさり皆に知られちゃったけど、大丈夫かな…。
ふと、持ち帰った二枚の手紙の事を思い返し、ベッドに投げて置いていた鞄を引き寄せて中を開く。
教科書やノートの類いの他、二枚の手紙が入っていた。
…本物か偽物か。未だに謎だ。
ヒュポッ。
スマホの画面に知らないアドレスからのメールが届く。何だ?迷惑メールか?
若干の気味悪さは感じたものの、一応中身を確認する。
すると一文と共に写真が送付されていた。
………!?これは!?
真っ先に異様な写真が目に入る。
暗い教室で撮られた随分荒い写真。
顔を大きい紙袋で覆われた女生徒の拘束された姿が、そこに写り込んでいた。
全身の血がカッと沸騰する様に、身体が熱くなり脳が麻痺していく。
「まさか!!?」
思わず声を荒げ、椅子から立ち上がる。
顔は確認出来ないが、拘束された女生徒の姿が身近な誰かの姿形と重なる。
…嘘だ。助けなきゃ!先ずは警察に…。
瞬間。
画面に映る一文が目に入る。
『21時。誰にも伝えず一人で、貴方の教室へ』
駄目だ。
警察を呼んだと知ったらどんな行動に出るか分からない。
「…霧谷さんか?いや、先に帰った筈だ。…彩、でも、ない。ついさっきまで一緒にご飯を食べたんだ…真帆ちゃんも、帰る時に真也と一緒だった筈…」
確認の為、直ぐに美玲と由美姉に電話を掛ける。
「美玲…。由美姉…。っくそ!何でも良いから返してくれ!」
だけど、3分、5分経っても折り返しの電話が鳴らない。
何なんだ一体…。ふざけた真似しやがって!
まさか、こんな犯罪行為に発展するなんて思わなかった。
…行かなきゃいけない。一人で。
時刻を確認する。20時15分。
覚悟を決め、部屋から飛び出す。
「っ!?お兄ちゃん?」
丁度、彩が階段から上がってくる所だった。
「あぁ…彩!今、コンビニに何か買いに行こうとしてたんだ…けど。…何かいる?」
出来るだけ"普通"を装う様に。
「コンビニ?私も行こうかな」
「いや!良いよ。外走って来るついで、みたいなもんだったから。はは」
「ふ〜ん。そか、ならいつものチーズケーキでお願い!」
彩は少し首を傾げただけで、自分の部屋へスッと入って行った。
「…ふぅ。ちゃんと戻って来るからな…」
一人廊下で呟く。
学校まで全力で走っている途中、由美姉から折り返しの電話が鳴った。
ホッと一息吐きつつ、少し立ち止まる。
誤魔化しながら後でまた掛け直すからと言って切る。
取り敢えず良かった…。
まだ美玲からは折り返しの電話が掛かって来ない。
もう一度だけコールする。
…出ない。
時刻は20時25分。
唇を噛み締め、直ぐそこまで見えて来た学校までの道のりを急ぐ。
通常の高校の警備体制は機械警備系を主体とした形を取っており、扉や窓等にセンサーがあり、反応すると警備員がすっ飛んで来る仕組みだろう。
相城高校は私立高校である事もあり、意外にお嬢様やお坊ちゃんが多い。通常の警備よりも、幾重にもセンサーが張られてる筈。
どうやって中へ忍び込もうか考えつつ、校舎外周へ辿り着くと、校門の向こうで警備員らしき人物が見えた。
…もう既にすっ飛んで来た後なのか。
と言う事は、中に犯人が待ち構えてる訳だ。
「美玲。待ってろ…」
俺は警備員に見つからない様注意しながら、警備員の後を付けて隙を見て校舎内に侵入し、2年B組の教室を目指した。
階段を上がり、自分達の教室付近を遠巻きに見つつ、暗闇の中、出来るだけ音を立て無い様に近付く。
素早く近付き、教室の外から中を窺う。
中には誰もいない。
時刻は恐らく20時50分ぐらいだ。
…誰も居ないのか?美玲は?
そろりと前の方の教室の扉を開け、素早く入り込む。
ピリリリリッ!
「ぅお!!?っと…………」
持っていたスマホが鳴り響き、心臓がひっくり返る想いで瞬時に取り出し、画面を見る。
『松本 美玲』
……あれ?
折り返し?
