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天上のオルベイル -Arcanx Gear Altwelt-  作者: [LEC1EN]
十五 そして、星の海へ

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第百五話 星の海

 雲を抜け、大気の壁を乗り越え、重力すらも振り切って、オルベイルは遂に宇宙へと躍り出た。

 眼下に広がるのは、ついさっきまで自分のいた蒼い星。見上げる先には無数の小惑星によって構成された環と、二つの衛星がその存在を誇示している。

 空気の無い宇宙では、星は地上のように瞬いては見えない。しかし、それでも星々は圧巻そのものとも呼べる景色を作り出していた。

 そして、それらの調和を乱す青銅色の外敵の姿が視線を遮り、否が応にも現実を押し付ける。

 千切れた尾を瞬く間に再生させたドゥクス・アナンタが、オルベイルがこの場にやって来るのを待ち構えていた。

 或いは、復讐の為に再び地上へ降り立つ算段を立てていた所であろうか?

 しかし、そのような敵の考えはどうでもいい。

 今はただ、悠久の過去より紡がれた因縁。その決着こそが、最優先なのだ。

 暫くの沈黙の後、ドゥクス・アナンタの巨大な腕が、オルベイルへと差し向けられた。

 宇宙空間では、地上とは異なり遠近感を掴みづらい。相手が巨大であれば、尚更彼我の距離は読みづらくなり、回避するタイミングと、実際に攻撃が到達するタイミングにも誤差が生じる。

 ましてやオルベイルを駆る一世(かずや)は生まれて初めて宇宙にやって来たのだ。宇宙遊泳の知識など、本来持ち得る筈もない。

 だが、それでもオルベイルが有する魔術師の棺の力によって、宇宙での戦闘に関する知識は万全だ。

 地上では滅多に味わえない浮遊感と、遠心力による感覚がやや不慣れではあったが、機体を十全に機動させるのには苦労せず、迫る巨腕を回避する事は出来た。

 しかし、ドゥクス・アナンタの腕を回避したのも束の間、その指先から、次々と紫色の光弾が連射される。

 一世は絶対障壁を展開してこれを防いでいくが、一撃被弾する毎に、まるで薄皮のように障壁が剥がされていく。

 まるでその威力が、並の軍事兵器すらも上回る事をアピールしているかのようだ。

 その光弾の正体は、高密度に圧縮されたレイの塊。

 言うなれば、オルベイルやストレンガスの光の杭と同等の攻撃を、遠距離から行えるようにした物だ。舐めてかかれば、痛い目を見るのも当然と言えた。


「これは、直撃したらまずいな」


 舌打ちをしつつ、一世は障壁を何百層にも重ね、更に意図的に角度を付ける事で攻撃を凌ぐ。

 幸いにして、弾かれた光弾は、再びレイとなって周囲へと霧散していく。これで再攻撃能力や追尾能力まであれば、一世もお手上げだっただろう。

 お陰で、防御に徹しつつ、同時に次の手を思案する事が出来た。

 地上では強力過ぎるが故に使えなかった力を試すべきだろうと、蓄積された情報や未来予測を駆使して有効な手段を導き出す。

 閉鎖空間を使って敵の部位を喰らう戦法は、流石にもう通用しないであろう。

 ならば、と一世はオルベイルの背中の翼腕を正面に構えると、その掌へとエネルギーを収束させる。

 そのエネルギーは、太陽のアルカナの棺の力で生み出した物であり、それを一点収束させ、撃ち出す。

 その攻撃自体は、ドゥクス・アナンタの肉体を切断するのに十分な威力を発揮しているが、重要なのは、損傷部を焼き再生を鈍らせる事にあった。相手を再生させないだけで、どれだけ戦いが有利になるか、一世はこれまでの戦いでよく理解している。

