本編6
ギルドに戻って数分後直ぐに調査の依頼が出され、もしもの為に、Dランク以下の冒険者はギルドでの待機命令が出された。
二人とも無言のまま数時間が経ち、カレンさんが私達の座っているテーブルに近づいてきた
「死者2名重傷者1名ですって、それでも貴方達のお陰で1人は救えたわ…」
一応関係者だからと、先に教えてくれた情報に私は狼狽えていた
この世界の冒険者は、ギルドによって統率されていて身の丈に合わない依頼は受けられない
わざわざ自殺に行かせるほどギルドも無能ではない
冒険者だからと言って命知らずは歓迎されないのだ
だからこそ、この一週間で人が死んだと聞くのは初めてだった。
「そうですか…」
「貴方達の迅速な対応のお陰ね」
私達じゃない、エルのお陰。エルが一人でオーガを倒して、ギルドに報告する事を決めたんだ
エルがいなかったら私は死んでいたし、残りの一人も死んでた
冷静になればなるほど、時間が経てば経つほど、自己嫌悪に嵌っていく
「これ、報酬。通常のオーガ討伐の報酬と、あとは人命救助の報酬。受けた依頼の破棄は、今回はこちらでやっとくから」
そう言ってテーブルの上に袋を置いて立ち去るカレンさん
でも私には、受け取る資格はない
「エル、今回は助かりました。全額エルが受け取ってください」
目を瞑りながら黙るエルにそう声をかける。
今日はもう帰りたいな…これ以上ここにいるのはしんどい…
考えれば考えるほど、落ち込んでしまう
椅子から立ち上がり、帰る事を伝えようと口を開いた瞬間に、エルがこちらを見た
「おい、アイリ。これで美味い物でも食べにいくぞ」
「え?」
「なんだ?落ち込んでるんだろ?大方、俺の方が強かったとかだろうが、美味い物を食えば少しはマシになるだろう?」
目を瞑って考えてた事は、それ?
でも確かに、もう時間帯は夕方で、落ち込んでいてもお腹は空いている。
「そうかも知れませんね。ではお言葉に甘えて」
エルもテーブルを立ち、私を先導してギルドを出て行く
「前から、一度食べてみたいものがあったんだ」
「何ですか?」
「ギュウドンというものだ」
ギュウドンて、牛丼か…
確かにこの世界にもあるけど、何でそのチョイスなんだろう…
まぁでも偶に私も食べるけど。
案外、元の世界の食べ物も多いが、上流階級は好まないのだ。
その国で育った食文化は、そうそう覆せるものじゃない
食べたらみんな病みつきだろうけど、そんな物食べれるか!って感じでまず食べないのだ。
「昔、美味しいと聞いてな、ずっと食べたかったんだ」
「昨日食べればよかったのでは?」
確か、昨日から冒険者として活動しているはずだから、食べるタイミングはいつでもあったはず
「昨日は、持っているお金で装備を整えてな。持ってたお金が全てなくなったから、宿代だけ稼いだんだ」
そう言ってみせる装備はそれなりに、等級の高い物で
さっきは気付かなかったが、剣に至っては素人目でも桁違いに良いものだと判断できる
「?ああ、剣だけは城から持ってきたものだ」
「大丈夫何ですか?」
まぁ、家から、私物持ち出した私の言える事じゃないけど…
「これは、ある人から譲ってもらってな。唯一、王子ではなく、俺個人の物だ」
とても気になる話だけど、残念ながら目的地に着いてしまった。
「いらっしゃい!」
カウンターに座り、久しぶりと初めての牛丼を頼む
「はい!牛丼お待たせ!」
目の前に出てきた牛丼に目を輝かせるエルに、少し笑ってしまう。
「これは美味い!この下のコメ?と言うやつがいい仕事をしている!」
食レポみたいな事を隣で話す彼に店員さんも気を良くして、サービスにアイスまでつけてくれた。
「何だこれは!牛は、最強か?!」
子供みたいに喜ぶエルのお陰で沈んだ心は、平穏を取り戻してきた。
久しぶりに食べる牛丼とアイスの味はとても美味しくて、エルの強さの事だったり、何故か冒険者に詳しかったりする事を聞き忘れてしまった。
「ふぅ、満足だ。庶民の方がいい物を食べてるんじゃないか?」
「それは違うんじゃないですか?ただ高い物と美味い物は違う事もあるだけだと思いますよ」
「それもそうか」
「そうですよ」
店を出ると辺りも暗くなり、もうそろそろ帰らなければいけない時間になっていた。
「今日はありがとうございました。森での事も今も」
「気にするな」
この人、生まれる階級間違えたんじゃないの?
王子としては駄目でも、庶民に生まれてたら私も惚れてたかも…
「じゃあ、また明日な」
ん?また明日?
「昼頃でいいか?」
「どう言う事ですか?」
何でまた明日?また、ご飯食べに連れてってくれるのかな?
「いや、パーティー組むんだろ?俺の実力も見せたろ?」
そうだった!色々あって忘れてた!元々はパーティーを組むか組まないかのために依頼を受けたんだった…
でも、彼は元王子で私の元婚約者だ。そんな二人がパーティーを組むのはどうなの?たとえ強くても、色々不味くない?
「何だよ?駄目なのか?」
うぅ!そんな悲しそうな顔をしないでよ…
「いえ!組みましょう!」
どうやらたった1日で、私は随分と絆されたらしい…
婚約者だった時は考えられないよ、私と一緒にパーティーを組みたいなんてさ
いつも親の仇の様に睨まれてたから
「じゃあ、明日の昼頃。ギルドで」
「ああ」
別れの言葉を交わした後、踏み出した方向は一緒で
「?大丈夫ですよ?送らなくても」
「?いや?俺もこっちに宿がある」
いや、こっちに宿なんて一つしかないけど?
まぁ、私の想像の通り、同じ宿に二人して着いた
「何だ、奇遇だな」
「そうですね」
宿に入ってからも歩き出す方向は一緒で
「奇遇ですね…」
「そうだな…」
二人の部屋は、隣同士でした。