11 晴天は生きる場所を見つける
朝の教室はいつも通り騒々しく、高校生らしく活力に満ちている。
そんな中、俺と晴天はいつも通りくだらない会話(九割九分晴天のくだらない話)をしていた。
するとそこに珍しく来客が訪れた。
「時雨君と晴天君。ちょっと話があるんだけどいいかしら?」
その来客とは、新島さんや川神君が率いるクラスカーストトップのメンバーだった。
名前は黒崎さんと新城さん。
黒崎さんは長い黒髪にすらっとしたモデル体型であり、身長は170cmを超えていそうなくらいに高く、一年生ながら女子バスケ部のレギュラーの座に君臨しているらしい。さらにクールで整った顔立ちをしており、男子と女子両方から絶大な人気を誇っているそうだ。
また新城さんは、ゆるふわショートボブで茶髪。小学生と間違えられても何らおかしくない小柄な体格で黒崎さんと隣に立っていると、余計に小さく見える。またなかなかにドジっ子であり、天然キャラとしてカーストトップの集団では可愛がられているマスコット的存在。
二人はあのミラーボール集団(俺が勝手につけた)に属しているため、知っていた。
そんな二人がわざわざホモ集団と陰で言われている俺たちに一体何の用だろう。
っていうか、ホモじゃないから。
「私たち入学してから結構経ったじゃない? でも今までこれといった行事がなかったからクラス全体での交流が少なかったわけよ。だから自主的に親睦会的なことをやりたいなーと思ってるの。日程は、五月一日。時雨君と晴天君もどうかしら?」
「き、きっと楽しいですよ? 私はどこに行くか知らないし何するかも知らないんですけど……あれめいちゃん……私何も聞かされてないんだけど?!」
「大丈夫大丈夫。さゆはいてくれるだけでいいのよ?」
「そ、そうですか?」
「そうよ?」
「「…………」」
俺たちは何を見せられているのだろうか。
まるでイケメンが小学生をあやしているような、そんな光景が俺と晴天の視界に広がっている。
すると晴天がようやくエンジンをかけた。
「あっちなみに黒崎さんって、女子に告白されたって噂あるんだけどほんとなの? いや、ほんまなの?」
いやそれ今関係あんのか?
あと、わざわざ関西弁にした意味が分からない。
「な、なんでそれを知ってるのかしら?」
「いや俺、その現場にいたし」
「ん?」
「いや俺、その現場にいたし」
「……な、なんで晴天がいたのよ! 人気のあまりない体育館裏でされたのに」
「だって、女子二人が体育館裏に行ってるとこ見たらなんか気にならない? しかもそのうちの一人が男に勝るほどのイケメン力をもつ黒崎さんだった、そりゃあ気になるでしょうが」
気にならない方がおかしいわ、みたいな態度だけど、普通気になってもついていかないと思うんだけど。
しかし、晴天にそんな常識は存在しなかったようだ。
あと、気づかぬうちに晴天君が晴天になっていた。
黒崎さんも、晴天の扱い方が分かったんだろうな。
「だからってこっそり見ていい理由にならないわよね?」
「ひ、ひぃ……ごめんなさい……」
あの晴天が、心底怖そうにおびえている。
黒崎さん、クール系かと思っていたが怒るときは怒るようだ。
そもそもクール系が怒らないという前提がおかしいか。
「で、話を戻して二人は親睦会参加でいいわよね?」
黒崎さんは少し咳ばらいをして、話を振り出しに戻した。
新城さんは、「私やっぱり必要ないんじゃ」と言いたげにおどおどしていた。
なんだか本当に小動物に見えてくるな。
「親睦会か……」
正直なところ、乗り気ではなかった。
おそらく親睦会にはクラスの大多数の人が参加するだろう。なにせクラスを牛耳っているグループが取りまとめているのだ。
しかし、俺は大人数は得意ではない。
それにみんな友達とか、他の人とかと楽しそうに話しているところに俺が参加してもきっと孤立するだけだ。また疎外感を感じてしまうだろう。
加えてそんな奴がいたらせっかくの親睦会の雰囲気を台無しにしてしまうかもしれない。
だから断ろうと、そう思った瞬間、黒崎さんが淡々と話し始めた。
