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チリーナ、《百合エンド》を目指す

登場キャラ紹介

 コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。

 ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。

 チリーナ……伯爵令嬢にして魔女高等学校2年生。コンデッサの元教え子。青い髪をツインテールにしている。身長は低め。

 アルマ……チリーナの伯爵家に仕えるメイド長。年齢はコンデッサとほぼ同じ。チリーナを溺愛している。


「チリーニャさん。アタシに何の用があるのにゃ!?」


 ここはボロノナーレ王国の王都、伯爵家のお屋敷。

 伯爵令嬢のチリーナは、黒猫のツバキを強引に自分の屋敷へ連れてきた。殆ど、拉致である。


 ツバキは、魔女コンデッサ(20代前半。赤毛の美人さん)の使い魔。

 そして、チリーナはコンデッサの元教え子。花も恥じらう……恥じらいすぎて、薔薇は逃げだし、百合は寄ってくる17歳。


「駄猫……いえ、ツバキさん。アナタにお願いがあるのです」

「いつになく丁寧にゃ口調が、気持ち悪いニャン」

「失礼な! ……コホン。(わたくし)、是非ともアナタから頂きたいモノがあるのですわ」

「何かにゃ?」

「おヒゲを1本、下さいな」

「…………」

「ヒゲを1本」

「…………」

「ヒゲ」

「イヤだニャ!」


 ツバキ、断固拒否。


「ど~してですの? ヒゲなんて、放っておけば、また生えてくるのでしょう?」

「猫にとって、ヒゲはとっても大切な器官なのにゃ。センサーの役割を果たしているにょを、チリーニャさんは知らないニョ?」

「そうだったのですか……しかし、私には黒猫のヒゲがどうしても必要なのです!」

(にゃん)で?」

「それは……」


 言いにくい内容なのか、チリーナが口ごもる。


「理由を話してくれたら、ヒゲの提供に前向きになっても良いニャン」

「本当ですの!?」

「アタシは、心の広い猫ニャ」

「……心が広い?」

「サバンニャ地方にある、乾期(かんき)の池くらいの面積なのニャ」

「すぐに干上がってしまいますのね」

「だから、早く話すニャ」

「分かりました。打ち明けますわ。けれど話を聞く以上は、他言無用ですわよ。特に、コンデッサお姉様には絶対内緒です」

「ご主人様にも……?」

「宜しいですわね!」

「しょ……承知したニャン」


 とても真剣なチリーナの表情を見て、ツバキは頷かざるを得なかった。


「これは……誰にも告げたことのない、私の秘密なのですが……」

「………………」

「秘中の秘なのですが……」

「………………」

「超・重要機密、トップシークレットなのですが……」

「………………」

「プライバシーに関する事柄で……凄く凄く口にしにくいのですが……」

「早く言うにゃ」

「……(わたくし)、実は、コンデッサお姉様のことが好きなのです。愛しているのです。恋しているのです。……きゃ、言っちゃった! 恥ずかしい!」


 チリーナは両の(てのひら)で自身のホッペタを押さえた。ツインテールにしている青い髪が、微かに揺れる。


「……アタシ、知ってたニャ」

「そうなんですの! ツバキさん、アナタは大変に勘が鋭い猫さんなのですね」

「……そうニャ」

「それで、私はどうしてもお姉様とラブラブになりたいのですわ」

「チリーニャさんの気持ちは分かったけど、それとアタシのヒゲに、いったい何の関係があるニョ?」

「これを見てください」


 おもむろに一冊の古本を取り出す、伯爵令嬢。


「この本は、古代世界より伝わりしオーパーツなのです。そして驚くべき事に、〝女性と女性が幸せな結末を迎える方法〟が記されていたのですわ! まさに、古代の叡智(えいち)が詰まった貴重本と言えるでしょう」

