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ブレイカー

作戦の要点は3つ。

一つ目、囮は成が務め、日が暮れた後の路地裏を徘徊すること。

二つ目、成の動きは常に私と夜詩斗さんが影から観察し、異能狩りが現れた時点で三人で迎撃に当たること。

三つ目、万が一逃げられた場合や戦力が足りない場合は即座に渡された封筒を破くこと。


この封筒は、結社の拠点であるカフェ店内にいる構成員が一斉にワープしてくる為に使うそうだ。学校のときに私が使ったのも同じものだとか。ちなみに一度に一つまでしか作れないらしい。今は夜詩斗さんが持っている。


「······にしても、来るんでしょうか。」

「来るだろう。そうでなきゃ困る。」


確かに女の子が一人で夜道を出歩いてるという時点でかなり危険ではあるから、そういう意味ではぴったりなのだろう。ちなみに私が囮から外れた理由のひとつには日本刀が目立ちすぎるからというのが。このご時世、武器は見えるところにひとつ、見えないところにひとつが基本なのだけど、やはりまだ武器をちゃんと持ち歩かない人がいるらしい。特にクラスの女子なんかはそういう傾向にある気がする。


─────囮の後をつけること30分程。

路地を抜けて、住宅街のゴミ捨て場付近までやってきた。

ここからあともう少し進むと、町の治安の悪い地帯を一周してしまう。

現在時刻は午後7時。この時期なら、もう完全に暗くなっているし真冬だからずいぶん寒い。刀を握る為の滑り止めとしての手袋をしているのだけど、これだけだと指の動きを阻害しないように間接部分に穴があってあんまり意味がない。息をかけて手先の暖を取っていた、つまり、気が抜けてきた一瞬、空気を切る音が聞こえた。



成の後ろに現れた影が、長い白髪が、月明かりを反射している。

日本刀の刃がブレザーごと中身を貫いて、赤い液体を溢れさせていた。


「な───」


思わず声が出そうになって、夜詩斗さんに口を塞がれる。

落ち着け。耳元で囁かれ、まばたきをしてもう一度見た。

······ゴミ袋?

そう、ブレザーを着ていたのはゴミ袋で、赤い液体は溢れているがそれは袋の中身からのもの。日本刀を持ち、黒い仮面をつけた白髪の影──異能狩りと断定すべき相手もすぐに気付いたようだけど、成の方が一枚上手だったようだ。


「理華、出るぞ!」


夜詩斗さんの声と同時に、あり得ない高さから、成が異能狩りに踵落としをしているのが見えた。冬の北風を、その脚に集めながら。空気の圧は鎚のように敵の頭を叩き割ろうとする。風圧の余波でこっちが吹き飛びそうなくらいに。

そしてその攻撃は確かに命中した。

相手がぺしゃんこになるのではないかと思ったが、そうはならなかった。


「──!」


キンと金物がぶつかる音がして、強すぎる風圧で瞑った目を開ける。

異能狩りは長い刀······大太刀と呼ばれる種類のもの、間合いは目算で100センチ程度。

対して成の得物は短刀、いや、おそらくはクナイと呼ばれる代物だ。それを逆手持ちにして相手の斬撃を防いだところのようだった。

横からプシュと銃声がする。消音機をつけた拳銃による発砲、これはどちらだろう。どちらにせよ、異能狩りに向けて撃たれた弾は命中しない。私も続いて、まだ鞘にある刀の柄を握り遠距離攻撃で氷の礫を飛ばす。刃物のように尖らせた氷を数本。


「行って!」


それは真っ直ぐに異能狩りの頭へと向けて射出される。殺す気で行け。これが今回私が心掛けるべきことだった。


「······消えた?」


しかし、その氷柱は異能狩りの付近で蒸発するように消えてしまった。異能狩りに到達する前の空間で何かに阻まれるでもなく、その長い刀が触れるでもなく文字通り消えていく。

