5 胸の大きさの好みが知りたい
三限目は理科室で授業を行うらしく、この教室から通路を挟んで向かい側の別棟へと向かっていた。
その道中、やけに視線を集めていることに気が付く。
おそらくは涼風さんに関係するものだとは思うが、一部は俺の隣にいる晴天に視線が集まっていた。
こいつ、こう見えてもイケメンだからな。
「それでー、時雨は一人暮らしなのか?」
「あぁ。実家は別の県にあるから、直接通えなくて」
「そうか。やっぱりこの学校の進学実績とかそういう理由でこの学校を志望したの?」
「いや面接かよ」
「これからの抱負をお願いします」
「だから面接か」
「ツッコミに、キレがある……! 面接満点!!」
先ほどから晴天はこんな調子で……先ほど初めて話したとは思えないほどにフランクだ。
こんな奴なら目の前で明らかに「リア充です俺たち」と見せびらかしているような六人組の中に入ってもいいような気がするのだが……なぜかこうして俺とつるんでいる。物好きなのだろうか。
「で、さっきから何羨ましそうに新島たちのこと見てんだよ」
「あっ……いや別に羨まし気に見てないから」
「見てただろ。というかここ最近ずっとあのグループのこと見てるよな。入りたきゃ入ってくればいいのに」
そう呆れながら晴天はため息をこぼす。
別に羨まし気に見ているつもりはない。ただ、なんだか昔の俺を見ているような気分になる。
そんな自分が嫌なのか、それともあいつらが本当に羨ましいのか、自分にもよく分からないが。
「そういうお前こそあのグループに入ったらどうだ? お世辞抜きでも晴天はイケメンだし、コミュ力も高いだろ?」
そう言うと、晴天はまたため息をついた。それも今度は深いため息。
「いや俺は別に青春をウェイウェイ謳歌して両脇に女抱えて真夏のビーチでウェーイ! 俺たち今、最高に輝いてんぜ! ズッ友だヨ! みたいなことしたいわけじゃないんだよ」
「お前の語彙力どうなってんだよ」
「お褒めの言葉、ありがたき幸せ」
「別に褒めてないから」
「紛らわしいことすんなよな?」
いやしてないから。
こいつツッコミをまってやがる……どうやら晴天にはMっ気があるみたいだ。これからは慎重に言葉を選ぼう。
もうツッコむのはめんどくさかったので、あえて何も言わなかった。
するとそんな俺を見て再び話を続ける。
「本心、別に一般ウケする青春を過ごそうだなんて思ってないんだ。自分は自分、人は人で青春の成功……の形はあるだろ? 俺はあいつらの形にそぐわないだけだ」
「…………そうか」
「おう。だから、俺はお前と青春を過ごすぜ?」
「ホモホモしいからやめろ」
「そりゃひでぇよ!」
泣きべそ書きながら俺に寄ってくる奴はさながら絵に描いたようなお調子者。だけど、おそらくこれが今の状況で一番おさまりがいいと計算したうえでやっているんだろうなとどこか思う。
入学早々、変わった友人と出会ってしまったようだ。
その後、割とすぐに理科室に着いた。
***
「えーですから、この場合はですね――」
わりと年を取っている、いかにも理科の先生という感じの人が教壇で熱心に授業をしている中――
比較的多くの生徒がスマホをこっそりといじっていた。
関東有数の進学校といえど、所詮俺たちは高校生。こうも眠くなる退屈した授業を受けていると、スマホを触りたくなるのだろう。若い人のスマホ依存……かなり進んでいるんだな。
そんなどうでもいいことを思いながら授業を聞いていると、隣の席に座っている晴天が話しかけてきた。
「時雨ってさ、好みの胸のサイズって何?」
「…………」
どうやら男子高校生の下ネタ依存も深刻化しているようだ。
「突然なんだよ」
「いや、やっぱりこれから時間を一緒に過ごすものとして、これは知っておきたい最重要事項だろ?」
「それはなかなかに偏見を含んでいると思うけど?」
「何言ってんだ。男子高校生なら全国共通認識の事項だぞ。ささ、お前はどうなんだ? 大きいか小さいかだけでいいきからさ。な?」
手を合わせて、頭まで下げて聞いてくる晴天。
彼には心の中で『滑稽』という言葉を贈呈しよう。
「いや別に俺は興味ないよ」
「またまたー。さては時雨……むっつりさんだな? むっつりさんなんだろ?」
「違うから。本当にそういうのに興味を持ったことがないし、考えたこともない」
俺がそう言うと、晴天はしばらく黙り込んでは頭の上にぴかっっと豆電球を点灯。
何か思いついたときのよくあるやつだ。
……ちなみに現実で豆電球を頭上で点灯させている。手の込んだことをわざわざする奴だ。
「分かった。じゃあ今から俺がいう状況を想像してくれ。おーけぇー?」
「……はぁ。わかった」
「ではでは、今時雨は放課後の教室にいる。そこで女子に迫られているとしよう。その時に体が密着して胸が当たった。さぁ! そのとき時雨はどんな胸の大きさがいいと思った?」
「お前の性癖ガンガン出してくんじゃねぇよ」
「実はこれ俺の、『高校生活で一度はあって欲しいシチュエーションランキング』で第三位なんだ。ちなみに第一位は人目のないところで膝枕だ」
「別に聞いてないから――」
「ちょっとそこ! 授業ちゃんと聞く!」
どうやら晴天の声に熱がこもっていたようで、クラス中の視線を集めてしまっていた。
おまけに耳が遠そうな理科教師に叱られてしまった。
「「す、すみません」」
クスクスと笑われる中、俺たちは謝罪をし、授業に戻った。
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ここでまたまた雑談なんですが……といいたいところですが何もありません。ガス欠です。
※ 四月十四日。
一話、二話にて少し修正した点があります。
時雨の事件後の中学校生活について。(一話)
涼風さんの謝罪内容(二話)