「女性と女性が幸せニャ結末を迎える方法?」

「ええ。いわゆる、《百合エンド》ですわ」

「………………」

「私も、魔女高等学校に通う身。未熟とは言え、れっきとした魔女の1人です。《解読(かいどく)魔法》を用いて、本の内容の大半を翻訳することに成功しましたのよ」

「おお~。チリーニャさん、やるのニャ」

「判明した部分は、ここに書き上げています」


 ツバキの目の前に、数枚の紙が置かれる。


「これが、貴重本のタイトルですわ」

「『乙女ゲーム・マル秘・攻略解説書』って書いてあるニャン」

「そうなのです。中身の殆どは……10代半ばの少女が学園を舞台にイロイロなタイプの男性をゲットする、その手練手管(てれんてくだ)の説明でした。相手は、王子・宰相の子息・騎士団長の子息・人間形態のドラゴン(もちろん美青年)・義兄・義弟・若い執事・幼馴染みの従者・学校の先生・近所の八百屋(やおや)のおじさん……」

「八百屋のおじさんと恋仲(こいにゃか)にニャる手段?」

「あらゆる利用者(ユーザー)嗜好(しこう)に対応できるよう、物語を設定しているのでしょうね」


 猫が、マジマジと令嬢の顔を見る。


「チリーニャさん。八百屋のおじさんと付き合いたいニョ?」

「そんな訳ないでしょう!」

「にゃら、王子様とか……」

「王子だろうが美青年だろうが、全く以て関心ありませんわ! 私が目指すのは、あくまで《百合エンド》! 《乙女ゲーム》とやらには幾つものルートがあるらしく、その中の1つに〝学園に転入してきた平民の少女〟と〝王子の婚約者である公爵令嬢〟が恋に落ちる……そんなストーリーがあるのです」

「王子様が、可哀そうニャ」

「どうやら平民の少女が〝攻め〟で、公爵令嬢が〝受け〟なようです。世間智(せけんち)()けた転入生が初心(うぶ)な公爵令嬢へ言葉巧みに取り入って、調略し、誘導し、籠絡(ろうらく)していきますのよ。あたかも、敵城を攻略する軍師の如く」

「悪質にゃ」

「そのテクニックを学びたい……」

「もう帰っても良いかニャ?」

「しかし! しかしながら……残念なことに……苦心惨憺(くしんさんたん)しつつ解読した、その結果! 恐るべき事実が明らかになりましたの!」


 チリーナが、天井を仰ぐ。


(にゃに)かあったニョ?」

「《百合エンド》へ進むためには、その前に、全ての男性を同時に攻略する《逆ハーレムエンド》へたどり着く必要があるのだとか。…………そうしなければ、〝ルート開放〟なる仕様が発動しないらしいのです」


 ガックリと項垂(うなだ)れる、令嬢。


「同時攻略……王子様も、八百屋のおじさんも?」

「はい……他には、魚屋のお爺さんと果物屋のアルバイター」

「カオスにゃ」

「私には、無理でした」

「というか、そんなにょに対応できる女の人なんて居るニョ?」

「タコのメスなら、もしかしたら可能かもしれませんわね。足が8本もありますし」

「足1本につき、男の人が1人……吸盤でペタッと貼り付けば、OKにニャる……けど、それでも4本、足りないニャ」


 ツバキは、ぶるっと全身を震わせた。


 巨大なタコの足に、宰相の子息・騎士団長の子息・人間形態のドラゴン(もちろん美青年)・義兄・義弟・若い執事・幼馴染みの従者・学校の先生が絡め取られている光景が、頭の中に浮かんだのだ。

