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天上のオルベイル -Arcanx Gear Altwelt-  作者: [LEC1EN]
十四 最終決戦へ

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第百話 フル・アルカニック

○

 サメフに、セカンド・ザディスの鎌とエクリプスの太刀が振るわれる。

 しかし、サメフはそれを安々と受け止め、更に武器ごと二機を持ち上げ、放り投げた。

 アルエとシイナは壁面に激突する前にブースターで姿勢を制御し、壁を蹴って再びサメフへと斬りかかる。


「それを、喰らう訳にはいかないので、ね!」


 サメフはセカンド・ザディスの鎌を警戒するが、しかし自身の背後から迫るエイレーネーの存在を失念してはいない。背後からの攻撃を背中から伸ばした触手でいなし、すぐに三機纏めて弾き飛ばす。

 弱い。だが、それ故にサメフは違和感を覚える。


「妙だ……」


 セカンド・ザディスの鎌を喰らっても、その能力がサメフの行動に影響を及ぼさない。

 目の前の機体は、アルカニック・ギアではないという事か。

 サメフは、三機の立ち回りを分析し、この先にあるものを守っている事をすぐに理解する。

 では、何がそこに眠っているというのだ。

 それを考えた時、レイの流れがその一点に集約しているのに気がついた。

 そう。ニンゲン達は、かつてドゥクス・アナンタを長き眠りへと追いやった仇敵の復活を目論んでいる。ドゥクス・アナンタからの司令によってセントノヴァの地下へと送り込まれたサメフは、どうしてその必要があったのかを今、ようやく理解した。


○

「……敵が、迫っている。急いで、機体を覚醒させる必要がある」


 オルベイルが、その言葉と共に一世(かずや)に迫る。

 如何に神の如き力を持っていようとも、動き出す前に破壊されては意味がない。

 しかし、今オルベイルを起動させる事は、一世にとって自分の生まれた世界を破壊する行為に他ならない。

 いざ敵との戦闘になれば、この機体は自らのスペックを発揮させたいが為に躊躇なくアルカナの棺によって作られた仮想世界を消去するだろう。

 ならば……。


「分かった。だが、その前に条件がある」

「……理解している。仮想世界の消去、その引き伸ばしだろう」


 お見通しか、と一世は苦い表情を見せた。


「……当面はスペックの全てを戦闘に向けずとも、現状を打破出来るだけの事は可能だ。しかし、ドゥクス・アナンタと相対すれば、そうはいかない」

「構わないさ。その間に、お前の中の世界をどうするかは、俺が策を練る」

「……そうか」


 その言葉を待っていたかのように、オルベイルと一世を包み込む空間が、光に包まれた。


○

 気が付くと、一世はオルベイルのコクピットに座っていた。


「……戻って来たのか」


 そう呟きながら、一世は現状の確認を行った。

 隠者の未来予測、魔術師のデータ蓄積、教皇の連帯管制。その力の全てを引き出し、そして理解する。

 確かに、この場に敵がいる。


「一世、何が起きたのですか?」


 ジョウがオルベイルの足元に駆け寄ってきた。一世はジョウにただ一言、敵が来るとだけ伝え、動力区画とオルベイルを繋げているケーブルを引き剥がし、動力区画の外へと出た。


○

「やってくる……奴が、やってくる!」


 恐怖に引き攣った声を上げ、サメフはアルエ達が乗る三機の元アルカニック・ギアを無力化しつつ、通路の先の区画を見据えた。

 サメフは、アナンタの使徒の中で唯一アルカナの棺についての研究を行ってきた存在だ。それ故に、その力を味方につけた時のリターンも、敵に回した時のリスクも、重々に理解していた。

