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影のないパパラッチ

見覚えのない部屋で目が覚めた。

天井は見慣れない屋根裏だ。


「あ。起きた?」


女性の声がする。聞き覚えはある。彼女は確か


「えっと、(あき)さん?」

「うんうん。意識ははっきりしてるねぇ。あ、服は今洗濯中だから。私のパジャマだけど、ごめんね?」


ベッドの横に座っていたのはアルビノの女性。結社の情報収集を主に務めている、宮津生(みやつき)(あき)だ。


「············なにもしてませんよね?」


黄色っぽい瞳に綺麗な白い髪、それと同じくらいに白い肌は顔の造形の美しさをより繊細なものへと補正する。

なお、私の中で要注意人物として記録している。


「大丈夫大丈夫!ちょっと着替えさせただけだから!」

()()()()?」

「具体的には、サイズがあってなかったら、変えておいただけ!」


親指をぐっと立てられる。

何かの確信を持って、サイズの合わないパジャマの胸元をつまみ、隙間から覗いた。


「どう?お気に召した?」


私はこんな破廉恥な下着を身に付けた覚えは、ない。

っていうかどこで売ってるんだこんなの。少なくとも近所のデパートには無かった。


「あ、下もお揃いにしておいたから心配しないでね!」


そういう心配は微塵もしてない。


「いやぁ、若いって良いわねぇ。もうどこ触ってもすべっすべのもっちもち。触り甲斐があるというか、揉み甲斐があるというか。」


確か、こういうときの為に。

視線だけ動かして自分の鞄を探す。ベッド脇にあった。

右手を伸ばして中身を探る。そして指に触れたプラスチックの感触を掴んで取り出した。


「ねぇねぇ、お願いなんだけど、もう一回モフッて良いかな?」


よくない。っていうか既に一回モフられたのか。私は。


「嫌です。」

「大丈夫!お姉さん痛くしないから!」


じりじりと近付いてくる。逃げ出したいが出入り口は変態の背後だ。

問答無用。

私は右手に持った防犯ブザーの紐を引き抜いた。



中略。

防犯ブザーの音を聞き付けてやって来た夜詩斗さんが鍵を壊して助けてくれた。

っていうか素手で鍵を壊していたが、彼はそんなに怪力だったのだろうか。夜詩斗さんは、目にも止まらぬスピードで秋さんを足掛けして転ばせて、外に引きずって行った。


「目が覚めたなら下に降りて来ると良い。何か話があるみたいだから。」


引きずられている秋さんが色々と抵抗しながら夜詩斗さんに罵倒を浴びせているが、気にも留めない。慣れているのか。あ、ちょっと雑に襟を引っ張った。そういえばこの二人はとても仲が悪いらしい。つまり茶飯事か。


「はい!向かいます!」


階段を下りていく音へと返事をして、ここが二階であることに気付いた。



階段を降りると、カフェのカウンター裏に出た。


「やあ。ごめんね。寝起きに呼び出しちゃって。」

「い、いえ。大丈夫です。」

カウンターではカフェの店主でもあり、結社のまとめ役の琉汰(りゅうた)さんが珈琲をいれてくれた。

「······じゃあ、とりあえずは揃ったね。」


カウンターから出て、席に座ると琉汰さんが話を切り出した。

カフェにはお客さんはいなくて、結社の構成員、私を含めて六人がいる。


「多分、耳にしている人もいるかもしれないけど、最近この近辺で所謂、異能狩りが出ているらしいんだ。」


"異能狩り"という単語が、超能力者を殺して回る事だという知識は当然のように持っている。特に、二十年前辺りは横行していたそうだ。


「実際、僕の知り合いでも襲われた人がいる。これは注意喚起ともうひとつ。警察から、一部の能力者への通達としてこの件の犯人への殺害許可が出た事が知らされた。」

「···つまり、賞金首か。」


夜詩斗さんが呟く。


「あら詐欺師さん、何か身に覚えでも?」

「うるせぇ前科十犯は黙ってろ。」


このやり取りだけで秋さんと夜詩斗さんの周りだけ空気が淀み始めた。周囲の皆は最早気にしてないみたいだが、琉汰さんだけは二人を窘める。あんまり意味無さそうだけど。


「はいはい隙あらば喧嘩しようとしない。」


チッ!と、舌打ちが二人同時に響く。何であの二人は隣に座っているんだろうか。喧嘩するなら離れて座れば良いのに。


「で、秋。例の写真を。」

「はーい。」


秋さんが数枚の写真を懐から取り出す。そのどれにも、別々の人が映っている。


「···?これは、別々の人、ですよね?」

「昨日の夜、"異能狩り"って単語(ワード)で指定した結果ね。私は指定した単語に対応した写真が撮れるの。」


秋さんが自慢げにチェキを取り出す。そしてレンズの部分を手で隠しながら


「例えば、"裁万江(たちまえ)理華(りか)"って指定すると」


カシャ、とシャッターの音が聞こえる。

機械の音がして、現像された白い写真が吐き出される。少し待つと、白い紙にはカフェの席に座るパジャマ姿の私が映っていた。


「おお···」

「これで欲しい人の写真をいつでも得られる。人呼んで『影のないパパラッチ』とは私の事よ。」


わざとらしいウィンクだけど、秋さんのような美人がやると様になる。少し羨ましい。


「···要するにいつでもどこでも盗撮し放題って事だ。コイツはこれを悪用して少女のポルノ画像を撮影し、場合によっては本人を襲って過去に何度も立件されている。理華、お前も気を付けろ。」