黒い仮面で顔が見えないけれど、異能狩りの視線が私の方を向いたのはわかった。


時に、日本の武術では縮地と呼ばれる歩法を取る。

相手に動きを悟られずに、一瞬で距離を己の間合いに詰める歩法だ。

一瞬時が止まったかのように感じる。命の危機に、脳がフル稼働で生き残る算段を思考するからだそうだ。その引き伸ばされた一瞬でもう既に、大太刀の切っ先は、もう少しで額に触れそうな位置にある。腕を伸ばし、大太刀の長いリーチを利用した突き。刀で弾こうにもまだ抜刀すらしていない。居合い切りはできない。私では遅すぎる。横に逃げようにも間に合わない。どのみち頭は突き抜かれる。

終わった。

死を悟った瞬間、また時は動き出した。


「ボサッとすんな!死にたいの!?」


成が横から刀を蹴りつけ、軌道をずらしてくれた。おかげで助かった。


「って!なんだこの刀!折れないのかよ!!」

「避けてください!」

「うぉっ」


即座に刃を返して成の首を狙った斬撃は空を割く。

普通、横からの強い力を受けた日本刀は折れる。成の蹴りは武装無力化も狙ったものだろう。けれども大太刀は健在だ。これは超能力由来?ならさっきの私の攻撃が消えたのは?

考えながら後ろへ飛んで距離を取る。

いや。まだ足りない。大太刀の間合いの外に、あともう一歩飛ぶ。

どうも一人だと武器の相性が悪い。攻めに入れない。

意見を求めようと、夜詩斗さんの姿を探す。

あれ、いない?

と思ったら上から落ちてきた。手には黒いナイフを持っている。

それを真っ直ぐと体重を乗せて異能狩りへ振り下ろす。大振りな攻撃。まず当たらない。太刀で防がれる。

その隙を突いて成が懐へ入り込み、異能狩りの胸に発勁を撃ち込んだ。

けれど一瞬の硬直もなく、異能狩りが成へ拳で反撃する。


「チッ、殺す気で行ったんだけどな。」

「一応今回は生け捕りだからな!」

「発勁して止まんないやつを生け捕りなんて出来るか!」

「とりあえず達磨にしろ達磨に!!」

「簡単に言うな!!ってかそれ基本死ぬから!!」


二人とも一度異能狩りから距離を開けて、私の横に下がってきた。


「あーくっそ、当てが外れた。」

「当てって何ですか?」

「こっちの話だ。」

「っていうかトリックスター、お前強いんだろ。さっさと能力使えよ。」

「無理だ。会話も成り立たん相手には使えない。」


もう考えるのは何度目かになるけれど、夜詩斗さんの能力はなんなのだろう。少なくとも、ペイント弾を当てた相手を眠らせることはできるそうだがそれは能力の一端に過ぎないらしい。


「チッ、じゃあ私と理華で殺るからすっこんでろクソ白衣。」

「で、でも成はどうやって攻めるつもりなんですか?」

「あんなのただの異能が効かないだけの人間だ。普通に殺す。」

「え?」

「何、気付いてないの?ヤツの間合いに入ったら異能が掻き消される。さっきから何度も風を使ってるけど毎回消される。意味がない。」


そういえば最初、私が氷を飛ばしたときも同じことが起きていた。ヒントどころか答えはあったのだ。


「理華、とりあえずあんたは右腕を切り落とせ。私が首をやる。相手の剣術はそんなでもない。同時なら。」

「······了解。」


それにしても、異能狩りはさっきから声のひとつも出さない。不気味過ぎる。

成よりも少しだけ早く前に踏み出す。右手、つまり相手の利き手を切り落とす。······まあ、首はともかくとして腕一本くらいじゃ死なないし別に良いか。


刀を胸の前に構え、相手の右手側、裏へと入る方向に踏み込む。

常に相手の刃と自分の間に、刀を入れることで安全を確保しつつ、一気に間合いを詰める。

当然、リーチの長さを活かせない間合いは相手の本意ではない。だから妨害は入る。けれど、同時に成が頭を狙ってクナイを投げる。どちらか一方を対処するならば、当然、頭への対処になる。例え私達の会話が聞こえていて、狙いがわかっていたとしてもこればかりは仕方がない。相手の異能が物理的影響力を持たない以上、より優先度の高い方を選ぶことになる。

