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氷刀の少女

「必殺技?」


町の路地の裏の喫茶店の地下。

薄暗い殺風景な場所で、白衣の男は返した。


「ああ。多分お前は作った方がいい。」


先程からしているのは有り体に言えば戦闘訓練だ。

それも超能力者の為のものときた。

私、裁万江(たちまえ)理華(りか)の能力は氷。刀に触れている間、自分の周囲にある程度思い通りの形状と推進力を持った氷を生み出せる。


「お前の能力は想像力に依存している。まあなんだ、要は失敗できない大技に関してはルーティーンを作った方がいい。」


白衣の男、ヤシトさん。化呼(カコ)夜詩斗(ヤシト)。それが彼のフルネーム。なかなか聞かない名前だ。彼のトレードマークは白衣とヘッドホン。会話をしていないときは常に耳に蓋をしている。

()()の先輩でもある彼は、私の教育係を任命されたようだった。

彼の能力は確か、ペイント弾を命中させた相手の意識を奪うこと。殺傷能力こそ無かれ、平和的解決にはもってこいの能力だと思う。


「必殺技っていうより、技名って感じですかね?」

「ああ。技名だけじゃなく、特定の動きとか、台詞とか、なんでもいい。あと自分に合わなきゃやめて良い。」


少し考える。そもそも必殺技とか意識したことなかった。


「ま、何も思い付かなきゃそれはそれでいい。少し心に留めておけ。っていうかぶっちゃけ基礎はできてるから俺から教えられることあんまり無いんだよ。」

「恐縮です。」


確かに刀使いの稽古は家でして貰っていたし、剣道は二段までいっている。そういえば昔は剣道で一定以上の段位を持っていないと日本刀が持てなかったのだとか。銃刀法の規制が昔よりも緩くなった今だからこそできることなんだなぁと思う。


「あとはまあ、能力を知ることかな。」


夜詩斗さんはどこから出したのか、刃渡り十五センチ程のナイフを私に手渡す。


「一度その日本刀を置いて、これを持ってみろ。」

「はい?」


ナイフを手に持つ。当然だが、普段の刀よりもずっと軽い。


「その状態で能力を使ってみろ。」


私の能力の発動条件は、あの刀に触れていること。だからこのナイフでは無理だと思ったのだが。

あっさりと、刃の上に氷が出現した。


「それ、間合いはどうなってる?」


言われるがままに氷を自分から遠いところに形成するイメージを脳内に作る。ひとつずつ、十センチ間隔程度に氷の塊を宙に生成し、遠ざけていく。だが、普段よりも近く、腕を伸ばして触れられるかどうかくらいの場所までにしか氷は現れなかった。ちなみに普段はもう少し遠く、刀の切っ先くらいの距離までは氷を作れたはずだ。


「短く、なってますね。」

「やっぱりな。」


何がやっぱりなのか、自分でも何となく察しがついた。


「お前の能力の有効範囲は、概ね武器の間合いと一致する。要するに、この日本刀でなくても能力は使えるってことだ。覚えておけ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「ちなみにこっちだとどうなる?」


夜詩斗さんは私に拳銃を渡した。いや、これはあのときのペイント銃かな。


「あ、これは実弾が入ってる。気をつけて。」


おっと。違ったようでした。


「撃ち方はわかるよな?最近の学生は訓練されてるって聞くけど。」

「は、はい。学校での武装訓練で基本だけは。」

「一般的に対人用のハンドガンの射程距離は50m程度だと思えばいい。さて、能力はどの程度の距離まで使える?」


五十メートル、五十メートルか。

あまり実感は沸かないけど、その距離まで能力の有効範囲が広がれば結構強いかもしれない。

と、思ったが。


「あれ?」

先程と同様、氷を徐々に遠ざけながら生み出す。ことができなかった。


「無反応。まあ、大方銃の有効射程が実感として刷り込まれていないのと、ハンドガンそのものを武器として認識できてないのどちらかだろうな。」

「多分、前者です。」

「自覚があるなら確実か。あと他に、お前の能力について知っていることはあるか?」


ここまでに彼に話した私の能力は、氷を生み出せる、生み出した氷を動かせる、刀に触れていないと発動できない、の三つだ。


「ええと、・・・他には、ないです。」

「わかった。じゃあとりあえず今日の本題に入ろう。」


夜詩斗さんはナイフを私から回収して、持ち直す。


「俺の能力はペイント弾で眠らせる能力だと思ってるな?」

「・・・?はい。」

「うん。アレは嘘だ。」

うん?

「と、いうわけで、今から模擬戦闘を行う。能力は使って良し。ルールはシンプルに。先に相手に三回攻撃を当てれば勝ち。怪我しても大丈夫。うちにはヒーラーがいる。死ななきゃセーフだ。」


三歩ほど夜詩斗さんは歩いて、私と距離を取る。


「ああ、そうそう。また刀は抜けなくしたから、頑張れ。」


にやりと笑った白衣の男。そういえば笑みを見たのは初めてだなと思った。

そして刀を抜こうと思ったが抜けない。あのときと同じだ。なんてこった。


「そっちから先に来て良いぞ。」


これでも、格闘技には多少の覚えがある。刀が使えぬならこれでいこう。

左足を半歩下げて半身になり、右手を前に出して左手を顎の下に。頭の高さをキープしたまま蜘蛛足で前へ。勢いのまま後ろ足で回し蹴り。狙うは側頭部。


「ふっ!」


が、上半身を捻って見切られた。それもそうか。相手も経験者なら高蹴りは基本的に通用しない。頭の守りは最優先なのだから。すれすれで避けられる。初撃がかわされるのは想定の一番上。なれば二撃目、回し蹴りの回転をそのまま使い、今度は右足を軸に中段へ左で後ろ回し蹴り。後ろに下がって避けられた。着地と同時に距離を詰め、上段への右突き。左腕で往なされる。このとき、裏、つまり背中側へと回られたのが敗因だった。

ジャカ、と音がする。

音の方へ視線をずらすと、彼の右手に拳銃があった。いやしかし、実弾のある方は私に渡されている。つまり、これは。

意識した瞬間、目の前が真っ赤になった。文字通り、血のように赤いペイントで。

急激に眠気が襲ってきて、意識が遠くなる。

この人、とても、狡い。


「三発って、言った、のに・・・」

これじゃ一発でゲームオーバーだ。

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