「ユウ?ごめんね、お風呂入ってて気付かなかった〜。何かあった??…にゃはは、もしかして、ラブコールだったり?…って、おぉ〜い、ユウ?聞こえてる?」
思考が止まる。
暗闇の中、薄っすらと黒板に大きく殴り書かれた文字が見えた。
見えてしまった。
『あれは私』
ガラガラッ!!!
予感がしたのかも知れない。
直ぐに通話を切って電源を切り、息を潜め、身を隠して正解だったと言えよう。
教室の扉を開けた人物が、暗闇の中、外の明かりを受けてその身を晒す。
フードを目深に被った人物が、全身を覆う黒いポリ袋を羽織る様な格好で刃渡り15cm程の包丁を手に持って立っていた。
こちらから顔は見えないが、明らかに異常な面持ちである事は伺い知れた。
「…っ!?」
あの脅迫状は本物だったんだ。
本当に俺を殺そうと企む人物が…。
ゴクリと喉が鳴った。
クソッ!あの写真は俺を誘き寄せる為の罠だったんだ。
それにしても、脅迫状の人物は…女性だったのか。
俺を探している。
明らかに殺意の籠った意思のある挙動。
校内に残された人物は俺と奴と守衛の警備員ぐらいだろう。
先ずは、奴に見つからずに逃げなければいけない。
…どうする?
幸い子供の頃から護身術は叩き込まれてる。暴漢への対処だって…。
警備員や警察を頼りにするのも手だが、発覚した際、学校でも間違い無く大問題となる。
そうなった場合、奴が俺だけじゃなく周りにも危害を加える可能性が出て来る。
奴がどんな行動に出るか分からない以上、様子を見るしか無い。
そして、叶うなら…。
その正体を暴いて警察に突き出す。
そうするしか…無い。
今は取り敢えず、逃げに徹する。
奴は教室の中を軽く見回り、誰もいない事を確認すると、掃除用具の前にピタリと止まると勢いよくバタン!と開けた。
…危なかった。
掃除用具入れは一瞬、隠れるか迷った所だ。
だが、こんな教壇の下なんて見つかるのも時間の問題。
教壇から見える僅かな隙間から再び奴の姿を確認すると、丁度こちらを真っ直ぐに向いていた。
当たり前だ。隠れる場所なんてたかが知れてる。
瞬間。
勢い良く飛び出して教室から出た。
「…!?」
背後でガタガタと教室の机や椅子が倒れる音がする。
振り返るな!走れ!
暗闇の中、2階から階下へ降りる為に先程上がって来た階段に向かって走る。
が、階段にはいつの間に机が雑多に運び出された状態で置いてあり、身動きを止めるだけの時間を稼がれた。
ウッと気後れしたのも束の間、スタタタタと軽快な足音と共に奴が近付いて来たのが分かった。
焦りもあり、直ぐに階段から廊下へ引き返し、校内逆側の階段へと向かって走る。
…もう、完全に姿は晒した。
学校の廊下は基本的に分かりやすく直線的。
だが、ウチの学校の2階の構造は角が多く死角が多い。その上、ニ年生の教室を除けば空き教室が多い。
廊下の角を曲がり、暗闇に乗じて紛れる。
幾つかの空き教室を目視し、荷物が雑多に置かれた倉庫の様な空き教室へ素早く入り込み、身を隠して息を潜める。
奴も、警備員を警戒して明かりを付けられない筈だ。
ドクンドクンと高鳴る心臓の音を落ち着かせる様に、小さく深呼吸する。
…奴は今どこにいる?
不覚にも隠れた際に、こちらから姿を見失ってしまった。
時間が永遠にも感じる。
自分の息遣いを抑えるのに苦労する。
資料の段ボールの影に隠れながら廊下の方へ目を向ける。
真っ暗な校内に人影は横切らない。
隙を見て飛び出し、階段で下へ降りるべきか?
…いや、タイミングを見計らわずに飛び出して鉢合う可能性もある。
慎重になるべきだ。
ふと、冷やりとした空気を感じ、背後に目を向ける。
窓が開いている。
ビクッとして辺りを見回すが奴はいない。
また廊下の方へチラリと目線を向けるが誰もいない。
ふぅと息を吐き、一応の為、窓を閉める。
閉めようとした瞬間。
外から手が出て手首をグッと掴まれた。
嘘だろ!
