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等価の魔爆

意味がわからない。

いや、意図がわからない。


「理由をいくつか述べルネ」


機械的なマスクをした男は、ノイズのある声で話す。


「君の能力は自然現象に干渉するタイプだから、応用が聴きやスイ。それに君の身柄は裏社会では価値がアル。そして何より、君は生に執着するのと同じくらいに死に向き合ってイル」


生に執着するのと同じくらいに、死に向き合っている?

そんなの、超能力者であれば誰だってそうだ。


「人はね、死に折り合いをつけるから向き合えるンダ。君にはそれがナイ」


折り合いをつける。言われて気付く。

私は、そんなことをしているのだろうか、と。


「······けれど、私はあなた方に協力するメリットがありません」

「言うと思ッタ」


そして男は写真を取り出す。それには、見覚えのある顔が写っている。


廣川(ひろかわ)美弥(みや)。仲良いんだヨネ?」


親でも親戚でも無く、ここで裏社会にも超能力にも関係のない私の友人を出す。


「······貴方達は」


抗議の意味だろうか。私は目の前の、機械的なマスクを着用した男の瞳を睨み付ける。


「別に僕らは善人じゃナイ。大体、君の担任がこちらの組織なんだから子供一人の弱味くらい抑えられて当然ダ」


こういう超能力者(ヒト)がいるから······!


「もういいです」


別に、世界が綺麗だなんて思っていない。

私の服や食事や家が、汚いことで成り立っている何てことだって知っている。

私の根性は本当に勝手だ。私は、私の周囲だけが幸せなら、それ以外は知ったこっちゃない。

それに私は昔から、()()()()()ことが大嫌いなんだ。


「······詰めが、甘いんですよ」


両方の袖に仕込んだ小刀。靴裏に仕込んだ刃。襟裏に仕込んだ剃刀。口の中に仕込んだ針。そして下着に仕込んだ発信器。

本当に、それだけだと思っていたのか。

私の超能力は、肉体が触れている武器の分しか射程がない。

でもこの人達、私の膣に針を仕込んでるなんて想像してなかったんだろう。射程としては7センチ未満。けれど、接近戦なら十分なくらいだ。


氷で小さな針を作り、男の眼に向けて飛ばす。

どうせ、私の能力は知っていたんだろう。相手は攻撃手段を持たないと思い込んでいる相手の不意を狙うほど、容易いものはない。


「ぐァッ······!」


命中。男は手で目を抑え、ふらつく。

大丈夫。左目を潰したくらいじゃ人間は死にはしない。


「なっ、お前───!」


私のボディチェックをしたであろう女が、臨戦態勢になって踏み出す。

その瞬間を見逃さなかったのだろう。未だ手足を縛られている夜詩斗さんが身をひねってその女に脚払いをかけた。

女が転んだ拍子に、名桐先生の大太刀が先生の右手に触れる。名桐先生の超能力は「武器の射程内で発動している超能力の解除」つまり、すぐ横にいる夜詩斗さんの拘束が超能力であるものなら、それは解除される。


「ちっ、まだ武器持ってるじゃないかコイツ!」


私の後ろで声がした。同時に、私の襟足に手が掛けられ、引っ張られて後ろから起こされる。

苦しい、首が絞まる。

けど、向こうから私の姿勢を起こしてくれたのは都合が良い。


「理華、首」


言われるままに首をかしげる。

何処から出したか、四肢が自由になった夜詩斗さんはナイフを私の後ろに向けて放り投げた。

私の襟足を掴んでいた手に命中したようで、突然手を離された私の身体は前のめりに倒れそうになる。が、それを夜詩斗さんが腕で受け止めて名桐先生の方へと振り回すように移動させた。

私の両手足を縛っていた白い何かが消える。

そのまま、夜詩斗さんと背中合わせになるように立つ。

私の正面には大柄の男、灰色のトレンチコートを着た中学生、そして負傷している名桐先生。


「デカいのは相手を拘束、コートのやつは瞬間移動、脚折れてるのは能力無効化。あと五分耐えろ」

「分かりました」


夜詩斗さんが手短に相手の能力を説明する。

この狭い車内、いや、車庫内だろう空間は縦9メートル、横2メートル程の広さしかない。

最も警戒すべきは大柄の男だ。あの白い継ぎ目のない拘束も彼の超能力由来だろう。腕力でもまず敵わない。

なら最優先は捕まらないこと。

確実な手段はひとつ。

私の武器の射程はそう長くない。故に数で押す。

細く鋭い氷の針。それを無数に。雨のように。名付けるならば、(さい)(ひょう)(ひゃく)(れん)

