第六十五話 力の遺跡
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樹海に埋もれた遺跡の入り口に立ち、ネインは思わず息を呑んだ。
そこは蔦や樹木に覆われ、傍目から見たらただの洞窟にしか見えない場所だった。
しかし、ジョウの言う事が正しいならば、この先にアルカナの棺が眠る遺跡が存在しているらしい。
意を決して、ネインは一歩、洞窟に足を踏み入れた。
「入り口は、ただの岩だな……」
洞窟の中を観察しつつ、トーチを掲げてゆっくりと奥へと進んでいく。
だが、最奥はすぐに訪れ、そこがなんの変哲も無い洞窟でしか無かった事を、ネインに告げる。
「何だよ、何も無いじゃないかッ!」
空振りだった事に怒り、ネインは思わず洞窟の床面を強く踏みつけた。
だが、そこが脆くなっている事を知らず、ネインは床を踏み抜き、悲鳴と共に地下の闇の中へと消えていった。
「いてて……」
落ちた先で何とか自分が生きている事を理解すると、ネインはすぐに自分の周囲を確認した。
荷物にも、自身の身体にも、大したダメージは無い。トーチも無事だ。
そして最大の問題は、ここは何処なのか、という事だが、辺りを見回しても、ここが巨大な空洞であること以外、分かっている事は無い。
上を見上げると、結構な高さから落ちてきた事を、ネインは理解する。ここを登るとなると、大変な手間だ。
「これは、別のルートから外に出るしかなさそうっすね」
そう言ってネインは、仕方なく周囲を散策する事にした。
地下空洞は、まるで網の目のように複雑に入り組んでおり、まるで天然の迷路の様相を呈していた。
それだけに、先に進むには道標として壁に印を付けながら進み、行き止まりになったら引き返し、別のルートへと向かう、という工程を幾度となく繰り返す。
気が遠くなるような作業だが、砂漠で何度も似たような事をして来ただけに、探索自体は手慣れたものだ。
そうしている内に、空洞の中でも特に広い場所に出た。そして、そこにある物を見つけ、驚愕する。
「本当に、遺跡があったんだ……!」
地下空洞の中心に、明らかに人工物で作られた遺跡が鎮座していた。
否。これはどちらかと言うと、過去にこの地で栄えた都市が、地盤沈下によってこの地下空洞へと埋もれたと見るのが自然だろうか。
どちらにしても、ここに目当ての物があるだろうと、ネインは息を呑む。
しかし、逸る気持ちを抑え込み、まずは遺跡の前にキャンプを張り、そこで体力の回復に努めた。
ここから先は、何が起こるかわからない。それだけに、万全の状態で、事に当たる必要があるからだ。
幸い、地下迷宮を歩き続けてきただけあって、ネインの身体は休息を欲しており、寝袋に入ると同時に、彼の意識は睡魔に誘われるように夢の中へと旅立っていった。
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部屋に閉じこもったまま、一世はブツブツと何かを唱えていた。
過去に二度、彼はオルベイルを虚空の彼方から召喚する事に成功した。それをまた実践しようとしているのだ。
しかし、オルベイルは沈黙を保ったまま、一世に答える事はしない。
かつて出来た事が出来なくなった。それは即ち、その力の根源が奪われた事を意味しているのだ。
一世は、それを繰り返す事で、自分の置かれている立場を、更に強く自覚する事になった。
やがて、その行動が無駄であると理解すると、一世は壁に拳を打ち付け、そのままベッドにうずくまる。そして、ゆるやかに眠りへと誘われていった。
「逃避した所で、結果は変わらない。大事なのは、向き合う事なんですけど、ね」
一世の部屋の前に立ち、ジョウは小さくため息をついた。
先程の一撃は、部屋の外にも響く音がしただけに、このローブの男は一世の部屋に入って怒りを爆発させるような真似は避ける選択を取ったのだ。
