序
私、裁万江理華は超能力者だ。
でもそれは珍しいけれども変わった話ではない。学校だったら、同じ学年に一人くらいはいる程度の確率だ。
超能力者の存在が明らかになってから数十年。
この世界の秩序は、徐々に衰退していった。
「おはよう。理華。」
「おはようございます。」
目立つ例としては、この日本においても一般人の武器の携帯が許可されたこと。大きな理由は超能力者による犯罪への牽制のため。個々人に学校等で戦闘訓練が為されるようになったのも、超能力への人類の抵抗のひとつだった
ちなみに私は日本刀を携帯している。結構重いが、実家にあったという理由で選んだ。制服のセーラー服姿に合わせるというのを、実はビジュアル的に結構気に入っている。
私の友人の中ではテーザー銃やワイヤーガン等が人気だ。相手を殺す危険性が低いから、携帯性に優れているから、というのが理由だとか。
「今日の課題やった?英語のやつ。」
「やりましたよ。」
「お願い!見して!」
「またですか······。じゃあ、ここは購買のカツ弁当で手を打ちましょう。」
ちなみに、私は超能力者であることを家族以外には隠している。理由は結構単純。超能力は悪用されやすい。世界的に治安が悪化した理由もそれ。故に、超能力者は今や、犯罪者の代名詞の様なところがあるからだ。
「単位には代えられない······!」
「お小遣いには代えられるんですね······。」
友人と昼食の取引をしながら、学校への通学路を歩く。
この辺は結構、平和な方なのだろう。あまりそういった犯罪を耳にしないから。その理由には多少の心当たりがあるが、今は割愛することにする。
さて、この世界は変わってしまった。
超能力というのは、つまること既存の科学によってなんら因果関係どころか筋の通った仮説すらも立てることができない現象を引き起こす能力である。
それは手を触れずに物体を動かしたり、異様に拡張された五感を有していたり、もしくは自然現象の一部を操ることができたりと、様々だ。
最初に発見された超能力は、未来予知だという。
その当時は各メディアに持て囃され、神の子だとかなんだと言われたそうだ。
そしてある日、かつての世界を壊して、今の世界を作り上げた事件が発生する。
『───この世界は、二十二年後に滅びます。』
どんな方法か、世界中のモニターというモニターをジャックして公表したその予言を最後に、神の子と呼ばれた超能力者は姿を消した。
それから丁度、今日で二十一年目。奇しくも二月の二日。
その予言が正しければ、あと一年で世界は滅びる。
けれど実を言えば、それを信じている人はあまり多くはなかった。だって、今までに人類滅亡の予言はいくつもあった。けれどそのどれもが、平然と次の朝を迎えた。だから今回も、きっとそうだろうと。
人類にとって滅亡の予言は最早、ファッションに過ぎなかったのだ。
しかしその日を境に超能力者によるものと思われる犯罪の件数は激増した。それこそ、数十倍に。治安の急激な悪化に対し、各国の政府は策を打ち出した。
超能力者といえどそれは人間。相手も傷付ければ傷付き、殺せば死ぬ。当然、死への恐怖もある。だったらば、一般人それぞれが少しでも戦えるようにしよう、と。
実際に効果はあったようで、それから数年間で少なくとも死傷者が出るような事件は減った。
だがなくなってはいない。
だから、武器の携帯が許可され、全人類が武装することで超能力者に対抗しようとしたのだ。
私達は、決して警戒を忘れてはならない、と、身に付けた武器によって再確認するために。
「ああ、そういえば──」
友人になんとなく、その話題を持ち出そうとしたとき。
乾いた空気に、発砲音が響いた。
横を歩いていた友人の額に赤いものが見える。仰向けに倒れた身体を咄嗟に追おうとしたとき、前方に立つ白衣姿の男が口を開いた。
「裁万江理華、お前に用がある。」
その銃口はこちらを向き、目を逸らすことを赦さない。
無言で腰の刀に手を伸ばす。
「無駄だ。その刀は抜けない。」
低い声に一瞬竦んだが、柄を掴んで引き抜こうとする。が、男の言う通り、何故か刀を抜くことができなかった。まるで鞘と共に私を拒むかのように微動だにしない。
「一年後に世界は滅びる。わかるな?」
男は言った。
そう、それはきっと共通認識。
能力者は全員、例外なく感じているであろう、本能にも似た悪寒。それは虫の知らせのような曖昧なものだけど、確信に似た予感でもある。
私には、あの予言は事実であるように思えてならない。
それはまるで死の運命のように、物心がついた頃から感じていたことだ。
「だからって、何だって言うんですか······。」
しかしそれは私の友人を殺す理由にはならない。
浮世離れした白衣姿の男は、もう一度引き金を引いた。
「······!」
咄嗟に、目の前の空間に氷の壁を発生させた。
そう。これが私の超能力。
この刀に触れている間、自分の周囲に氷をある程度望む形で発生させることのできる能力。
地面から生えるように発生した氷壁は私の身を守るのには十分な厚さだったらしく、弾丸は届かない。が、しかし、その氷は赤く染まった。
視界の妨害?あの銃の細工か何かか?