 しかし、相手も神と呼ばれるだけの事はあった。焼かれた箇所をその周辺の細胞が喰らい、そこから新しい部位を作り出す。

 乱暴かもしれないが、効率的な対処方法だと一世は関心するしかなかった。

 それに、この敵は生半可な方法では倒せない事も理解できた。

 ドゥクス・アナンタの長大な尾。その先端が、まるで植物の根のように広がっている。この尾が、周囲の空間からレイを絶え間なく吸収しているだけに、これ程までに傷を負わせてなお、疲れる気配すら見せていない。

 否。

 オルベイルの知覚センサーが違うと告げる。敵は周辺の空間から()()レイを汲み上げているのではない。空間を飛び越え、隣接する宇宙にまで根を張り、エネルギーを得ているのだ。

 ずる賢いと思いながらも、平行世界にすら自由に飛び越えられるこの敵の厄介さに、一世は嫌気すら覚える。

 果たして、自分はこの手を何処まで伸ばさなければならないのか。

 そう思いながら、隣接宇宙に伸びたドゥクス・アナンタの根に死神の棺の力を込めた光の杭を打ち込んだ。

 根が壊死していくのを確認したものの、しかしそれよりも早く敵の体組織が増殖し、再生していく。

 だが、一世もそれを指を咥えてただ見ている訳ではない。これまでに駆使してきた複数の能力を組み合わせ、確実にその根を切り落とし、この敵からエネルギーの供給源を奪う。

 それでもなお、ドゥクス・アナンタは翼や頭の角からも根を生やし、それに抗おうと必死だ。

 その上で、一世とオルベイルにも攻撃を仕掛けて来る。それを受け止める度に、オルベイルはドゥクス・アナンタから情報を読み取り、一世へとフィードバックしていった。

 ドゥクス・アナンタにとって攻撃とは、レイを、生存と増殖に必要なエネルギーを生み出すアルカナの棺を求めるが故の行動。

 そこに、意思や思想などは存在しない。ただひたすらに己の本能に従うだけ。

 その終局とも呼べるモノが、この巨大な異形なのだ。

 それを理解した時、一世はドゥクス・アナンタの巨体が急に虚しいもののように見えた気がした。

 これは、己の生存のみを優先した生命体の行き着く先であり、他者を喰らう事……消費する事でしか維持出来ないモノの末路なのだ。

 そうして幾つもの宇宙を干上がらせ、滅ぼし、そしてまた別の宇宙からエネルギーを絞り尽くす。それを繰り返し続けて来たからこそ膨れ上がった、それでいて歪な姿になったのだろう。

 暴食とも例えるべき、本能の虜。

 そして、その腹に溜め込んだエネルギーは、開放すれば宇宙すらも作り変えられる程のモノを秘めている。

 それが暴発したら、何が起こるだろうか。

 敵の情報が頭に流れ込んでくる中で、一世はこれが危険な爆発物であると同時に、希望への篝火である事を理解する。


「こいつの……腹の中に溜め込んだものさえ吐き出させれば……!」


 その決意と共に、一世は己の手足となるスートアーマー達を作り出し、統率する。


「お前はここで、この宇宙で滅ぼす。さもなければ、また別の宇宙に、破壊と混乱をもたらし、破滅させるからだ。そんな事を、俺は絶対に許さない!」


 明確な意思表示を果たしたその言葉とともに、一世は己の軍勢をドゥクス・アナンタへと差し向けた。

 軍勢は二手に分かれ、ドゥクス・アナンタの四本の腕を左右から封じるように攻撃を仕掛ける。翼から伸びた根を断ち切り、焼き払う。だが、ドゥクス・アナンタもそれを許容せず、体表から触手を伸ばし、アナンタの獣を形成させ、その迎撃にあたらせた。

 言うまでもなく、これは群と群の戦いではない。手数を増やしただけの、個と個の戦い。即ち一騎打ちに他ならない。

 しかし、この戦いにおける双方の能力の行使によって、それが一騎打ちの様相を呈さないのは、この二柱の神が持つ権能の大きさを物語っているとも言えた。

 果たして、勝つのは意志の力か、それとも本能か……。

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