夜詩斗さんが横から口を挟んだ。···ああ、だから前科十犯。席を立ち、秋さんから少し遠い椅子に座り直す。


「余計なこと言ってんじゃないわよ。」

「事実だろう。理華の教育は俺の担当だ。手は出すなよ。お前は教育に悪い。」

「アンタだって前科者でしょうが。」

「お前とは違って捕まってないから前科はついてない。」

「このペテン白衣···!」

「何とでも言え盗撮魔。」

「あんたの被害者探してきて警察に突き出しても良いのよ?」

「ハッお前こそまた余罪追求されてブタ箱に行きてぇのか?」

「お勤めすらしたことないチェリーに言われたかないわよ」

「生憎と俺はムショ暮らしより息苦しい場所で育ってんだよ舐めるな温室育ち」

「えーえー私は貴方のような孤児とは違って由緒正しい家で育ちましたからね格が違うのよ遺伝子からして」

「まあそのご実家とは晴れて縁切りだおめでとう」

そろそろ仲裁した方が良いのではないかと。しかし私は仲裁に入りたくない。何というか、絶対に巻き込まれる。誰も止めないから口喧嘩だけでかなりバチバチしてきた。助けてくれと琉汰さんに視線を送ると、やれやれと琉汰さんが口を挟んだ。

「話進まないから後でやってね。どうしてもって言うなら私が黙らせるよ。」


琉汰さんが腰のポーチに引っかけてあったカチンコを右手で構えた。

そしたら黙った。

二人ともすんっと大人しくなる。


「うん、ありがとう。私の手を煩わせないで。」


何があるのかはわからないが、どうやら我らがリーダーは怒らせない方が良いタイプか、歯向かうだけ無駄なタイプの人間らしい。覚えておこう。


「それじゃあ、話を続けるよ。」


再び、写真に視線を落とす。

合計八枚の別々の人物を写した写真。


「このうちの六枚は、背景···つまり秋に写真を撮って貰ったのが夜の零時なのを考えると日中なので国内って意味では除外できる。」


日差しが出ているものはすべて琉汰さんに回収された。


「で、残ったのはこの二枚。刀を提げた白髪の少女と、フードつきのローブ姿の······いや、これは性別もよくわかんないか。このどちらかはこの近辺に出ているから、各自気を付けること。特に、非戦闘員と女性は犯行がある夜間は戦闘員と二人以上で行動すること。良いね?」


それぞれ、頷いたりと返事をする。そんな中、結城ラムさんが手を挙げた。


「ハイハイしつもーん」


ふわふわとした栗色の癖毛が特徴的な、ハーフの青年だ。白人の血が入っているのだとか。


「遭遇したとき、どうしたらいい?」

「基本はこの場の全員に連絡かな。そんで可能なら戦闘後に無力化。警察への連絡はその後ね。」

「Sure things!」

「もちろん爆弾は街中で使わないようにね。」

「街中以外なら使ってOKだよね!」


彼の能力は、よく知らないが爆弾を生成、起爆するものらしい。規模はわからないけど確かに街中でやるもんじゃないと思う。


「おい琉汰、念のためラムは見張っとけ。何しでかすかわからん。」

「んー、ひっどいなぁヤシト。ちょっとは信用してよー。」

「お前が暴れた後誰が後始末すると思ってんだ。」

「ヤシトとアキでしょ?いつもThanks.」

「わかっててこれなんだものね······」


夜詩斗さんと秋さんが額に手を添える。二人は仲悪いけど気が合うのか、同族嫌悪というやつなのか。仕草が同じで少し笑ってしまった。


「ラムも、程々にね。」

「わーかってるって!」

「うん、じゃあとりあえず、明日は協力者が来るから明日の夕方···五時くらいにはここに集合で。今日のお話はお仕舞い。」





と、いうのが帰路につくまでの話。


風よ(wind)!」


ボイスチェンジャーを使用したノイズ混じりの声がする。

声の主は、黒いローブを纏った正体不明の人影だ。


「異能狩り······!」


二枚の写真で不明瞭だった方。だが現代社会においてあのような格好をしている者はむしろ目立つ。


吹き荒れよ(blast)!!」


それは局所的な異常気象。夕焼けに染まった空に暗雲が集まる。


「ふっ······!」


咄嗟に刀に触れ、私と夜詩斗さんを守る氷の壁を生成する。一瞬体が浮いたが、地面のように抉られずには済んだ。


「チッ。」


ローブ姿の影から舌打ちが聞こえる。薄暗い林ではその顔は確認できない。ほんの数十分前に受けた警告が、まさかもう身に降りかかるとは。

人気が少ない住宅街外れの林道。私の家へ行くのに通る道は、()()()()()()にうってつけだ。


「理華、お前の家の客か?」

「なわけないじゃないですか!」


風は木々の枝葉を舞い上げ、物質的な攻撃力を上昇させる。夜詩斗さんが携帯端末を白衣から取り出した。


「······防御は任せた。結社に連絡する。」

「了解です。」


私は抜刀し、明確な敵を見据えて構えた。

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