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天上のオルベイル -Arcanx Gear Altwelt-  作者: [LEC1EN]
四 「死神」の呼び声

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第二十七話 笑う死神

「アルエ……ッ!」


 敵対する漆黒の機体に、まるで部品か宝飾品のように取り込まれたアルエの姿に一世(かずや)は動揺を隠せないでいた。

 そして、眼前の機体もまた、アナンタの獣の取り憑いたアルカニック・ギアであるのだと、彼は直感的に確信する。

 その姿は禍々しく、手に持った鎌と、まるでローブを思わせる追加装甲が、死神を彷彿とさせるシルエットを形作っていた。


「ハハハ! ニンゲンには人質という概念が存在するけど、敵に攻撃を躊躇わせるのに、なんとも都合がいいモノじゃないか!」


 黒衣の少年、サメフが不気味に笑う。

 彼はもう一人の使徒、ギメルと共に安全地帯まで下がっており、高みの見物を決め込んでいた。

 余興のつもりか、と一世は機体を操る手足に怒りを込める。

 オルベイルが、彼の怒りに反応して機体出力を高めていく。変形するのかと察し、一世は慌てて心を鎮める。

 オルベイルの変形形態は、確かに強力である反面、機体の細かなコントロールが効かなくなるという問題を孕んでいた。

 ましてや、アルエという人質を取った敵と戦うのに、これ程不向きな物はない。


「見てよ、あの紅いアルカニック・ギア、まるで全力で戦えていないじゃないか」


 サメフが、嬉しそうに笑い、漆黒のアルカニック・ギアが鎌を振るった。刃が、オルベイルの左胸の装甲を掠める。

 この程度の傷ならば、アルカニック・ギアの性質で難なく再生する。一世はそう思って先の被弾を気に留める様子は無かったが、その傷はいつまで経っても再生が始まらない。

 そこに、上でアナンタの獣を掃討していたシイナのエクリプスが駆け付け、叫んだ。


「気を付けろ逆井一世、それは死神のアルカニック・ギアだ!」

「死神とは、また物騒だな」

「あれは如何なる防御も無力化し、敵に死の概念を与える最強の攻撃型。その鎌に切り刻まれれば、傷の再生も行われない!」

「嘘だろ!?」


 死神のアルカニック・ギアの能力を聞き、一世は眼前に迫る鎌を寸での所で受け止めた。

 敵も厄介な棺を拾ったものだ、と一世は腹に怒りを溜め込む。

 アル・ピナクルの塔の棺もそうだったが、アナンタの使徒は攻撃型の能力を持つ棺を集める性質でもあるというのだろうか。

 そういえば、シイナのエクリプスも、未だにその能力が何であるかを明かしていない。

 そんな考えが一瞬だけ頭をよぎるが、迫る鎌の刃を前に、考え事をする余裕は存在しない。

 一世はガトリング砲で黒い死神を牽制しつつ、鎌の間合いの外へと退避する。

 アルエが捕らえられているだけに、直撃を避けなければ、取り返しのつかない事になる。事を運ぶには、慎重さが必要だ。

 シイナも、死神の死角から接近し、刀を振るう。しかし、その一撃は背中の追加装甲に阻まれ、ダメージを与えられない。


「くそっ……」


 すかさず、カウンターとばかりに鎌が迫る。

 シイナは即座にエクリプスのスピードでそれを振り切ると、やはり一世と同じく敵から距離を取った。


「元から硬い上に再生能力も備えた装甲に、絶対的な攻撃力を誇る鎌。しかも人質付き……くそっ、絵に描いたような厄介さだ」

「逆井一世、なぜ臨界を使わない?」

「バカを言うなッ! あそこには、アルエがいるんだぞッ!」


 その一言に、一世は思わず怒鳴り返す。シイナも、それを聞いて漆黒のアルカニック・ギアの胸元を凝視した。


「なるほどな……あれでは手は出せない、か」

「淡白だな」

「そうでもない。私もそれなりに動揺している」


 シイナの声が微かに震えているように聞こえた。

 感情の起伏に乏しかった彼女の、明らかにいつもと様子が違う様子を見て、一世はやはり彼女が藍羽シイナなのだと確信を持つ。

 そして、なればこそ、アルエを助け出し、彼女に引き合わせなければならないと、覚悟を決めた。

 死神の鎌が迫る。回避。即座にガトリング砲で反撃するが、装甲に阻まれ決定打とならない。

 どうすればいいか。

 一世は、その答えを見つける事が出来ないまま、乾きかけの唇に舌を走らせた。