そう思考を動かすと、ここからの判断を脳内で検索する。選択肢は逃げるか戦うか。
さて、私はどうする?
「危害を加える気はない。これはペイント弾だ。」
そんな考えをしていたものだから、話の流れに一瞬付いていき遅れた。
「そこの友達に寝て貰うのに必要だったんだ。」
視線を下にずらす。額に赤いインクをつけた友人の胸が上下しているのを見て、短く息を吐いた。相手を眠らせる能力か何かだろうか。
「それで、用って何ですか。」
しかしまだ警戒は解かず、抜けない刀の柄を握ったまま、居合いの構えを取る。
「勧誘だ。あまりこういう文言を出すのは得意じゃないんだが、世界を救ってみないか。裁万江理華。」
正直、何を言っているんだ。というのが印象だった。
それは絵空事のように思えた。古今東西、死に抗おうとした人間は多いが、成功例は無いように。そんなことは不可能だ、と。
「······お断りします。」
そして当然、断った。
「······だよな。うん。正直、この切り出しはどうかと思った。」
向こうも、自分の本意ではないやり方なのか、もしくは誰かに指示をされたのか。そうだとしたら少し同情してしまう。
「"結社"は君を歓迎する。」
男はそう言って、黒い封筒をひとつ取り出した。それは風に運ばれるように、ゆらゆらひらひらと宙を泳いで私の目の前に移動する。
「世界終焉を阻止する為の組織だ。もしも君にその気があるなら、その封筒を開けて欲しい。俺がそこに現れるようになっている。」
封筒を一応受けとる。
それとほぼ同時に、男の姿が煙のように消えた。もはや驚くまい。彼自身の能力はペイント弾を当てた相手を気絶させるものだろうか。他に、特定条件下に人を転移させる能力を持っている協力者がいることは確かだろう。ということは組織、というのは信じてもいいのかもしれない。
等と思考を巡らせたのは学校に到着して授業を受けている最中で、そのときはただポカンとその場で呆然としていた。
さて。
とりあえずまずは巻き込まれた友人の顔を拭こう。ハンカチで落ちると良いけれど。
「ん······」
顔を擦ると呻き声をあげた。良かった。さっきは本当に死んだのかもしれないと焦った。
少し時間を食ってしまった。早く学校にいかないと。
······我ながら、冷静なものだ。なんだか可笑しい。ついさっきまで日常を破壊されていたのに、ほとんど影響がないとは。
「ほら、起きてください。遅刻しますよ。」
何度かぽんぽんと腹部を叩いても起きそうになかったので、仕方ない。背負って行こう。
私の身体能力は、一般と比べるとやや高いようだ。能力との関連は不明だ。多分、お家柄との関係の方が強い気がする。
そんなことをしてやや駆け足で学友を背負って徒歩十分強。
「間に、合った······。」
時間もギリギリで誰もいない昇降口を通る。
ちなみに運んでる途中で起きていたようで、校門の前で友人のことは降ろした。多分、もっと前から起きていたが彼女のことだから横着していたのだろう。腹立たしいとは思わないが、さて、お昼ご飯は何を追加しようか。
もう予鈴の鳴った教室について、席に座って一息つく。
胸に無視できないざわめきを抱えたままで。
ごくごく平和な、半日が始まった。
いつものように授業を受けながら、頭の半分のリソースは今朝の白衣の男の言っていたことに割く。
昼休み目前の四時限目。町内の、正午を知らせる鐘が鳴った。
その瞬間だった。
「ひっ······!」
丁度黒板に、例題の式を書いていた女教師が窓の外を見て、チョークを落とす。