当然、相手は頭を防いだ。


「貰った!」


体重を右に放り出し、異能狩りから一歩離れながら刀を返して右手首を斬る。肉を通り、骨を断つ。

右手は大太刀を握ったまま、その重さで地面に落ちた。

刀の勝負は、決まってしまえば呆気ない。成が大太刀ごと右手を蹴って異能狩りから引き離す。


「うっし、勝負あり。」


異能狩りはそのままの姿勢で固まっている。

だらりと垂れた白髪が、黒く染まっていった。


「うああああああああああああアアアアアアアアアアア!!!!!」


突然、異能狩りが膝をつき、左手で右腕を抑えながら悲鳴を上げた。痛みに悶えている、と言えばそうなのだが、今までの沈黙からは考えられない姿だった。


「······!」


異能狩りの黒い仮面だと思っていたのは、顔面が黒で塗りつぶされただけだった。その黒は、元は模様だったらしく、軟体動物がうねるように首の方へと消えていく。


「落ち着け。勝負はもうついた。」


夜詩斗さんが異能狩りの前へと歩いていく。


「おい、その刀、誰から貰った。」

「アアアアアアアアアアア!!!!!」

「チッ。人違いな上にマトモに会話もできねぇか。」

「人違い······?」

「大方、こいつはNCの差し金だ。とは言っても、使い捨ての末端だろうがな。」


NC······?

知らない単語に一瞬戸惑う。その瞬間、夜詩斗さんが拳銃で異能狩りの頭を撃った。

プシュ、と音がして、異能狩りが沈黙して崩れ落ちる。


「······夜詩斗さん?」

「もう良いだろう。どうせ情報も得られないし、これ以上死なないでいても無駄だ。ここで死なせてやるのが責務だ。」

「だからって何も······」

「いや、理華。これは白衣男が正しい。私、この武器知ってる。」


成が黒い手袋をつけて、大太刀を片手で持ち上げる。


「武器屋、でしょ?」


また、知らない情報。

私はある種の当事者でありながらこの領域において蚊帳の外だ。


「大方、本物の異能狩りの装備のレプリカに本物の異能狩りの異能をくっつけてついでに洗脳系でも混ぜたんだろう。」

「他人の異能を物質に複製する能力······やっぱ厄介極まりないな。見付け次第殺そう。」

「ま、あとは警察の仕事だ。異能狩りの模倣犯と交戦して殺したと通報しておけばまあ何とかなるだろう。あとは俺が受け持つ。風魔、お前はその刀持ってさっさとカフェ行って琉汰に今回の顛末を報告しろ。その手の仕事は得意だろ。」

「指図すんな。あと魔女のカヴンって呼べ。ってか携帯で連絡すりゃ良いだろ。」

「携帯なら壊れた。······お前に襲われたときに。」


夜詩斗さんが白衣の内ポケットから画面のバキバキになったスマホを取り出す。


「··················チッ」


成が舌打ちをして一瞬で消えた。······忍者っぽい。ドロンとは言わなかったけど。


「理華、お前は早めに家に帰れ。」

「は、はい。」

「それとお前の世話係のヤツはお前と一緒に昼過ぎに帰宅したことになってる。話を合わせておけ。俺の異能で処理したから問題ない。」

「了解です。」


帰ろうとして、ひとつ気になったことがあった。


「あの、質問良いですか?」

「なんだ。」

「······本物の異能狩りって、夜詩斗さんの知り合いなんですか?」


なんとなく、彼の言動の隙間からそれを感じた。


「······ああ。ヤツの通り名はブレイカー。コードは13。俺達、超能力者にとっての死神だ。」

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