第三十七話 そして新大陸へ
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サメフの操るザディスの鎌が、バグズによって身動きの取れなくなった一世のオルベイルへと迫る。
だが、その攻撃はマルコとポーロのコンビの援護攻撃によって寸での所でそらされた。主に、ポーロのロングライフルの一撃が、鎌の刃に当たった事によるベクトルの変化が原因だ。
甲板に刺さった刃を引き抜き、サメフは横槍を入れた敵に向き直る。
「邪魔を……しないでくれるかなッ!」
サメフが叫び、マルコとポーロのフォウォレに鎌を横に薙いだ。二機のフォウォレの上半身と下半身が、一撃のもとに両断される。
「二人共、下がって!」
一世のその言葉と共にマルコとポーロは下半身だけとなったフォウォレを赤カモメ号のカーゴまで後退させ、同時にオルベイルのガトリング砲が火を吹いた。振り払ったバグズは、海面に叩きつけられ既に海の藻屑だ。
しかし、ガトリングから放たれた光の弾丸は、敵対者を捉える事無く空を穿つ。ザディスが、船の上から消えたのだ。
「何処に消えた?」
「逆井一世、後ろだ!」
シイナがエクリプスでフォローに入り、オルベイルの背後へと迫る鎌の一撃を、刀を使い受け止めた。
「う……悪い」
「気を抜くな。奴は棺とは違う能力を使ってくるぞ」
「そう、その通り!」
その一言と共に、ザディスが姿を消すと、次の瞬間にはエアルフの眼前に現れ、鎌を向けた。
「エクリプスと同じ認識撹乱……いや、違う。空間転移か」
シイナが敵の能力を理解し、サメフはそれを言い当てた彼女に賛辞を送る。
「そう、僕の能力は空間転移。任意の座標に好きなモノを送り、呼び出す。だが、それだけだ。たったのそれだけしか、僕には与えられていないんだよッ!」
人質という優位性をかなぐり捨て、サメフの乗るザディスがエクリプスへと突撃する。
「分かるかい? 従わせられる獣の数も質も低く、他の使徒から能力を利用されるだけ利用されるという低位の序列として扱われるのが、どれほど屈辱であるかッ!」
ギメルの補助を受けていたとは言え、自身の能力でコロニー一つを壊滅させたにも関わらず、この劣等感。
だからこそ人間の扱う事が出来るアルカナの棺の力を求め、長い時間をかけて鹵獲した棺の研究に勤しんで来たのだ。
だが、それによって生じた犠牲を無為にしていい程、サメフが人類に対して行ってきた事を、一世が許容出来る訳がなかった。
「だから、何だって言うんだ」
オルベイルが臨界形態に変形し、ザディスの首根っこを掴みにかかった。
「お前の言い分は、”自分は弱いから、強くなるためにお前達は踏み台になれ”って事だろ。だったら、黙って踏み台になる訳には、いかないッ!」
叫びながら、一世はザディスを組み伏せる。
しかし、サメフは即座にザディスをオルベイルへの背後へ転移させ、鎌を構える。
「ワンパターンだな」
その一撃を再度シイナのエクリプスが防ぐと、腰の刀を抜き放ち、装甲と装甲の間に食い込ませる。
「その程度で、ザディスは止まらないよ」
再度、ザディスが空間転移する。
一世とシイナはお互いの背後を警戒するが、敵は赤カモメ号の上空に浮かんでいる。
「嘘だろ、何で!?」
「このっ、離しなさいよッ!」
ザリアーナの驚嘆する声。そして、それにシンクロするようにザディスの左手には、アルエの姿があった。
一世とシイナは、その状況に思わず目を見開いた。
恐らく、エアルフのコクピットに左手を転移させ、拉致したのだろう。最初にアルエが攫われた時もそうだ。ノールックでこういう事が出来てしまうのが、サメフの空間転移の恐ろしい所だと、改めて実感させられる。
そして、ザディスはアルエを、その胸の結晶体に再び取り込んだ。
「しまった……!」
死神のアルカナの棺が、アルエという同調者を得て、目を覚ました。
だが……。
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アルエはまた一人、暗闇の中にいた。