そのまま尻餅をつくように転び、窓の外から目が離せないまま震えだす。
他の教室から、悲鳴が聞こえた。ほぼ同時に、この教室からも悲鳴を上げる生徒が一人、二人。
窓の外を見る。
そこには、異形が居た。
大きさは山のような、見てはいけない窓の枠には入りきらない。その存在そのものが影になって暗いが、目を離さなくてはならない頭足類のような触腕がこれは認識の範疇を超えている目立った。多分、これ以上は駄目だ二足歩行。
「嘘······?」
クラスの誰かが呟いた。その声が何故か私の意識を狂気から引き戻した。とにかくあの存在は認識してはいけない。どうするべきかと一瞬迷ったとき、校舎が揺れた。
屋上に何か質量のあるものが襲い掛かったのだろう。
迷っている時間はない。どうにかするべきだ。私が。
この学校には私以外の能力者の存在はない。個々の携帯している武器の処理範疇を超えている。そして、これは超能力者による"攻撃"だと、直感が言っている。別にこういうことは珍しくない。ヒトなら誰だって、自分の能力がどういう程度通用するかを試したくなるだろうし、もしかするとこの学校の生徒や学校自体に何かの怨みがあるのかもしれない。何か大それたことをするとき、ヒトは己の一番得意なことをその手段とした方が効率が良い場合、他に考慮することがなければまず間違いなくそうする。それが超常現象を操ることだっただけの話。それが実行するに足るだけの力だっただけの話。だから、超能力者だけが悪な訳ではない。その目的が悪なのだ。
「こういう能力者がいるから······!」
私は悲鳴の合唱よりも一足先に教室を飛び出した。そして歩き慣れた廊下を駆けて、階段を上り、屋上を目指す。
理由は単純明快。あの怪物を止めるため。
この騒ぎを誰かが専門機関へ通報してくれることを祈りながら、屋上の扉を開けた。
そこには既に大きな手のような器官があり、コンクリートの床はひび割れていた。
能力者はどこだろう。そう遠いところにはいないはずだ。学校の近くには学校以外の建物は民家しかないし、この昼間だとほぼほぼ出払っているはずだ。それだとしても、民家に忍び込むことは基本的に無いだろうし、どうか屋上から見えるような位置にいれば話が早い。
ただ、辺りを見回そうとしたとき、屋上のコンクリートを圧迫していたものがずるりと音を立てて持ち上がった。
刀に手をやる。
──さっきは抜けなかった刀が、抜けた。
それでも斬りかかるわけじゃない。
先ずはやることがある。厚く広く。足元を起点に、この建物を氷で覆う。屋上に刀を刺し、校舎の外側を持ち得る力を使って保護する。目的は二つ。一つは校舎が崩れぬよう。もう一つは外への視界を遮り、あの怪物を極力見せない為。あの怪物をマトモに視界に入れるのは危険だ。現に今も、私は直視せずに焦点をずらしている。
能力で産み出されたモノか、はたまた能力で変身した物か。考えても仕方ない。対処だけを考えよう。それに、相手の表皮がどれ程の強度かもわからない今、迂闊に斬ろうとして刃を消耗させるわけにはいかない。
空を刈る。同時に薄く鋭い刃をイメージした氷をその軌道上に造り出した。
「行って!」
標的に飛ばす。表面に薄氷は刺さった。表皮の強度は大したことがないらしい。
でもダメージが通っているようには見えない。巨大な手は再び校舎を叩く。大きく揺れた。氷が割れる。でも、コンクリートは割れない。もう一度、補強する。
咆哮のようなものが聞こえた。それは多分、怒りの感情か何かだ。身が痺れた。耳を塞ぎたい。くぐもった管楽器のような音は脳髄を苛立たせた。