 ちなみに王子は口でパクッと(くわ)えられ、近所の八百屋のおじさん・魚屋のお爺さん・果物屋のアルバイターは(すみ)をぶっかけられつつ海底に捨てられている。


 えり好みが激しい、メスである。タコのくせに。


「チリーニャさん、タコになるニョ?」

「だから、私は《逆ハーレム》なんかに興味はありません。考えるだけでも、気分が悪くなります!」


 タコのように顔を真っ赤にして怒る、チリーナ。


「それにゃら、《百合エンド》は諦めるしかないニャン」

「諦めません。私は、お姉様とともに栄光の未来を掴むのです」

「でも『乙女ゲーム・マル秘・攻略解説書』は結局、役に立たなかったのニャ」

「そんなことは、ありません。実は『攻略解説書』にはオマケ本が付いていたのです」

「オマケ本?」

「当然ながら解読し、内容をこのペーパーに書き上げました」

「一応、見せて欲しいのニャ。…………にゅっ! 『ホレ薬の作り方』って、書いてあるニャン!」

「ふっふっふ」


 悪い笑みを浮かべる、伯爵令嬢。


「まさか、チリーニャさん。ホレ薬を作って、ご主人様に飲ませる気にゃんじゃ……」

「猫にしては、察しが良いですわね」

「そんにゃ事には、協力できないニャン!」

「え?」

「アタシは、揺るぎにゃい信念を持つ猫なのにゃ。使い魔としての、誇りがあるのニャン。ご主人様を裏切るようなマネは、絶対しないニャ!」


 ツバキのコンデッサへの忠誠心は、とても堅固なのである! 1時間ほど日当たりが良い場所に放置された、アイスクリーム並の強度があるのだ。


「お願いします! ツバキさん。このホレ薬の効果は、(わず)か1日のみなのです。私はお姉様と、夢のような一時(ひととき)を過ごしたい……ただ、それだけで満足なのです」

「1日……ひととき……」

「ワンタイム・フィーバー」

「ダメにゃ」

「カツオブシを1年分、上げますから」

「う……」

「チーズも、付けますわ」

「にゅ……」

「鶏肉も」

「…………」

「マグロのお刺身も」

「しょうが無いニャ~。チリーニャさんの想いを汲んで、力を貸してあげるニャン。アタシって、とっても慈悲深い猫だし」


 ツバキは、チリーナの頼みを受け入れることにした。

 猫の誇りなんて、そんなもんである。考えが、アイスクリーム並に甘い。


「ホレ薬の効き目は、1日で切れるんにゃよね?」

「ええ。その通りですわ」

「分かったニャン。だったら、特に問題は無さそうニャ。その日が終われば、何も無かったことにニャるんだし」


 チリーナが、内心でほくそ笑む。

(ふっ……愚かですわね、この駄猫。確かに、ホレ薬の効果があるのは1日。けれど、その間にお姉様と既成事実を作ってしまえば良いのですわ。そうすれば、私とお姉様のラブラブハッピーな将来は約束されたも同然! 《百合エンド》確定ですわ!)


「それで、アタシは何をすれば良いニョ?」

「このオマケ本によると……ホレ薬の材料は、ヤマユリの花びら・ササユリの葉っぱ・オトメユリの(くき)・テッポウユリの根……」

「百合ばっかりニャン」

「加えて、メイドの下着」

「ニャン? メイドさんの下着?」

「正直、意味不明なのですが……どうしても必要らしく……」


 チリーナの目が、ちょっと虚ろになる。さすがに、最低限の良識は残っているらしい。


「メイドさんから、貰えば良いニャン。チリーニャさんのお家には、メイドさんがたくさん居るんでショ?」

「それはもちろん……けれども、メイドへ向かって『下着を渡しなさい』なんて、いくら何でもさすがに命じにくくて。どうしようか、迷っているところです。『下着をくださいな』と頼むのも、きまりが悪いし……伯爵家の娘たる私が、使用人の下着をくすねる(・・・・)訳にもいかず……」

「堂々と『下着が欲しいのです』とお願いすれば良いと思うニャン。メイド長さんとかに」

「アルマに!? そんな事をして、嫌がられないかしら? 〝パワハラ〟に当たるのではなくて?」


 伯爵家のメイド長を務めるアルマは、コンデッサとほぼ同い歳。常に冷静沈着で仕事も早い、クールビューティーさんである。


あの(・・)メイド長さんにゃら、嫌がったりはしないはずニャ。むしろ、喜ぶニャン。きっと、嬉し泣きするニャ」

「そんな(わけ)ないでしょう」

「そんにゃ訳、あるニャン」

「…………まぁ、良いですわ。後でアルマへ、それとなく訊いてみます」

「間違いなく下着は手に入れられるだろうけど、その後どうにゃるかは……アタシの知ったことではないのニャ。全ては、チリーニャさんの自己責任にゃん」

「何か仰いました? ツバキさん」

「ニャニも言ってないにゃ」

 まぁ、こんなお話です……内容も、これ以後ちょっとお下品になります。ご注意ください。

 本日中に全話、投稿いたします。

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