第零話
「準備よしっと、ママ、パパ、いってくるね〜」
そう元気にお気に入りのオレンジ色の傘を持って家を出た制服の少女、名前は浅香美咲。
ポニーテールでまとめたオレンジ色の髪、オレンジの瞳、身長は低くちょっとだけコンプレックスを抱えている。
彼女は自称メカジョである。世間一般で言われているメカジョとは意味が違う。
通常は”メカニカルエンジニアリング女子”であるが、彼女の場合は”メカニズム大好き女子”である。
その名の通りものの構造が好きなのである。
何かものを見る度にじっくり観察したり、中身を確認したり、挙げ句の果てには分解する。
当然、最後は組み立てて元に戻す。
とはいえ父の少し高い時計を分解してしまった時はさすがに元に戻せなくてかなり叱られていたのは記憶に新しい。
まあそんな彼女であるが、今は高校二年生の17歳であり、今現在登校中である。
学校までは徒歩20分、自転車は持っているけども軽い運動だと思って毎日歩いている。
でも今日は生憎の雨。
ちょっぴり憂鬱な気分を抱えながら歩いていく美咲。
道を歩いていると、ちらほらと傘をさした同じ学校の制服の人たちが見えてくる。
家から数分歩いたところにそれほど大きくない交差点がある。美咲は交差点の横断歩道を渡ろうとして信号が赤になったのを気づいて止まる。
すると美咲の後ろから彼女を呼ぶ声がした。
「み〜さき! おはよう!」
「あ、おはー。元気?」
美咲は首だけ振り返りいつも通りのあいさつをした。
そこには傘をさした友達がいた。
友達はそれに対していつも通りに。
「うん元気元気」
「そかそか」
「そうだ美咲、今日数学の小テストだよ、勉強してきた? まさかまたネットでいろんな構造調べてたとか?」
「まだ何も言ってないのに、まあそうだけど。そういえばテストなんてあったね。さっぱり忘れてたよ」
昨晩はいつも寝る時間までずっとパソコンの前に座りっぱなしだった。勉強なんて1秒たりともしておらず、ペンすら持っていなかった。
「そんなんで大丈夫なの? そろそろ真面目にやらないと進級できないよ。」
「大丈夫大丈夫、わたしは期末テストで挽回するから。」
手をひらひらさせながらそう言った。
「ほんと? でも確かに中間とか期末テストはわたしよりできてるよね。なんか複雑。これがスペックの差ってやつなの?」
「まあ自分で言うのもなんだけど、他の人より要領良いからね」
「むぅ」
少々の雑談が続いた後、気づけばもう横断歩道が青になってすこし経っていた。
すぐに歩き出し渡り切ったところで、
「あっ、やっばー。弁当玄関に置いてきちゃった!」
と美咲が言った。
「ここからならまだ近いからとりに行けば?」
「うん、そうだね。ごめん先行ってて!」
「ううん、ここで待ってるよ、道中暇だし、一緒にいこ」
「なんかごめんね、じゃあ急いで取ってくるから」
「うん」
そう言って同じ道を戻ろうとした。
しかし信号はもうすでに赤だった。
美咲は焦りからか、傘を持っていたためか、信号を見ていなかった。
まだ青だと思い込んでいた。
それに気づいた友人は左右を見て、すぐに車の有無を確かめた。
そして焦った友人は、
「だめっ! 美咲っ!!!」
と叫んだ。
美咲は何事かと驚き、友人の方へ振り返ろうとした。
直後、大きなクラクションの音とブレーキ音が鳴り響いた。
認識した時にはもう遅かった。
目の前には大きなトラック。
美咲は動くことができず、体は大きくはねられ、地面に叩きつけられた。
友人は目の前の光景に呆然として美咲がトラックが当たった地点を見ていた。
トラックの運転手はブレーキを強く踏み、目を強く瞑っていた。
トラックはやがて止まり、そしてすぐに硬直から解放された友人は美咲が飛ばされたであろう方を見た。
はじめに美咲の目立つオレンジ色の傘が目に入った。
次に、大きな血溜まり。
そして最後に美咲を......見つけられなかった。
「......あ、あれ? 美咲?」
友人はすぐに自分の持っている傘を投げ捨て、オレンジの傘の元へと駆け寄り、そして探した。
認めたくない、でもあるはずのものが無い。
確かにはねられたのに。
「どういう...こと...?」
友人は雨の中その場に座り込んだ。
この後、美咲の行方は誰も知ることがなかった。
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