「双方、決め手に欠けるなぁ」


 サメフが、退屈そうな顔で平行線と化した戦場を見下す。


「ならば、こちらは数を出せばよかろう」

「うん、それじゃあ頼むよギメル」


 サメフの言葉に頷き、ギメルはスートアーマーの墓場に向けてその手を伸ばす。

 一呼吸程度の時間の後、墓場からまるで亡者のようにアナンタの獣が次々と姿を現していく。

 ネビュリアでリーテリーデンが行使した獣を使役する能力は、本来彼らアナンタの使徒が持つ力なのだ。

 だが、最下級のバグズしか使役する力を与えられなかったリーテリーデンとは違い、ギメルはそれよりも上位の個体を自在に操る事が出来た。

 一世達が槌の塔で遭遇した拳の獣、グロウブズ。鞭のような触手を持つウィップズ。それが二体ずつ。そして、その配下のように振る舞うバグズが二十体と続く。


「この場の物質を再構成しても、この程度が限界か」

「仕方がないよ、ここに残留していたレイは、あの棺のイレモノ、ザディスの再構成に使っちゃったんだから」


 サメフはそう言って、天秤の傾いた戦場を見やる。

 ザディスは、全身に追加された装甲よって機動力は著しく低く、全速力を以てしても、オルベイルとエクリプスに追い付くのは難しい。

 リーチに優れた鎌で足の遅さは補えるが、やはり一番手っ取り早いのは、敵の足を止めてしまう事だ。


「さあ、君達はこの状況を、どうやってくぐり抜ける?」


 黒衣の少年が、またしても笑みを浮かべた。


 二体のウィップズが、オルベイルの左右から触手を放ち、その動きを封じにかかる。

 対するオルベイルは、その拘束から逃れようと、光の杭を剣のように扱い、迫る触手を焼き斬る。

 だが、それが時間稼ぎであった事は言うまでもなく、オルベイルの眼前に漆黒の機体、ザディスか迫った。

 オルベイルは、完全に鎌の間合いの内側。そして、左右からグロウブズが迫り、逃げ道を塞ぐ。


「仕方がない……ッ!」


 オルベイルの装甲が蒼く輝き、その体格を、姿を変えていく。

 臨界。

 できる事なら使いたくは無かったと思いながら、一世はザディスの鎌を柄の部分で受け止め、力まかせに斬撃の軌道を変えた。

 ザディスの鎌が、グロウブズの一体の身体に深々と突き刺さる。

 グロウブズはザディスの死神の棺の能力によって死の概念が付与され、瞬く間に塵芥と化した。

 これは直撃したら不味い。

 鎌を奪おうと一世はオルベイルの出力を上げるが、対するザディスも、鎌を腕と一体化させたかのようにそれに対抗する。

 ザディスのむき出しの胸部に、アルエの姿を見る。

 何も身につける事も許されず、まるで磔刑のように手足を広げられ、眠っているかのように瞳を閉じている。

 しかし、その表情は苦痛に染められており、うめき声と共に彼女の口から空気が漏れ出し、結晶体の中に霧散していく。

 手を伸ばせば、今すぐでも助け出せるような至近距離。だが、鎌から手を離せば、瞬く間に即死の刃が一世を襲う。

 シイナのエクリプスも、バグズの排除とウィップズの牽制に回っており、こちらに手を回す余裕が無い様子だった。

 かと言ってこのままザディスを押し留め続けても、臨界の反作用によって一世が疲弊してしまえば、どちらにしてもゲームオーバーだ。

 一世はザディスの鎌を無理矢理地面に突き立てさせ、即座に反転。オルベイルの背後に回っていたグロウブズの胸部に、鋼鉄の拳を打ち付けた。

 一撃粉砕の元に逃げ道を確保すると、バグズに悪戦苦闘するシイナの援護へと回り、彼女の背後に迫ろうとするバグズを一掃した。


「すまない」


 一世に礼を述べ、シイナは地面に刺さった鎌を抜いいてこちらへと迫ってくるザディスの姿を見やる。その左右にウィップズが陣取り、二機のアルカニック・ギアを絡め取ろうと触手を再生させていく。


「このままじゃジリ貧だ」

「珍しく弱気だな」


 シイナのその一言に、一世は「決め手がないからな」と苦言を呈する。


「ならば、起死回生の一手があれば、この場を切り抜けられると言うんだな?」

「え、ああ。そうだけど……」

「いいだろう。私の月の棺の力を、お前に貸す」

「それって、どういう事だよ」

「オルベイルとエクリプスを、合体させる」


 合体。

 その言葉に、最近すっかり鳴りを潜めていた一世の少年の心が、高く飛び上がった。

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