1.始まりは2枚のラブレター
1.始まりは2枚のラブレター
「ほんぁ!?」
ラブレター
それは青春を謳歌する上で活躍するモノであり、男女問わず書く方も受け取る方も誰しもが、自然とドキドキして止まない魅惑のアイテムである。
今時ラブレターなんて時代遅れ。
SNSが主流の時代に紙媒体のラブレターなんて、と思っているだろうが、それがもう既にギルティ。
何でも画面を通して伝える時代だからこそ、自らの手で書く言葉に価値があり、そこに駆け引きが生まれるものだ。
そんな青春切符が2枚。
それぞれ違う色合いの手紙が、俺の下駄箱の中にあった。
…と言うか重ねてあった。
入学式も終わり、在校生としての登校日の翌日になんて、余りにも突然過ぎて心の持ち様が分からなくなる。
それに、生まれてこの方思い返してみても、こう言った甘酸っぱいシーンに出くわした事など無く、ただただ硬直し第一声に変な声が出た俺を誰が責められるか。
「ふふふ、ふははは」
それに、2枚だと!?
俺の恋愛経験が今まさにインフレを起こしている!!!
足下から滲み出て来る嬉しさと昂揚感。
青春ってこう言う事なんだよなぁ…。
暮れ染まる放課後、下駄箱の前で高笑いを上げていたのは峰岸優斗、高校2年生。
小さい頃から勉強、スポーツ、習い事等々、割りと器用に何でも卒なくこなして来たが、平均以上ではあるものの、飛び抜ける超個性は無い。器用貧乏な男と言われ続けて来た。
昔から恋愛事で良い想いをしてきた事が無いが、今、正にリア充としての扉が開いたばかりの男である。
「優斗?どうかしましたか?」
「いや、何でも無い。何でも無いんだ。ふふふふ」
近くで不思議そうな顔で此方を見ているのは、幼馴染で親友の葛木真也。
成績優秀、眉目秀麗、長身で長い黒髪が特徴的な、生まれてこの方モテてモテて仕方ない男。
基本的に毒舌だが、憎めない性根の良さがまた男としての格の違いを感じさせる。
あゝ、人生よ。何故こうも分たれるか。
幼い頃からずっと同じ環境で育って来た俺達を、何が変えたのか…。
まぁ根が良い奴だからこそ、俺は腑抜けもせず親友としてこうして肩を並べて来たのだけれども。
「五月特有の病に、四月上旬にして前倒しで、頭を犯されてしまいましたか?」
「多くは語らないが、…ふふ、どうやら今年の春は大荒れ模様の2シーズンらしい」
「おやおや、全く意味が分かりませんが優斗が嬉しそうで何よりです」
辺りにキラキラと光が瞬く様な錯覚を与える微笑で、此方を見る真也。
お前は無駄にイケメンスマイルを放るな。
もし今、近くに健全な精神をお持ちな女子が居よう物なら、創作意欲を掻き立てられて、明日からマトモな恋愛観じゃ居られんぞ。
実際そう言った女子は数知れないが、枚挙に暇が無いのでまた今度一例を挙げて話してやろう。
今はそんな事よりも、この2枚のラブレター!!
「真也」
「はい?」
「人生を左右する程の急用が出来た。先に帰っててくれ」
「ふふ、刹那的ですね。分かりました。是非、明日人生が変わったか教えて下さい」
「ったく、バカにしやがって。見てろよ!明日の俺は今日とは違うからな」
にこやかな微笑を残し、疎らに下校して行く生徒達の中に混ざり、颯爽と帰宅する親友を尻目に、我が教室に足を急ぐ。
先ずはラブレターの中を確認してみない事には何も始まらない。
それにしても…ラブレター、何とも…良い響きです。
やたら心臓の音が聴こえて来る。もう、外耳で聴こえてるんじゃないかってぐらい大きい音でドキドキと聴こえる。
そもそも、俺と同世代の高校生で、恋愛経験豊富な奴なんてごまんといると思うし、寧ろ高校2年生にもなって今まで誰ともお付き合いをした事がない俺は、割りと異端な部類に数えられると思う。
機会が無かっただけ。と言えば話は早いが、単純に幼馴染達と一緒にいる事が多かった手前、意識して来なかった。
つまり身内で纏まってた事が多かった所為で機会を逸していた…と。
そうやって今まで言い訳して来たが、それも今日まで。
俺は生まれ変わる。
彼女を作り、男としてのネクストステージへ!
