7 美少女ハッピースマイルコンボ
理科室での一件があった後、英語の授業を受けて昼休みに突入した。
この学校は『ノーチャイム制度』というものを取り入れていてチャイムが鳴らない。だから授業終わりの号令によって、昼休みというハッピーわくわくタイムの到来を告げられる。
チャイムが鳴らないからこう……「昼休みが来た!」って感じがしなく、何だか味気ない。
そんなことを考えながら自席である人物を待つ。
待つというのも、その人物が来ない限り俺の昼食は始まらない。
「お弁当はこれから私が愛情を込めて作りますので持ってこないでください」
とその人物に言われているからだ。『愛情』という言葉をやけに強調しては恥ずかしくなって自爆していたのはなぜだろう。晴天と同じでそういう趣味が……いやそれはないか。
そんなことを脳内でしゃべっていると、
「時雨さーん。来ましたよ?」
と教室のドア付近で声が。
「時雨くーん。お姫様がお見えになられたわよー」
本当に新島さんはこの状況に相当慣れているようだ。
なにせ俺が涼風さんのところにいる間軽い雑談に花を咲かせては笑顔を教室中に振りまいている。
美少女二人が仲良く話している。
それだけで前まで俺のことを目の敵のような眼で睨んでいたクラスメイト達が頬を緩ませている。
美少女は世界を救うんだなと思った。
そして俺はこの現象に、『美少女ハッピースマイルコンボ』と名付けた。
ダサいって言ったやつ出てこい。俺も同意見だから打ち上げでも行こう。
「あっ時雨君。こんにちわ」
「お、おう」
「ちょっと時雨君素っ気ないんじゃない? 世那ちゃんせっかく来てくれたのにぃー」
さらに最近ではこんな風に横やりを入れてくることも。
「確かに、時雨君は素っ気ないですけど……私はいいんです。時雨君は、時雨君ですから」
「おぉ。さすが涼風さんはよく時雨君のことを理解してるんだねぇ?」
「べ、別にそんなことないですよ。ほ、ほら。時雨君行きますよ?」
「あ、あぁ」
涼風さんは逃げるように教室から離れる。
俺の制服の裾をちょこんとつまんで。
「また今日もいつものところか?」
「はい、そうですけど……ほかに時雨君が行きたいところとかありました?」
「いや、あそこで全然いいよ。人いないしな」
人が大勢いるところで涼風さんと食べようもんなら、『美少女ハッピースマイルコンボ』は新島さんがいないから場を天国にさせることができないため、地獄の針千本ならぬ、視線めった刺しの刑を食らってしまう。
それはできれば避けたいのだ。
「べ、別に私は人が多いところで食べても全く問題ないのですが……」
そう恥らいながら言う涼風さん。
いつもならニコッとさり気なく笑顔を見せてくれるのだが、視線も合わせてくれない。
「いや、それだと勘違いとかされないか? 実際十分勘違いされてるけど……」
「べ、別に私は……ごにょごにょごにょごにょ」
「い、今なんて言った?」
「な、何も言ってません! 早く行きましょう」
そう言って今度は俺の手の小指をつまんで先導する涼風さん。
意外と引っ張る力が強い……。
「す、涼風さん……小指もげちゃうよ。せめて親指とかにしてくれ」
「あっ、ご、ごめんなさい。無意識の内でつい……」
小指が解放された。
しかし涼風さんの顔はよく見えなかったけど耳が一層真っ赤になっていたので、相当恥ずかしかったんだろうなと思う。
涼風さんはほんとによく自爆する人だ。
そんなこんなでいつもの昼食場所――
屋上の前の、なんだかよく言い表せないスペースに到着する。
「つきましたー……はぁ、はぁ」
「だ、大丈夫? 確かにここ最上階だし疲れるよな」
「はいぃ……日頃の運動不足が出ましたぁ……はあ、はぁ」
確かによくよく見れば、涼風さんは細い。
それでいて出るところはしっかり出ているよなぁ……
まずい。なんだか晴天の病を若干移されたのかもしれない。
これは不治の病らしいからかからないようにしないと……。
「ど、どうしました? 顔、赤いですけど」
「い、いや……俺も疲れたんだ」
「時雨さんも運動不足ですか……私と同じですね」
「そ、そうだな」
ちょっぴり涼風さんがうれしそうなのはなんでだろう。
世の中分からないことだらけだ。
その中でも、女子の心というやつは難問中の難問だなぁなんて思う。
いつの日か女子の心を科学的な解明してほしいものだ。
「さっ、早くお弁当食べましょうか」
「おう」
弁当を受け取る。
猫がたくさんいる包みに包まれた弁当は涼風さんの時折見せる女の子らしさを表現しているかのようで、なんだかおもしろい。
こういうワンポイントで人間性ってにじみ出るんだな。
「今日はハンバーグにしてみました。渾身のできなんです」
「おぉーなんか内から来るものがあるな」
「いや時雨君は私のお母さんですかー? ふふっ」
一口ぱくり。
「うまい」
涼風さんは俺に対するお礼と言ってこんなことをしてくれているが、なんだかおつりがたんまりと出るくらいによくしてもらっているので、こういうことはちゃんと言おうと心がけている。
やっぱりこんなことでは等価にならないような気もするけど。
「ほんとですかー?! それはよかったです! また作りますね」
今まで一番の笑顔を見せてくれる涼風さん。
確かに涼風さんはただただ容姿的な面だけでも可愛いと思うが、涼風さんのみんなから好かれる理由はそれだけじゃないんだなと思う。
ちなみに、このことは恥ずかしいから言わない。
「それにしても、さっきから涼風さん近くない?」
「えぇーそうですかね? 全然そんなことないと思いますけど」
と言っているが、腕が密着しているし肩と肩が結構な頻度で触れ合っているんだけど。
もしかして涼風さんは……欧米人の血でも引いているのか?
「そんなことより、時雨君は食べ物何が好きなんですか?」
明らかに話をそらされた。
本当に最近の涼風さんは何かの病にかかったのではないかと思うくらいにグイグイくる。
最近人肌が恋しいのかな。
そんなことを思いながら、わざわざ離れるのはどうかと思い離れないでおいた。
おかげですごく弁当が食べづらかった。
ちなみに、好きな食べ物は枝豆と答えた。
そしたら、「私が料理する意味ないじゃないですか」とツッコミが返ってきたのだった。
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皆さんは今回みたいな日常イチャイチャとスートリーが進んでいく話、どっちが好きなんですかね。感想で教えてくださいー。
僕的には書きやすさはどっちも同じくらいなのですが、昔からずっと日常イチャイチャかいていたのでなんか傾向的にそっち多めに書いちゃうんですよね。でも、次回から物語が一ピコメートル動きます。
夕方ごろに投稿予定。