「いや実はね、時雨君ってあんまりクラスメイトと関わったりしないじゃない? まぁ晴天とは関わってるけど。それはおいといて、他にもそういう人がいるから、そういう人たちのこともっと知りたいなと思ってこの親睦会を企画したのよ。加奈が」
倒置法使って「私が企画したわけじゃないから」感全面的に出してくるな。
「すみません。俺がとりあえずどこかに置かれてしまったことが納得できません」
「うるさい黙れ」
なんだか黒崎さんのツッコミの切れがいいから生き生きとボケている晴天。
晴天はようやく生きる場所を見つけたようだ。
「今俺……生きてるッ!」と、どこかのロードバイクのアニメに出てくる山厨が言っていたセリフを今にもいいそうだ。よかったな。
「で、どうかしら?」
もう一度問われる。
しかし、やはりみんながいるというのはどうも俺に合わないような気がしている。
というか、正直なところを言えば怖いのだ。
俺がこの先自分を出していって、受け入れられないことが。拒絶されてしまうことが。
だからわざわざ髪を染めて髪を伸ばしたということもある。
まだ入学して一か月弱。
涼風さんとか晴天とか、新島さんとはまだ関われるけど、心の準備ができていなかった。
でも、俺を知ろうとして企画してくれたこの親睦会。断ってもいいのか?
でも、受け入れられないんじゃないか?
決まってこういう時、あの時のトラウマが頭をよぎる。
二人の自分が心の中でぐるぐると回る。
様々な感情を一緒に巻き込んでぐるぐると回って、あの理科室の時みたいに体が熱くなってきた。
二人は俺の回答を待っている。
早く言わないと。でも、なんて言えば……。
俺の答えはどっちなんだ? 行くのか? 行かないのか?
沈黙の時間が流れていく。俺が返事をしないせいだ。
早く…早く決めないと……
「すっまーん。俺と時雨その日ちょうどショッピングの予定なんだわ」
晴天が急にそんなことを言った。
もちろん、そんな約束はしていない。
「しょ、ショッピング?! あなたたちほんとに仲いいのね。でもその日じゃないとショッピングはダメなの?」
「あぁすまんな。その日は俺と時雨にとっての記念日なんだ。二人で過ごさせてくれ」
き、記念日?
また晴天は嘘をついた。
「あ、あなたたちほんとに友達?」
「まぁ、俺たちはそれ以上の関係だけどな?」
「「「きゃあー!!!!」」」
俺を見ながらそう言う晴天。ギャラリー(腐女子)を沸かせることに成功。
「そ、そうなのね。じゃあ仕方がない。また今度誘うわ」
そう言って黒崎さんらは別の人たちに出席するかの確認をしに行った。
それを見て俺は少しほっとする。
それにしても、だ。
「晴天……俺のこと気遣ってくれたのか?」
俺が明らかに動揺していたことを晴天は見て察してくれたのだろう。
晴天は察しがいい。だからきっと今回もその能力を発揮させたのだ。
「何言ってんだよ。俺もああいうの苦手ってだけだよ」
さわやかに笑顔を見せてくれる晴天。
こいつ……やっぱりいい奴だな。そう日々実感する。
もっと昔からこいつと出会っていたら、何か変わってたのかもしれないな。
そんな妄想をしても、今はもう意味はないけれど。
「晴天、すまんな」
「何言ってんだよ。そこはありがとうだろ?」
「あぁ、そうだな」
たまにうざくなったりわけのわからないやつになったりするけれど、やっぱり根はいい奴だなと思う。
俺は、こんなに立ち止まっていてもいいのか?
自分に問う。でも言葉は返ってこない。
そういえば、晴天はさっき大人数の集まりが苦手だと言っていたけどなぜだろう。晴天ほどにコミュ力がある人はそう多くないと思うのだが。
それにこうして俺と二人でいつも話しているし。
何か理由でもあるのかな?
気になったけれど、晴天も聞かなかったように俺も聞かないでおいた。
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いやぁ新しいカップルが誕生しちゃったりして? どうなるかまだまだ未知なこの物語。今回は黒崎さんと新城さんの紹介みたいな回だったので物足りなかったらごめんなさい。
次回、体育祭???