「ああああ!煩い!」
自分の声で咆哮を緩和する。
同時に向かってきた太く巨大な腕を視認する。持ち上げた左足の下に氷の足場を形成する。直径が私の身長よりも大きいが、右足、左足と階段を駆け上がるように空を登る。
飛び越えるには一歩足らない。でも、それでいい。
動く腕に飛び乗り、その肩まで一息で走る。
落ちぬよう、足を氷で接着、解除を小刻みに繰り返す。
狙うは、眼球のような器官。アレが生物の範疇に収まるのであれば、眼は弱点の筈だ。
「嗚呼アアアアア!!!!」
吠えとも叫びとも言える声と共に刀を突き刺す。
柔らかく、刺さった。
「凍って、しまえ!!」
校舎にしたのと同じように。今度は内側から。
刀を媒介にして、体内に氷を穿つ。
おおよその生物は、体外への防御性能があっても体内へは無い。だからこれで終わりだ。
確かな手応えを感じる。
血を、肉を、その繊維に至るまでを氷でズタズタにする。
──────!
絶叫が聞こえた。
────■■───■■■■■!
もっと大きな絶叫が聞こえた。
──■■■■■■■■■■■■■■■■!
頭りせいを割るような断末魔が聞こえた。
耐えきれなくなって、刀から手を離してしまった。
私の能力は物体を氷を生み出す能力。
それは刀に触れていないと発動できない。
足裏を固定していた氷が溶け、支えを失う。
私の体は宙に滑落していた。
「あ······。」
苦悶に暴れる巨大な腕が、私の身体を弾き飛ばした。
認識が現象に追い付けない。
全身に加速度を感じ、直後に衝撃を意識し、地面に叩きつけられて痛みに直面した。
頭を打たなかったから、即死できなかった。
視界の端で、異形が暴れている。
立ち上がろうとしたが脚が妙な方向に曲がっていて動かなかった。
「あー······。痛い。」
意味もなく声を出す。ああ不味い。泣きそうな痛みだ。せめて刀を、と思ったが無理だろう。十メートルくらい上で狙い通りの眼球に刺さっている。折れていなければ良いのだけれど。
視線を空からずらして右を向いた。異形を視界から外す方向だ。
黒い、封筒があった。
───"結社"は君を歓迎する。
今朝の男の言葉が脳裏に過った。
───もしも君にその気があるなら、その封筒を開けて欲しい。
幸い腕は折れていなかったので、封筒に手を伸ばす。
紙の繊維の感触が指に伝わった。
───俺がそこに現れるようになっている。
どうしようもない突飛なことでも、本当にやばいときは信じてみようなんて思ってしまった。
本当に、世界を救う気があるなら。
「私の学友くらい、救ってください。」
少し厚みのある黒い紙を、ひと思いに破いた。
「承った。」
周囲に人の気配が、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
「ラム、残弾は?」
「Well,15回分あるよ!」
「うわー。こりゃ大きい怪物だね。うえ、気持ち悪。」
「待った待った。これ俺の出る幕無いだろ。化物退治は専門外だぞ。」
「まあまあ仕方ない。」
急に賑やかな会話が聞こえ、組織というのは本当だったんだなぁ、と思う。
「やろうか。」
──カンッ。
乾いた音が響いた。
髪の長い女の子が私の脚に触った。
「これ随分と痛そうだね。ちょっとごめんよ。」
冷たい刃物が私の脚に突き刺さる。叫び声をあげようとしたが喉が掠れた。しかし、その痛みはすぐに消えた。
「うん、もう立てるよね?じゃあ次はお腹の穴いこっか。」
腹部に穴が開いていたのを認識した途端、そこに生暖かいものを感じる。すると、浅かった呼吸が安定した。体が軽くなる。生命の危機が去ったのを感じた。