黒いフードの下、仮面の様なモノを被った人物が外のベランダに立って俺の手首を掴んでいた。
「うわぁぁぁああ!!!!」
生命の危機に際して、通常よりも大きな声が出た。叫び声だ。
その声に反応したのか、背後、廊下の向こうで人の気配とチカチカっと光が反射するのが見えた。
「…!!」
「っ!!クッ!」
俺はその瞬間の隙に掴まれた手首を返す様にして、逆に奴の手首を掴もうとする。だが、黒いフードの人物は素早くパッと俺の手首を離すと、外のベランダから素早く下へ飛び降りるのが見えた。
…二階とはいえ判断が早過ぎる。
「誰かいるのか?こんな時間に何してるんだ!」
「………っと、わ、忘れ物を!明日までに必要な大事な物で!」
「何?…ったく、こんな時間なんだ。一応、補導対象として親御さんには連絡させて貰うよ。………校舎内にて学生、一名発見……」
俺の咄嗟の言葉に若干呆れた様に、警備員さんは無線を飛ばして状況を共有していた。
俺はひと時の安息を得た事で、気が抜けたのか壁に背中を付けてズルズルと座り込んでしまった。
…長い一日だった。
結局、補導という形で警察まで来たものの、人騒がせな学生という事で解決となった。
家に帰った頃にはもう23時を回っており、家族皆に何かあったのかと心配された。
勿論、彩や幼馴染の皆にも連絡を受け、駆け付けて心配されたが、それでも休ませてくれる様に頼んで一人にして貰った。
夢。
青天の下、花が咲き誇る丘にポツンと一人で立っている。
辺りを見渡すと,顔の見えない誰かが、俺に向かって近付いて来る。
「 」
分からない。
何て言ってるんだろうか?
そもそも、目の前の女性の名前が出て来ない。
女性?
そう、女性だ。
とても大切な人。
俺にとっての〇〇。
〇〇?
分からない。
「 」
あぁ、今行くよ。
そう答えた気がした。
意識がハッキリとしてくる。
誰かの話し声が聞こえる。
ノイズの様なモノで一部聴き取り辛い。
アナタを…たい
必ず…ます
もし…てく…なら、今日の…にある…前に来…
きっと…でし…ね
この…は…と…だけの秘密
他言…らア…の周りの…が傷付…し…う…もね
…タは私を…かな
見つけられたら…それが最期
峰岸優斗へ殺意を込めて
「はっ!!」
全身びっしょりと汗だくで起きた。
時計を見ると、午前3時となっていた。
急激に喉の渇きを感じ、水を求めて一階に降りる。
リビングに電気は付いておらず誰もいない。
冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぎ、一気に飲む。
あの脅迫状の一文が思い起こされる。
『この手紙の事は私とアナタだけの秘密
他言したらアナタの周りの人達が傷付いてしまうかもね』
ゾクリとした。震えが止まらない。
ただの悪戯だと思った。
でも、今日思い知った。
直ぐに2階へ戻り、彩の部屋の前へと向かう。
…カチャリ。
「んー。……んむぅ」
寝ている姿を視認した瞬間近付いて、手を握り締め安否を確認する。
「…ぅん?、、、お兄ちゃん?」
「彩…良かった…」
彩が寝惚け眼で心配そうにこちらを見る。
「お兄ちゃん?どうかしたの?…泣いてるの?」
彩は起き上がり俺を抱き締める。
「どうしたの?…今日、やっぱり何かあったんでしょ?」
「いや、そうじゃ無いんだ。ちょっと嫌な夢見たからさ、ごめん…」
分からなくて良い。
あの恐怖を彩に味わって欲しくなんて無い。
目を閉じると思い浮かぶ。
黒いフードを被った人物が包丁を持って立っている。
仮面の下で口を歪ませ、笑ってる気がした。
聴こえない筈の笑い声が聴こえた。
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!
頭の中でずっと笑い声が鳴り響いている。
脅迫状は、本物だった。
読んで下さった方、ありがとうございます!
もし宜しければ、イイネと感想頂けたら非常にありがたいです。ブックマークの方もして頂けたら尚嬉しいです。
さて、物語はまだまだ続く予定です。
ようやく物語の根幹となる部分を描く時が…。
さて、一体誰が犯人なのか?




