8 もしかしてラブコメなのか?
「じゃあまた明日もよろしくお願いしますね」
「おう」
涼風さんとは反対ホームのため、改札をくぐったところで別れた。
俺と涼風さんは部活に行こうとは思っていないため放課後になるとすぐに帰宅する。
晴天も帰宅部なのだが……今日は女子テニス部の視察をしてくるという。マネージャーでもやるのかなぁと思っていたら、どうやらフェンス越しに可愛い先輩を視察するみたいだ。あいつ何やってんだ?
あと女子テニス部だけで、全制覇するらしい。あいつほんと何やってんだ?
まぁ人それぞれに青春の形はあると、晴天自身も言っていたし、俺もそう思うので何も言わないでおく。
階段を上がってホームに出ると、やはり部活動が始まったからか、制服を着た生徒はまばらだった。
その中でひときわ目立つ存在、新島加奈が視界に入る。
するとお互いに視線を向けて、交わった。
「あっ時雨君じゃないかぁー。彼女はどうしたんだい?」
のっけから新島テンション全開の新島さん。
今の新島さんにはニマニマという言葉が似合いそうだ。
「彼女って?」
「いや君は自分の彼女を忘れるのかい? それはなかなかに薄情じゃないかね? やっぱり薄情者だったのか貴様ッ!!!」
「別に涼風さんは彼女でもなんでもないから。あと、そのテンションはおかしい」
「えぇ?! 世那ちゃん彼女じゃないの?! べ、別にテンションは普通だからー……」
そういう新島さんだが、自分のテンションの高さにどうやら気づいたようで、最後の方は若干動揺していたのが分かる。
たまにこんなテンションになるのだ。
「で、別に涼風さんは彼女ではないよ」
「えぇーあんなに仲睦まじい男女がお付き合いしていないなんてあり得るの?」
「全然あり得ると思うけど」
っていうか仲睦まじいと思われていたのか。
いや、実際そうなのかもしれないけど。
「いや、ありえないよ! おそらく私の予想では、お互いがお互いを好きでありながらそれを口に出すことができない、シャイな人たちだと思うんですけどそこんとこどうなんですかぁご・しゅ・じ・ん?」
なんだか新島さんが晴天と同一人物にしか見えなくなってきた。
「別に俺は涼風さんのこと何とも思ってないよ」
「でも少しくらいは可愛いとか思ってるんじゃないですかねどうなんですかね?」
「うーん……」
どう答えればいいのか正直迷う。
なにせ本心で言えばもちろんのこと涼風さんのことを可愛いと思っている。
しかし、ここで本心を言ってしまえば新島さんなら直接それを本人に言いかねない。これは言うべきではないな。
そう瞬時に判断して、はぐらかしておく。
「いやぁこれは俺の胸の中にしまっておくよ」
「えぇけちぃーぶぅー」
こんな会話をしていたら、間もなく電車がくるというアナウンスが流れてきた。
ホームに電車が滑り込む。
俺たちの目の前で間もなく電車が止まろうとしていた時、新島さんがぼそっと呟いた。
「まぁ、世那ちゃんの方は、きっと――」
最後の方は電車の停車音で遮られる。そのためよく聞こえなかった。
「今なんて?」
「いや別にぃ?」
小悪魔的な笑みを浮かべて、新島さんは電車に乗った。
最後一体新島さんはなんて言ったんだろう。
でもあの様子だと、電車の停車音で聞こえないことを見計らっての発言だったように思える。
そうだとしたら、小悪魔どころじゃなく悪魔的だな。策士だ。
だから何も聞かないで、俺も乗車した。
***
家がある最寄り駅に到着する。
学校の最寄り駅に比べて栄えてはいないが、ここも十分店がたくさんあり、休日は買い物客であふれかえる。また急行も止まるので、乗り換えにも多く利用されていた。
そんな駅に降りたとき、少し驚くことがあった。
「まさか時雨君と最寄り駅が同じだったとはねぇー……今まで気づかなかったのが不思議なくらい」
「俺も驚いた」
まさか同じだとは。まぁ同じだからといって特に何もないのだが。
電子カードをかざして改札をくぐる。そして西口を出た。
その瞬間――何か鋭い視線を感じ、背後へ振り向く。
「ど、どしたの?」
「い、いや……何でもない」
しかし、振り向いた先にはこの駅を利用する知らない人たちがいるだけ。
俺が感じた視線を放った人は、どうやらいなかった。
俺の勘違いなのか?
あれは明らかに殺意とか憎しみとか、そう言った類のものを含んだ視線だった。
そういう視線に敏感な俺だから変に反応してしまったのか?
でもあれは俺に向けられていた。少なくとも新島さんではなかったはず。
本当だったら恐ろしいけど、きっと何かの勘違いだろう。
最近涼風さんとよく一緒にいるから視線を割と気にしていたし。
そう自分に言い聞かせる。
「ど、どうしたの?」
「何でもない……」
でも、なんだかこのことが妙に心につっかえた。
***
「でもまさか家が近いとかきっとないよねぇ。そんな偶然あったら私運命感じちゃうかも」
「大丈夫だろ。そんな偶然あったらこれラブコメだよ」
とまぁそんな会話をしながら帰路について歩いていたのだが……これが完全なフラグとなった。
しばらく駅から歩いてもなお、「じゃあ私はここで」という言葉がない。
もうすぐで俺の家着いちゃうんだけど。
数分後――
「ここが俺の家だから」
新築のアパートの前で止まる。
すると新島さんは、隣のきれいな一軒家で止まった。
二人顔を見合わせる。
「ん、んんん???」
「あははは。まさか家が隣だとは……」
ま、まじかよ。
これほんとにラブコメなのか?
そう疑ってしまうほどに、あまりにも非現実的な展開だった。
「び、びっくりだね」
「そうだね……わ、私はこれで――じゃ、じゃあね!!!」
新島さんは明らかに動揺した様子で家へと入っていった。
まさかクラス一……いや、学校屈指の美少女とご近所さんで、まさかの隣の家に住んでいたとは……
「はぁ」
ついに俺もラブコメの主人公にでもなったのか?
そんなわけないのに。
そんなことを思いながら、自分の家へと入った。
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次回の宣伝をすると、次回は涼風さん視点でお送りする、今回と同日の話です。
あと、ちょっぴり新島さん視点の話もお送りするよ?
カミングスーン!!