俺のせいで・・・
その日、俺の一日はいつもと違っていた。
「正樹!そろそろ起きなさいッ!」
寝ぼけた頭で母親の声を聞いた俺は、目を覚ました。今日は六月十二日時刻は八時半。いつもならこの時間には家を出ている時間だろう。それでも焦らず、自分の熱で少し温かいベッドから這い出り、リビングへ降りる。そこには、一つの朝食と母親がいた。
「やっと起きた。これじゃあ、遅刻じゃないの・・・焦りなさいよ」
母親の呆れた声を聞きながら、朝食を食べ始める。今日は、トーストと牛乳だった。朝が弱い俺にとって何ともうれしいメニューだ。それを少しづつ口に運び、完食する。もうすでに八時四十五分を過ぎていた。今頃学校では予冷が鳴っている頃だろう。
俺は自分の部屋へ戻り、制服を着る。今は六月だから学ランは着ない。ワイシャツにズボンといった極普通の制服に着替え、またリビングに戻る。次に歯磨きやら授業の準備やらをし、九時に家を出る。
「行ってきまーす」
覇気のない声を出しながらドアを開ける。すぐに、太陽の光が俺にあたり、目を細める。暑い・・・。
学校までは歩いてニ十分と意外と近くにあり、それも、俺が遅刻をする理由にあるだろう。
今日の登校はやや新鮮だった。いつもなら、遅刻ギリギリで学校に着くか、この時間に出ても、急ぎ、焦りながらの登校だった。今日の俺は、確実に遅刻しているのにもかかわらず、一切の焦りが生まれない。優雅に待ちゆく人を観察しながら登校している。
あ、あのおばあさん荷物大変そうだなー。あ、あっちのお姉さんはバスに乗り遅れたか?お、あそこの男性は夜勤かな?
楽しいものだな、人間観察って。しばらく歩いていると目の前で倒れている人を見つけた。熱中症か?今日は六月にしては暑いしな。ここには、ほかに人がいるがその誰もが倒れている人を見捨てる。いつもなら俺もそうしていただろう。けど、今日に限ってはなんだか見過ごせない。あと、ここで助ければ遅刻の理由ができるかもしれない。
そう思って近づいていく。倒れている人は少女だった。しかも同じ学校。横向きに倒れており、顔はよく見えないが、横顔はかなりの美少女だ。
俺は、ひとまず日陰のある所に連れていき、仰向きに寝転がらせる。自動販売機で水を四本買い、それぞれを、両脇、首回り、足の付け根に当て、冷やした。俺にはこれぐらいしか対処法が分からない。目の前の少女は尋常じゃないほどの汗をかき、うなされている。
これは救急車を呼んだ方がいいだろう。すぐさま俺は119の番号に連絡する。すぐに応答され、質問された内容に適切に回答する。俺は一回救急車を呼んだことがある。そのためスムーズに事を運ぶことができた。救急車が来るまでの時間は俺は何をしているのがいいのだろうか。幸か不幸かギャラリーはおらず、質問することができない。Sriに聞くのがいいだろう。
「Hey,Sri」
・・・反応しない。何故だ。こんな緊急なのに。グーグル先生に聞くか・・・。
救急車が来るまでの時間、俺は書いてあった通りのことをした。衣服を少しはだけさせ、そこに水をかける。あとは服をうちわ代わりに少女を仰いでいた。
救急車が来た後は彼らに全部丸投げした。後のことは分からない。気がかりだが、最善を尽くしたつもりだ。結構汗をかいてしまったため、近くのカフェに入り涼む。ここのパフェがおいしんだよね。これが食い終わった後学校行こう。あー楽しみ!
とてもおいしかったです。さあ!学校へ行く気力も出たし行くか。もう三時間目が始まっているが。今日の授業は何だったか。確か・・・現国?まあ、行ってからのお楽しみってやつだな。そうして正樹は冒険の旅に出るのだった。
学校に着いたのは四時間目前の準備時間の時だった。これなら、遅刻届は書かなくていいだろう。めんどくさいし。俺は一年一組の教室へ入り、席に着く。俺に話しかけてくる奴はダル絡みをしてくる奴ばかりだ。そういうやつは陰キャに話しかけてる俺かっけーとか思ってるやつばかりで自分のことを陽キャと思ってる人間だ。
そういうやつらは基本的に無視をするのだが今日は勝手が違っていた。そうだった。こいつらとゲームしてたんだった。次に遅刻してきたやつが罰ゲームっていう。くそッ!忘れていた。
「そうだったな。で、罰ゲームってなんだよ」
俺はこいつらとの会話を早急に終わらせようと結論を出させる。
「あ?そんなもん決まってるだろ。嘘告白だよ。相手は・・・瑞樹な」
マジかよ・・・噓告かよ。しかも、水島さんか・・・。
水島瑞樹。彼女は清楚という言葉が一番似合うほど清楚だ。美人で、頭もいい。しかも、俺に絡んできている大岡の思い人でもある。所謂片思いってやつだ。俺をヒールにでもするつもりだな。はあ・・・憂鬱だ。パフェ分のやる気がなくなった。
「分かったよ。じゃあ、今日やるから呼び出しよろしく」
「くくっ。楽しみだなぁ」
面倒事は人に任せる。俺は告白して、フラれて、大岡の茶番を見ているだけでいい。楽な仕事だな。
四時間目の授業を受け、飯を食い、五、六時間目の授業を寝て過ごした俺は大岡に呼び出されていた。溜息をこぼしつつ俺は現場へ向かった。そこには水島さんがいた。そういうことか・・・。今ここで告白しろと。了解。さっさと終わらせるか。