命中したところで、まず致命傷や戦闘不能になることは無い。けれど、防御をするだけの煩わしさはある。

氷の針は、大男へと照準を合わせて飛んでいく。それは彼の超能力の発現によって全て防がれた。あの、白く継ぎ目のない帯のような物体に。それで良い。

私は斜め前に倒れるように一歩。


「先生、ごめんなさい」


一応謝ってから、先生の肩を掴み、体を壁から引き離して、大太刀の刃を彼の首に沿わせるようにして先生の体にくっ付ける。

そのまま立ち上がり、ゆっくりと後ずさるように壁に背をつけた。

要するに、先生を盾にした。物理的な肉壁、及び能力的な障壁。

成人男性一人くらいなら、5分くらい全然支えられる程度の力はある。


「······まさか生徒に人質に取られる日が来るなんてな」


先生がぼやく。応急処置で抑えているものの、骨折の痛みは確実にストレスとして体力を奪う。もう私一人を振り払う力も無いようだ。


「動こうとしたら首を斬ります。貴重ですよね?超能力を消す力って」


眼前の二人、私に掴みかかろうとした大男と、コートの懐から武器か何かを取り出す素振りをした男子に言う。

さあ、これは賭けだ。

私の勝つ条件は3つ。

相手組織にとって、先生が失いたくない人材であること。

私の隙を突く手段を、相手が持っていないこと。

この膠着状態を、私があと数分維持すること。


「ここに治療ができる人なんて居ない。分かりますよね?」

「クッソ、逞しい······」


大男の歯軋りが聞こえる。

私の背面を含め、車のエンジン音だけが聞こえる。

そういえばこの車に運転手はいるのだろうか。介入してこないのを見ると、もしかしたら自動運転なのかもしれない。いや、今は考えなくても良いか。


「上出来だ」


背面から夜詩斗さんの声がした。

その直後、頭上で発砲音がする。耳を塞ぐのが間に合わず、一瞬耳が遠くなった。

見るのは上。

その場にいるほぼ全員が、突然夜詩斗さんが撃ち抜いた天井を一瞬でも見た。()()()()()()()()()()、と。


「しまった······!」


誰が声を上げたか。

それは、罠だったらしい。

同時に、爆音が、爆発音と共に荷台が揺れた。

車庫の天井が吹き飛んで、空が見える。夕焼けに染まる空だ。


「Head down!」


聞き覚えのある声がする。間髪入れずに、大きな揺れと爆音が鳴る。


「ヤシト!リカ!来たよ!」


腰をワイヤーでどこかに繋いだラムさんが、上から降ってきた。


「理華!ブレイカーを突き飛ばせ!」

「······」


ブレイカー。能力者の死神。それは名桐先生その人だと、知識で理解する。そして言われた通りにした。

我ながら、人が目の前で死にさえしなければ結構エグいことはできるらしい。転んだ先生の両足が妙な方向に捻れたのを見て、少しの罪悪感しか沸かなかった。例えるならば、道行く人とぶつかった程度の。

······彼の能力が暗殺向きな理由は、少しわかる。ただ、もっと他の活用法もあると思う。


「二人とも掴まって!」


そんな感傷も束の間、ラムさんが煙幕を撒いた。差し出された左手に、夜詩斗さんは右手に掴まる。

するとラムさんの腰に繋がったワイヤーが、絶対にあり得ない動きで私たちを上に引っ張った。その動きは、ワイヤーのある点を中心とした円周を描くように、引っ張りあげるというよりは私たちを大きく半周、ぐるんと振り回すような動き。飛翔の感慨もなく、座席に私は叩きつけられた。


「······車?」


オープンカーだ。あり得ないことに、空を飛んでいる。下を見下ろすと無惨な姿になったトラックがカーブを曲がれずにガードレールに突っ込んでいる。


「センス皆無」

「そう?私は気に入ってるけど」


空飛ぶオープンカー。なかなかシュールな絵面だ。誰かの能力に由来するのか。

見れば、琉汰さんが運転席、成が助手席に座っている。


「ええと、助けに来てくれてありがとうございます」

「その辺りは当然。戦力と常連を失うのは二重に痛いから」

「それで? 下の連中は放置で良いの?」


何ならここで息の根を止めても良いけど、と成が下を覗き込む。


「いんや、深追いは禁物。それにラム君の爆撃で耐えたなら、君には荷が重い。暗殺者(アサシン)は正面戦闘って向かないし」

「リーダーは慎重派ね。了解」

「リカ、痛いとこない? ヤシトは顔腫れてるけど」

「私は平気です」

「俺も別に」


ラムさんが救急箱を私と夜詩斗さんに差し出した。

そこで、拐われる直前の琉汰さんの言葉を思い出す。


「秋さんは大丈夫なんですか?」

「あの女なら治療終わってる。ヤバいね、リーダーの妹」

「はは、でも役に立てて喜んでるよ」

「それがヤバイんだっつの」


······琉汰さんの妹。そういえば、居るらしいことは聞いていた。まだちゃんと会話をしたことはないけれど。

成がヤバイ、と言うのはつまりどういうことだろう。


「何はともあれ、ごめんね。私の落ち度だ。警戒心が足りなかった」

「······いえ、琉汰さんが謝るようなことでは」

「いや。能力を消す能力者ってものを、それがなければただの人間だと思っていた。要は舐めていたんだ。だから、これは私の責任。不足の事態に巻き込んで申し訳ない」


琉汰さんの謝罪を、無言で受け取る。このように拐われるのは初めての事ではなかったので、あまり気負わないで欲しい。そう言おうとして、まず普通は悪意をもって拐われること自体が異常事態だと気付いた。


「らしくないな琉汰。心配事でもあったのか」

「いや。······うん、これはまた別の機会に話そう」



これは、余談のような本題だけど。

次の登校日から、名桐先生は学校に来なくなった。

tips

超能力者達は生物的強者ではあるが、社会的には差別・偏見対象、そして非人道的な研究対象とされ、むしろ弱者である。

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