「応急処置終わったよ!」
「よし、裁万江理華、意識はしっかりしてるか?」
しゃがんで私を覗く少女の横に、今朝の白衣の男が立つ。
「は、はい。」
「今のはこいつの能力だ。こいつは傷を癒せる。」
手を引っ張られ、立ち上がる。
すると爆発音がした。
「ラム様特製special bombを喰らえ!」
ボール?のような何かを茶髪の男の子が異形に投げつけると、それは有り得ない軌道を飛び異形の頭部にぶつかる。同時に大きな爆発を巻き起こした。
「この大きさならあと三発でいける。続けて!」
「OK,リュータ。Bang bang bang!」
次いで投げられた三発も、暴れる異形の手足を掻い潜り、確実に頭部に命中させる。
「ああ、この日本刀君の?」
すうっと、目の前に私の刀が浮いてきた。
頷くと私の手元に吸い寄せられる。
「じゃあ、返さないとね。」
リュータと呼ばれた青年は、右手に映画監督が持っていそうな、小さな黒板の上に拍子木をつけた道具を持っている。
「Take that!!」
三度の連続した爆発。
空気を弾き飛ばして校庭の砂埃を荒げた。
そしてその結果、動かなくなった巨体が残った。
「ああ、成る程。こりゃ創作神話の邪神か。」
巨体は既に煙のように消えつつあった。
白衣の男が少し大きな声で言う。
「おい。逃げても無駄だぞ。お前の居場所は既に仲間が見つけた。」
瞬間、何もない空間から二人の人影が現れた。一方は白い髪の女性で、もう一方を地面に組伏せている。
「腕と脚どっちが良い?困る方を折ってあげる。」
組み付きながら、何やら物騒な事を口走っているが、これが仲間、なのだろう。地面に伏せられている男は、半身が見えなかった。その上に布がかかっているかのように、茶髪の青年が何かをつまみ上げると、男の全身が視認できるようになった。白髪の女性が口を塞いでいるようで、何かを言おうとしているが呻き声に変わっている。
「へえ。透明マントか。じゃあ、君の能力は創作物を現実にするってところかな。」
組みつけられながらもがく男の懐から、数冊の文庫本が出てきた。
青年が手に持った道具を二度鳴らす。
「カット。······君の敗けだ。テロリスト君。」
かくして私は、こんな突飛な、意味もわからぬ集団に助けられたのである。
対超能力武装部隊が到着したのは、全てが終わった後だった。彼らは荒れた校庭と凍り付いた校舎、そして集団パニックを起こしている生徒や教師、そんな学校の入り口付近にロープでぐるぐる巻きにされて気を失っているテロリスト、という気の滅入りそうな程に珍妙な状況の処理に手を煩わさせていることだろう。わかるのは超能力者が暴れた後だ、ということくらいか。
そして私はというと、その武装部隊が到着する直前に、何故か小ぢんまりとした喫茶店に拉致されていた。
「えっと······。」
椅子に座らされ、ニコニコとした笑みを浮かべる人三名、気の毒そうな顔をしているが助け船は一切出さない人二名に囲まれている。
理由は単純。
仲間になる気があるなら開けろと言われた封筒を開けたからだ。緊急事態とはいえ、どうやら見逃してはくれないらしい。
「ようこそ。結社は君を歓迎しよう。」
リュータ、と呼ばれていた男性が、満面の笑みで私に握手を求める。
「よろしく、裁万江理華くん。」
渋々と、その手を握った。
「············よろしく、お願い、します。」
そんなわけで、今日から私、裁万江理華は、世界を救う超能力者組織の一員となったのでした。