「どうしたの?村雨君」
どうやら、彼女は俺が呼び出したと思っているらしい。まあ、その方が大岡視点では都合がいいだろう。廊下で嘘告のことを話したの聞いてると思うしな。廊下には水島さん以外はいなかったと思うが・・・他にいたら俺の印象は最悪になるだろう。まあ、いいか。
「そうだね、じゃあ、水島さん。付き合ってください」
簡潔にそういった。ホントなら好きだからだとか相手に少しでも好感度を上げてからいうものだろうが、これは嘘告だ。そんなまどろっこしいことをせずに簡潔に、だ。
「うん。ありがとう。まさか村雨君が嘘告をするとは思わなかったよ。ごめんなさい」
目に見えていた結果を出された。それでも俺の感情は一切動かない。どうでもいい人になんと思われても気にしない。気にならない。
「ごめんね、こんなことして。じゃ」
あとは、大岡の茶番だけだ。見る価値は一切ない。
俺は、そのまま校門を出て、帰路に就く。その時、俺のスマホが着信を知らせた。番号は知らない。俺はとりあえず出てみることにする。悪戯かもしれないが、出ないわけにはいかない。母親の緊急かもしれないからな。
「もしもし、どなたですか」
『すいません突然。私、東郷と申します』
電話からの声は渋めの男性の声だった。当然俺にそんな知り合いはいない。少し警戒しながら俺は電話を続ける。
「はあ、僕は村雨と言います。ご用件は」
『落ち着いて聞いてくださいね』
そう、少し緊迫な雰囲気を出した電話の主は驚くべき言葉を出した。
「先ほど搬送された秋元あかりさんがお亡くなりになりました」
俺は瞬時に理解する。秋元あかりを知っているわけではないが、「搬送」「死んだ」この類似ワードだけで大体の内容は察せられてしまう。つまり、朝俺が助けた少女が死んだのだ。俺は、初めての「死」に関わったことで頭がパニックになる。
『秋元さ――熱中症で――た』
ふう・・・落ち着け。東郷さんの声が聞こえた気がするが落ち着け。ちょっとした縁で知り合った人が死んだだけだ。時間をかけて深呼吸をする。「死」でいっぱいになっていた頭がクリアになっていく。電話はもう切れていた。
俺は止まっている足を動かし、家に帰る。こういう日は寝るに限る。
家では母が出迎えてくれた。顔色が悪い俺のことを気にしていたが「なんでもない」といい、自室にこもる。もう寝よう。風呂とか歯磨きとかは起きた時にやろう。俺はベッドの上で仰向けになり目をつむる。何も考えないようにして、それでも秋元あかりのことが頭に浮かび上がる。・・・いつの間にか俺の意識は落ちていた。
「正樹!そろそろ起きなさいッ!」
寝ぼけた頭で母親の声を聞いた俺は、目を覚ました。時刻は八時半。いつもならこの時間には家を出ている時間だろう。それでも焦らず、自分の熱で少し温かいベッドから這い出り、リビングへ降りる。そこには、一つの朝食と母親がいた。
「やっと起きた。これじゃあ、遅刻じゃないの・・・焦りなさいよ」
違和感を持つ。これいつかの出来事と同じな気が・・・デジャブだ。まあいい。俺はテーブルに着き、朝食を食べる。メニューはトーストと牛乳だ。これを手早く食べ、自室へ行き制服に着替える。八時四十五分だ。この時間に外へ出て、自転車に乗る。自転車ならば十分で学校へ行ける。遅刻ギリギリだが、間に合わないよりかはマシだろう。
急ぎ気味でペダルを回す。周りにはゴミ出しをしている主婦や営業をしているサラリーマンを見つける。さほど気にすることもなく、学校へ着く。昨日の嘘告の件、噂になっていないだろうか。そうであれば俺の学校生活は終わりを告げるが。
そういえば、秋元あかりの死亡連絡は学校へ来たのだろうか。来たなら噂の一つでも立ちそうだが。まあ、いいか。さほど興味ないし。俺は学校へ着いた。自転車を指定の場所に止め、教室へ向かう。ドアを開け、クーラーの付いた涼しい教室が俺を迎えてくれる。席に着き、何をするでもなくボーっとする。することがないのだ。
すると、乱暴にドアを開け、急ぎ気味に入ってきた担任が早口でこう言った。
「今日は休校になった。下校の準備をして待っていろ」
お、これは死亡連絡が来て休校になるやつだな。ラッキーと言っては最低だが休校になることは素直にうれしい。明日は土曜だし、早く帰ってゲームしよ。
俺は、帰る支度を済ませ、ボーっとする。すると、こんな会話が耳に入ってきた。
「なんで休校になったんだ?」
「しらん。てか明日も休校になってほしい。そしたら疑似的なゴールデンウイークだ」
「それなー」
明日は学校なんてないぞ?聞き間違えか?俺はカレンダーを見る。そこには今日が六月十二日であることが示されていた。は?今日は十三日じゃ・・・。どういうことだ?その瞬間俺の意識がぷつんと途切れた。
「正樹!そろそろ起きなさいッ!」
寝ぼけた頭で母親の声を聞いた俺は、目を覚ました。時刻は八時半。ここで気づく。これは昨日と同じじゃね?っと。すぐさまスマホを起動し、カレンダーを見る。そこには・・・六月十二日と映っていた。