死の恐怖が、彼女の心を蝕んでくる。しかし、それと同時にアルエには「生きたい」という生存本能が働いていた。
死の恐怖と生存への欲求。
その二つが揃った時、死神のアルカナの棺は、本当の意味で覚醒を遂げる。
「な、何だ!?」
ザディスの胸部から、あまりにも眩い光が放出される。
一世達は思わず目を覆う。しかし、その光の放出源からアルカナの棺と共に、アルエが飛び出して来たではないか。
何が起きたのか、一世達には理解しかねる現象だが、しかしそれでもなおアルエに手を伸ばそうとするザディスを、サメフを止めるべく、一世は駆け出していた。
「お前にはもう二度と、手を出させないって、言ったよなッ!」
オルベイルの貫手が、ザディスの胸部へと貫入し、上下半身を分断した。
「く、ハハハッ! まだやれるッ!! この程度の欠落など、再生させれば無意味なものに……!?」
サメフは諦めず、損傷部位を再生させようと試みる。だが、再生能力はまるで沈黙したかのように働かなかった。
そう、死神のアルカナの棺は、アルエを選んだのであって、サメフの支配下にあったのではない。
それが、持つべき者の処へと渡ったのであれば、その能力が敵対者に行使されるのは、当然の流れと言えた。
エアルフの掌の上で光り輝いていまアルカナの棺が、まるで朧のように消え失せた。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な……!」
それでもなお、サメフはアルエと、アルカナの棺を諦めようとはしない。オルベイルの拘束を振りほどき、エアルフへと手をのばす。が、それも眼前に転移して来たオルベイルによって阻まれ、
「そういう事だ。お前は、もう沈めッ!」
「そ、ん、な、事が、あって……僕は……僕はッ!」
「再結合……ザ・タワーッ!」
全力を込めた、タワーランチャーの一振りが、サメフごとザディスを海の向こう、アナンタのテリトリーがある島まで吹き飛ばす。
ザディスが島に落着する瞬間を狙い、タワーランチャーの銃爪を引いた。
高出力のビームが、まるで砲弾の様に弧を描きながら島に向かって飛んで行く。
本来であれば、有り得ない軌道だが、それをなし得てしまうのが、アルカニック・ギアなのだ。
島に、テリトリーに、ザディスに、そしてサメフに光の洗礼が降り注ぐ。
爆発が、島を包み込み込んだ。
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安全な海域まで退避し、赤カモメ号はその身に負った傷を癒やしながらゾリャー大陸への航路に乗った。
しかし、先の戦闘で明らかになってしまった一世達の異常性を前に、ベンス達は彼らに説明を求める立場となっていた。
一世達も、アルカニック・ギアの性能をフルに使った戦闘を見せつけてしまっただけに、状況の説明は仕方ないものだと覚悟を決める。
「なるほど、アルカニック・ギアと獣憑き……そりゃあ訳ありなわけだ」
ベンスは腕を組み、頷きながら事態を一つひとつ飲み込んでいった。
訳ありもいい所なだけに、船から叩き出されるかもしれないと、ネインはビクビクと怯えている。だが、ベンスは快く目的地まで一世達を送り届けると確約した。
「まあ、根性なしならここで客を降ろしてずらかるんだろうが、貰うもんは貰ったし、何より獣憑きになったお嬢ちゃんの容態も心配だ。だったら、当初の契約通りカワロにまで送り届けるのが筋ってもんだろう」
「ありがとうございます、船長」
一世は、ベンスの判断に素直に頭を下げた。
「だが、また襲撃されたらあんたらにも出て貰う。あと船の修理も手伝って貰うからな」
「あー、俺らの機体再起不能だからな。向こうに着いたらオーバーホールだよ」
マルコは破壊されたフォウォレの事を考えながら、頭の中で金勘定をしている。
「そこは危険手当をはずんでおくよ。機体の大破は、契約の範囲内だからな」
「おう、助かるぜ船長さん!」
ベンスの気前の良さに、マルコも感謝の意志を彼に向けた。




