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十の氏族  作者: モンゴメリ伊藤
1章 金の乙女
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02 四の仲間

前回までのあらすじ:「盾の王国」に向かうヴィクトールはエルフの少女アリシアに出会う。二人でスリを捕まえ少しいい感じになった。

「賊を捕まえてくれて感謝する。私はバンド。見ての通りギガスだ。船に乗る前は騎士の見習いをしていた」


 白いフルプレートに身を包んだ男が握手を求めた。


「俺はヴィクトル。ヒュームで船に乗る前は狩りを生業にしていた」


 握手を済ませると隣のエルフの少女アリシアを紹介する。


「あたしはアリシア。エルフだよ。船に乗る前は農家で働いてたの」


 ちなみにこの「船に乗る前」というのは、移民の間で使う一種の合言葉だ。盾の王国に行くときは、どこかで誰かにこの挨拶を教え込まれる。

 

 みんな人には言えない、言いたくない事情があってこの船に乗り合わせている。まだ気持ちの整理がつかないこともある。俺だってそうだ。だからこの挨拶が出たら詮索を控えるのが暗黙の了解だった。


 ギガスは種族の名前でその名がさす通り体が大きい。俺の故郷にも木こりのギガスがいたが、見上げなくちゃいけないから、立ち話をすると足よりも首が痛くなる。


「それで、さっきの獣人はコボルト?君の友達?」

「名はピークスといったか。世界を放浪する学者だそうだ。ちょうど君たちと同じように簡単な挨拶を交わし世間話をしていたところだ」

「そしたら泥棒が来た、と」


 三人が協力して捕まえたひょろ長い男を見る。今は俺のロープで樽にくくりつけられおとなしくしている。


「オレはエドヴァルドⅢ世だ、よろしく。船に乗る前は五本の指に数えられる貿易商だった。ちなみに水を頂けるともっとよろしくできる」


 勝手に割り込んで見え透いた嘘を言うなよ。それに偽名だろ。


「いやあ、見事なスリンガーだぜ坊や。ありゃあ大した腕前だ」


「いい加減黙れ」


 バンドが男ににらみを利かせた。ギガスは体もデカいが顔もデカい。大きく張った顎、その下から延びる牙は近づけられただけで相手を威圧する。

 

「さて、航行が順調であれば明日の昼には港に着く。それまでは交代でこの賊を見張るとするか」

 

 そういうとバンドはどっかりとあぐらをかいた。その後は三人でとりとめもない話をした。お互いの過去には触れず、探るように当たり障りのないことを。

 

 話が変わるたびなんとかⅢ世が話し出すが、そのたびバンドがにらみをきかせ黙らせた。話は次第に俺の宝物に変わり、ギガスの英雄譚へと移った。


「もちろん知ってるさ。子どものときよく父に聞かせてもらった。私たちの誇りだ」


「へぇ。ギガスでは有名なんだ。エルフではきいたことないなぁ」


 エルフのアリシアは初めて聞く話だったので、バンドにお願いしてさわりを語ってもらった。


「いいとも!ギガスが邪悪なドラゴンと戦うため巨大なハンマーを作り出すんだ。ギガスは鍛冶も得意だからね。しかし巨大なハンマーを作るには材料が足りない。そこで火山へ行ってマグマをまるで川のようにふもとまで引いてくるんだ」


 アリシアは目を輝かせて聞き入っている。きらきらした顔を見るとホントにかわいいなぁ。なんてエルフの横顔を愛でていると…


「あ、みなさ~ん!ありましたよ!あったんですよ~」


 嬉しそうにこちらに駆けてくる獣人がいた。コボルトのピークスだろう。コボルトは俺たちヒュームより背が小さいから、子どもが駆けてくるようで転ばないか危なっかしい。


「大事な宝が取り戻せて結構。良ければ貴殿も輪に入らないか?ちょうど我がギガスの誇りを語っていたところだ」


 満足そうにバンドがほほ笑むと隣に座るようすすめる。


「それはいいですねぇ、僕もギガースの伝承には興味があるんですよ~。ですがその前に」


 そう言うとコボルトは一つ咳ばらいをし、俺たちに深々と頭を下げた。


「皆様僕、いえわたくしは旅の学者をしておりますコボルトのピークスです。この度は僕、いえわたくしの命の次に大事な研究成果の詰まったノートを取り返して頂き厚く厚く御礼申し上げます。僕、いえわたくし西の深い森で学者をしていましたが、5年ほど前にドラゴニアンの伝承を収集すべく全国のドラゴニアンの集落を旅しておりました。この船に乗ったのも盾の大国にある竜紋学会に入り、更なるドラゴニアンの伝承及びドラゴンの存在を確かめるべく……」


 自己紹介からはじまり急に堰を切ったように話し出した。こうも洪水のようにまくしたてられると頭が浸水してしまう。他の二人も俺と同じようで、耳からピークスの言葉がこぼれ落ちている。


 今までコボルトを見かけたことがなかったけど、なんというか、犬のぬいぐるみが動いているようだ。トーストのようにこんがり焼けた毛並みといい、尻尾なんてブンブン振ってるしはあはあ息をするところとかまんま犬だ。昔猟犬が欲しくって爺ちゃんにお願いしたことがあったっけ。


「ええっと、積もる話はおいおいということにしておいて」


 とめどなく注がれるピークスの自己紹介に栓をして俺も簡単な自己紹介をした。


「俺はビクトル。”船に乗る前は”(ここを強調しないと後々面倒なことになりそうだ)狩りをしていた。彼女はエルフのアリシア」


「あたしはアリシア。”船に乗る前は”(彼女も察したか)農家で働いていたの。よろしくね」


「ほほう”船に乗る前は”(マネするな)ですねぇ!承知しました。ヴィクトールさん、アリーシアさん」


 特殊な発音で名前を確認すると、俺たち四人は少し遅いランチをはじめた。

彼らは自分たちを「移民」「難民」と呼んでいますが、正式な手続きを済ませていないため扱いは悪いです。

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