喩え他人に人の心が分からないと言われようとも、本人はそういった心遣いは出来ると自覚している。
だが、彼が真に必要としているのは大局的な結果。その中で大なり小なり生まれる犠牲に振り向かない様をして、人の心を説かれているに過ぎない。
そして、その批判を、ジョウ本人も甘んじて受け入れる覚悟でいる。
「やはり、棺との繋がりを絶たれていますか……」
ジョウの隣に、ギルドマスターが姿を見せる。
「ええ。とは言え、皇帝の棺は、世界の棺よりも下位の存在。それ故に、支配結合を実行する事は出来ない筈です」
「では、彼は棺に見捨てられた、と?」
ジョウの説明に、ギルドマスターは首を傾げる。
「いえ、アルカナの棺との適合は、その棺が世界の棺に取り込まれるか、あるいは適合者が命を落とさない限り、継続されます」
そう言って、ジョウはフードを被り、一呼吸置いた後にこう続けた。
「恐らく、彼の無意識が、棺を拒絶しているのではないでしょうか」
「拒絶?」
「今の彼は、一度の敗北が見せた現実に打ちのめされた状態にあります。そして、今まで勝ち続けて来たのはオルベイルの力ではなく、自分の力によるものだと言い聞かせ、それが拒絶反応を生み出しているのではないか。私は、そう仮説を立てています」
ジョウの解説を聞き、ギルドマスターは「面倒なものですね」と返す。
対して、ジョウは自分の過去の経験も鑑みて、苦笑いしながら口を開く。
「ええ、面倒くさいのですよ。この年頃の男の子、という生き物は、ね?」
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三時間ほど、寝ていただろうか。
ネインは瞼を開くと、すぐに地下遺跡に挑戦する為の準備を始めた。
携帯食料の数を確かめ、ワイヤーガンの予備カートリッジと共に腰に下げる。
身の回りのチェックを終えると、最後にキャンプを畳み、地下遺跡へと歩んでいく。
果たして、何が出て来るか。そんな不安と共に、正面の門らしき構造物をくぐり抜け、都市の中へ。
そこは、地殻変動によって地下に沈んだ街である事は間違い無かったが、それと同時に、激しい戦闘の傷跡が、そこかしこに見受けられた。
建物の表層に残る弾痕に、激しい損傷を負いその場に打ち捨てられたスートアーマー。それに、骨となって久しいアナンタの獣の亡骸。
その戦闘の痕跡は、訪れた者に不気味な雰囲気を演出させるには十分なモノを備えており、ネインもその例に漏れず、恐怖に足が竦むような気分になりそうになる。
しかし、少年は立ち止まらない。一世の力になると決めただけに、この程度でへこたれていては、彼に笑われてしまうと考えたからだ。
やがてネインは、最奥部に鎮座する他とは明らかに雰囲気の異なる機体の存在に気が付く。
左右一対の大柄な巨腕を肩から生やしたそれが、目的のモノである事を、ネインはすぐに察する。
「あれか……」
しかし、目に見えるからと言って、そこへ向かうまでの道程は遠く、険しい。
目的の機体までの最短ルートは、崩落した瓦礫によって徒歩で向かう事は出来ず、どちらにしても遠回りを余儀なくされるからだ。
しかし、ネインは元々砂漠に生きるトレジャーハンター。こういった状況も、想定の範囲内と言えた。
「風はない……地下だから当たり前だけど。なら、ワイヤーを使えば簡単だ」
そう言って、ネインは手近なビルの中へと入っていき、階段を駆け上がる。
幾つか崩落している所はあったが、気にする事なく進む。そしてある程度の高さまで登ると、ビルの外から隣のビルへとワイヤーガンを放ち、そのワイヤーを伝ってビルの間を移動していった。
二度、三度、四度、これを繰り返し、そして彼は辿り着く。
「これが……アルカニック・ギア!」
瓦礫の上に、まるで座しているかのように佇むその機体を目の当たりにして、ネインは息を呑む。
だが、彼は史跡見学の為にここまで来たのではない。
それを思い出し、少年は機体のコクピットハッチを探し出し、それを開放した。