「誰も居ないかなっと…よし」
夕暮れ時の閑散とした教室。
ガラッと扉を開け、直ぐに窓側にある自分の机へと足を運ぶ。
夕日が差し込み、中途半端に閉められたカーテンの影が教壇へと延びている。
「それでは、んんっ…どちらから読んでみようかな」
下駄箱に入れてあった2枚のラブレターは、薄黄色のノートの紙を手紙型に折り込まれて作られた一枚完結型のタイプが1枚。
白い手紙入れにハートのシールが貼ってあり、恐らく中に本命の手紙が入ってると思われるザ・ラブレターなタイプが1枚。
どうでも良いが、俺はショートケーキのイチゴを真っ先に食べるタイプである。
緊張しながらも、ここで言う所のイチゴであるザ・ラブレターを手に取り、ハートのシールを剥がした上、お目当ての手紙を中から丁寧に取り出し、深呼吸を一つ。
「峰岸優斗様
貴方が好きです
気付けばずっと貴方の事を考えています
初めて会った時からずっと惹かれていました
今日の放課後、校舎裏西側の用具室前に来て下さい
私のこの気持ちを直接お伝えする為
恥ずかしながら待っております」
窓の方を見るとニヤニヤとだらし無い顔をした男がいた。
…俺だった。真っ赤かよ。
「おいおいおい〜!!!参ったねこれは!」
机に突っ伏して脚をバタバタとさせ、感情を爆発させた後、尚も手紙に書いてある字を追う様に指でなぞりながら読み込む。
あぁ…幸せってこんなに簡単な事なんだ
生きてて良かった。
そして、こんな日が訪れた事に感謝。
頬を机にベッタリと付けた状態で、もう1人の子と目が合う。
咳払いを一つし、佇まいを正し、机に置いておいた薄黄色のノートの紙片を手に取る。
最早、1枚目を確認した時点で充分満足してはいたが、ケーキはイチゴを食べた上で、間髪入れずに畳み掛ける様に食すべき。
俺は眉間に力を込め、この子と向き合う為に出来るだけ男前な顔で、薄黄色のノートの折り込みを元に戻し、内容を眼前に晒した。
「アナタを殺したい
アナタだけを見つめて
アナタの事だけを考えて過ごしています
必ず殺します
もし来てくれるなら、今日の放課後に
校舎裏西側にある用具室前に来て下さい
きっと来ないでしょうね
でも大丈夫
アナタを想い続ける私の想いはこれからも変わらないから
この手紙の事は私とアナタだけの秘密
他言したらアナタの周りの人達が傷付いてしまうかもね
アナタは私を見つけられるかな
見つけられたらそれが最期
峰岸優斗へ
殺意を込めて」
はい、調子に乗ってすみませんでした。
思考が麻痺して状況が読み込めない。
耳鳴りが止まない。え?これ悪戯か何か?
だとしたら悪趣味だし、変にご丁寧。
あ、やばい泣くかも。初めてのラブレターだと思ったのに何だこれ。何だこの展開。
あー息し辛い。と言うか息出来てる?
今俺立ってる?座ってる?
頭がクラクラして何も考えられない。
どれくらい時間が経ったか、自分の椅子に改めて座り直し、文面を何度も見直してとりあえず分かった事が一つ。
この手紙、良い匂いのするノート使ってる。
地獄の中にありながらポツンと一輪咲く水仙花のかほり。誇り高く、さりとて仄かに甘く、香り高い。
…だから何なんだ。俺。
後になって振り返ってみると、この日から間違いなく、俺の人生は変わった。
良い方向にかは分からないけれど。
確かに変わった。
最早、疑心暗鬼に囚われた俺の心を癒やしてくれるのは、本物のラブレターを出してくれた子だけ。きっと探し出してみせる!
そして、絶対に幸せになってみせる。
殺意を持った人狼を躱して、本物の愛を見抜き、勝ち取ってやるんだ!
はじめまして。
突然ですが、皆さんはカフェオレはお好きでしょうか?
どの様な配分が理想でしょうかね。
コーヒー、砂糖、ミルク
シリアス、ラブ、コメディ
この作品を分けた場合、配分は大まかに
4、4、2の比率で進んでいく予定です。
理想は人それぞれではありますが、始めに方向性をご理解頂いた上で、一人でも多くの方に読んで頂ければ幸いです。
一言で、宜しくお願い致します。