 そのアルカナの棺が全て統合された存在が、この先にいる。

 何としても、それが目覚める前に破壊しなくては。ドゥクス・アナンタの完全復活の妨げになる。


「ぬぁぁああッ!!」


 隔壁が開くと同時に、サメフは雄叫びをあげ、全身から触手を伸ばし、隔壁ごとその後ろにいる存在を刺し貫いた。

 ……その筈だった。

 だが、次の瞬間、サメフの背後に真紅の機体の姿があった。

 その機体、オルベイルの存在を認め、サメフは触手を鞭のように振るうが、オルベイルに傷一つ付けるどころか、装甲を掠りもしない。


「凄い……」


 その様子を見ていたシイナが、思わず呟く。

 隠者の棺が持つ、未来予測の力を使い、敵の攻撃を確実に、かつ最小限の動作で躱している。

 のみならず、サメフの背後に現れた時には、隠者のもう一つの能力である「誤」の力によって、隔壁の向こう側にオルベイルが居ると敵に思わせ、自らは月の棺……幻影月鏡の力によって背後へと回っていた。

 それは、一世がそれぞれの棺の力を確実に使いこなしている証拠でもある。

 しかし、オルベイルは未だに真の姿となってはいない。つまり、この戦闘能力にはまだ先がある。


「今度はこっちの番だ」


 オルベイルが光の杭を構える。サメフはそれを危険視し、すぐにもと来た道を辿るようにその場から後ずさる。

 その攻撃が、いかに危険なものであるかを、サメフはよく知っているからだ。

 故に、狙いを定めさせぬよう、自身の能力である空間跳躍を駆使し、オルベイルの周囲に姿を現しては消えてを繰り返す。隙を見せた時に、その首を掻き切る為に、持久戦を選択したのだ。

 しかし、次の瞬間にサメフは突如として暗闇の中へと放り込まれる。


「な、なんだこれは?!」


 漆黒の空間に驚きながらも、サメフは転移を試みる。しかし、何度も転移を繰り返そうとも、その空間からの脱出は適わない。


「閉鎖空間」


 吊るされた男のアルカナの棺の力。そこに敵を閉じ込め、逃げ道を奪い、そしてオルベイルもまた、閉鎖空間にその右腕を入れ、光の杭を打ち放った。

 位相の違う閉鎖空間での戦闘故に、通常空間にまで音は響かない。だが、サメフはそこからもう出る事は無い。

 それは逆に言えば。オルベイルの光の杭の威力は、閉鎖空間に敵を引き込んだ上で使わなければならない程に肥大化している事の証左でもあった。


「敵は、まだ居る……!」


 その言葉とともに、一世はオルベイルを臨界形態へと変形させる。しかし、その装甲は蒼を通り越し、白い輝きを放っていた。


「……フル・アルカニック」


 その一言と共に、オルベイルは変質を開始した。

 二十二のアルカナの棺のシンボルがオルベイルの周囲に現れ、次々とそのボディに吸い込まれるように吸着していく。シンボルに触れた部位はその姿を変えていき、遂には翼を思わせる巨腕と、天使の輪のような光輪を有した神々しい姿へと変貌を遂げた。

 最早、そこにオルベイルとしての面影は無い。せいぜいがフェイス部分のデザインが似ている程度だろう。

 だが、これがアルカニック・ギアの、ひいてはオルベイルの真の姿なのだ。


「……綺麗」


 その姿を目の当たりにしたアルエは、率直な感想を呟いた。

 だが、次の瞬間、オルベイルだったモノはその翼をはためかせ、そこから伸びたケーブルを壁に突き刺した。

 何をするつもりだ。

 そう思った矢先に、セントノヴァ全体が激しく揺れるのを感じた。

 揺れは少しずつ小さくなっていき、やがて断続的な、細かな振動が続くようになる。

 地下の宇宙船が、起動を始めている。アルエ達がそう実感するまでに、そう時間は掛からなかった。


○

 セントノヴァの地下に眠っていた宇宙船が、長きに渡る眠りから目覚め、その姿を現した。

 それは、幾多もの砲塔を全身から露出させ、翼を思わせる放熱板を備えた、まさに軍艦と言ってもよい武威を誇っていた。

 そして、その艦首には白銀に輝く機械の神の姿。

 嘗て、この星に舞い降りた二柱の神の片割れ。

 人類が叡智を結集して作り上げた星間戦争決戦用無尽兵器。

 「無尽」の名を冠するそれは、まさに人が手に入れた最も無限に親しい存在であった。

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