初夏の出合い
桜がすっかり散り、人々が毛虫を避けるために人っ子一人いない五月の桜並木。そんな場所を僕、城島奏汰は一人自転車に乗って疾走していた。勿論僕も毛虫は嫌いだ。できるならこの道を避けたかった。
しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。時間がないのだ。ちらっと左腕の腕時計を見た。八時四五分。ホームルームはもう始まっている。
後十五分でテストが始まるのだ。だから、自宅から学校までの最短距離かつこの時期は人があまり通りことの無く、自転車で全力疾走できるこの道を選んだ。
昨晩テスト対策で一夜漬けをしたまではいいものの、午前四時くらいに寝落ちをして、そのまま遅刻するとは洒落にもならない。瑠偉にこの事を伝えたら「一夜漬けなんてするのが悪いんだよ。しっかり前から勉強しておけば、そんな事にならない」なんて言われるのだろう。しかし今はそんな事を気にしている時間はないとにかく急がなければ……などと頭の中で考えていると。
「うわぁっ」
思わず悲鳴を上げてしまう。奴が降ってきたのだ。警戒はしていた、今はその時期だ。しかし、そんな事が起きるわけがないそんな風に心の何処かで油断をしていたその結果がこの惨事である。
目の前に降ってきた毛虫に驚き、ハンドルを切りそのまま転んだ。
「大丈夫ですか」
こんな時期に珍しい自分以外の通行人に声をかけられた。少女だった。黒く長い髪、白いブラウスと長めの薄いピンクのスカートが実に春らしい。同い年位の少女が僕に手を差出していた。
「ありがとう」と少女の手を取り立ち上がる。
「いきなり自転車で転ぶでびっくりしました」
「すみません。目の前に毛虫が降ってきて驚いちゃって」
「えっここ毛虫いるんですか」
少女が驚いた。顔は少しの青くなっていた。
「この時期は結構多いですよ」
「そうなんですか。私昨日ここに引っ越して来たのでそういう事知らなくて……ありがとうございます」
「どういたしまして」
どちらかと言えばこちらが、お礼を言わなくてはいけない立場なのに、逆にお礼を言われてしまった。
「あの時間大丈夫ですか。かなり急いでいるようでしたけど……」
時計を見ると八時五十分。テストまであと十分。冷や汗がじわっと背中を湿らした。
「すみません。それじゃあ自分はこれで」
自転車を起こしてサドルに跨った。
「はい。今度は転ばないように気をつけてくださいね」
「それじゃあ」と短く別れを告げて、自転車を漕ぎ出した。
理由はわからないが少女とは近い将来もう一度会えるような気がする。桜並木を抜ければすぐに学校だ。
気が向けば続きを書くかもしれないです。